NECの2009年度連結決算、減収も利益は大幅改善で114億円の最終黒字

2010年度は倍増の営業利益1000億円を目指す

 日本電気株式会社(以下、NEC)は5月12日、2009年度(2010年3月期)の連結業績を発表した。

 売上高は前年比15.0%減の3兆5831億円、営業損益は前年の62億円の赤字から黒字転換し509億円、経常損益も932億円の赤字から、494億円への黒字に、当期純損益も2966億円の赤字から、114億円の黒字となった。

 NECの遠藤信博社長は、「営業利益は計画未達となったが、当期純利益では計画の100億円を上回る実績となった。半導体事業におけるルネサステクノロジとの経営統合、携帯電話端末事業の強化、日本電気硝子および日本電気真空硝子の株式売却などの事業構造改革により、事業ポートフォリオの見直しを行い、財務基盤の強化と成長戦略遂行のためのオファリングを実施した」とする一方、固定費削減では、2900億円の目標に対して、11%上回る3209億円の削減を達成。「固定費削減計画では、下期からさらに200億円を積み増しし、再スタートを切ったが、それを上回る実績ができた。筋肉質な収益構造への転換を図ることができており、これを2010年度もしっかりキープする」などとした。

NECの遠藤信博社長2009年度連結決算の概要
セグメント別の業績

 セグメント別の業績について、「すべてのセグメントが減収となったものの、パーソナルソリューション、エレクトロンデバイスで大幅な収益改善を達成している。しかし、その一方で、ITプロダクトが減益、ネットワークシステムが大幅な減収となり、課題が残る結果になった」とした。

 ITサービス事業の売上高が前年比6.9%減の8765億円、営業損益は33億円改善の593億円。流通業向けなどのSIサービスやアウトソーシングサービスなどが堅調に推移したものの、国内企業のIT投資抑制が影響した。

 ITプロダクト事業は売上高が前年比21.5%減の2092億円、営業損益は229億円悪化し、11億円の赤字。前年に大型プロジェクトがあったことの反動が影響したという。

 ネットワークシステム事業の売上高は前年比21.6%減の7959億円、営業損益は140億円悪化の280億円。社会インフラ事業の売上高は前年比7.0%減の3166億円、営業損益は146億円改善の228億円、エレクトロンデバイス事業の売上高は前年比14.7%減の5728億円、営業損益は310億円改善したものの568億円の赤字。その他事業の売上高は前年比41.7%減の844億円、営業損益は53億円改善の111億円。

ITサービス/ITプロダクトの状況ネットワークシステムの状況

 パーソナルソリューション事業は売上高が前年比13.0%減の7379億円、営業損益は325億円改善し、193億円。パソコンその他分野において、スクールニューディール制度の影響があり、教育分野向けのパソコンの出荷が増加したこと、海外向けモニターやプロジェクターの売上高が増加したが、前半における企業のIT投資の抑制、低価格化による売上高の減少が響いたほか、モバイルターミナル分野において、国内の携帯電話の売り上げが減少したため減収となった。



2010年度は減収増益、営業利益は96.5%増を見込む

 一方、2010年度の連結業績見通しは、売上高は前年比7.9%減の3兆3000億円、営業利益は前年比96.5%増の1000億円、経常利益は前年比41.7%増の700億円、当期純利益は前年比31.6%増の150億円とした。

2010年度の業績予想
セグメント別の業績予想
業績予想達成に向けたポイント

 「非連結化した半導体事業の分を考慮すると売上高では、5%の増収計画になる」(遠藤社長)としている。

 遠藤社長は、中期経営計画「V2012」の策定において、5極体制を要としたグローバル事業の拡大、IT/ネットワークの融合領域におけるクラウド関連事業の拡大、自動車用電池、パーソナル新端末などの新規事業の拡大を重点テーマとしていることに触れ、「V2012は、グループビジョン2017のマイルストーンとなるものであり、2010年度はV2012の実現に向けた最初の年」になると位置づけた。

 2010年度の経営方針説明の冒頭に遠藤社長は、「V2012は自己変革プログラムだと社内に言っている。グループビジョン2017を達成するためには相当の変革が必要である。現状を理解し、どこに出ていったらいいのか、そのギャップを理解し、自らを変えていかなくてはならない」とし、「業績予想の達成に向けては、『外への努力』としてトップラインの増加への努力、『内なる努力』として内部の業務効率化の努力を同時に行っていくことを社員に提示している。どちらかに偏重するのではなく、同時並行的に実行することで、利益の最大化を実現する」などと語った。

 セグメント別の業績予想は、ITサービス事業の売上高が前年比1.5%増の8900億円、営業利益は7億円増加の600億円。顧客の今後の成長に向けた投資を着実に取り込むことで、増収を目指すとしたほか、基幹システムにおけるクラウド指向の動きをとらえ、サービス実践モデルの展開、SaaSメニューの拡充などにより着実な売り上げ増を目指すという。

 ITプロダクト事業の売上高は前年比4.4%減の2000億円、営業利益は費用削減、原価低減活動の継続により、61億円増加の50億円と黒字転換を見込む。ソフトウェアでは仮想化によるシステム統合、クラウド対応も含んだデータセンター向けの取り組みに注力するとした。また、サーバーでは、顧客の投資抑制が下げ止まり傾向にあるとしたものの、低位機種へのシフトが見込まれるために減収予想。一方でシンクライアントやIAサーバー、周辺機器などの伸長を見込んでいる。また、流通向け専用端末などの販売強化を図るという。

