「人に喜びと満足、感動を与えていくことが役割」-富士通・山本社長

富士通フォーラム 2010基調講演

 富士通株式会社は、2010年5月13日、14日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムで、「富士通フォーラム 2010」を開催。初日の午前10時30分から、同社・山本正已社長が基調講演を行った。4月1日に社長に就任した山本氏にとって、社長として公の場で講演するのは今回が初めてとなる。

 また、基調講演は英語での同時通訳のほか、中国語、韓国語でも同時通訳が行われ、グローバル化を意識したものになった。

「夢をかたちに~shaping tomorrow with you」を講演テーマに

「富士通フォーラム 2010」で講演する富士通 山本正已社長

 講演テーマは、「夢をかたちに~shaping tomorrow with you」。これは、富士通が新たに策定したブランドプロミスであり、今回の富士通フォーラム 2010のテーマともなっている。

 山本社長は、これまでのコンピューティング中心の世界や、データを効率よく活用するネットワーク中心の世界から、人が中心となるヒューマン・セントリックなICT利活用の世の中に進化すると語り、これを「ICTの利活用とコンピュータサイエンスによって実現するインテリジェントな社会」と定義。こうした社会に向けてクラウド・コンピューティングをはじめとする同社の技術、製品、サービスを活用すること、顧客との長期的なパートナーシップによって、企業、生活者、社会に貢献するとした。

 冒頭、山本社長は、「人の本質的価値を追求し、人が本当の意味で豊かに生きることを支援する、Quality of Lifeに貢献していきたい」と語り、「人に喜びと満足、感動を与えていくことが富士通の役割。それはshaping tomorrow with youという富士通の新たなブランドプロミスとして、お客さまに約束するものである」とした。

 まず山本社長は、現在、お客さまが抱えるICTに関する課題について言及した。

 「現在のICTは、システムの構築、運用が難しい。24時間の連続稼働、セキュリティの確保、事業継続の実行というように、ユーザーはシステムの維持に日々苦労しており、これが負荷となっている。また、ICT投資の60%以上が既存システムの保守であり、新規の戦略投資にまわせる予算が少ないという課題もある。私は、戦略投資を4割から5割に引き上げることが望ましいと考えている。一方で、最近、話題となっているクラウドは、ハード、ソフトを所有せず、ネットワークを介して必要に応じて利用するというもの。システム保守が軽減でき、戦略投資を増やすことができる切り札になるだろう」と、既存システムの課題を解決する手法として、クラウドが位置付けられようとしていること示した。

 「企業の社長は、クラウドの話を聞いて、クラウドは魔法の玉手箱と認識し、ニコニコしているが、隣に座っているCIOは渋い顔をして座っている。富士通のクラウドは、社長も、CIOもニコニコしてもらえるものである」と、ユニークな比喩(ひゆ)をしながら、特徴を強調してみせた。

 その理由として山本社長は、「富士通のクラウドの強みは、信頼性の高いクラウドサービスが実現できることにある」として、「トラステッド・サービス・プラットフォーム」と呼ばれる基盤を提供している点に触れた。

新ブランドプロミス「shaping tomorrow with you」お客さまのICTへの課題

 「トラステッド・サービス・プラットフォームは、システムリソース、ネットワーク、セキュリティ、マネジメントサービスの4つから構成される大規模仮想プラットフォーム。SaaS、PaaS、IaaS、NaaSといったさまざまな領域において、これまで富士通が培った構築・運用ノウハウと、プロダクトからネットワークに至る一気通貫の総合力が提供できるのが強みとなる。また、お客さまの既存システムとクラウドを最適にインテグレーションできる唯一のベンダーである」とした。

 新ネットワークサービスである「FENICS IIユニバーサルコネクト」により、機械と機械をつないだマシン・トゥ・マシン(M2M)のリモート監視サービスをグローバルに提供するほか、全世界に90か所のデータセンターを設置し、48か所のサポートデスク、26か国語での対応を可能としていること、今後、米国、英国、ドイツ、シンガポール、オーストラリアの5か国に拠点を設けて、これらのデータセンターを中核とした世界共通のサービスを提供できることを示した。

 また、次世代のデータセンターとして、館林システムセンターを紹介。「日本におけるクラウドサービスの代表格が高信頼性と高品質を実現する館林システムセンターであり、最先端のセキュリティおよび環境性能を備え、災害にも強い国内最高水準のデータセンターとなる。情報セキュリティの格付けではトリプルAを取得している。現在、1000台のサーバーによる大規模構成を実現しているが、順次拡張していく考えである」などとした。

