Force.comの成功事例で学ぶクラウドコンピューティングの正しい導入方法

Dreamforce 2009基調講演

米salesforce.com、会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏

 米salesforce.comは11月19日(米国時間)、年次ユーザーカンファレンス「Dreamforce 2009」を開催した。2日目の基調講演では、同社会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏が登壇し、クラウドプラットフォーム「Force.com」のユーザー事例が紹介された。

 Force.comを利用するメリットについて、ベニオフ氏は、「従来型のプラットフォームを利用して開発する場合と比べて、開発速度で5倍、コストは半分で済む」と、開発面でもコスト面でもクラウドプラットフォームに強みがあると紹介。「従来型のプラットフォームのメンテナンスにお金をかけるのは、ばかげている。Force.comで作られたカスタムアプリケーションは13万5000以上。古いモラルから抜け出してもらいたい」と、クラウドプラットフォームを検討することを呼びかけた。


開発スピード・開発コストがForce.comの魅力

 最初に登場したのは、米BMC Software。同社はサービスのライフサイクル全般を管理する部門であるサービスデスク向けのアプリケーションをForce.com上で構築。「Force.comを利用したことで、2カ月でツールを作ることができた。利用者は、Force.comの機能を利用したカスタマイズも可能で、グラフィカルな表示も実現している。なにより、インフラを気にせず、製品開発に集中できるのが大きなメリット」(米BMC Software、CEOのBob Beauchamp氏)と、同アプリケーションを企業のサポートデスクが利用する例を交えながら紹介した。


BMCのForce.comでネイティブで開発されたサービスデスク向けツール。2010年第2四半期の出荷を予定している優先順位など、利用者がカスタマイズしやすいのが特長タスクの状態をビジュアルに表示する機能も装備

 米Vetrazzoは、ガラスの瓶などをリサイクルしたガラスを使った表面素材メーカー。同社は、Force.com上にERPや受発注管理、在庫管理アプリケーションを構築している。「業務効率を高めるために、さまざまなシステムを検討し、その結果Force.comを選択した」(米Vetrazzo、CEOのJames Sheppard氏)と、Force.comを利用するきっかけを説明。同社が開発したシステムを実際に利用しながら、受発注システムとの連動、多言語対応のメリットなどを紹介した。


Vetrazzoが自社業務用に開発したForce.comアプリケーション自社サイトのオーダーページとも統合可能Force.comの多言語対応機能を利用して、日本語で表示することも

ローソン、常務執行役員CIOの横溝陽一氏

 日本からもForce.comの利用企業が参加。株式会社ローソンでは、これまで使っていたLotus NotesからForce.comベースの情報共有基盤を構築した。同社常務執行役員CIOの横溝陽一氏は、「軽いプラットフォームを検討した結果、クラウドを利用することにたどり着いた。実際に構築してみると、開発スピードで従来と比べて5倍速くなり、開発コストは5分の1にまで削減できた」と、クラウド利用のメリットを発表した。

 このほか、米AVONでは、口コミマーケティング用途でForce.comを採用。「カスタムFacebookでmark.bookというサイトを作成し、それとForce.comを連動して顧客情報を管理している。口コミ情報をmark.bookを利用して友人に発信していただき、そこから購入につながる仕組みを構築している」(米AVON、Director of Digital & Strategic AlliancesのAnnemarie Frank氏)と、ほかのネットサービスと連動したアプリケーションの構築にも有効であると紹介した。


AVONがFacebook上で構築しているmark.book。口コミを利用したマーケティングに利用Facebookの機能を利用して口コミ情報を発信した内容を確認することも条件を絞り込んで検索することもできる

CAもForce.comネイティブアプリを開発

 米CAからは、業界歴30年以上の同社CEOのJohn Swainson氏も出席。古い時代のコンピュータシステムを知るSwainson氏は、「これまでのシステムでは、開発性やコストが急激に変化することは起きなかったが、クラウドコンピューティングではこうした常識を覆した。なによりも、既存システムが持つ複雑性を、クラウド事業者側にまかせるということは、非常に意味のあること」と、企業がシステムを管理する必要性がなくなり、アプリケーションだけに集中できるメリットを強調する。

 今回、同社もアジャイル開発環境を管理するツール「CA Agile Planner」をForce.com上でネイティブに開発していることを発表。2010年初頭にリリースする予定であると述べた。


既存のフレームワークを利用して構築した、CAのアジャイル開発環境の管理ツールForce.com上でネイティブに開発されたアジャイル開発ツール。2010年初頭にリリースを予定進行状況を視覚的に確認することが可能

 また、米GoogleのPresident, EnterpriseのDave Girouard氏も出席。「IBMやMicrosoftがクラウドに参入するなど、今年はクラウドに注目が集まった年。Google Appsの企業利用も200万社を超え、この1年間を見ると大企業での採用も広がっている」と、クラウドコンピューティングへの関心が高まっていると紹介。「Google Appsの導入のきっかけとなっているのがGmail。多くの企業がメールサーバーの管理をしたくないという理由で採用している」と、既存システムを自社管理することの限界から、クラウドに対する関心が高まっていると述べた。


Chatterとの組み合わせによりForce.comの可能性が広がる

 将来のForce.comとして紹介されたのが、米AppirioがDreamforce向けに開発したサービス業向けアプリケーション。「既存のサービス業向けアプリケーションに、ソーシャル機能を追加するとどうなるか。サービス業にとって、人材がどのくらいの時間使われているかが重要な事項。Chatterを利用することで、プロジェクトの進ちょく状況をChatter内に取り込むことが可能。これを利用することで、進ちょく状況を把握したり、一人一人のスキルを一覧化したりできる。また、これらの情報を利用することで、人件費などのコスト計算も可能になる」(米Appirio、CMOのNarinder Singh氏)と述べた。


Appirioが開発した、Salesforce Chatterを統合したサービス業向けアプリケーションプロジェクトの進ちょく状況をChatterでやりとりすることが可能Chatterでやりとりすることで進ちょくを把握でき、コストの計算も容易になるとしている

 最後に登壇したのが、米Accenture。同社が紹介するのは、既存アプリケーションをクラウドアプリケーションにする場合の影響を分析する「クラウドアプリケーションファクトリー」というツール。もちろん、このツールもForce.com上で構築されている。「お客さまの声を聞くと、クラウドへの関心の高さを実感する。しかし、既存アプリケーションが1万もあるといった話を聞いたりすることがある。クラウドアプリケーションファクトリーは、アンケートに答える形で技術的な性質をチェックできるツール。結果は数値で表示されるので、導入効果が理解できる」(米Accenture、Chief Technical ArchitectのPaul Daugherty氏)と紹介した。


Accentureが開発した既存アプリケーションのクラウドアプリケーション化を分析するツール質問に答える形で入力することで、クラウドアプリケーションの導入効果が視覚的に表示される既存のアプリケーションと比較した結果も表示可能





(福浦 一広)

2009/11/20 16:38