クラウド時代も総合力で勝負-富士通がソフト・サービス事業の方針を発表
サービスビジネス本部 本部長 常務理事の阿部孝明氏 |
富士通株式会社は12月21日、クラウド事業におけるソフトウェア・サービス分野の展開状況に関する説明会を開催。4月に発表したクラウドサービス事業への本格的な取り組み後の進ちょくなどを含め、同社のクラウド事業の方向性が紹介された。
4月以降の商談状況について、同社サービスビジネス本部 本部長 常務理事の阿部孝明氏は、「これまでに、800件を超える商談を抱えている。クラウドに関する新規商談が中心なので、この数字は大きなもの。顧客がクラウドを意識していることの表れ」と紹介。とはいえ、これらの案件の多くがコスト削減や運用のスリム化を期待したもの。これについて、阿部氏は、「既存システムをいかに集約するかという課題を抱えている顧客が多いのは確かではあるが、最近では共通基盤としてのクラウド導入を検討する顧客も増えてきている」と、利用目的を明確化してクラウドサービスを検討する企業が増えていると述べた。
4月のクラウドサービス発表後の商談状況 | サーバー統合など、コスト削減や運用のスリム化をきっかけとする企業が多い | クラウドサービスは2015年には金額ベースで20%を占めると予測 |
同社では、2015年には企業システムの20%がクラウドサービスを利用すると予測。こうした中、クラウドサービスに対して、まだまだ課題が多いと阿部氏は指摘する。「クラウドに対しては、セキュリティへの不安のほか、サービスの品質や性能、また既存システムとの連携などが課題となっている。そのほかでは、クラウドサービスを提供するベンダーが事業停止しないかという点も不安におもっている。また別の調査では、こうした不安の相談相手として、国内ベンダーを選択する企業が半数以上あるという結果も出ている。富士通として、こうした点を考慮したクラウドサービスを取り組む必要があると考えている」と、国内ベンダーとして安心して利用できるクラウドサービスを提供する意義を強調した。
同社が展開するクラウドサービスの特長について、阿部氏は、「現在提供されているサービスの多くが、SaaSやPaaSといった形で専門ベンダーに依存している。われわれとしては、個別に提供するのではなく、セキュリティや品質などを重視した一気通貫のクラウドサービスを提供することが重要と考えている。そのためには、総合力が重要になる」と、アプリケーション開発、インフラ開発、レガシーシステムからオープンシステム、システムの長期運用に対する対応力など、同社がこれまで培ってきた強みを生かしたクラウドサービスを提供できる点を挙げた。
「特に既存システムとの共存はクラウド環境にとっても欠かせない事項。基幹システムがクラウドに移行するなど、一時的に企業システム部分が縮小するかもしれないが、新しい社会インフラへの対応などによる新規市場の創出が、新たな企業システムの拡大につながると考えている」(阿部氏)と、企業システム・フロントエンド・広域ネットワークの3つを連携するハイブリッドクラウドを中心とした、サービスビジネスに転換していく考えであると述べた。
セキュリティと品質を重視した一気通貫のクラウドサービスを提供 | レガシーシステムからオープンシステムまで、豊富な実績と総合力をクラウドサービスでも強みとする | 既存システムとクラウド、そしてネットワーク型の社会インフラを結ぶハイブリッドクラウドインテグレーションを実現 |
システム生産技術本部 本部長の柴田徹氏 |
クラウド事業におけるソフトウェア・サービスの具体的な取り組みについて、システム生産技術本部 本部長の柴田徹氏は、「クラウドに対して多くの顧客は、すぐに使える・安く使える・簡単に使える・専門家不要、という印象を持っているが、これが実現できるのはベンダーが提供する機能をそのまま使う場合だけ。プラスアルファの機能を追加したいといった個々の要件が出たとたん、開発に時間がかかり、専門家が必要になり、費用も増加する」と、クラウドの一側面だけに注目することの危険性を紹介。「クラウドは特定の単一技術を表すものではなく、それをいかに使いこなすかといった力が必要」と、長年の実績がなければ、クラウドに移行することで余分な負荷が発生すると指摘する。
「クラウドへの移行により、基幹システムのボリュームは見かけ上減少することになるだろうが、新規マーケットが登場することで、基幹システムとの連携は不可欠になる。その結果、減少するとおもわれている基幹システム部分の強化というニーズが新たに出てくるだろう」(柴田氏)と、クラウド対応が新たなSI案件を生むと強調した。
こうしたクラウド時代に対応するため、同社では4つの施策を展開していると紹介。一つ目は、“設計・生産・保守の革新の統合”。「クラウド基盤上で10年以上持ちこたえるアプリケーションを提供するためにも、要件定義は重要であり、ものづくりの起点である。10月には新要件定義書をリリースするなど、積極的に取り組んでいる」
二つ目は、“クラウドに向けたIT共通基盤”。「この分野ではTRIOLEを使って共通基盤を用意して対応。顧客のIT基盤を可視化し、現状と目指すシステムで何が足りないかをきちんと議論しながら、検証された環境を提供していく」
三つ目は、“ワークスタイルの革新”。「プロジェクトマネジメントのノウハウを集大成した、ProjectWEBを構築し、すべてのSEにSaaSで利用環境を提供している。ProjectWEBは、これまでに7800のプロジェクトで利用しており、顧客の中には、システム構築後も要件の調整のために利用したいというニーズもある」
最後は、“クラウドシステム専門組織化”。「本日付で、クラウドアーキテクト室とクラウド実装・検証センターを設置。ここには、フィールドSEから100名以上の人材を集約し、自ら検証・実証するというアクションを起こさせることで、技術とナレッジの品質を高めている。ここで得たナレッジを持って、再びフィールドSEとして活躍することで、現場に常に最先端の技術をもたらすことができる」
ハイブリッドクラウドインテグレーションについて | クラウド時代のSIに求められるもの | 4つの施策で対応 |
顧客からみて富士通を選択するメリットについて、阿部氏は「クラウドにより、いかにコストダウンするかも大きな側面であるが、顧客の実ビジネスをいかにうまく進めるかという点で、相談できる相手が富士通だと考えている。もちろん、これには品質やセキュリティなどがベースになっているが、SEが持つノウハウをクラウドに持ってこられるのは、他社にない強みだ」と、これまで蓄積してきた総合力を生かして、クラウドでも展開していく考えを示した。
2009/12/21 17:10