「Yahoo!は検索会社じゃなかった」 Microsoft提携後のYahoo!の行方


 大型買収提案から約1年半、Yahoo!とMicrosoftの包括的な提携が実現した。10年間という長期間にわたるもので、MicrosoftにとってはGoogle追撃の転換点、Yahoo!にとっては検索事業の戦略変更という意味を持つ。ただし、Yahoo!の株主には期待はずれだったようで、CEOのCarol Bartz氏はブーイングにさらされた。

 提携の骨子は、Yahoo!はコア検索技術と検索広告プラットフォームをMicrosoftの「Bing」に置き換え、Yahoo!のサイトの収益は両社で分け合うというのものだ。Yahoo!は検索技術開発競争の負担から解放され、財務状態を改善できる。Microsoftは、Yahoo!の技術とデータを手に入れて、検索市場第3位のポジションから一気に首位Googleの攻略を進めることができる。

 しかし、提携内容は株主の失望売りを招き、Yahoo!の株価は一気に12%下落した。投資家はもっと有利な内容を期待していた。両社の交渉が行われていた今年5月に、Bartz氏が「合意するときは、Yahoo!に対して“相当な額”(boatloads of value)が支払われる」と“安売り”をしないことを明言していたのだ。事前予想では、Microsoftが15億ドルから70億ドルを前払金として支払うとの見方もあった。

 ところが、ふたを開けてみると前払金はゼロ。また、Yahoo!が、データ資産、検索技術を提供する見返りとして最終的に手にする額は40億~50億ドル程度にとどまるとみるアナリストもおり、かつてMicrosoftが買収額として提示した446億ドルとは、あまりにかけ離れている。

 シリコンバレーのゴシップブログSilicon Alley Insiderは、発表から即、この提携がYahoo!にとって極めて不利なもので、前払金がなければYahoo!にとっていいとこなしの取引だと指摘した。

 Yahoo!のサイトの検索収益の分配では、1)MicrosoftはYahoo!のサイトで得た検索事業収入の88%を同社に5年間支払う、2)Microsoftは最初の18カ月間は各国のYahoo!のサイトで行われる検索1回あたりの売上(RPS=revenue per search)を保証する、ことを取り決めている。

 だがSilicon Alley Insiderによると、検索単位の売上保証では、Yahoo!のシェアが縮小し続ければ、売上も同様に減少する。さらに、BingがYahoo!のシェアを奪う形で拡大すれば、Yahoo!の営業部隊が検索広告を売っても直接の収益を得ることはできない。

 そしてBingが検索市場でシェアを拡大すれば、そのシェアはGoogleからよりも、Yahoo!や他のサービスから奪うことになると予想する。両社は提携関係にありながら直接競合し、MicrosoftがYahoo!からサーチクエリを1つ奪うごとに、Yahoo!に払うはずだった単価収益の88%がMicrosoftに移る。これはMicrosoftがYahoo!からシェアを奪う十分なインセンティブになる、というのである。

 かくしてYahoo!は、自らの営業部隊を使って広告を売り、自社よりもMicrosoftにもうけさせることになるという。Silicon Alley Insider The Business Insider編集長のHenry Blodget氏は言う。「この提携のどこが、Yahoo!にとって、いい話なんだ」

 ただし、その後8月4日にはSEC(証券取引委員会)への提出書類から、提携がそれほど一方的なものでないことも明らかになった。検索広告が十分な成果をあげられない場合は、Yahoo!側から提携を打ち切り可能となっているのだ。12カ月間の総平均RPSがGoogleの推定RPSに対して一定の割合に届かない場合、または両社を合わせたシェアが一定の比率に届かない場合で、さらに提携実行のコストをカバーするための資金として、Microsoftは3年間で1億5000万ドルを支払う。

 とはいえ投資家の失望を払拭するほどの影響はなく、先週末の市場復調のなかでも、依然、Yahoo!株は低迷したままだ。

 Bartz氏自身は、どう考えているのだろう。提携発表後のThe New York Timesのインタビューがそれを知る手がかりになりそうだ。このなかでBartz氏は「Yahoo!はこれまでも決して検索の会社ではなかった」と意外な発言をしている。

 Bartz氏が言う“検索の会社ではない”Yahoo!は、ユーザーがたっぷり滞在するサイトだという。より多くの有益なページがあり、たくさんの広告を表示して、検索に頼らない収益をあげる――。つまりバナー広告を中心に、検索広告とは違った基盤を持つことを、今後のYahoo!の戦略として描いてみせた。「私の運命は、私のページとともにある」とBartz氏は言う。

 インターネット広告のトレンドが、バナー広告から検索広告へと移行していくなかで、これは自殺行為のようにも見える。だが、必ずしも、追い込まれた末の開き直りではないようだ。

 “boatloads”発言とともに、Bartz氏の考えを伝えた5月のTechcrunchによると、Bartz氏は検索やソーシャルネットワークといった個々のホットトレンドを追いかける戦略からは距離を置いているという。

 「みんながFacebookに行くわけではない」とBartz氏は言う。「人々が実際に多くの時間を過ごすサイトは、1つか2つしかない。彼らはFacebookからスタートするかもしれない。しかし、Facebookには知りたいニュースも株価情報もない」。

 Yahoo!は何より“ポータル”であり続けることを選んだのだろう。



(行宮 翔太=Infostand)

2009/8/10/ 08:59