OracleのSun買収が大詰め 焦点のMySQLの将来は


 発表から8カ月。OracleのSun Microsystems買収が大詰めを迎えている。「MySQL」の獲得がデータベース市場に与える影響を調査してきた欧州委員会(EC)に対し、Oracleは「10の約束」を発表。EC側もこれを評価し、一挙に話が進む見通しとなった。だが、OracleがMySQLを手に入れることについては、コミュニティも反対派、賛成派に分断されてしまい、後遺症も懸念される。

 Oracleは今年4月、苦境に陥っていたSunを総額74億ドルで買収すると発表。9月には、Sunとコラボしたデータウェアハウス・アプライアンス製品「Exadata Version 2」を発表してハードウェアへのコミットを明確にした。買収の狙いがSunのハードからソフトウェアまでの広範な技術ポートフォリオにあったことを示すものである。その一方で、Sunが2008年2月に買収したMySQLの扱いについては明言を避けてきた。

 商用データベーストップのOracleが、世界で最も人気のあるオープンソースデータベースMySQLを手中にする――。その実現には、独禁法の観点からの審査をクリアしなければならない。米司法省は調査期間を延長した上で8月20日に買収計画を承認した。が、ECは「世界をリードするプロプライエタリデータベース企業が、世界をリードするオープンソースデータベースを取得する」との懸念を表明。11月には、異議告知書をOracleに送付して本格的に独禁法調査を行ってきた。

 これに対し、Oracleは一貫して、「OracleとMySQLの市場は異なる」「MySQLはオープンソースであって、Oracleがコントロールすることはできない」と主張。ECの見解は的を射ていないと強調してきた。

 これと並行してオープンソースコミュニティでは、買収反対の声が上がっていた。その1人で、オリジナルコードの作者、Michael “Monty” Widenius氏は、SunのMySQL買収から数カ月で退社。Oracleの主張に異をとなえ、ライセンス提供をやめる、あるいはライセンス価格をつり上げる、ことでOracleはMySQLをすぐにつぶすことができると反論した。

 こうした反対意見に対して、Oracleは沈黙を守っていたが、12月10、11日のECの聴聞会のあと、14日に「MySQLに関する10の約束」としてMySQLの取り扱い方針を打ち出した。内容は次のようなものだ。

 (1)MySQLの「Pluggable Storage Engine Architecture」の提供継続、(2)同アーキテクチャのAPIをストレージエンジンに実装するサードパーティベンダーへの要求を変更して、GPLの下で公開することを求めない、(3)現在商用ライセンスを利用するストレージベンダーに対し、これまでと同じ条件でライセンスを提供する(2014年12月10日まで有効)、(4)今後もGPL下でMySQLを強化する、(5)MySQLの商用ライセンス取得にあたってサポートサービスの購入を必須としない、(6)買収後3年間はMySQLの研究開発費用として、Sunが費やしていた年間2400万ドル以上の投資を継続する、(7)顧客諮問委員会を設ける、(8)ストレージベンダー諮問委員会を設ける、(9)レファレンスマニュアルの保守と無料提供の継続、(10)サブスクリプションサービスを利用するエンドユーザーと組み込み顧客に、単年または複数年の契約オプションを提供する―。そして、この約束は、全世界で買収完了後5年間有効とする。

 ECは同日、Oracleの対応を歓迎する声明を発表。同社と建設的な話し合いを進めていると述べた。とりわけ(2)のGPL公開の非義務化や(3)のライセンス継続などは「新しく出てきた意義ある提案だ」と評価。EC競争担当委員Neelie Kroes氏は「満足のいく結果に落ち着くと楽観している」とコメントした。

 Kroes氏は、12日の聴聞会のあとにも、既に複数のメディアに対し「楽観している」と述べており、近くECのゴーサインが出るの見方が強まっている。

 Oracleの約束は、テクノロジー業界からも好感をもって迎えられている。Business Week誌は、「素晴らしい譲歩だ」(SugarCRMのCEO、Larry Augustin氏)、「通常の技術ベンダーがしないようなコミットを示した」(Linux Foundationの執行ディレクター、Jim Zemlin氏)、「MySQLのサポート継続を延期することで、Sunよりも(保護対策を)進めた」(調査会社451 Groupのアナリスト)などのコメントを紹介している。

 しかし、これまでOracleが「明確なポリシーを示していない」と批判してきた反対派の一部は「約束」を受けてもなお懐疑的だ。

 “Monty” Widenius氏はブログで、10の約束の1つひとつに反論している。例えば(2)については、「このStorage Engine APIは新しいものであまり利用されていないため、ほとんどの商用ストレージエンジンには適用されない」、また「5年間有効な非係争条項であって例外と規定していない」などを挙げている。全体として、5年という有効期限の設定や、発表だけで公式な書類をECに提出したわけではない(法的拘束力を持たない)、などの理由から“空約束”だと批判している。

 10月に非営利団体と連名で、OracleのMySQL取得に反対する書簡をECに送ったRichard Stallman氏は、Oracleが以前買収したオープンソースのストレージエンジン「InnoDB」がOracleの下となって以来、開発が遅れている、参加に制限を設けている、などと批判していた。

 Widenius氏ら反対派は、解決策として、MySQLを他社に売却するか非営利組織を設立することを提案してきた。だが、OracleのCEO、Larry Ellison氏はこの案を拒否し続けている。

 Oracleは12月10日と11日の聴聞会で、MySQLはMicrosoftをけん制する上で重要と述べたという。とすると、MySQLを自社製品と競合しない程度に、さまざまな面から強化することは考えられそうだ。

 MySQLコミュニティはこの論争を目の当たりにしながら不安を感じているはずだ。実際、451 Groupが12月はじめに公開したオープンソースコミュニティの意識調査では、MySQLの利用率は現在の82.1%から2014年には72.3%に減少すると予想している。

 また、現在MySQLを利用しているユーザーの14.4%が「Oracleに買収されたらMySQLを使いたいと思わないだろう」と回答した。ECとOracleの聴聞会に出席したWidenius氏は、聴聞会でのOracleの態度が不満として、OracleのMySQL取得に反対するメールをECに送ろうとユーザーに呼びかけている。この運動は、Oracleが約束を発表したあとも続いている。このままでは、どんな形であれ、決着が付いたときにコミュニティが結集力を失っているおそれがある。

 ECの最終判断は、遅くとも2010年1月27日に下る予定だ。



(岡田 陽子=Infostand)

2009/12/21/ 09:05