ネオジャパン齋藤社長に聞く、オープン指向文書共有サイト「Libura」の狙い


 株式会社ネオジャパンは3月8日、ビジネスコンシューマー向けサービスとして、Webサイト上でドキュメントの公開・共有ができるコミュニティーサービス「Libura.com」(以下、ライブラ)の提供を開始した。アプリケーションフレームワークに「Microsoft Silverlight」を利用しており、専用ビューワーを必要とせず、アップロードしたドキュメントを簡単かつスピーディーに公開・共有できる。特定のグループだけにドキュメントを公開したり、全体に公開したりといったこともでき、ブログやホームページに貼りつけることも可能だ。

 ライブラを開発・提供しているネオジャパン代表取締役社長の齋藤晶議氏にインタビューし、ライブラの特徴と展望について伺った。


グループウェアなど法人向けツールを核に成長

―まずは、ネオジャパンのこれまでの事業について教えてください。

ネオジャパン代表取締役社長の齋藤晶議氏

齋藤氏
 ネオジャパンの設立は1992年です。もともとは電力会社のネットワークのコンサルティングから始まりましたが、やがてUNIXが出始めてからは、社内の情報OAシステムの開発が基となる「受託開発事業」を開始しました。

 その後、そのノウハウを製品化しようということになり、1999年にWebベースのグループウェア「iOffice2000(現:desknet's(デスクネッツ))」を自社開発し、パッケージ製品の販売を開始後、プロダクト事業として発展しました。このデスクネッツは当社のメイン商品であり、毎年バージョンアップを重ねるとともに、グループウェア以外にも営業支援ツールや顧客管理システムなど会社の中で使うさまざまなツールを開発・提供してきました。そして3年前からは、SaaSモデルの「Applitus(アプリタス)」を立ち上げ、デスクネッツシリーズなどをサービスとしても提供するオンデマンドアプリケーションサービス事業を展開しています。

 ネオジャパンでは、サービス事業を開始する際に、受託開発事業を「技術開発事業」へと位置づけを転換し、「技術開発事業」「プロダクト事業」「オンデマンドアプリケーションサービス事業」という3事業の、「最適化したサイクル」による拡大・成長戦略を掲げ、取り組んでいます。

 新しく開発した技術をパッケージやサービスとして広く提供し、そこで得たノウハウをまた技術にフィードバックするという形ですね。


「My Library」を作りたいという発想からスタート

―ライブラとは、どういうサービスなのでしょうか。

齋藤氏
 一言でいえば、「ドキュメントコミュニティーサービス」です。自分が持っているさまざまなドキュメントをライブラのサイトから、もしくは専用アプリからドラッグ&ドロップで簡単に登録し、公開することができます。異なるファイル形式の複数ファイルを組み合わせて1つのドキュメントとして登録したり、スライドショーとして閲覧したりすることも可能です。

 また、登録されたドキュメントに、吹き出しをつけてコメントを書いたり、付せんを貼ったり、外部リンクを設けたりといった飾り付けも追加できます。飾り付けは、設定によって、閲覧者からも行えますので、ドキュメント上でのコミュニケーションができるわけです。


無料のアカウント登録を行うだけで1人1GBのスペースが利用できる専用ツールを必要とせず、本をめくる感覚でドキュメントを閲覧可能


―外部ブログにデータを貼りつけたりといったコミュニケーションも可能なんですか?

齋藤氏
 もちろんです。ドキュメントをライブラにアップし、それをブログに貼りつけると、コンテンツ自体はライブラの中に置いたまま、ブログの中でドキュメントを閲覧できます。ルーペ機能など、ライブラの機能もすべて使えます。サムネイルを引っ張ってきて、ドキュメントの下の部分に表示させておくこともできます。

 また、Twitterでつぶやくこともできます。ドキュメントの中のつぶやきたいページを開いて「Tボタン」(Twitterボタン)を押すとTwitterが起動され、サインオンすると、そのページのURLがそこに入るというわけです。


―ライブラというサービスを思いつかれたきっかけは?

