2010年に本格化するデスクトップ仮想化市場-シトリックスに取り組みを聞く


 シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社は、同社が得意とするデスクトップ仮想化を中核とした「デスクトップイノベーション」を2010年の戦略として発表。それを実行するために、1月付けでセールスフォース・ドットコム副社長だった木村裕之氏を副社長とし、エンタープライズビジネスの強化をすすめることも発表した。

 今回、同社代表取締役社長のマイケル・キング氏と副社長の木村裕之氏の両氏に、デスクトップイノベーションが目指すもの、そして重点的に取り組む事項などを伺った。


―2009年3月に社長に就任してから1年が経過しました。この1年をどう振り返りますか?

代表取締役社長のマイケル・キング氏(左)と副社長の木村裕之氏(右)

キング氏
 (金融危機の直後だったため)非常に悪いタイミングで社長になったので、どうしたものかとおもいました(笑)。景気後退というトレンドはありましたが、大規模案件の成約もありましたので、ベストパフォーマーということで満足はしています。

 ただ、厳しい景気の影響もあり、大規模企業にとっては、スピードアップする必要があったのは確かです。10年以上日本にいますが、日本企業は新しい技術の評価に時間がかかる傾向がありますが、新しいテクノロジーを積極的に評価しようという姿勢がみられました。それが成約にも結びついています。

 具体的に行ったこととしては、シトリックスのブランド認知度の向上のほか、サービス・サポートの強化です。ソリューションを提供するにあたって、サービスやサポートは重要なものですから。また、セールスまわりで組織再編も行いました。シトリックスはチャネル志向・リセラー志向の会社ですので、このビジネスモデルに対して人を強化する必要がありました。そこで木村さんにきていただき、エンタープライズ市場の強化を目指していただいています。


―今回発表した「デスクトップイノベーション」というメッセージを見ると、デスクトップに大きくフォーカスした印象を受けます。アプリケーション仮想化(XenApp)やネットワーク製品(NetScaler)、またサーバー仮想化製品(XenServer)などを持っているシトリックスとしては、方向性を変えたととらえていいのでしょうか?

キング氏
 シトリックスのビジョンは、創業以来21年間一貫しています。エンドツーエンドでサービスをデリバリーするというもので、これを強化するために過去3年の間、さまざまな企業を買収してきました。

 この間に市場も進化し、サーバー仮想化、デスクトップ仮想化、クラウドなどの区分けがなされてきました。このうち、デスクトップ仮想化はアプリケーションの仮想化をより大きな市場に向けて、進化させたものとみることができます。

 デスクトップイノベーションは、市場に対して明確なメッセージとなるものです。まず、シトリックスの方向性をはっきりと示すことになります。また、シトリックスにとって最適なパートナーはどこなのかをはっきりさせることにもつながります。そのいい例がマイクロソフトです。デスクトップ仮想化では、マイクロソフトは最適なパートナーといえます。


―確かに、これまで前面に出していた「デリバリーセンター」というメッセージと比べると、非常に明確になっていますね。とはいえ、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)という小さなセグメントにフォーカスしたような印象も受けます。

キング氏
 確かに、VDIだけに絞られてしまうといけないですね。VDIはひとつのユースケースを解決するものですから。ユースケースを考えると、デスクトップ仮想化には非常に多くのシナリオが必要です。また、ベストなユーザー体験を与えるには、ネットワークの技術も欠かせません。デスクトップ仮想化を成功させるには、幅広いテクノロジーが必要です。

木村氏
 「デスクトップイノベーション」という言葉の中には、サーバーの力も、ネットワークの力も、データセンターの力も、すべてデスクトップにあるという意味を込めています。デスクトップ仮想化にはすべての技術が込められているので、クラウドそのものといってもいい。デスクトップ仮想化で実現する全社最適化を具体的なソリューションとして示すなど、われわれがフォーカスしているデスクトップ仮想化を的確に示すことで、このイノベーションにフォーカスしているということを正しく伝えていきたいと考えています。

 シトリックスのアプリケーション仮想化技術を使っていただいているお客さまは、1万8000社にのぼります。この方々はアプリケーション仮想化はすでに経験していただいていますので、いかにして次のレベルに進んでいただけるかが重要です。また、アプリケーション仮想化を使っていただいているのであれば、ネットワーク製品にも注目していただく必要があります。われわれが提供する製品を、もう少し広くしていただくことは重要です。


―シトリックスといえば、XenApp(旧、Presentation Server)をイメージする人は多いとおもいます。成功したがために、次のステップに進みにくいという面はありませんか?

