マイクロソフトがAzureへの取り組みを本格化-開発者支援を強調

Microsoft Tech・Days 2010 キーノート

執行役デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏
Windows Azure Platformの全体構成
新機能も次々と追加されている

 マイクロソフト株式会社は2月23日・24日の両日、開発者向けイベント「Microsoft Tech・Days 2010」を開催した。初日のキーノートでは、同社執行役デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏が登壇し、「3スクリーン+クラウドの世界を切り拓くマイクロソフトの最新テクノロジー」と題して講演が行われた。

 クラウド時代に対する同社の戦略について、大場氏は「われわれが目指す方向性は非常にクリアなもの。クラウドはコスト削減の視点で語られることが多いが、導入後にユーザーが使えないのでは意味がない。われわれはユーザーが接する部分とクラウドの部分の両方でITの革新を進める“3スクリーン+クラウド”を戦略として掲げている」と、PCや携帯電話、TVといったデバイスとサーバーシステム・クラウドシステムといったバックエンドの両方から革新することの重要性を強調。

 このうち、クラウドシステムとして投入されたのがWindows Azure Platformとなる。Windows Azure Platformは、クラウドOSの「Windows Azure」、クラウドデータベース「SQL Azure」、アプリケーション統合サービス「Windows Azure Platform AppFabric(.NET Servicesからリブランド)」で構成される。このほか、Windows Azure Platform環境をサポートする開発環境として、Visual Studioが用意されている。また、運用面やスケーラビリティ、インターオペラビリティ、アプリケーション開発の自由度向上などを実現する機能なども順次追加されている。

 Windows Azureのアーキテクチャについて、大場氏は「当初はシンプルなロールで実行するアーキテクチャであったが、ロール間で自由なコミュニケーションが可能になるなど、多くの機能拡張が行われている」と説明。

 デモを担当した米Microsoft、Windows Azure担当 テクニカルストラテジストのスティーブ・マークス氏も、「多くのユーザーのフィードバックを踏まえて、さまざまな修正を行ってきた。そのひとつがプログラミングモデルの変化。発表当初は非常にシンプルだったが、現在はさまざまなロールやWebサービスとの通信が可能になっている」と述べた。


発表当初は、WebロールとWorkerロールのシンプルなアーキテクチャだった現在は実際のユースケースで必要となる、より複雑なアーキテクチャに進化

 1月より正式サービスを開始しており、ワールドワイドで導入が進んでいると大場氏は紹介。キーノートでは、このうち日本での利用事例が紹介された。

 Windows Azureを使って、EC機能と連携する動画配信サービスを開発したのはグーモ株式会社。同社は、TBSが放送と通信の融合を目指して設立した会社で、無料動画サービスを配信している。同社CTOの松岡清一氏は、「現状の環境は、Webサーバーとデータベースサーバーが別々で、CDNも専業ベンダーのサービスを利用するなど、ばらばらのシステムで運用している。CDNサービスも提供を予定しているWindows Azureを利用することで、これらを統合化されたシステムとして運用できるようになる。また、コンテンツプロバイダとして、アクセスが増えたときのシステム増強が容易になるのもメリット」と、採用した理由を説明。

 現在、Windows AzureのCDNサービスがベータ段階であるため、正式サービスとはなっていないものの、キーノート会場では遅延のない動画再生ができる点をデモで紹介した。


現在のアーキテクチャWindows Azureを利用したアーキテクチャ

ピークと休日で8.7倍の差が発生

 キャンペーン展開に最適なSaaS型CMSを開発したのは、ソフトバンククリエイティブ株式会社と株式会社リード・レックス。ソフトバンククリエイティブが展開している準会員制のビジネスメディアにおいて、Azureベースのコンテンツマネジメントツールを導入している。Webメディアの場合、コンテンツにより突出したアクセスが集中するため、クラウド環境を利用することで、ピーク時の負荷の制御を実現している。

 システム開発を担当したリード・レックスでは、このCMSをPressCubeとして夏をめどにサービス化する予定としている。

 上場企業の企業情報開示支援サービスでWindows Azureを採用したのは、宝印刷株式会社。同社はディスクロージャー専用ツール「X-Editor」などを提供しており、今回このX-EditorをWindows Azureベースのクラウド対応を行った。とはいえ、上場企業にとっては開示前の情報をクラウド上で扱うことには抵抗があるため、データベースは利用企業の自社システム内に配置したまま、アプリケーション部分をWindows Azureで運用するといったハイブリッド型のシステムを採用しているのが特長。

 同社取締役 常務執行役員の青木孝次氏は、「有価証券報告書の作成は、四半期ごとに大きなピークを迎えるので、Windows Azureのようなクラウドサービスを利用するメリットが大きい。また、お客さまによってはクラウド環境を使いたくないという声もあるが、.NETで開発しているので、オンプレミスであっても対応しやすいのもメリット」と紹介した。


クラウド版のX-EditorのアーキテクチャWindows Azureを採用した経緯

 ERPパッケージのクラウド対応をWindows Azureで行ったのは、株式会社富士通システムソリューションズ。イージーオーダー型の統合ソリューション「WebSERVE」や、統合ERPソリューション「WebSERVE smartソリューション」などのソリューションを提供している。このうち、WebSERVE smartソリューションが.NETをサービス基盤に採用していたことから、Windows Azureへの対応を進めている。

 デモでは、4月にサービスインが予定されているWebSERVE smart ワークフロー経費を紹介。AppFabricのサービスバスを利用することで、オンプレミス上の会計情報と連携することができる点などを特長として挙げた。


WebSERVE smart ワークフロー経費の概要開発中の画面でデモ開発支援ツールもWindows Azure上で動作

 このほか、MFPとクラウドサービスの連携を検証しているキヤノン株式会社の事例なども紹介。大場氏は、「国内では、約50社がWindows Azureへの対応を表明している」と説明。「マイクロソフトとしては、今年はクラウド元年と位置づけており、開発者への支援など、真剣に事業展開を行っていく」と、クラウド事業に本気で取り組む姿勢を示した。

 なお、同社サイトにおいて、キーノートの映像配信が行われているので、関心のある方はこちらも参照していただきたい。





(福浦 一広)

2010/2/23 17:17