齋藤氏
 ライブラの名前の由来は「Library」(図書館、蔵書)から来ています。自分の持っているさまざまな文書をどこでも見られる保管場所「My Library」を作ろうという発想からスタートしました。

 例えば、グループウェアにも文書管理機能がありますが、それは社外からは見ることができないとか、出先でその資料を見ながらプレゼンテーションをすることができないなどの問題があります。客先で特別なツールがなくても見られるものを作りたいという思いがありました。


Scribdとの違いは描画スピードの速さ

―ライブラは、米国の文書共有サービス「Scribd」(スクリブド)に似ていますが、意識はされていたんでしょうか。

齋藤氏
 Scribdは、「TechCrunch」(http://techcrunch.com/)で紹介されているのを見て知りました。そのころにはすでにわれわれもサービスの構想を持っており、こんなサービスがあるといいなと思っていたら、Scribdが出てきたのです。ただ、われわれは当初「My Library」という発想から入ってきたのですが、彼らのサービスはソーシャル性が高いものだった。その後それぞれがトレンドを吸収し、結果として似ているサービスになったということですね。


―Scribdとの違いは?

齋藤氏
 アーキテクチャーが違います。ScribdはFlashでビューワーを作っていますが、われわれはSilverlightを利用しています。開発をスタートした1年半前は、まだSilverlightが非常に不安定な時期で、「よくSilverlightを選択したな」と言われました(笑)。

 Silverlightを選択した理由は、まず1つに、開発をスタートした1年半前から、将来的にWindows 7が出てくることがわかっており、マイクロソフトの差別化戦略として、Windows 7の上でFlashがきちんと快適に動くのか疑問がありました。また、マイクロソフトはSilverlightへ大変力を入れており、一気に伸びていくのではないかと感じました。

 案の定、実際にWindows 7で動作させると、Silverlightの方が描画スピードが速い。日本では、「Yahoo! 動画」がSilverlightを使っており、すでに多くのユーザーがいます。1年先にはSilverlightは当たり前に使えるようになっていると思います。


―描画スピードの速さは実際に計測されたんですか?

齋藤氏
 はい。単純なグラフィック描画のテストツールで実験して、FlashよりSilverlightの方が2.8倍ほど早いという結果がでました。Silverlightはグラフィックに強いので、アニメやゲームを作ってもすごくいいのではないかと思います。


―Silverlightを利用した場合、携帯電話で動かないとか、Mac OSでちゃんと動くのかなど環境面での不安があると思います。

携帯電話からもFlashを利用して閲覧が可能

齋藤氏
 すでに携帯電話版と「libura for iPhone lite」というiPhone Safari向けのバージョンはスタートしています。携帯電話の場合Flash対応は必須ですので、Flashで作っています。iPhoneだとそういうコンポーネントがないので、自分たちでイメージを確保してiPhone OSの本来の機能を生かして作り込んでいます。

 その他のモバイル機器への対応ですが、Androidはイメージで作り込むべきなのか、それとも独自に組み込まれているビューワーで作るべきなのか、まだ悩んでいます。Windows Mobileは次のバージョンからSilverlightが同梱されるので何もしなくても利用できるはずです。


―対応しているファイル形式は?

齋藤氏
 今のところ、Microsoft Word文書(doc、docx)、Microsoft Excel文書(xls、xlsx)、Microsoft PowerPoint文書(ppt、pptx、pps)、PDF/EPSドキュメント(pdf、ps、ai、eps)、イメージファイル(jpeg、jpg、gif、bmp、pjpeg、png、jpe)、テキストドキュメント(txt、rtf、csv)に対応しています。ビジネス文書としての代表的なファイル形式やアドビ製品、画像ファイルなどはだいたいフォローできていると思います。対応ファイル形式は今後も増やす予定です。


―デスクネッツとの連動も考えられていますか?

齋藤氏
 例えば、デスクネッツの中の文書管理の機能を使って文書を登録すると、ライブラのアカウントを持っていれば自動的にライブラに登録されるような仕組みを作ろうと思っています。また、緊急性があるものに関しては、ドキュメント登録者だけでなく、システム管理者が公開・非公開などの設定をコントロールできるようにもする予定です。


―デスクネッツの会員数は?

齋藤氏
 2010年3月末で243万ユーザーです。


まずはオフィスで使われる文書の共有がメイン

―ライブラの最初の利用者イメージや、主にどんな文書の共有に利用されるのかのイメージをお聞かせください。

齋藤氏
 最初はビジネスコンシューマーがターゲットです。われわれは今までグループウェアをはじめオフィスで役立つツールを作り続けてきましたので、その延長です。例えば、プレゼン資料をライブラに上げて複数の人と共有するといった使い方ですね。それから、例えば、われわれのような開発者は、技術的なインストールマニュアルやOSの評価資料などを作ることがありますが、そういった資料は社内のさまざまな人にとって有用なので、それを公開するというような使い方もあると思います。

 もう1つ、単純に企業の広告サイトとして使う形もあると思います。企業には製品パンフレットや導入事例などさまざまなペーパーがありますが、紙で配るには限界がある。そういったものをライブラにアップロードして、ブログなどで告知するのもいいと思います。会社案内や組織図、IR情報などもあるでしょう。例えば、上場会社が公開しているIR情報は、現在、PDFで企業のサイトに置かれていることが多いですが、データサイズの大きなPDFデータをダウンロードして見るのはストレスがある。ライブラならストレスなく、ダイレクトに見たいページを検索して見ることができます。


―アップしたデータは、誰でも見ることができるんですか?

