波乱の船出? 新サービス「Google Buzz」のローンチ


 「Google Buzz」が登場して約2週間がたった。Face BookやTwitterなどに対抗するGoogleからの回答ともいえるサービスである。しかし、この期待の新サービスは、スタート早々、個人情報流出という騒ぎを巻き起こし、クレームの嵐と緊急の修正が相次ぐという事態となった。Googleは大きなヘマをしでかした――のだろうか?

 2月9日のGoogle Buzz公開から、翌日には、もう世界中で問題が発生していた。Google BuzzユーザーのBuzz(Twitterでいうところの“Tweet”つぶやき)と位置が、地図サービスのGoogle Maps上に、名前入りで表示されるケースが頻発していることが分かったのだ。Google BuzzはiPhoneやAndroid端末からモバイルでも利用できるが、その際、位置情報を自動的に付加するようになっている。地図上に現れたのは、この機能を早速利用した人のBuzzや名前だった。

 表示される名前は、プロフィールとして登録したものだが、本名を入れている人も多い。また問題はほかにもみつかり、ユーザーのプロフィールからメールやチャットの相手が見えてしまうといった指摘が上がった。

 Googleはこれを受けて、2月11日と13日に相次いで修正を行っている。コメントやプロフィール公開の設定方法を、より分かりやすいものに変更。同時に、“フォロー”する他ユーザーを、より手動で選べるようにした。当初、フォロワーは自動的にユーザーのプロフィールに追加される仕組みになっていた。

 この個人情報流出をめぐっては、プライバシー保護団体のElectronic Privacy Information Center(EPIC)が2月16日、FTC(連邦取引委員会)に消費者保護法違反での調査を申し立てたと発表。また2月17日には、ユーザーの同意を得ずに個人情報を公開したとして、フロリダの女性がクラス・アクション(集団訴訟)を起こしたとSan Francisco Chronicle紙が伝えている。

 Googleは“検索分野の巨人”ではあるが、急激に台頭するソーシャル分野では後れをとっており、Google Buzzは、そんな中で投入した期待のSNSだ。

 基本的な機能は、Buzzや、写真、リンクなどをGmailの連絡先と共有するというもの。そしてGmailの付加機能として受信トレイに統合されており、頻繁にやりとりする相手を自動的に反映することが大きな特徴となっている。

 つまりGmailをプラットフォームとして、ユーザー同士を新たにつなぎ、簡単に「おもしろいことを共有」し、関心の高いコンテンツを優先的に表示(レコメンド)するサービスを目指したものだ。そして、これらを人の手を煩わせずに自動的に行う「きわめてインテリジェント」なサービスとした。

 Google共同創設者のSergey Brin氏はGoogle Buzzの発表会で、膨大な情報のなかから必要なものを取り出すことを「S/N比」という言葉で表現。「ノイズのなかからシグナルを引き出すのは、われわれのキーコンピテンシーの一つだ」と胸を張った。

 Googleのエンジニアは、ノイズの海のなかから、欲しい情報だけが自動的に浮かび上がってくるというGoogle Buzz機能を、素晴らしいものと考え、自信を持ってて送り出したはずだ。

 ところが、実際はクレームの嵐に直面した。多くのユーザーは、すべてを自動でやってもらうことよりも、自分で決めたいと考えた。実際、修正の内容の多くは、機能の多くをユーザーが選べるようにすることだった。

 今回の混乱の要因として、通常は実施するクローズドベータテストなしで、いきなりGoogle Buzzを導入したということが挙げられる。

 GmailのプロダクトマネージャーTodd Jackson氏は「新サービスの多くは、ローンチの前に、秘密のアクセス権を持った従業員の友人や家族のネットワークである“Google Trusted Tester”プログラムでテストされる。しかし、今回、Buzzはこのテストを経ていない」とBBCに対して述べ、率直に非を認めている。

 では、Google Buzzはローンチに失敗したのか? いや、そうではないとの見方がある。

 ソーシャルメディア関連ニュースサイトMashableの共同編集者Ben Parr氏は「BuzzがすでにTwitterよりも大きなサービスになった」と指摘する。

 Parr氏によると、Twitterのユーザーが世界で1800万から2500万と推定されるのに対し、Gmailは米国だけで3800万(2009年9月現在)のユーザーを擁する。いまのところ、Twitterのつぶやきの方が、Buzzのコメントをはるかに上回っているが、BuzzがTwitterに打ち勝つのは無理なことではない、という。

 また、プライバシー問題へのGoogleの対応は、きわめて素早かった。さらにブログ界でのユーザーの評価は、使いやすい、アクセスしやすい、便利、リアルタイムに動作するなどが多く、好評だった……。

 実際、Google Buzzは新サービスとしては破格の膨大なユーザーをいきなり獲得している。Gmailチームのブログによると、2日間で数千万人がBuzzをチェックし、900万人がコメントを投稿。世界中の携帯電話から毎分200超の投稿が行われていたという。結果として、Google Buzzは、わずか数日で、世界中に認知されたのである。

 こうなると開始時の混乱は確信犯だったのではないか、とも疑いたくなってくる。ともかく、GoogleがFace BookやTwitterとの新しい戦いの火ぶたを切ったことは間違いない。



(行宮 翔太=Infostand)

2010/2/22/ 09:05