Sun買収後のOracle新戦略-消えゆくSunには哀惜の声も


 Oracleは1月27日、Sun Microsystemsの買収完了を発表した。昨年4月、74億ドルの買収計画を発表して9カ月。欧州委員会の承認というハードルも越え、Sunの持つ膨大な製品・技術ポートフォリオを獲得して、1社でチップからアプリケーションまでを提供する統合システムベンダーに生まれ変わった。コンピュータ業界の変革の予感の一方で、幕を閉じた技術カンパニーSunを惜しむ声もあがっている。

 Oracleは1月27日に本社で開催したカンファレンスで、今後の戦略を説明。「ハードウェア、ソフトウェア、コンプリート(完結)」を掲げ、Sunの獲得によって包括的なシステムを提供するベンダーになるとアピールした。

 社長のCharles Phillips氏は「現在、顧客は各レイヤーでばらばらに提供される複数企業の技術を自社で統合しなければならない。だがコンピュータ業界が当初目指していたものはすぐに使えるシステムの提供であり、1社ですべて手に入ることを顧客は望んでいる」と述べた。これを受け、CEOのLarry Ellison氏は「Oracleが目指すのは、1960年代にIBMが描いたビジョン」だと打ち上げた。

 Oracleの戦略の柱は、昨年9月に発表したDWH/OLTPアプライアンス「Exadata v2」のような統合型システムとなる。フォーカスはアプリケーションの性能だ。検証・チューニングされた統合ソリューションは、導入、運用、管理のライフサイクル全体でコスト減にもつながる。

 Ellison氏は、今後1年間にこうした製品をさらに投入すると宣言しながら、“ベスト・オブ・ブリード”型の「コンポーネントとしても開発と提供を続ける」と旧来のパートナーであるHewlett-Packard(HP)などへの配慮も見せた。その一方で、自社の競争力を分析したチャートでは、IBM、Microsoft、HP、SAPの4社と比較して、アプリケーション、ミドルウェア、データベース、OS、仮想化、サーバー、ストレージ、管理のすべてを提供できるのは自社だけと優位性を強調している。

 今後、Sunの製品や技術はOracleのシステムベンダー戦略に合わせて切り張りされ、Oracle製品と重複するものも、ほとんどが、ひとまず継続となる。「SPARC」「Solaris」「StorageTek」「MySQL」「Glassfish」「NetBeans」などはすべて残る形だ。具体的なロードマップについては、少しずつ明らかになるだろう。

 Oracleが同時に進めるのは、収益化だ。Ellison氏は昨年9月、「Sunは毎月1000億ドルの損失を出している」と発言したが、戦略説明では、「2月からでも収益を出せる」と自信満々に語った。背景には、これまで同社が買収したSiebel、BEA Systemsなどがいずれも、Oracleの下で収益性を改善した実績への自信がある。

 Oracleはまず、Sunが採用してきたパートナー戦略を直販体制にして、製造モデルを受注生産(Build to Order)に切り替える。大手顧客に対しては、直接技術サービスを提供する計画も明らかにしている。これにあわせて、営業や技術部門で2000人規模の新規雇用を行うことも明らかにした。Oracleの買収前、Sunが大規模なリストラを行ったことを考えると皮肉に見える。

 さて、Oracleの下で徹底解剖が進むSunだが、Sunを支えてきた社員たちの去就が気になるところだ。正式発表はないようだが、CEOのJonathan Schwartz氏、会長のScott McNearly氏は共にSunを去ると伝えられており、従業員あてに、別れの言葉を送っている。

 Schwartz氏は27日付のブログで、従業員への謝意を表すとともにOracleに残る従業員、去る従業員それぞれにエールを送り、「合体した事業体(=Oracle)の幸運を祈っているし、その可能性を確信している」と記した。末尾には、フルネーム、Sun MicrosystemsのCEO、そして斜体字で「Oracleの完全子会社」と書かれている。その後Twitterで、「Sunでの最後のブログになりそうだ」とつぶやいている。

 一方、Javaで有名なJames Gosling氏はブログで、“The Network IS”と書き添えたSunの墓標の前にJavaのマスコット「Duke」とLinuxのマスコット「ペンギン」がたたずむイラストを掲載。「さようなら、良き友よ」と記した。これに対しては1000近いコメントが寄せられているが、どれもが感傷的なもので、Sunが愛される企業だったことをうかがわせる。中には、Schwartz氏がとったオープンソース戦略によって技術は残る、と述べ、「Sunの従業員は時間を無駄にしなかった」という言葉もある。

 Schwartz氏をたたえる声も目立つ。ZDNet AsiaのEileen Yu記者は、Oracleがどの部分を生かすのかは分からないとしながら、「SolarisとJavaというエンタープライズ製品をオープンソースコミュニティに与えてくれた」と述べている。

 著名な技術ジャーナリスト、Dana Blankenhorn氏もZDNetのブログで、失敗したと見られがちなSchwartz氏のオープンソース戦略について、「オープンソースのドットコムに相当するような重要な時代を代表する人物だったことを歴史が実証するだろう」と記している。

 ビジネスの要素を獲得できなかった愛すべき技術カンパニーが消える――。これは業界の成熟を意味するのだろうか。いずれにせよ、Sunを飲み込んだOracleは業界の再編を進め、新しい時代に向かう。



(岡田 陽子=Infostand)

2010/2/1/ 09:05