Microsoftのタブレット端末が急浮上-Appleと正面対決?


 Appleがタッチ式のタブレット型端末を出すといううわさは、依然、根強いが、そんな中でにわかに「Microsoftのタブレット」の話が浮上している。Webには例によって、試作機とされるものの写真やビデオが飛び出し、せんさく好きなガジェットギークを騒がせている。Microsoftは過去にもタブレットプラットフォームを投入しているが、ヒットしたとはいいがたい。タブレット市場は今度こそ立ち上がるのだろうか?

 「Microsoftが新しいタブレットPCを開発中」と最初に伝えたのは、Microsoftウォッチャーとして知られるMary-Jo Foley氏のブログ「All About Microsoft」の9月20日付の記事だ。Foley氏は今年初めに、Microsoftのタブレット開発に関する情報を得たといい、最新情報として「Surface」チームが関与していること、Microsoftがエンタープライズ&デバイス(E&D)部門のシニアプログラムマネージャを募集していることなどを紹介している。SurfaceはMicrosoftが2007年5月に発表したテーブル型コンピュータで、タッチ操作などの斬新なユーザーインターフェイスを特徴とする。

 この情報を一気に広めたのが9月22日付のGizmodoの記事だ。それによると、Microsoftのタブレット(“タブレット”ではなく“ブックレット”と強調している)は「Courier」という名称で、「開発の“後期試作”段階」にあるという。記事には、手帳のような折りたたみ式の2画面タブレットPCの写真数点と動画も掲載している。マルチタッチ対応の7インチのデュアル画面を備えた形状で、動画ではスケジュール管理、コラボレーション、Webブラウジングなどの操作が指とスタイラスで軽快にできる様が見られる。

 Gizmodoによると、Courierはごく最近まで、数人の開発者と幹部だけがかかわる極秘プロジェクトとして水面下で進められてきたという。開発を率いているのは同社のチーフ・エクスペリエンス・オフィサー(CXO)、J Allard氏で、動画はMicrosoftのE&D部門のPioneer Studiosブランドとされている。

 翌23日には、インド人ブロガーのManan Kakkar氏が“別のMicrosoftタブレット”の情報をまとめて紹介し、一気に注目を集めた。こちらはCourierではなく「Codex」という名で、2枚の4インチ画面を持ったシステム手帳のような端末。動作する様子のビデオも付いている。ブログからは、Microsoft ResearchのWebサイトにリンクを張っており、こちらに詳細な情報が掲載されている。2008年10月付のこの記事によると、CodexはMicrosoft Researchのプロジェクトで、同じくMicrosoft Researchで開発されたタブレットPC用インターフェイスプロジェクト「InkSeine」を利用するという。

 Gizmodoが責任者として挙げたJ Allard氏の名前は、Foley氏の記事にも出てくる。また、Codexに利用されているというInkSeineは、Gizmodoの記事で紹介されたCorrierの「Journals」機能と関連する技術としてFoley氏が挙げていたものだ。Foley氏はジグソーパズルのピースを集めるように、断片的な情報を組み合わせ、「Codexの進化系がCorrierではないか」と推測している。

 当のMicrosoftはこれまでのところ、どのメディアに対してもコメントしていない。

 実際にMicrosoftのタブレットが製品になるのかは依然不明なままだが、気の早いメディアは次々に、Microsoft製タブレットの勝算の考察、評価を行っている。「実にクールなシステム手帳」「個人用ビジネス端末に革命」などと絶賛するのは、PC World。見開き式、手書き用の大きな画面などの点がPDAや「BlackBerry」など携帯電話と差別化して、Courierこそ「紙ベースのシステム手帳の代替になる」とする。

 PC Worldは予想ベースながら、Appleのタブレットとも比較しており、動画、Webサーフィン、ゲームに適したエンターテインメントデバイスのAppleタブレットとは、まったく異なるユーザーをMicrosoftがターゲットにしていると予想。Courierの実用性を高く評価している。

 これに対し、BNetは「失敗する」と断言する。Microsoftのもうけ優先主義と、社内部門間でのシナジー効果が見込めないことがその理由だという。もうけ優先主義は、ネットブックについて、CEOのSteve Ballmer氏が「われわれは、ユーザーが軽量パフォーマンスの利点を生かし、また、もっとわれわれの製品にお金を使ってくれることを望んでいる」と発言したことなどが根拠。また部門間のシナジー効果の不在では、モバイル向けアプリケーションストアで、「Zune」と「Windows Mobile」の両部門の連携がとれていないことなどを例に挙げている。

 タブレット開発のうわさが真実かどうかはともかく、Windows Mobileのシェアが伸び悩むMicrosoftがモバイル分野でなんらかの手を打たねばならないのは確かだ。タブレットは、スマートフォンとネットブックという2つのトレンドの中間にあり、Microsoftの回答(の1つ)がタブレットであるとしてもおかしくはない。

 だがMicrosoftには、2002年にも「Windows XP Tablet PC Edition」を発表してOEM戦略に打って出ながら、不作に終わった過去がある。今回は自社で端末を製造するというのが大方の予想だが、Microsoftブランドのハードウェアには、これまで成功と失敗と両方がある――3大ゲーム機の仲間入りを果たした「Xbox」が成功例で、失敗例は撤退を表明したZuneだ。

 手ごわい競争相手も待ち構えている。「iPhone」「iPod touch」で基盤を築いたAppleはもちろん、ネットブック進出を表明したNokia、OSではLinux系モバイルOS「Moblin」を率いるIntelも潜在ライバルとなるし、「Kindle」のAmazonやソニーなどもこのカテゴリーに入ってくる可能性がある。Microsoftがタブレットを成功させるには多くの課題がある。

 一方、“タブレットフィーバー”を起こしたAppleのタブレットは、今秋にも発表という予想が飛び交ったが、いまだその姿を見せていない。Appleでタブレットを指揮しているのは復帰したばかりのSteve Jobs氏だといわれており、対するMicrosoftのタブレットを押しているのはBill Gates氏だという。ユーザーはまたしても両雄の対決を見ることになるのかもしれない。



(岡田 陽子=Infostand)

2009/9/28/ 09:00