齋藤氏
 誰でも見られるようにも設定できますし、非公開にもできます。また、グループ機能というのがあり、自分でグループを作って、グループに所属している人だけが見られるようにもできます。

 グループウェアの場合、会社の中でしか情報や文書を共有できません。しかし、顧客やパートナー、外注先と情報を共有したいというニーズは高いです。Eメールなどでオフィス文書や契約書をやりとりする際に、バージョン管理が面倒だったり、通信に手間がかかったり、ツールのバージョンが違っていて開けなかったりということが頻繁に起きて面倒くさい。そういう時に、ライブラでグループを作り、グループ内だけで公開してコミュニケーションをすれば非常に便利になると思います。


広告や課金などビジネスモデルは模索中

―ライブラのビジネスモデルは?

齋藤氏
 まだビジネスモデルは全然考えていません(笑)。ですが、さまざまなモデルが考えられると思います。

 まず考えられるのは広告モデルです。ライブラは外部の検索エンジンからもドキュメントの中身を検索できるように作られています。例えば、1冊の本があったとして、通常のコンテンツ連動型広告であれば、その1冊に連動して1つの広告を差し込む形になるでしょう。しかし、ライブラであれば、本の1ページに書かれている言葉に連動した広告をリアルタイムで貼りつけ、ページをめくるごとに広告を変えることも可能になります。しかも、WordやExcel、PowerPointなど、異なる形式のデータを1つのブックにまとめることも可能ですので、広告モデルとして面白いことができるのではないかと思っています。

 ライブラをもっと企業PRの場として打ち出すという考え方もあります。1企業あたり例えば1TBぐらいのスペースを有料でご提供し、そこに自分たちの製品のマニュアルやPRしたいものをどんどん置いていただくという形です。流通・販売をする事業者の方々などは、秋版、冬版、春版などカタログなどをたくさん持ち歩いて小売店さんに配る作業が大変面倒だったりする。それをライブラに載せて電子データで配れば、カタログ費用を削減できますね。

 法人だけでなく、個人ユーザーに対しても、今は1人1GBまで無料でスペースを利用できますが、それを超える1GBあたり1カ月数百円の料金を頂くという形も考えられます。

 出版モデルも面白いと思います。出版とまではいかなくても、自分の販売したい軽いドキュメントをライブラにアップして、ダウンロードや印刷に対して課金するというモデルは作りたいと思っています。


日本の文化を世界に知らしめたい

―国際化についてはどう考えていますか。

齋藤氏
 すでに、メニューやインフォメーションは英語に対応しています。また、中国語にも取り組んでいるところです。あとは欧州市場向けにドイツ語にもチャレンジしてみたいと思っています。

 最終的には、投稿したデータを「翻訳ボタン」を押すと中のデータが翻訳されて表示されるということにもチャレンジしたいです。すでにWebページではそういうサービスが提供されていますよね。技術的にはそんなに難しくはないと思っています。

 私には「日本の文化を世界に知らしめたい」という夢があります。日本の文字文化や写真文化は素晴らしいものです。例えば、書籍の表紙1つとっても、日本のものはきれいな写真が置かれて、文字が美しくレイアウトされていて、とてもクオリティーが高い。一方海外では、書籍や雑誌、プレゼン資料などのデザインは、はっきりいって、ひどいものも多いです。日本の美しいドキュメント文化というものを、ライブラを通じて少しでも海外に知らしめていきたいですね。


―今後の抱負を教えてください。

齋藤氏
 ネオジャパンはこれまで19年間、ビジネス向けのアプリを作り続けてきました。今回のライブラのような、ビジネス寄りといえどもコンシューマー向けのサービスを展開するというのは新しいチャレンジなんですね。次のネオジャパンの10年のスタートとしても、とてもいいサービスを発表できたと思います。今後、ローカルにツールを置かない、低価格で利用できるWebサービスというのは、時代の流れの中でもあるべき姿だと確信を持っていますので、全力でライブラに取り組んでいきたいと思っています。


―ありがとうございました。





(インターネットメディア総合研究所)

2010/4/9 09:00