新型インフルエンザへのIT的対処法-モニタリングから分散コンピューティングまで


 メキシコから発生した新型インフルエンザ(H1N1)は、世界中に広がり、ついに日本でも国内感染が確認された。最も恐れられていた鳥インフルエンザ(H5N1)に比べると毒性が弱く、“最悪の疫病”のシナリオは回避されそうだが、今後も新たなインフルエンザの発生が懸念されている。この病気との戦いには、インターネットとITが大きな武器になる。

 Googleは昨年11月、インフルエンザの流行状況を可視化するシステム「flu Trend」を公開した。鳥インフルエンザ(H5N1)の「ヒト・ヒト感染」に備えたもので、Googleで行われた検索データをもとに、インフルエンザの発生・流行状況が把握できるという。

 「flu Trend」は、感染が広がる地域で、インフルエンザやその症状に関する検索が急増するという現象に着目したものだ。「インフルエンザに関心を持った膨大な検索のなかから、実際にその兆候を経験した人が行いそうな検索のクエリをフィルタリングして、取りだそうとする」(flu Trendの主席エンジニアのJeremy Ginsberg氏らのGoogle公式ブログ)。公的機関である米国疾病対策予防センター(CDC)のレポートよりも1~2週間状況を把握できるというのが売り物だ。

 ただし「flu Trend」のチームも、今回のメキシコの感染には残念ながら気づかなかった。システムが米国だけを対象としており、メキシコのデータをチェックする体制にはなっていなかったためだ。Googleは4月29日、メキシコを対象とした「Experimental Flu Trends for Mexico」を公開して、その後のトラッキングに対応している。

 インターネットで世界的に感染症を監視するシステムは、他にもある。そのいくつかは、公的な発表がある前に、新型インフルエンザの兆候をつかんでいたという。

 英Guardianなどによると、世界中の感染症情報を地図にしてインターネットで公開するシステム「HealthMap」は4月1日の段階でメキシコのインフルエンザ情報をキャッチしていた。現地報道によるメキシコ・ベラクルスの“奇病”の発生である。

 このシステムは、ハーバード大学のJohn Brownstein医師と、ソフト開発者のClark Freifeld氏が2006年に立ち上げたもので、Google Mapsを利用したマッシュアップ・アプリケーションだ。1時間に2万のWebサイトをクロールして、75種類の感染症情報を集約する。ソースの9割は世界各国のメディア情報という。Googleのフィランソロピー部門、Google.orgが資金援助している。

 また、WHOとカナダが共同開発した公衆衛生情報システム「GPHIN」(Global Public Health Intelligence Network)もメディア情報のモニタリングでベラクルスの病気を察知し、4月10日付でWHOにリポートしていたという。

 民間企業も負けてはいない。危機管理向け早期情報・コンサルティングを行うVeratect(ワシントン州カークランド)は、「最も早く、新型インフルエンザについての信頼できる警戒を行った」と主張している。同社がメキシコの「新型肺炎」「呼吸器官疾患」をトラッキングし始めたのは3月30日で、4月6日の段階で感染拡大を確認。さらに4月16日から26日までに、この病気との関連があるとみられるアラートを100件超出しているという。

 同社は、テキスト・マイニングの手法を使って、ブログやさまざまなインターネット上のデータを分析しており、その情報は30以上の言語の4万超のオリジナルソースから得て、200以上の疾病をフォローしているという。同社のRobert Hart CEOは「われわれのシステムは、日常生活の構造のちょっとした変化、たとえば、医療インフラの緊張、仕事や学校を休むといった行動パターンの変化を検知する」とTIME誌に述べている。

 また同社はTwitterを通じて、リアルタイムの情報提供も行っている。なおTwitterについては、CDCもインフルエンザ関連情報を発信しているが、頻度はVeratectの方がはるかに多い。

 これらは、いずれも早期警戒のためのシステムだが、インターネットを治療の研究に活用するプロジェクトも動き出した。

 公的コンピューティンググリッドプロジェクト「World Community Grid」は5月5日から、抗インフルエンザウイルス剤の開発プロジェクト「Influenza Antiviral Drug Search」を開始した。カリフォルニア大学バークレー校が開発した分散コンピューティング・プラットフォーム「BOINC」(Berkeley Open Infrastructure for Network Computing)を利用して、抗インフルエンザ薬の開発を行う。

 残念ながら、現在拡大中の新型インフルエンザの対策としては間に合いそうにないが、強い毒性を持ち、大きな被害が懸念されているN5N1への対策としては期待できそうだ。

 ネットワークによって人から人へ、情報が伝達することを言う「バイラル」(viral)は「ウイルスによって引き起こされる」が語源だ。そして、この機能こそが、現実の病原体ウイルスに対抗する力になるのは、興味深いことである。



(行宮 翔太=Infostand)

2009/5/18/ 08:45