ネットブックに異変-Windowsを脅かすのはAndroid?


 不況の中でも珍しく活気のあるネットブック市場に、新しい動きが起こっている。携帯用OSとして搭載実績を増やしつつある「Android」をネットブック製品に利用しようというものである。台湾のAcerが、Android搭載ネットブックの投入を正式に発表。他社もこれに追随しそうな情勢だ。Windows対Linuxのネットブック向けOS覇権争いが新たな局面を迎えるのだろうか。

 Acerは6月2日、台湾で開催中の「COMPUTEX TAIPEI 2009」で、Androidを搭載したネットブックを今年第3四半期に発売すると発表した。同社のネットブック製品ライン「Aspire One」で展開し、将来的にはすべての機種でWindowsとAndroidを選択可能にする計画という。

 Androidは、ネットブックではまだ実績がなく、圧倒的な優位にあるWindowsにどれだけ対抗できるかは未知数だ。他のLinux OSと比べても後発だが、その勢いはあなどれない。また、AndroidとWindowsの戦いは、同時にGoogleとMicrosoftの戦いでもあり、その意味でも注目度は高い。

 eWeekは、Androidが十分にWindowsに対抗できる力を持つとみている。「Androidの長所は、容易に修正できる点」としたうえで、AcerはAndroidをハードウェア向けにカスタマイズすることで、差別化を図れる、と分析する。Windowsではこうした“業”は不可能であり、Windowsを搭載するPCメーカーはデザインで差別化を図るしかなかった。

 またAndroidには、もう1つ、アプリマーケット・配信プラットフォームの「Android Market」という長所がある。ユーザーは用途に応じて自分に必要なアプリをダウンロードできる。これはOSとともに、価格低下に大きく貢献する、というのである。

 これに、Googleというブランドを加味すれば、一定の影響力は持つと予想されるという。Acerの動きがきっかけとなって、Dell、Hewlett-Packard、AsusTek Computerなどのメーカーも続くと見る向きは多い。TweakTownはComputexの会場で、Androidが動作するAsusの「Eee PC」の動画をリポートしている。

 不況下のパソコン市場で、重要なけん引役となっているネットブックだが、OSでは当初、Eee PCが採用していたこともあってLinuxが先行していた。だが、市場自体の拡大や、ネットブック向けの安価なライセンスの投入などでプッシュしたMicrosoftの戦略が奏功して、他のPC市場と同様、Windowsがシェアを独占しつつある。

 MicrosoftのBrandon LeBlanc氏は今年4月、2008年前半には10%足らずだった米国のネットブックでのWindowsのシェアが、2009年2月には96%に拡大した、と公式ブログで報告している。

 ネットブックの性能が改善されつつあることも、Microsoftには好材料だ。動作の重いWindowsを載せても問題がないとなれば、後は価格の問題となる。ユーザーのメインがハイテク通から一般消費者に広がっていることも、皆が既に慣れ親しんだWindowsの採用を後押しする。

 こうしたWindowsの攻勢に加え、Linuxにはエコシステムの弱さも指摘されている。一部では、Linux搭載機の返却率が高いことから、取り扱いを中止する業者も出てきているという。利ざやが少ないネットブック市場で負の循環が始まれば、Linuxには大きな痛手となる。

 Androidは、こうした状況の中に登場し、非Windowsのネットブック用OSとして大きな期待を背負っている。

 もちろん、Linux陣営も活発に動いている。Computexでは、DellがLinux搭載ネットブックライン「InspironN」を発表した。また、Androidと並ぶキーワードとなったのが、Intelが後押しするLinuxベースのモバイルOS「Moblin」だ。

 MoblinはIntelのAtomプロセッサ向けに最適化されており、Intelは今年に入って、中立性を担保するためMoblinプロジェクトをLinux Foundationに移管した。Novell、「Ubuntu」のCanonicalとも提携しており、CanonicalはComputexで「Ubuntu Moblin Linux」を発表した。Novellも、MCIとAcerのネットブックで動くMoblinベースのOSをデモしている。IntelはさらにComputexの会期中に、組み込みLinuxのWind River Systemsの買収を発表し、組み込み・携帯機器分野を強化する姿勢を見せている。

 さらに、Linuxの後押しになりそうなのが、ネットブックに本腰を入れ始めたARMだ。Android搭載機でも利用されていたARMは低価格、低消費電力などを特徴とするが、現在、WindowsはARMに対応していないため、このプラットフォームは、LinuxやAndroidの独壇場となる。Computerworldによると、ABI Researchのアナリストは、ARMが、2009年のLinuxベースネットブックの出荷台数増加を押し上げると予想している。

 一方のMicrosoftはComputexで、「Windows 7」の一般提供を10月22日に開始すると正式発表した。このうち低価格のStarter Editionでは、同時実行アプリケーション数の制限を撤廃することを決めた。Starter EditionはネットブックのOSの有力な選択肢であり、Windows 7は前評判が高い。Microsoftが正面からWindows 7でネットブック市場に力を入れれば、競争を有利に展開できる可能性が高い。

 ネットブック市場の将来を占うには、まず、Windows 7搭載機とAndroid搭載機が出そろう今年の年末商戦が注目される。



(岡田 陽子=Infostand)

2009/6/15/ 08:32