“新参ハードベンダー”Oracle-買収後のSunの生かし方


 OracleのSun Microsystems買収が、IT業界史に残る大事件であることは間違いない。SunとIBMの間の買収交渉が決裂したあと、突如として躍り出てきたOracleは、速攻で話をまとめあげ、世界中を驚かせた。この合併の意義と行方については、さまざまな分析が可能で、まさに百家争鳴の状態だ。ここではハードウェアの観点からみてみたい。

 Sunの取締役会は、Oracleの買収の受け入れを全会一致で可決したという。Sunの身売りが大きく伝えられて約1カ月。同社を手に入れるのは、盟友でもあるOracleとなりそうだ。買収額は74億ドル(Sunの負債や現金を考慮すると56億ドル)相当という。過去にOracleが買収した、PeopleSoft(103億ドル)やBEA Systems(85億ドル)よりも金額的には低い。

 だが、今回は、ちょっと意味が違い、データベースソフトウェアベンダーがハードウェアを主力事業とする企業を買収するという点に注目すべきだ。Oracleは、過去4年間に40社を超える企業を買収し、自社製品ラインの中に統合してきた。だが、その買収相手のほとんどは、同じ土俵で戦うライバルだった。

 だが、Sunは“OS、ミドルウェア、ソフトウェアを持つハードウェアベンダー”だ。このことは、買収後の統合作業が、これまでにない挑戦となることを意味する。

 サーバー市場はソフトウェアに比べて利益が薄い上、コモディティ化と景気動向を受け、市場は縮小傾向にある。しかもSunはドットコムバブル崩壊後、現在に至るまで、巻き返しに成功していない。IDCの最新のデータでは、Sunのシェアは9.3%で4位だ。さらにCisco Systemsの参入などで、この市場の競争はますます激しくなってゆく。

 こうした状況から、Oracleは、Sunの買収後にハードウェア事業を切り離すだろうとの見方がある。だが、The Wall Street Journal(WSJ)紙などによると、Oracleの社長、Safra Catz氏はSunのハードウェア事業の収益性を高める意思を見せているという。

 SunとOracleは1990年代から密な協業関係にあり、OracleのソフトとSunのOSとハードの相性は実証済みだ。これはアプライアンスの開発に発展してゆく可能性がある。「Oracleは、(Sun獲得により)自社コンポーネントで構成される、完全に統合したデータウェアハウスアプライアンスを設計できる」(Forrester ResearchアナリストのJames Kobielus氏)というのだ。SunとOracleは、TeradataやIBMなどの統合ソリューションベンダーと対抗できるという。

 さらに興味深い分析がある。CNET NewsのStephen Shankland氏は、Oracleが1998年に発表したプロジェクト「Raw Iron」に注目している。Raw Ironは、対Microsoft戦略として、OracleのCEO、Larry Ellison氏がSunと組んで発表したビジョンで、自社データベースソフト(当時はOracle 8i)向けに最適化したOS(Solaris OS)を含む一種のアプライアンス用基盤ソフトウェアとなる。Hewlett-Packard(HP)がサーバーを製造したが、受け入れは進まず、Oracleも強くプッシュしなかったため、事実上消滅してしまった。

 今回、OracleはSunを獲得することで、その技術ポートフォリオから自在に取捨選択して最適化し、統合したシステムを開発できるようになる。実際、買収発表の際、Ellison氏は「アプリケーションからディスクまで統合されたシステムを開発できる唯一の企業となる。すべての技術がフィットして連動するので、顧客は自社で作業する必要はなくなる」とコメントしている。

 また、ZDNetのブログのまとめでは、Oracleのもう一人の社長、Charles Phillips氏も、ハードとソフトを組み合わせた完全なパッケージを業界に提供できると述べている。The New York Times紙も、OracleとSunの幹部は、買収のメリットとして、ソフトとハードを組み合わせる「システムアプローチ」を繰り返し強調したと伝えている。

 このことは、Ellison氏が2008年の「Oracle OpenWorld 2008」で発表した「HP Oracle Database Machine」を思い出せば納得がいく。HPと共同開発した高速データウェアハウスシステムで、「HP Oracle Exadata Storage Server」を含むハードウェアである。ForresterのKobielus氏によると、当時Ellison氏は「Oracleはハードウェア事業に進出する」と意欲を見せていたという。

 Kobielus氏はさらに、Oracleがオープンソースとの直接衝突を避けるため、Oracle DatabaseとMySQLの2つのアプライアンスを開発してすみ分けを図ることもできる、とも分析する。

 だが、このハード戦略にはリスクも伴う。HPをはじめ、これまで提携関係にあったDell、IBMなどのハードウェアベンダーを敵に回す恐れがあるのだ。Sunのサーバー市場におけるシェアは大きくない。大手がMicrosoft(あるいはIBM)側につくことは、Oracleが最も避けたいところだろう。

 そして、ハードウェア事業はOracleにとって未経験の分野だ。各社は、新しいトレンドである仮想化やクラウドを推進する戦略をとっており、Oracleは急いで追いつかねばならない。

 このほかにも、アプライアンスが仮想化やクラウドなどのトレンドと必ずしも合致しない点、スタンドアロンサーバーを求める顧客に応じられるか、といったこともShankland氏は課題として挙げている。

 Oracleがシステムベンダーに転身するとすれば、Sunを獲得できなかったIBM、これに並ぶシステムベンダーであるHP、さらには「Unbreakable Linux」以来、微妙な関係にあるRed Hatなど、業界全体に大きな影響を与える。Oracleが、Sun買収を完了して、どのような統合ロードマップを打ち出すのかが注目される。

 Oracle&Sunの方向性に関係なく、IT業界の再編は決定的になった。両社が合流することで、業界はIBM、HP、Microsoft、Oracleの4強時代に入る。Ovumのアナリストも「4社が今後10年以上、IT市場の大部分の展望を定義していく」と予想する。IT業界が新しい時代を迎える、それだけは確実だ。



(岡田 陽子=Infostand)

2009/4/27/ 08:33