トラステッド・サービス・プラットフォームを提供SaaS、PaaS、IaaS、NaaSをトータルに提供



クラウドを通じてお客さまのビジネスを変革

ハイブリッド・クラウド・インテグレーション

 さらに、「ハイブリッド・クラウド・インテグレーション」という考え方にもついても言及。「既存の基幹システムや現場のシステムの効率化、プライベートクラウドとパブリッククラウドの融合などを通じて、お客さまのビジネスの変革を、お客さまとともに行っていく。これがハイブリッド・クラウド・インテグレーションになる。クラウドは、お客さまが持つ基幹システムを標準化し、変動費とすることでコストを削減することが可能。また、フロントシステムのスピーディーな開発、適用分野の拡大、情報活用を可能にする。そして、クラウドの先にあるのは、環境変化に対応した企業の変革やビジネスの変革である」とした。

 山本社長は、「クラウドや各種のセンサー技術、多様な携帯端末、モバイル通信技術の進展によって、さまざまなサービスが生まれつつある。そして、ネットワークを通じて、クラウド基盤上に蓄積された膨大なデータを、人にとって価値があるサービスに転換していくことが知の創造であり、人の行動を支える実践値の考え方になる。クラウドにより、技術はブラックボックス化する。これは技術中心から人中心へのシフトを加速するものとなり、ヒューマンセントリック時代に向けた象徴的な変化だといえる」などとした。

 富士通では、「ヒューマン・セントリック・インテリジェント・ソサエティ」と呼ぶ、社会の到来を予言しており、この実現を「今後10年間にわたって追求していく富士通のビジョン」(山本社長)と位置付ける。

 「実践値が満ちあふれ、人々の暮らしを支える社会」とするこの社会では、人々がより豊かで、より安心、安全で、より快適に、便利で楽しく暮らせる社会と位置付け、お客さまの新しいビジネス領域の創造と、社会システムの変革に貢献すると語る。

 「ここでもたらされる価値の源泉は全世界70億人が作り出す膨大なデータにある。リアルワールドで起きるさまざまな課題から発生するデータを、バーチャルワールドに写像し、実践値や状況に応じたサービスとしてリアルワールドに還元し、課題の解決を図っていくことになる。これを支えるのは、富士通のトラステッド・クラウド・サービス。センサーやデバイス、ネットワーク、インフラ、プラットフォーム、サービスなどによるトラステッド・サービス・プラットフォームと、富士通のサービス、ソリューション力によって、お客さまの新たなビジネスを広げていく」と説明した。

 山本社長は、ヒューマン・セントリック・インテリジェント・ソサエティの具体的な事例として、エネルギー分野におけるインテリジェント化した検針メーターを活用した発電、配電に関する大規模ネットワークの自律構築、家ごとの使用量を自動収集する仕組みの構築などを紹介したほか、アマダと共同で構築したは金属加工機械の事前保守ネットワークの実現、物流分野での効率的な配送システムの構築、ヘルスケア・医療分野におけるPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の構築と、これを活用した医療機関、製薬会社、保険会社、健康産業、消防署などの自治体との、連携の実現。さらには、環境分野においては富士通クオリティラボが提供する大気、土壌、水質汚染監視用クラウドサービスや、農業分野における農地や作業、作物の状況をセンサーで見える化したサービスの導入により、ベテラン農家のノウハウを活用した農業の企業化が図れるといった取り組みを紹介した。

ヒューマン・セントリック・インテリジェント・ソサエティヘルスケア分野での活用例



インテリジェント社会を支える4つの技術

 また、インテリジェント社会を支える4つの技術として、アドホック通信技術のWisReedやセンサーミドルウェア技術を活用した「インテリジェントネットワーク技術」、大規模計算、高度な科学技術計算を実現する「ハイパフォーマンス・コンピューティング」、大量の定型情報および非定型情報を含んだトラブルレポートから、問題の傾向を分析し、適切な対策を立案する「リスクマイニング技術」、すでに欧州富士通研究所がインペリアルカレッジ・ロンドンのグランサム気候変動研究所と協力して構築した海洋モデルから地球全体の炭素循環を分析するといった多様な環境因子をトータルに分析する「大規模複合ソリューション」をあげた。

 特に山本社長は、ハイパフォーマンス・コンピューティングに関して、「事業仕分けで話題になったスーパーコンピュータは、地球環境や医療、モノづくりなどのさまざまな人類社会の重要課題を解決するために不可欠なツール。富士通では現在、理化学研究所と共同で次世代スーパーコンピュータの開発を進めており、2012年度の稼働を目指している。ライフサイエンス、ナノテク材料、エネルギー、社会基盤、モノづくりといった幅広い分野で応用されることになる」とした。

