「販社の営業を身内のようにしたい」、日本IBMがパートナー戦略強化を説明

クラウドに注力、ソリューションを共同開発して再販を支援

執行役員 パートナー&広域事業担当の岩井淳文氏
2010年のパートナービジネス活動指針

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は3月4日、同社のパートナー戦略に関する説明会を開催。執行役員 パートナー&広域事業担当の岩井淳文氏が、2010年の重点施策などを解説した。

 従来、パートナーのビジネスの中心であった、ハードウェアやソフトウェアの再販といった事業では利益を出しにくくなっており、パートナー企業ではサービスビジネスへの移行を進める動きが見られている。日本IBMでは、2009年1月に就任した橋本孝之社長がパートナー事業に明るいこともあり、ビジネスの変革を迫られているパートナーを支援するため、原点に返ってパートナー事業を見直すことを表明。パートナーへの支援体制を強める、というメッセージを再三発信するようになっていた。

 岩井氏は、こうした昨年からの流れを引き継ぎ、2010年もパートナーとの協業を推進するとの考えを示す。その一環が、営業組織の変更で、日本IBMでは、パートナービジネスを担当しているパートナー事業部と、中堅・中小企業(従業員1000名未満)を担当する直販営業を統合し、2010年1月に「パートナー&広域事業部」を発足させた。この狙いを岩井氏は、「120万社にもおよぶ広大な(中堅・中小企業)市場を、パートナーと共同で開拓すること」だと話す。

 パートナーがサービスビジネスを強化すればするほど、日本IBMのサービスビジネスと競合・重複が発生してしまうのは当然のこと。そのため、従来は協業を強化するといっても、疑心暗鬼になっていたのだという。しかし、マイナスの感情を取り除いて、「100%協業」の体制に持っていくのも今回の狙いの1つとのことで、そのために、中堅・中小企業向け市場におけるサービスビジネスにおいては、パートナーを優先していくとする。

営業担当の事業部を刷新した競合するサービスビジネスについては、パートナー側を最優先とする
SOPの概要

 また、パートナーがサービスの再販を強化できるように、「SOP(サービス・オリエンテッド・パートナリング)」という取り組みもスタートさせる。アプリケーションやミドルウェアを持つISVと、サービスの開発・提供や課金・契約などを担当するビジネス・プロバイダーが、日本IBM製品を活用したクラウドサービスを作り上げ、販売パートナーがこれを再販できるようにする仕組みで、日本IBMは各社に対して、サービス提供のための支援を提供するという。

 岩井氏は、SOPを提供する背景について、「お客さまは、クラウドサービスのうち何が自社に最適化がわかりにい、日ごろから付き合いのあるパートナーに継続的に支援してほしい、といった課題があるし、一方で当社のパートナーにとっては、売り切り型の案件の縮小にどう対応するか、新しいソリューションの開発や販路をどうするか、といった問題がある」と説明。こうした課題を、各社が連携して取り組むSOPで解決できると強調した。また、「すでに事業を行っているメーカーには、クラウドと既存事業との“共食い”のリスクがあるものの、当社はこの領域で強くないため、“共食い”を起こしにくい点も強み」と、中堅・中小企業を攻めるにあたっては、クラウドサービスが適しているとも話している。

 SOPには、すでに116社のパートナーが参加意向を表明しており、先行事例として、PaaS/IaaSなどのクラウドサービスや、特定事業向けのサービスなどが企画されているとのこと。4月からこうした先行事例パートナーの再販モデルを開始するとともに、順次、顧客企業向けのポータルサイト、パートナー向けの各種プログラムをスタートさせる計画である。

 さらに岩井氏は、「当社では、中小領域には興味がないと思われているが、決してそんなことはない」とし、中堅・中小企業の中でも、従業員数100名以下の中小企業に対する取り組みに、従来以上に力を入れるとも話す。特に、「自社による運用が不要で、初期投資も抑えられるクラウドサービスでは、これまで大企業だけが使えたサービスが中堅・中小企業でも利用可能になり、この領域に適している」と述べ、中小企業については、その領域を得意とするパートナーと連携を強めていく考えを示した。また、地方には、規模は大きくないが地場で有名なパートナーが存在することから、従来は下がりがちだったこうした地場のパートナーに対する優先度を上げ、パートナー団体の愛徳会なども通じて連携したいとした。

 なお、パートナーとのマーケティング体制も強化を図る。これまでの活動では、日本IBMが販売したいものを紹介し、案件が出てきた際にパートナーに紹介する、といった体制になっていた。しかし今後は、「日本IBM製品を使っていることは前提になるが、パートナーが売りたいものを、当社のテレセールスやマーケティング活動などを通じて紹介する形に変え、結果として当社の製品が入る、というようにしていく」(岩井氏)考え。あわせて、パートナー・サポートプログラムの強化により、スキルの育成から提案活動の支援、案件獲得までをトータルに支えていくとしている。

 「アウトソーシングのように一部例外はあるが、中堅・中小企業に対する当社の広域営業担当(直販)とパートナーとの販売比率を、パートナー100%にするのが理想。こうした取り組みを通じて、パートナーの営業担当を当社の身内のようにしたい」(岩井氏)。



(石井 一志)

2010/3/4 16:34