「Nexus One」立ち上げでは「iPhone」「DROID」に惨敗-Googleは広告下手?


 2010年年明け早々の大きな話題に“Googleフォン”こと「Nexus One」の発売がある。Googleブランドの初の携帯電話として、先行するiPhoneとの対決など話題には事欠かなかったのだが、ふたを開けてみると、立ち上げ時点の売れ行きは「iPhoneに大敗」なのだという。失敗の原因から、今後の可能性、そもそものGoogleの狙い――まで、メディアでの検証が続いている。

 モバイル市場調査のFlurryが3月16日に発表した推計によると、Nexus Oneの発売(1月5日)後74日間の販売台数は13万5000台とみられるという。この74日間という日数は、初代iPhoneが販売100万台を達成した期間だ。Nexus Oneは実にその7分の1にすぎなかったことになる。

 iPhoneだけではない。もうひとつ比較対象として挙げられたMotorolaの「DROID」(2009年11月6日発売)の74日間の販売台数は105万台で、iPhoneを上回っている。DROIDがiPhoneを上回ったのには、初代iPhoneの発売時価格が500~600ドル(2年間契約込み)だったのに対して200ドル弱(同)と低価格化したこととも要因として挙げられる。なおのこと、ほぼ同様の条件で参入したNexus Oneの不振が際だってくる。

 これらは、スマートフォンを代表する製品だ。iPhoneはスマートフォンをけん引する存在であり、ブランドでもGoogleと互角の立場にある。DROIDはNexus Oneと同じく「Android」を搭載したスマートフォンで、Android携帯電話では最多の販売台数を誇る。

 Nexus Oneにとって痛いのは、DROIDとの比較だろう。Nexus Oneが「Android 2.1」を採用しているのに対し、DROIDは「Android 2.0」。DROIDは550MHzのARM「Cortex A8」を、Nexus Oneは1GHzのQualcomm「Snapdragon」を採用するなど、スペックでは勝っているはずなのだが、人気でかなわなかったのだ。

 Flurryは、DROIDの大成功の要因として、1)スマートフォンに対する消費者の認知が進み需要が出てきている、2)米国最大のキャリアであるVerizon Wirelessで利用できる、3)発売時期が年末商戦に重なっている――の3点を挙げている。

 ではNexus Oneの74日間の販売が振るわなかった理由はなにか――。DROID成功の3要因と比較するなら、2)のキャリアの差と、3)の発売タイミングが挙げられるだろう。Nexus Oneはどのキャリアでも利用できるという革新的な特徴を打ち出しているが、現時点で利用できるキャリアはT-Mobile USAとAT&Tに限られる。発売タイミングという点では、Nexus Oneが登場した第1四半期は、年間を通じて携帯電話が一番売れないシーズンである。

 メディアの多くは、携帯電話としては新しい試みであるWebを利用した直販モデルにNexus Oneの失敗の原因があると見ているようだ。「多くのスマートフォン購入者はWebサイトの存在すら知らない」(gigaOM)というように、販売モデルを含むマーケティング全体が失敗要因と見る。

 Business Insiderのブログは、看板広告を含む通常のマーケティング・販促活動をキャリアと組んで行ったDROIDと、Web広告を掲示するだけのNexus Oneの違いが、販売台数の差につながったと指摘している。

 また、GoogleはVerizonでもNexus Oneを利用できるようにする計画を発表しており、実現すれば、キャリアの差の問題がクリアされることになる。しかし、gigaOMはそれでも、これまでと同じマーケティング・販売手法では、大きな変化は望めないだろうと予想する。

 CNETのコラムニスト、Chris Matyszczyk氏は「Googleは広告を理解しているのか?」というタイトルで、Nexus Oneを中心にGoogleが展開するマーケティング手法の問題を指摘している。広告の目的は欲望をかき立てることで、理性でなくエモーションに訴えるものだ。Googleは必ずしも感情知性(Emotional Intelligence)の高い企業ではないという。

 これは、Googleが収益の大部分を広告から得ていることを考えると、皮肉な話である。「Googleが多くのNexus Oneを売りたくないからなのか、それとも知識や自信がなく、判断できないでいるからなのか、あるいは次に大きなことを計画しているのか」とGoogleの真意をいぶかっている。

 またWiredは、「iPhone 3GS」とNexus Oneをソフトウェアやエクスペリエンスの点で比較し、iPhone 3GSに軍配を上げている。

 だが、今回の販売台数の比較は、あくまでも発売後74日間(それも、携帯電話が一番売れないシーズン)の話だ。これだけで、成功か失敗かを判断するのは早計すぎる。

 実際、Nexus Oneの将来に期待を持たせる材料もある。Verizonに加え、Sprint向けの発売計画も明らかになっており、米国4大キャリアすべてで利用できるようになる。

 次に、端末そのものに対しても、ポジティブな評価がみられる。最大の支援者は、Linuxの父Linus Torvalds氏だ。Torvalds氏はめったに更新しない自身のブログで、実は携帯電話が好きではないと告白したうえで、Nexus Oneを使ってみたところ「勝者と認めざるをえない」と高い評価を与えている。

 Flurryは今後の動向を予想するにあたって、垂直型のAppleとオープン型のGoogleは「1980年代のPC対Macの弱みと強みを思わせる」と記している。Appleはシェア争いのあと、結局、PCの後塵を拝することになった。しかし、今度のスマートフォンでの戦いでは現時点で、Appleがサードパーティ開発者の支持を得ている点が異なると指摘。「最終的には、開発者はインストールベースの多いハードウェアを支持することになるだろう」(Flurry)と予想する。

 また、そもそものGoogleの狙いも考える必要があるだろう。Matyszczyk氏が触れているように、GoogleはWeb企業であり、スマートフォンはインターネットにアクセスする手段の一つにすぎない。Googleの最大の目的が自社ブランドの携帯電話の成功なのか、Androidの成功なのか―。本当の成功は別のところで評価すべきかもしれない。



(岡田 陽子=Infostand)

2010/3/29/ 09:05