米salesforce.com副社長が語る、日本にデータセンターを設置する時期


 「同じクラウドとはいっても、今話題のプライベートクラウドとは大きく違う」、そう語るのは米salesforce.com、代表取締役副社長のケン・ジャスター氏。ジャスター氏は、同社の法務・政策・コーポレート・ストラテジー担当であり、ワールドワイドのデータセンター戦略なども担当している。今回、Dreamforce 2009会場において、日本のプレスとの共同インタビューの機会が得られたので、一問一答形式で紹介する。


―クラウドコンピューティングを利用する上で、データがどの国に存在するのかを気にする企業や官公庁は少なくありません。ワールドワイドでのデータセンター戦略はどのようになっていますか?

米salesforce.com、代表取締役副社長のケン・ジャスター氏

ジャスター氏
 よくそういった意見を聞きますが、クラウドコンピューティングにとって重要なのはセキュリティや安全性です。インターネットは国境を越えたデータのやりとりが発生するものですから、場所は本当は重要ではないのです。

 とはいえ、そういった感情があることは理解しています。日本に限らず、ヨーロッパでも同様です。現在、われわれのデータセンターはアメリカの西海岸と東海岸、そしてシンガポールにも2年前に設置しています。アジアにはすでにひとつありますので、順番としてはヨーロッパを検討するのが先になるでしょう。

 日本に関しては、常に検討しています。実際、シンガポールとの距離を考えると、設置に適しています。ですから、日本のお客さまには1年以内に設置する可能性があることは伝えています。ただし、最終決定した話ではないことは理解しておいてください。


―その場合、salesforce.comが独自に設置するのでしょうか? それとも日本国内のパートナーと組むのでしょうか?

ジャスター氏
 現在さまざまな側面から検討中ですが、日本国内のパートナーと協力する可能性もありえます。


―ワールドワイドで見ると、中国市場で積極的に展開している印象がありません。

ジャスター氏
 中国市場に大きな機会があることは理解していますが、同時に大きなチャレンジでもあります。インターネットへの接続環境が安定していないという問題と、中国政府が接続そのものに干渉していることも問題です。また、クラウドサービスを展開する場合、中国国内にデータセンターがないことも障壁となっています。そのほか価格競争もあります。

 そういう意味では、中国よりも日本のほうがわれわれにとって大きなチャンスがある市場なのです。


―ソフトウェアを違法コピーされないという意味では、クラウドは有力な商品ではないのでしょうか?

ジャスター氏
 ソフトウェアの違法コピーはありませんが、Webサイトそのものをコピーされる可能性があります。実際、似たようなWebサイトが中国内にあることを理解しています。


―昨年秋からの金融危機の影響は、どの程度受けましたか?

ジャスター氏
 国別の数値は公表していませんが、中小企業の倒産や大企業のリストラなどによるダウンサイジングの影響は受けました。とはいえ、基調講演で(CEOの)ベニオフが話していたように、6万8000社以上の顧客に導入していただいています。先日、第3四半期の業績を発表しましたが、引き続き成長を続けています。


―積極的に人材の採用を行っていますね。

ジャスター氏
 ワールドワイドで業績は好調ですから、引き続き雇用に対する投資は行っていきます。特に、米国以外での売り上げの割合が30%を超えていますので、そういった地域での採用も検討しています。


―急激に従業員が増えると、サービスの低下につながるという懸念もあります。

ジャスター氏
 確かに教育には時間がどうしてもかかります。じっくりと手間をかけていくしかありませんね、


―プライベートクラウドに関心を持つ企業も増えています。プライベートクラウドについてはどのような意見をお持ちですか?

ジャスター氏
 10年前にインターネットでショッピングをするとき、クレジットカードの情報を送信することを気にしていました。しかし、今ではそんな心配はなくなっています。リアルな店舗のほうがスキミングの危険性が高いといえます。

 これはクラウドコンピューティングでも同様です。非常にセキュリティを意識した担当者がいて、完全な仕事をしているのであれば別ですが、実際には企業内でそこまで徹底した管理は行えないでしょう。専門家に任せたほうが安全ということです。

 また、クラウドコンピューティングの特長であるマルチテナントも重要な要件です。マルチテナントであるからこそ、最新のテクノロジーをすぐに反映できます。プライベートクラウドと呼ばれてはいるものの、現実的にはホスティングサービスです。そのホスティングサービスされた環境で、企業自身でマルチテナントを実現するのは非常に大変なことです。

 同じクラウドとはいっても、プライベートクラウドは高校野球レベルで、われわれは大リーグで優勝したニューヨーク・ヤンキースレベルです。それくらいの違いがあるということです。


―ありがとうございました。





(福浦 一広)

2009/11/20 09:00