花形ベンチャーの挫折 動画サービスのJoostがコンシューマ向けから撤退


 かつて“YouTubeキラー”とも称された高画質動画サービス「Joost」がコンシューマ向けサービスから撤退することになった。SkypeやKazaaを立ち上げたNiklas Zennstrom氏とJanus Friis氏によって設立された“PtoPベースの第3のサービス”で、巨額の資金を集め、テレビ界のビジネスモデルを取り入れ、その成功は約束されているように見えたのだが…。

 JoostのCEO、Michelangelo Volpi氏は6月30日付のブログで「厳しい経済情勢のなか、独立の、広告ベースのオンライン動画プラットフォームとしてやっていくことが困難になった」と説明。事業方針を転換し、メディア企業や配信事業者に“ホワイトラベル”としてビデオプラットフォームを提供するビジネスにフォーカスしてゆくと発表した。Joost.comは自体は存続するが、コンシューマ向けサービスからは撤退する。

 Advertising Ageによると、Joostは90人の従業員のうち、“コアチーム”と呼ぶ20人ほどを残して、全員を解雇。創設地であるオランダのオフィスを閉鎖し、ニューヨークとロンドンのオフィスに集約するという。また、CEOを2年間務めたVolpi氏は辞任して会長職につくという。大規模なリストラである。

 Joostは、GoogleがYouTubeを16億5000万ドルで買収すると発表して業界を驚かせた2006年に、「The Venice Project」として始まった。翌2007年1月に正式に立ち上げを発表し、Zennstrom氏らの名で当初から注目を集めた。

 すぐに大手TVネットワークのCBS、MTVを傘下に持つViacomとコンテンツ、資金面で提携。両社とベンチャーキャピタルを合わせて4500万ドルの資金を調達し、ベンチャーがひしめき合う動画サービスの中でも群を抜く存在となった。

 また、まもなく開始したベータサービスは、当時のYouTubeと比べ、はるかに高画質で、テレビのクオリティを思わせた。パソコン上で、「ながら視聴」ができ、しかも本格的な映画やテレビ番組などのコンテンツがそろっている。なにより、投稿サイトではないため、YouTubeが最も頭を悩ませていた著作権侵害コンテンツの問題に無縁なことが特徴だった。

 同年6月にCisco Systemの幹部からJoostのCEOに就任したVolpi氏は、The New York Timesのインタビューに答え、番組の間に挿入する動画CMをベースとするテレビ型に、ネット広告を組み合わせた“ハイブリッド型”のビジネスを展開すると語っている。

 Volpi氏は「中国の人も『Survivor』を見たいだろうし、日本の人も『C.S.I.』の最新エピソードを見たいだろう(同氏は日本で育ったという)。われわれは、かつてないほど簡単に、それをできるようにする」とも述べている。目標は、広告主から資金を集め、良質なコンテンツを視聴者には無料で配信し、これを世界展開してゆくことだった―。

 今回のコンシューマ向けサービスからの撤退は、不況を受けた広告市場の大幅縮小が原因だが、GigaOM Networkは、さらに詳細に、Joostの失敗の原因を11項目にして挙げている。主にベンチャーとしての視点からで、次の通りだ。


  • 急激に人を増やしすぎた
  • 3カ国にまたがり、地理的に拡散しすぎた
  • フォーカスが不十分だった
  • 極端な期待過剰(hype)があまりに早く起こってしまった
  • 技術的な問題のフィクスが遅かった
  • Webブラウザ上でなく、専用クライアントソフトを使う方式をとった
  • コンテンツオーナーを引きつけておくことができなかった
  • 投資者を引きつけておくことができなかった
  • 内部的な問題を多く抱えていた(2008年1月にCTOを解雇するという事件があった)
  • Huluの存在
  • SEOやソーシャルメディアなどインターネットの新しいトレンドの戦略を欠いていた

 専用クライアントソフトについては、2008年9月に大転換を図り、Webブラウザ上で視聴できるようにした。また、ソーシャル機能も追加した。だが、時すでに遅かったようだ。そして、Joostの運命に大きな影響を与えたと思われるのが同じくテレビコンテンツをベースとする動画サービスHuluだ。

 Huluは、2008年3月にスタートした後発サービスだが、News Corp.とNBC Universalのジョイントベンチャーであり、テレビ業界が大同団結して推進している。今年4月にはThe Walt Disney Companyも資本参加した。

 広告料で運営し、テレビで放映したばかりのほとんどの番組が、すぐに無料で見られる。ビジネスモデルはJoostと同じだが、テレビ業界の直系のサービスである点が強みだ。米国内でしか視聴できないため、日本での知名度は低いが、非YouTubeの動画サービスの代表となっている。

 ネットトラフィック分析サービスのCompeteのデータによると、5月末現在のHuluのユニークビジターは820万人。これに対してJoostのユニークビジターは64万3000人だ。とくに昨年後半から急速に差が開いていった。Huluは売上高を公表していないが、各種メディアの推定では、初年度売上高は6000万ドルから7000万ドルとみられ、その2割近い粗利益を出しているという。

 Joostは、広告に支えられた無料配信、テレビベースの良質なコンテンツという、テレビをモデルとしたビジネスを目指しながら、本気で動き出したテレビ業界の逆襲に、あえなく砕かれたベンチャーと言えるかもしれない。

 Joostの方針転換の発表と前後して、Huluは英国のコンテンツパートナーと提携したことを明らかにした。Joostが果たせなかった夢である海外進出の第1号だ。パートナーの名は公表していないが、Telegraphによると、BBC, ITV、Channel 4だという。



(行宮 翔太=Infostand)

2009/7/6/ 08:42