「クラウドコンピューティングは成熟の段階に」、米IBMクラウド担当CTO

米IBMのクラウド担当CTO、Kristof Kloeckner氏

　日本アイ・ビー・エム株式会社（日本IBM）は5月18日、米IBMのクラウドコンピューティング分野のCTOを務めるKristof Kloeckner氏によるプレス向けのラウンドテーブルを開催し、IBMのクラウドへの取り組みを紹介した。

　Kloeckner氏は、IBMがこれまでに世界各国の数百以上の企業とクラウドへの取り組みを進めてきた中から、「クラウドへの関心は世界的に普遍なものだということが分かった」と説明。「サービスを提供する側と、利用する側の関係を変化させる新たなやりかたとして、クラウドへの関心はどの分野の企業でもとても高い」として、日本においてもクラウドへの関心の高さを感じていると語った。

　また、IBMでは企業と共にどのような業務に対してクラウドを導入していくかということを検討してきた経験から、「サービス指向型、疎結合なアプリケーションがクラウドを導入しやすいことが分かってきた」として、開発・テスト、コラボレーション、解析といった分野が、クラウド導入の出発点として多くの企業にとって取り組みやすいと説明。「もう1つ分かったことは、きちんとした計画があればクラウドの投資効果は早期に出やすい」と語り、計画的なクラウドの導入が早期の投資回収と生産性の増大をもたらすとした。

　クラウドの適用モデルについては、プライベートクラウドとパブリッククラウド、双方を利用するハイブリッド型の3種類があるが、IBMが手掛けている企業のクラウド化においては、プライベートクラウドを選ぶ企業が多いと説明。例えば生命保険業などでは、扱うデータに対する規制や制約が厳しいことからプライベートクラウドを選択しており、複数企業で共有する形のクラウドであっても、同業種の企業のみで利用する形での利用が多いとした。その一方で、例えば出張旅費の精算処理など、コモディティ化しているサービスについてはパブリッククラウド側のサービスを利用するケースも多く、セキュリティと管理方法がクラウドの適用モデルを決定しているとした。

　また、企業の業務のクラウド化においては、「仮想化は重要な要素ではあるが、コスト削減の70～80％は自動化や標準化によって達成されるという結果が出ている」として、「クラウドはITの標準化や自動化を進めていく」との認識を示した。

　クラウドコンピューティングのフレームワークについては、すべての基盤となるマネジメントサービスの上に、インフラサービス、共有ミドルウェアサービス、コラボレーションや解析などの各種サービス、業界固有のサービスが構築されると説明。特に共有ミドルウェアサービスの重要性が高まってきており、IBMでもこの部分の拡充に努めているとした。

　また、これらの各種クラウドサービスと既存のサービスを統合していく作業が今後さらに重要性を増していくという見通しを示し、5月3日に買収を発表した米Iron Cast Systemsの技術も活用し、クラウド化したアプリケーションと企業内アプリケーションの統合をソリューションとして提供していくと語った。

　Kloeckner氏は、IBM自身もさまざまな業務のクラウドへの移行を進めており、IBMが「Blue Insight」と呼ぶ解析サービスは、既に世界各国の12万人の営業担当者に対して、データの分析結果を提供していると説明。「今後1000程度のアプリケーションをクラウドに移行したいと考えており、うち300は年内に移行したい」とした。

　また、IBMのクラウドサービスでは、三菱東京UFJ銀行がデスクトップクラウドサービスを、パナソニックがオンラインコラボレーションの「LotusLive」を導入するなど、日本にも多数の導入事例があると説明。「クラウドコンピューティングは現実のものとなっており、成熟の段階に入っている」という認識を示した。

　現在はプライベートクラウドを利用している企業も、将来的にはコスト面などからパブリッククラウドに移行していくと思うかという質問に対してKloeckner氏は、「特に大企業については、プライベートクラウドでも非常に良い経済性が得られることが分かっている。2000システム程度であれば、パブリッククラウドに匹敵する経済性が達成できる」と説明。「しかも、プライベートクラウドには自分でコントロールできるというプラス面があり、これは多くの企業が重要だと考えている」と語った。

プライベートクラウドとパブリッククラウドの間にも、運用を他社に委託するモデルや、企業間でクラウドを共有するモデルなど多数のモデルがある	IBM自身も、解析やコラボレーション、開発・テストなど多数の業務をクラウドに移行している