 具体的な事例として、心臓シミュレータを紹介。細胞ミクロモデル66万個の精緻(せいち)なシミュレーションの状況をデモンストレーション。「心臓の一拍に数100日かかるシミュレーションを、数日で処理できるようになる」とした。

ハイパフォーマンス・コンピューティングと、その適用事例として心臓シミュレータを紹介した

 また、「インテリジェント社会に必要なのは、ICT技術だけではない。ビジネスモデルも必要」として、「これまでのICTの領域にとどまらず、データ処理が業界横断的になると、スマートグリッドやヘルスケアネット、水クラウドに進化し、データ処理が知識処理に変わると、安心、安全、快適、便利、感動などを生み出す。そして、データの知識処理を業界横断で行うと、交通渋滞の解消や、食の安全確保、安心した高齢化社会の実現、環境汚染の解決など、社会と暮らしの課題解決につながる。同時に、企業にとっては、事業コンセプトの革新や、新たなビジネス領域の創造につながる」とした。

 ここでは自動車の例をあげ、「生活者にとって、車は居住空間の延長線上にある。携帯電話を持ち込むことで無線環境を持つことができ、ハイブリッドカーやEVでは電池も積んでいる。さらにさまざまなセンサーを積めば、車は洋服のように人を包み込みながら動きまわり、車内外にあふれるデータを受信し、送信する。まさに車はモバイルウェアとして進化し、人を包み、フットプリントを残しながら、周囲の環境とつながっていく。道路、交通インフラとつながることで、より快適で安全な運転ができ、ショッピングやレストランなどの嗜好(しこう)にあわせた情報、生活や健康の情報などとも連動することで、生活者が豊かになる。そして、そこには新たなサービスやビジネスが生まれていくことになる」とし、「富士通が目指すヒューマンセントリックなインテリジェント社会は、お客さまにとってもさまざまなビジネスチャンスにあふれる社会になる。そこに富士通は貢献したい」と語った。


富士通フォーラム 2010の見どころを紹介

東京証券取引所に導入したarrowheadの概要

 一方、富士通フォーラム 2010の見どころとして、東京証券取引所に導入したarrowheadや、クラウドコンピューティング向けサーバープラットフォームの「PRIMERGY CX1000」、大規模システムの運用に対応するPRIMERGY BX900、使い方が自由な、NTTドコモ向けのフリースタイル携帯電話のPRIME SERIES「F-04B」、リモート消去によるモバイルPCの紛失、盗難対策のための「CLEARSURE」、計算化学統合プラットフォームの「SCIGRESS(サイグレス)」などを紹介。さらに、2007年10月から育成を開始し、すでに400人以上を排出したフィールド・イノベータに関しても言及。「人とプロセスとICTを見える化することによって、改善のさまざまなアイデアを引き出し、改善を続けており、すでに149社356件への実績がある。会場では、この事例をフィールド・イノベータ自身が紹介している」とした。

 arrowheadに関しては、「注文応答時間2ミリ秒を達成した世界最高速レベルの新取引システムである。富士通は過去にシステム障害を起こし、東証に大変な迷惑をかけた。一度信用を失ったにも関わらず、提案を受け入れていただき、その期待に応えるべく、全社の総合力をあげて、全力で取り組んだものである」などとした。

 一方で、富士通が取り組むCSR活動として、富士通セミコンダクターがウガンダでアフリカ大陸初となるWiMAX端末に半導体技術を提供。この技術により、インターネットをベースとした低価格の音声通話サービスが可能となり、多くの人たちが電話を使えるようになったという。「国連では、極度の貧困の撲滅などを掲げたミレニアム開発目標を掲げているが、富士通は最新のICT技術を活用することでこの目標達成に貢献していく。次期モデルには、データ通信機能も追加し、低価格な音声通話とデータ通信を提供できるようになる」と語った。

富士通の経営方針

 最後に山本社長は、富士通の経営方針として、Think Giobal, Act Localによる「グローバル起点」、お客さまのビジネスを良くすることを目指す「お客さまのお客さま起点」、お客さまの環境負荷を低減する「地球環境起点」の3つの起点を着実に実行することをあげ、ビジョン実現を目指すとした。

 「お客さまの課題を理解することからすべてが始まる。お客さまが提供する新たなサービスは国内に閉じたものではなく、かけがえのないパートナーとなるためにはグローバル対応は必須となる。また、環境対応は社会的使命でもあり、富士通が目指すビジョンの根幹をなすもの。すべての製品、サービスで環境対応を進めていく」とした。

 さらに、「新しいビジネスや価値サービスの創造には、ひらめきがキーワードとなる。このひらめきをお客さまと共有させていただきたい。新たなビジョンのもとで成長に全力を尽くす富士通に期待してほしい」として、講演を締めくくった。




(大河原 克行)

2010/5/13 15:24