PDF化で作業を効率化-日本アムウェイのAcrobat使いこなし術を見る


 PDFと聞いて、どのようなイメージを持つだろう。紙文書を電子化したものというのが一般的ではないだろうか。間違いではないが、これはPDFの一面でしかない。重要なのは、電子化したことで、紙文書ではできなかったさまざまなことが実現可能であるという点だ。

 日本アムウェイ合同会社は、PDFが持つ機能をうまく生かして、紙文書で行っていた作業を大幅に効率化したという。今回、同社が実際に行っているPDFの活用方法を紹介する。


最大35名で印刷物のレビューを実施

 日本アムウェイは、日用品や化粧品、栄養補給食品などを開発・製造するメーカーだ。本社はアメリカにあり、1979年より日本で営業を開始している。

 同社の最大の特徴は、“ダイレクト・セリング”と呼ばれる販売方式を採用している点にある。これは、ディストリビューターと呼ばれる登録販売員が、身近な人に製品の品質を伝えながら販売するもので、このダイレクト・セリングを採用することで独自の販路を拡大している。

カタログやパンフレット、会報誌などの各種印刷物を発行

 ダイレクト・セリングを展開する際、必要となるのがカタログやパンフレット、会報誌などの各種印刷物。2009年の場合、年間約400点の印刷物を作成したという。

 同社コミュニケーション本部 コミュニケーション総合管理グループ リーダーの滝口恵理子氏は、「印刷前には多くの方に校正していただいています。特に、カタログの場合、少しのミスも許されませんので、校正作業は非常に重要です。基本的には本社内にいる方にみていただいているのですが、校正していただくためには人数分のカラーコピーを用意しなければならず、その作業が膨大でした。また、校正結果を間違いなく反映するといった作業も非常に大変でした。特に校正を行う人は平均で20名、多いときで35名ということもあり、やりとりが非常に苦労しました」、と語るように、カラーコピーを人数分用意するだけでも大変な作業だ。さらにそこで校正結果を間違いなく反映する作業、そして正しく反映したのかを確認する作業は想像するだけでも困難なものといえる。


共有レビュー機能で作業負荷を大幅に軽減

 こうした作業の負荷を軽減するツールとして同社が導入したのが、Acrobatだ。

日本アムウェイ合同会社、コミュニケーション本部 コミュニケーション総合管理グループ リーダーの滝口恵理子氏

 「私の前任者が個人的にAcrobatに注目しており、Acrobatに校正の機能があることを知って導入に踏み切ったんです。2005年でしたが、Version 6でスタートし、すぐにVersion 7にアップグレードしました。当初はニュースやお知らせなど、文字中心の印刷物で短期間に処理しなければいけないものが対象でした」(滝口氏)と、たまたまAcrobatが持つ機能に気づいたことが導入のきっかけになったと説明する。

 次のバージョンであるAcrobat 8では、新機能として共有レビューが搭載された。これが、同社が本格的にAcrobatを導入するきっかけになったと滝口氏は語る。

 Acrobat 8で搭載された共有レビューは、PDFファイルに入れられたコメントを共有フォルダに保存する機能。ネットワーク上のサーバーやWebフォルダなどをコメントの保存先として指定でき、共有レビューを使用するユーザーには、メールで手軽に告知することができる。レビュー参加者は、コメントを追加したり、ほかのレビュー参加者のコメントを確認することができる。

 滝口氏は、「共有レビューを使うことで、PDFファイルを作成するだけでよくなりましたので、紙のカラーコピーを大量に用意する手間が省けました。作成したPDFファイルもサーバー上に保存して、校正を行う人にはPDFファイルのリンク先を示すURLをメールで回覧するだけですので、紙のカラーコピーを配布することもなくなりました。校正作業自体も、別の人が入れたコメントを確認できるので、同じ個所を複数人が何度も指摘する必要もなくなり、作業が非常に効率化したのです。そのほか、だれがチェックをしたかも確認できるので、未チェックの人をすぐに把握できるのも便利です」と、紙で行っていた校正作業が、Acrobat導入により大幅に省力化されたと語る。


丁寧に作られた校正マニュアルでスムーズな運用を実現

利用者のために自作のマニュアルを用意。複数人でAcrobatを使うためのノウハウが詰まっている

 日本アムウェイの事例で注目したいのが、Acrobat利用者が戸惑わないようにPDF校正マニュアルを社内で作成して配布している点だ。PDFで校正作業を行う場合、さまざまなツールが用意されているため、人によってツールの使い方が違ってしまうという問題がある。一対一でのやりとりなら大きな問題にはならないが、複数人で利用するときには、使い方がバラバラになると、とりまとめの段階で大きな負担になってしまう。せっかくPDF化していても、うまく使われていないという事例を見ると、たいていこうしたことが原因になっている。

 日本アムウェイの場合、こうした問題に対処するため、用途に応じて使うツールを規定している。これを浸透させるために、手作りのPDF校正マニュアルを用意しているのだ。

 「Acrobatで校正作業をする際、吹き出し型の注釈ツールに目がいきがちなんですが、それを使うと、どこにコメントを入れているのかわかりにくくなるんです。なので、指示が的確に伝えられるよう、利用方法とあわせて、使うツールを紹介しています」(滝口氏)

 とはいえ、PDFですべてを完結させるといった“縛り”は設けていないという。「あくまでも校正の段階でPDFを正しく使っていただければいいので、それ以外は自由に使っていただいています。例えば、PDFを印刷して校正で使う方もいますが、あえて否定したりはしません」(滝口氏)と、校正結果が収集できれば、それ以外は利用者にまかせているのも特徴的だ。

 また、校正用途でPDFを利用した結果、おもわぬ利用にもつながったという。「PDFにする習慣がつきましたので、最終版をPDF化して社内で共有するといった使い方もしています。検索機能も使えますので、非常に重宝しています」(滝口氏)と、“正しい”PDFの使い方を実践している。




 今回紹介した日本アムウェイは、自社で必要な機能を的確に見極め、運用面でも利用者の負担を軽減する仕組みを採用しているのが印象的だった。

 PDFのメリットは、紙文書を電子化できる点にある。とはいえ、多くの人はメールで送信しやすいようにPDF化する程度の使い方しかしていないのではないだろうか。よく使っている人でも、入力フォームを設定した帳票を作るくらいだろう。日本アムウェイでの使い方は、複数人でレビューが必要な業務で応用できるものだ。PDFを単純に作るだけでなく、こうした付加機能を使うことで、業務効率を高めてみてはいかがだろうか。



(福浦 一広)

2010/2/18 09:00