代表取締役社長のマイケル・キング氏

キング氏
 XenAppの利用者は日本国内で1万8000社と、非常に多くのユーザーベースがありますが、なかなか次のステップに変化していただけていないのは確かです。

 これを変えるには、マーケティング活動や営業活動を推進する必要があります。幸い、仮想化に注目が集まっていますので、マインドシフトするにはいい機会ではあります。また、ユーザーに対しては、アップグレードする価値を説明することで、投資内容を有効にしていただき、それによりシトリックスに対する見方を変えていただくようにする必要があります。

 パートナーとの関係もXenAppのころとは変わってくるでしょう。先日発表しましたが、NTTデータとデスクトップ仮想化で協業するというのも、6カ月前にはなかったことです。パートナーの種類も変化していきます。

木村氏
 デスクトップ仮想化は、日本ではこれからの分野です。ITが経営のスピードに追いついていないところがあり、部分部分で重荷になってしまっています。そこをサポートできるのがシトリックスだと考えています。確かに、XenAppの成功体験を引きずっているところがあるかもしれませんが、それを乗り越えるのはわれわれの課題です。


―シトリックスのデスクトップイノベーションを理解していただくための工夫はどのようなものでしょうか?

キング氏
 われわれのソリューションを理解していただけるよう、プリセールスセンターを構築しています。ここでは、さまざまなデモが行えます。理解していただくには、試していただくのが一番ですから。

木村氏
 口で説明するのは大変ですから、直接お客さまに見ていただくのが一番です。何も入っていないシンプルな端末を持って行き、サーバーの力でリッチな表現が行えるのは重要です。

 今年は経済も動きそうですし、お客さまの強い反応もあるという印象を受けています。デスクトップ仮想化は、本格的に動きそうです。


―デスクトップ仮想化では、競合のVMwareがサーバー仮想化の先行メリットを最大限に生かし、デスクトップ仮想化でも積極的に攻めています。

キング氏
 まず言いたいのは、デスクトップ分野は非常に広大で、1社だけでソリューションを提供することは不可能です。また、われわれは競合とは違うアプローチをとっています。

 理解していただきたいのは、デスクトップ仮想化はサーバーの仮想化とはまったく異なるということです。多くのデバイスをサポートしなければいけませんし、ユーザー体験も重要です。こうした知識を得るには、非常に時間がかかるものです。われわれは、XenAppを含めて、長くこの分野で活動しています。また、日本に特化した検証施設も用意しています。これが競合との大きな違いのひとつです。

 また、われわれはサーバー仮想化だけでなく、ネットワークやデスクトップ製品を提供しています。VMwareは他社と組まないと提供できません。さまざまな種類のユーザーがいるわけですから、さまざまなソリューションを提供できることは重要です。それができるのは、シトリックスだけです。

 このほか、マイクロソフトとの戦略的な提携関係も強みです。マイクロソフトはデスクトップそのものを所有しているといっても過言ではない企業です。そのマイクロソフトと緊密な関係を今後も継続するというのは大きな強みです。

 なによりも、VMware自身がデスクトップ仮想化のリーダーはシトリックスだといっていますよ。


―パートナーにとって、今回の戦略が与える影響をどのようにみていますか?

副社長の木村裕之氏

木村氏
 デスクトップ仮想化ソリューションに対して、さまざまなパートナーからエンドースメントを受けています。これからの市場として大きな期待を示していただいています。一緒に立ち上げていくという段階に入ったとおもいます。

 パートナーにとって、デスクトップ仮想化によって生まれる、提案から構築、運用サポートというのは、大きくて非常に魅力的なビジネスです。われわれはそのすべての段階をサポートします。アプリケーション仮想化を扱っていたパートナーにとっては、変革が求められるかもしれませんが、今回の戦略で発表したとおり、支援体制を強化していきます。

キング氏
 デスクトップイノベーションは、パートナーにとっても今までにない大きなチャンスです。もちろん、これまでどおり、ネットワーク製品やXenAppを中心に扱っていただいてもかまいませんし、新しい製品群を扱うのであれば支援させていただきます。





(福浦 一広)

2010/3/11 00:00