日立、金融機関向けのエンタープライズグリッドソリューション

基幹業務にも適用可能、バッチ処理を大幅に高速化

日立が提供するエンタープライズグリッドの概要
情報・通信グループ 金融システム事業部 事業戦略本部 担当本部長の徳永俊昭氏
バッチ処理の大幅な高速化を実現するという

 株式会社日立製作所(以下、日立)は9月16日、「エンタープライズグリッドソリューション」を発表した。主として金融機関を対象に、10月1日より順次提供を開始する。

 今回発表されたのは、複数のコンピュータリソースに並列・分散処理を行わせ、必要に応じて性能や機能を向上させられる「グリッドコンピューティング」の構築・運用を支援する企業向けソリューション。

 企業におけるグリッドコンピューティング(エンタープライズグリッド)は、「高品質・高信頼が要求される基幹業務への適用は難しい、企業全体でのITリソース配分が困難、といった課題があり、大量の計算パワーが必要な、金融のリスク計算・分析など特定業務で限定的に使用されている。つまり、グリッドがサイロ型として構築されている」(情報・通信グループ 金融システム事業部 事業戦略本部 担当本部長の徳永俊昭氏)のが現状という。しかし日立では、グリッドの信頼性を上げ、基幹業務を含めた他業務にも適用し、企業全社で共有するための仕組みを整えた。

 そのための基盤技術としては、複数のコンピュータにまたがったCPUリソースを用いて、並列・分散処理をする「グリッドプロセス制御」と、複数のコンピュータでデータを分散管理し、データの所在を意識せずに高速アクセスを行う「データグリッド」の2つの技術を利用。さらに、これらを統合管理する仕組みも併用することで、基幹系にも対応できる可用性を確保した。情報・通信グループ 金融システム事業部 事業戦略本部 ビジネスコンサルティング部 主任技師の仲田智将氏は、「複数サーバーで並列処理をすることで、障害範囲を極小化できるほか、冗長化されたデータをサーバー間で高速に複製し、データの整合性を確保する」と説明する。

 また、「目に見える価値を提供するため」(徳永氏)に、金融機関などに多く残っている、バッチ処理の高速化を図っているのも、今回のソリューションの特徴だ。計算処理をサーバー単位で多重化するとともに、大量のサーバーを超並列化。データグリッドでも、「オブジェクトのみならずファイル単位でデータをインメモリ化し、データベースアクセスのボトルネックをなくせる」(仲田氏)ため、超高速処理を実現できたとのこと。日立社内の検証では、メインフレーム1台、25多重で動いていたものをグリッド化し、バッチ処理を81倍に高速化できたという。なおこの際は、COBOLコンバージョンソリューションを利用し、COBOLのビジネスロジックのうち1%だけをいじることでグリッド化できたとした。

 こうしたエンタープライズグリッドを実現するためのコンポーネントとして、統合運用管理の部分では自社の「JP1」や仮想化技術を活用。グリッドプロセス制御についてはSOAプラットフォーム「Cosminexus」、データグリッドについてはノンストップデータベース「HiRDB」や米GemStone Systemのグリッドソフトウェア「GemFire」などを、グリッド基盤としてはブレードサーバー「BladeSymphony」をそれぞれ適用する。あわせて、グリッドプロセス制御では、バッチ制御に特化した製品を2010年第1四半期に、データグリッドでは共有ファイルシステム「Hitachi Striping File System」を2009年10月9日に、それぞれ提供開始する予定。

 日立では、これらのコンポーネントを利用して、まず単目的のサイロ型グリッドを構築し、それを部門共用、全社共用へ拡大していく段階的なアプローチで、エンタープライズグリッドを推進していく考え。対象としては、特に企業分野を限定することはしないものの、サイロ型グリッドの導入実績があり、大量バッチ処理の高速化など、ニーズが見込める金融機関を主な対象として、まず進めていく意向という。この分野では、金融機関で実績のある英Excelianとの提携の成果を生かし、支援体制を整えていく方針で、Excelianのリソースも活用した「グリッドコンサルティングサービス」や「上流システム設計サービス」を提供する。

ソリューションを支える要素技術と適用製品エンタープライズグリッドソリューションの提供メニュー



(石井 一志)

2009/9/16 13:50