「HOSTING-PRO 2010」講演~クラウド時代のビジネスモデル

 

 日本インターネットプロバイダー協会などが共催する「HOSTING-PRO 2010」が3月4日、開催された。カンファレンスでは「クラウド時代のビジネスモデル~これから起こる技術潮流~」と題し、株式会社ネットワークバリューコンポーネンツの松本直人氏を司会に、4氏が意見を披瀝した。
 
 司会の松本直人氏は「クラウドへの関心の高まりは新しいコンピューターの使い方に関心が高まっているということ」とし、「今、コンピューターの使い方が変わり始めており、従来のやり方では管理が難しく、クラウドの普及によってコンピューターの使い方において新しく必要とされることが増えている」と要点を述べた。
 

マルチテナンシーの開発に注力――ヴイエムウェア小松康二氏

 ヴイエムウェア株式会社の小松康二氏は、仮想化からクラウドへの流れをベンダーからの視点から語った。同社はサーバー仮想化の基盤技術をクラウドのソフトウェアベンダーに提供している立場にあり、「IaaSレイヤー中心の話題が多いが、セキュリティやリソースの割り当てなど、クラウドの実用化に不可欠な技術の開発に取り組んでいる」という。

 その中で現在、注力しているのがマルチテナンシーの開発であり、「サーバー仮想化によって抽象化された論理ソースと組織・エンドユーザーをマッピングする手法を開発中で、論理ソースと組み合わせてサービスレベルで定義できる仕組みを開発中」と述べた。

 小松氏はまた、ハイブリッド・クラウドの実現について「オンプレミスとのつなぎなど課題は多い」とした。

 さらに開発中の案件として、複数の仮想マシン、ゲストOS、ミドルウェアを選択してドラッグ&ドロップで1つの基盤がクラウド上にできあがるサービスを紹介した。

スモールスタートで段階的に拡大――シスコシステムズ小桧山淳一氏

シスコシステムズ合同会社 小桧山淳一氏

 シスコシステムズ合同会社の小桧山淳一氏は、「企業のIT予算の70%が運用・管理に割かれており、これを圧縮して新しいサービスの開発費用を増やしたいと企業は考えている」とし、クラウド・コンピューターについては企業規模により考え方に違いがあると指摘した。

 大企業では「プライベートクラウドに対するニーズが強く、外部のサービスについては必要なものを必要な時に使う“リソース循環型”のインフラを求めており、コスト圧縮とスピードが重要な要素だ」と述べた。

 一方、中小企業は「管理に手が回らないため、できるだけ外のサービスを利用したいと考えており、とくにオフィス系のツールはその傾向が強く、この分野についてはクラウドを利用した新しいサービスがビジネスとなる」と解説した。

 また、クラウドを利用したこのようなサービスを開始するために重要なのは「いかにしてスモールスタートするか」で、「ターゲットを明確にし、コストを抑え、売上を上げていけるかが、サービスプロバイダーとして難しい点だ」と述べた。そのために、「最低限のハードウェアを揃え、オープンソースを利用し、次第にスケールアウト型のインフラを活用するなど、段階的に拡張することが考えられる」と述べた。

SMBクラウド・サービスは競争激化――パラレルス土居昌博氏

パラレルス株式会社 土居昌博氏

 パラレルス株式会社の土居昌博氏は中小企業向けのクラウド・サービスについて解説した。中小企業は世界的に大きな比率を占めており、「Webサイトで見ても、99%が中小企業のサイトが占めているのでホスティングの大きな市場となる」とした。

 その上で土居氏は「現在、中小企業が支出している電話、ネットワーク、ハードウェアなどへのIT投資が、2020年ごろにはクラウドに取り込まれる。現在、SMBクラウドとか、ホスティングと称される分野はニッチな市場だが、新規参入が相次ぎ、市場も拡大して競争が激しくなる」と語った。

 ただ、中小向けのクラウド・サービスは単価が低いので、「事業として成立させるにはユーザー数を多くする必要があり、契約数も膨大になるので、データセンターを効率的に運用する必要があり、エンドツーエンドの自動化を行う必要がある」と述べた。

 また、クラウドは新しいビジネスチャンスであると同時に、「昨日のビジネスモデルが大きく変わる」危機でもあり、ワンストップサービスを実現することが大切で、「サービスに穴があると、そこからユーザーが逃げることになる」ので、効率とスピードを最優先させることが求められるとした。
 

データセンターの経営は難しくなる――ライブドア奥澤智子氏

 

株式会社ライブドア 奥澤智子氏

 株式会社ライブドアのデータセンターでバックボーン設計チームに在籍する奥澤智子氏は、「必要な時に必要なだけ利用できる」というクラウドコンピューティングはデータセンターなどクラウド・プロバイダーにとって収益モデルが変わることになり、経営に大きな影響を受けることを示唆した。

 「われわれは現在、ユーザーからの最低利用時間のコミットメントの下で事業を展開しているが、クラウドの普及でコミットメントがもらえず、経営が難しくなる。ユーザーは現在、ハウジングの投資を初期先行投資が大きくなる段階型で行っているが、クラウドではこれがなだらかな投資となる」。

 「当社の場合、インターネット回線、データセンターの土地、建物などを借りて事業を行っているが、ユーザーの需要が流動的になり、バックボーン設計も難しくなる」と語った。

(丸山 隆平)

2010/3/5 17:00