ビットアイルがクラウドサービスを強化、ISV向けのクラウド基盤などを提供

コロケーションユーザー向けのIaaSやSIer向けの基盤サービスも

 株式会社ビットアイルは10月14日、クラウドサービス「Cloud ISLE」を強化すると発表した。ビットアイルのデータセンター内に顧客ごとのクラウド環境を構築する「プライベートクラウド」や、PaaS/IaaS型のサービス「サーバオンデマンド」、ISV(独立系サービス事業者)にアプリケーション基盤を提供する「アプリケーションオンデマンド」といったメニューを新たに提供する。

 都内に4つのデータセンターを所有し、コロケーション/ネットワーク事業を運営するビットアイルでは、9月より本格的にクラウドサービスビジネスに参入し、「Cloud ISLE」ブランドでサービスを提供するようになった。その第1弾として、5つの仮想化ソフトについて、アプリケーションやパフォーマンスの検証環境を提供する「Cloud LAB」サービスを提供している。

 今回発表されたのはその第2弾となるサービス群。ビットアイルのビジネスの中核となっているコロケーションのユーザーに対し、必要に応じてサーバーリソースを提供するのが「サーバオンデマンド」である。このサービスでは、ビットアイルのサーバープールの中から、ゲストOS、ないしは仮想環境を構築した物理環境、いずれかの単位でリソースを供給するが、最短2営業日、通常3営業日という短期での提供を可能にしているのが特徴。また、ゲストOS単位での提供時には、1つのゲストOSに対して最低でも1つの物理コアを割り当てるため、パフォーマンスの劣化を気にせずに利用できる。

 ビットアイル マーケティング本部 事業推進部の高倉敏行部長は、「パブリッククラウドでリソースを提供することは珍しくないが、データセンター内にあるものに対して、柔軟にリソースを提供することは、あまり例がないと思っている。緊急にリソースが欲しいユーザーへの選択肢として、強く打ち出していきたい」とこのサービスのメリットを強調した。

 仮想環境はVMware vSphere 4.0ベースで、ゲストOSはCent OS 5.2もしくはWindows Server 2008から選択可能。料金は、ゲストOS単位の場合、1コア、2GBメモリ、20GB HDDで2万5000円/月、4コア、12GBメモリ、80GB HDDで7万5000円/月。このほか、初期費用3万円が必要となる。また物理環境単位の場合は、Xeon L5520(2.26GHz)×2、32GBメモリ、160GBで18万円/月。初期費用は5万円となっている。

ビットアイル マーケティング本部 事業推進部の高倉敏行部長「サーバオンデマンド」の概要

 2つ目の「プライベートクラウド」は、ビットアイルのデータセンター内に独立したクラウド環境を設け、月額料金で提供するサービス。サーバーやスイッチなどのハードウェア機器、ネットワークセグメントもユーザーごとに完全に分離しているため、「セキュリティやパフォーマンスの問題を解決できる」(高倉氏)点が強みという。仮想環境は主要な仮想化ソフトから選べるほか、ネットワーク、物理サーバーなどの環境もユーザーの必要に応じて、最適な構成から選択可能。「ITインフラの“所有”から“利用”へという転換の中で、所有サーバーの統合、集約などで活用できる」(同氏)とした。

 展開にあたっては、主にシステムインテグレータ(SIer)との協業を想定。SIerがユーザーへ提供するアウトソーシングサービスのインフラとして、「プライベートクラウド」を訴求したい考えで、SIerの得意とするサービスレイヤに合わせて、A社との協業でインフラ部分のみ、B社との協業ではインフラに加えて仮想化ソフトやミドルウェアまで、といったように、ビットアイル側の提供範囲を柔軟に変更し、SIerのサービスの下支えをしていくとしている。

 提供範囲が異なるため、価格は案件ごとの個別見積もりとなるが、例として、1/4ラック規模で、2~5台の物理サーバーを設置し、100Mbps共有回線、ネットワーク機器/ファイアウォール、監視・障害対応・管理といったマネージドサービスを提供するケースでは、60万円/月からとなっている。

「プライベートクラウド」の概要「プライベートクラウド」の提供例

ISVのクラウド対応を支援する「アプリケーションオンデマンド」

「アプリケーションオンデマンド」の概要
アプリケーションのユーザー企業向けのポータル画面例
ネオジャパン オンデマンドアプリケーションサービス事業統括の狩野英樹取締役

 3つ目の「アプリケーションオンデマンド」は、クラウドサービスに参入したいISVを支援するサービスで、株式会社ネオジャパン、AXLBIT株式会社(以下、アクセルビット)、ビットアイルの3社が共同で開発した。クラウドサービスが脚光を浴びる中で、多くのISVでもその市場への参入を検討するようになっているが、アプリケーションの改修、課金システムの構築、データバックアップ、最大の利用状況を想定したインフラの準備など、アプリケーションのオンデマンド化にあたっては非常に多くの課題を解決していく必要があるという。

 「アプリケーションオンデマンド」は、こうした課題をクリアするために用意されたサービスで、米Parallelsのサーバー仮想化ソフト「Parallels Virtuozzo Containers(PVC)」、管理ツール「Parallels Business Automation(PBA)」をベースに、アプリケーション配信のためのクラウド基盤を提供する。具体的には、アプリケーションを登録するリポジトリサーバー、アプリケーションの販売やライセンス管理などを持ったPBAベースのWebポータル、アプリケーション実行環境となるPVCベースのアプリケーションプール、といったコンポーネントをビットアイルのデータセンター内に用意。ユーザー企業は、通常のSaaSと同じようにアプリケーションをインターネット経由で利用する。

 またこの基盤では、「(ユーザー企業の)自社サーバーもクラウド環境と見なして、アプリケーションをインストール可能」(ネオジャパン オンデマンドアプリケーションサービス事業統括の狩野英樹取締役)点が特徴。ユーザー企業の社内サーバーにアプリケーションを配信し、その企業の運用管理のもとで、アプリケーションを月額課金で利用する形態も選択できるので、セキュリティポリシーなどの関係で外部サーバーを利用できない企業に対しても、サービスを提供可能になっている。

 ビジネス展開にあたっては、「アプリケーションオンデマンド」をアプリケーション基盤として活用するISVをスカウトするほか、SIerが使うアウトソーシング基盤としても、採用を働きかけていく考え。また、サービスを販売するディストリビュータとの連携も視野に入れている。ISVに対しては、単なる基盤の提供のみならず、課金形態やチャネルも含めた、ビジネスモデルの検討も共同で行っていくとした。

 「『アプリケーションオンデマンド』では、実証された既存技術が活用でき、最小のアプリケーション改修で利用可能なため、分かりやすさとコストの最小化を実現した。また、クラウドサービスであってもチャネル経由の従来のビジネスモデルを活用できるほか、(アプリケーションを使う企業が)自社サーバーに環境を構築可能なことから、クラウドビジネスの導入しやすさをISVに提供できるだろう」(狩野氏)。

 なお、この基盤を活用したSaaS形式のサービスをアクセルビットが提供。ネオジャパンも、自社のグループウェア「desknet's」などをユーザー企業の社内サーバーに配信し、月額課金で提供する「Private Applitus(仮称)」を、年内をめどに提供する計画という。


(石井 一志)

2009/10/14 17:00