「nCipher買収でセキュリティのワンストップ提供が可能に」-仏Thales

6000TPSの処理が可能なHSM新製品も提供開始

Thalesの概要
Thales アジア・パシフィック統括部長のリチャード・マレット氏(左)とタレスジャパン インフォメーションシステムセキュリティー事業部 事業部長 ビジネスディベロップメント 加藤俊之氏(右)

 仏Thales Group(以下、Thales)という企業をご存じだろうか。フランス政府の資本も入っている大手電機企業で、防衛、航空・宇宙、カードセキュリティなどの特定産業では著名な企業というが、このThalesが2008年10月、HSM(Hardware Security Module)などを手掛ける英nCipherを買収。情報セキュリティ市場でのビジネスに本格的に乗り出している。

 今回は、タレスジャパン株式会社 インフォメーションシステムセキュリティー事業部 事業部長 ビジネスディベロップメント 加藤俊之氏と、来日したThales アジア・パシフィック統括部長のリチャード・マレット氏に、nCipher買収の理由を含め、同社のITセキュリティ事業(Information Systems Security:ISS)の状況について話を聞いた。

 タレスは、前身となった会社も含めれば100年以上の歴史があり、従業員はワールドワイドで約6万8000名、売上高も年間約123億ユーロ(2008年)と、規模の大きな企業である。国内についても、最初の日本法人の設立は1970年と、約40年にわたる長い歴史を持っているが、これまではクレジットカードに搭載されるICチップといった、ITセキュリティとは異なる分野でのビジネスが主だったという。

 しかし、nCipherの買収によって、HSMなどのソリューションを獲得。国内でも、これらの製品の販売に本格的に乗り出した。マレット氏は、nCipherの買収の目的について、「従来手掛けていたICチップなどはニッチなものであり、タレスとしては汎用のアプリケーションが欲しかったため。これによってポートフォリオが拡大し、エンドトゥエンドのソリューション提供が可能になった」と説明。具体的なソリューションとして、企業・団体内での鍵管理、データベースセキュリティ、レイヤ2/3の回線暗号化、タイムスタンプ、電子カルテ、コンプライアンス対応などを挙げる。

 こうしたビジネスは、いうまでもなく、かつてのnCipherが得意としてきたところ。例えば「nShield」をはじめとするセキュリティ製品は、政府機関、Microsoftなどの大手企業での採用され、高い評価を受けてきた。その実績・製品を生かすべく、Thalesによる買収後も各製品ラインの開発は継続されており、nCipherと製品のブランドもそのまま温存。1月11日(フランス時間)には、ハイエンド向け「Thales nShield Connect 6000」、エントリー向け「同 500/1500」の提供が開始されている。

ホットスワップ可能な冗長電源の搭載によって、高い可用性を獲得した。冷却ファンについても、ホットスワップに対応する

 新製品のうち特に注目を集めているnShield Connect 6000は、RSA 1024ビットの場合で最大6000TPS(トランザクション/秒)と、「世界でもっとも高速なHSM」(マレット氏)でありながら、「ホットスワップ可能な冗長電源を、世界で初めて搭載した」(同氏)点が特徴。もちろん、過去の製品と同様のFIPS認証はクリアしており、セキュリティレベルは保ちながら、メンテナンス性を高めている。Thalesでは今後、下位製品についてもこうした可用性強化の仕組みを搭載する予定で、競合製品との差別化ポイントとしてアピールしていく意向だ。

 なお、nCipherの統合については「サービス面でもメリットを提供できる」とマレット氏は説明する。Thalesではもともと、セキュリティコンサルティングやセキュリティテストなどを提供しており、日本の大企業に対しても提供の実績がある。それに対しnCipherは、「海外工場での偽造防止を目的に、HSMを用いた生産管理を行う」(マレット氏)といった、製品にフォーカスしたプロフェッショナルサービスを提供していた。今回の統合によって、これらのサービスを一括して提供できるようになったことも、大きな価値があるのだという。

 販売戦略については、従来同様パートナーモデルを継続するとのこと。ただし、従来はペイメント市場では日本データカード、HSMでは東京エレクトロンデバイスといったように、1つの製品ラインの販売は1社に任せる形で展開してきたが、セキュリティ製品のポートフォリオが広がったため、それらの組み合わせにより、より大きな価値を生み出せるようになった点を考慮。複数の製品をまとめ、ソリューションとして提供できるようなパートナーを獲得していきたい考えを示す。

 加藤氏はこれについて、「直接当社がサービスを提供するというのはもちろんだが、限られたリソースでやっているので、パートナーと役割を分担して、サービスビジネスを大きくしていきたいという方針は、本社サイドにも共通した考え方。また、マイクロソフトや、タイムスタンプを手掛けるアマノなど、アライアンス系のパートナーも拡大していきたい」と述べた。

 現在、タレスジャパンの社員は50名ほどだが、うち10名がISS事業を担当する。Thalesでは、日本を引き続き重要な市場ととらえており、投資についても継続して行う意向を示しているとのこと。その上でも、製品の認知度を向上させ、よりビジネスの拡大を図っていきたいという。

 「当社の製品認知は高くないと思っているが、その割には、使用されているエリアは多い。製品の認知度を上げ、それによる有効性を、もう少し啓発する活動が必要と感じている。当社は国防や宇宙といった、とても高いセキュリティを要求する分野で大きな実績を挙げており、(製品・サービスなどに)高いレベルを要求する、日本のユーザーに対応可能な組織力のある企業だ。日本でも、必ず当社の能力を生かしていけるだろう」(マレット氏)。


(石井 一志)

2010/1/15 15:15