 ネットワークシステム事業の売上高は前年比8.2%増の8500億円、営業利益は120億円増加の400億円。社会インフラ事業の売上高は前年比0.5%減の3150億円、営業利益は78億円減少の150億円。パーソナルソリューション事業の売上高は前年比12.5%増の8300億円、営業利益は33億円減少の160億円とした。

 パソコンの出荷台数は、2009年度実績が前年比9.2%増の273万台。2010年度は260万台と減少を見込むが、2009年度の学校ICTへの出荷増加分を除けば、出荷数量は増加の計画になるという。

 また、エレクトロンデバイスは、半導体事業の非連結化により、大幅に減少。売上高は75.6%減の1400億円。営業損益は578億円改善し、10億円の黒字を見込む。

 業績予想達成に向けてポイントとして、ITサービスでは、サービス、グローバル事業の推進、新規事業創造、SI事業拡大のほか、SI革新活動による収益体質の強化をあげ、ITプロダクトではIT・ネットワーク相互の商材、技術を生かした強い製品を創出、体制集約によるプロセスの改善と共通業務の効率化に取り組むという。

 「日本国内のITサービス市場は、マイナス成長の予測が出ているが、売上高では若干控えめだが増収を目指す。営業利益が横ばいなのは少し投資をしたいと考えているため」とし、2012年度に1兆円を目指すクラウド事業への投資を加速する考えを示した。

クラウドサービスの取り組み/導入例
指紋認証システムのコンピテンスセンター展開

 また、クラウドサービスでの受注例としては、自治体クラウドへの取り組みとして、山形県置賜地区の7市町で導入したSaaS型基幹業務システム「GPRIME for SaaS」を横展開して、40団体と商談していることを示し、「今後は海外展開も見込む」とした。また、基幹システムのクラウドサービスとして、自動車部品大手のエクセディからの受注実績や、大手製造業2社からのクラウド指向経理サービスの導入コンサルティングサービスを受注したこと、約10社において基幹システムのクラウドサービスの導入が本格検討されていることなどを示した。また、昨年12月から提供を開始したERPのSaaS型提供サービス「Explanner for SaaS」を、大手ホテル業、大手食品製造業などから受注したことなども明らかにした。

 そのほか、指紋認証システムのコンピテンスセンターをインド・バンガロールに開設。NECアルゼンチンのコンピテンスセンターとあわせて、グローバルにサポートする体制を構築したことや、2010年度には、SDカード化した法人向けRFIDを携帯電話に内蔵し、RFIDマルチリーダーライターの連動により、携帯電話をモノにかざすだけで利用できる、さまざまな業務アプリケーションの展開に取り組むとした。

 また、ネットワークシステムでは、LTEやWiMAXなどの新規事業の拡大、パソリンクや海底光ケーブルなどの海外主力事業の回復、将来事業の開拓などに取り組む。

 「ネットワークシステムでは、2009年度は2つのプログラムが遅延するといった状況にあったが、海底ケーブルシステムの復調が見込まれ、この分野において、複数の大型プロジェクトの早期受注を見込む。また、ハードビジネスだけではなく、通信事業者向けの運用支援システムであるネットクラッカーも増収が期待できる。キャリア向けにはLTE、WiMAXサービス事業を拡大し、スマートフォン対応などキャリアへの投資喚起が見込まれる。ワイヤレスブロードバンドの領域は今後重要になる」などとした。

 パソリンクでは2010年度も、4年連続となる世界シェアナンバーワンの獲得に意欲をみせるほか、ワイヤレスブロードバンドでは、NTTドコモのLTE無線基地局装置やコアネットワーク装置とスイッチの納入を加速するほか、KDDI向けにLTE無線基地局装置の開発/製造ベンダーに選定されたこと、欧州におけるテレフォニカ社のLTEのトライアルベンダーに選定されたことなどを生かし、国内外ともに事業を拡大する姿勢を示した。

 なお、NGNに関しては「日本におけるNGNのインフラ整備という点では、昨年度で打ち終わったと考えている」とした。

 パーソナルソリューションに関しては、携帯電話事業の海外再進出に伴い、グローバル市場に通用するローコストオペレーションの徹底を図るという。

 携帯電話事業に関しては、NECカシオモバイルコミュニケーションズとカシオ日立モバイルコミュニケーションズを6月に事業統合し、2010年度は携帯電話で全世界750万台を出荷。2012年度には国内シェアナンバーワンを目指すとした。

 さらに環境・エネルギー事業体制の構築として、コーポレート直下に環境・エネルギー事業本部を新設し、今後市場拡大が見込まれる、自動車用高性能リチウムイオン電池の電極事業の推進、電力貯蔵などのスマートグリッド関連事業の創出に乗り出すという。

 遠藤社長は、「NECが強くなるため、また信頼感を得るためにはボリュームを追うことは大切である。既存領域を成長させるだけでなく、新たな領域を創出することも、成長のためには必要であると考えている。ハードウェアビジネスを止めるということはまったく考えていない。データセンターにおいては、ハードウェアとしてのITだけでなく、ネットワークの知識をそそぎ込むことで、効率化が図れることがわかっており、そこにNECの強みがある。また、クラウドの領域では無線なくしてはあり得ないと考えている。無線の領域において能力を発揮できるITベンダーはいない。ITとネットワークが統合したシステムのなかで、NECの強みを発揮できる」などとコメントした。


(大河原 克行)

2010/5/13 00:00