Ballmer氏の賭け-クラウドに全面シフトするMicrosoft
Microsoftがクラウドに本腰を入れている。「Windows Azure」を正式版に移行。あわせてCEOのSteve Ballmer氏が「すべての製品をクラウドに対応させる」と宣言した。15年前、Bill Gates会長が「The Internet Tidal Wave」(インターネットの大波)というメモで、インターネット宣言をしたとき以来の大きな転機になるかもしれない。
Ballmer氏は3月4日、ワシントン大学でスピーチを行い、集まった学生を前にクラウドの重要性と、Microsoftのビジョンを5つのポイントから説明した。Microsoftのクラウドの5つのポイントとは、次のようなものだ。
1)チャンスと責任(クラウドはクリエイターに新たな機会をもたらすがプライバシーの懸念とバランスをとる必要がある)
2)学習するクラウド(ネットワークがユーザーの好みなどを学習する)
3)ソーシャルとビジネスを改善
4)スマートな端末(複数の端末からシームレスにアクセス)
5)サーバーと共に進化
このなかでBallmer氏は、2)の「学習」に関連する検索の「Bing」、4)の「スマート」に関連する携帯電話向けOS「Windows Phone 7 Series」や「Xbox LIVE」、Azure、「Windows 7」「Office 2010」、グループウェア「BPOS(Microsoft Business Productivity Online Suite)」などの製品をあげ、全製品がクラウドに対応しているとアピールした。
また、クラウドへのコミットを具体的に示す数字として、「ソフトウェア開発に従事する従業員の70%がクラウドに関連した作業を進めている」と述べ、この比率は1年後には90%に拡大すると語った。
Ballmer氏はこの日、従業員向けにも、この日のスピーチについてのメールを送った。TechCrunchが最初に入手したメモによると、「クラウドをもっと広い視点でとらえ、いま起こっているクラウドへの転換を多方面から把握してほしい」と部下に訴えている。「手ごわい競合が控えている。われわれはクラウドのチャンスを活用すべくビジネスモデルを変えるつもりだ(また、その最中である)。コンシューマー分野では“クラウドスピード”で動く必要がある」と続けている。
同時に、Microsoftはクラウド専用のWebサイトを立ち上げている。ここでは、「we're all in」(クラウドに入っている)というスローガンで統一し、「Windows」「SQL Server」「Exchange」「SharePoint」「Office」「Dynamics CRM」の6製品カテゴリでクラウド機能を紹介している。
これらは、Microsoftの全面的なクラウドシフト展開を思わせる。
一方、ライバルにも動きが出ている。翌3月5日には、Googleが、Officeでリアルタイムコラボレーションを可能にする技術を持つDocVerseの買収を発表した。GoogleはDocVerseの技術をどう活用するか、まだ具体的に示していないが、「DocVerseとGoogle Appsを組み合わせ、OfficeとGoogle Appsの橋渡しをしたい」としている。Microsoftのドル箱であるOfficeの最新版(Office 2010)が6月発売の予定で、機先を制するかっこうだ。
Microsoftは、Office 2010ではWebブラウザから「Word」などのアプリケーションを利用できるWeb版「Office 2010 Web App」を用意するなどクラウド対応を進めている。だが、同社がクラウドを完全に(“all in”)受け入れているわけではないとの指摘も出ている。
Computer Worldの編集者Preston Gralla氏は、Web Appは機能が限定的である上、Web版とオンプレミス版との間でファイルを自動同期できないと指摘。Microsoftのクラウド対応は貧弱であると批判する。また、eWeekも、Googleの影響や競合、エンタープライズの変化、コストなど10つの点から考えてOfficeの将来は、確かなものではないと分析している。
さらにMicrosoftウォッチャーのMary Jo Foley氏は、Microsoftが新しく掲げたクラウドフォーカス全体に疑問を投げかける。
Microsoftはこれまで、クラウドでは「ソフトウェアとサービス」「3つの画面と1つのクラウド」という2つのキーワードを打ち出してきたが、「We're all in」でそのスコープを広げた。あわせてBallmer氏は「狭義でクラウドをとらえている競合もいる」と従業員あてのメモで記し、広義を自社の差別化としていく戦略を示した。
だが、Foley氏はこれを「危険な動き」と見る。「クラウドの分野でリーダーと思われたいために、このように戦略を簡素化するのは危険ではないか」と問いかける。
一方、「Global CIO」のコラムニスト、Bob Evans氏は、全面的にクラウドを受け入れるMicrosoftの戦略シフトを評価する。Evans氏は「表面上のコミットや単なる時間稼ぎではない」「Xbox、データセンターツールとばらばらで多様な製品を持つだけに終わってしまう危険があった。それを考えると、Ballmer氏はすばらしい動きを見せた」と述べている。
また、Ballmer氏が存在感を示したという意味でも、戦略シフトは重要な転機になるとみる。「長い間、圧倒的な影を落としてきたBill Gates氏のイメージから抜け出し、新しいタイプの製品やサービス、それにバリューを提供するチャンスだ」とEvans氏は言う。
Microsoftは4月にサービス同士の連携を可能にする「Microsoft Windows Azure platform AppFabric」の正式版を開始すると発表した。ソフトウェアビジネスの王者として長らく君臨してきた同社が、新しいクラウドの波にどう応えてゆくのかを占うポイントの一つとなるだろう。
2010/3/15/ 09:05