モバイル広告「iAd」がまもなく登場? AppleとGoogleの新たな対立構図か


 “魔法のようなデバイス”こと「iPad」を4月3日に発売したAppleだが、お楽しみはこれだけではないかもしれない。一部報道によると、これに続いて7日には新しいモバイル向けの広告プラットフォームを発表するという。その名も「iAd」らしい。App Storeでモバイルアプリケーションを一変させた同社だが、モバイル広告にも革新の風を巻き起こすのだろうか――。

 「Appleのモバイル広告事業進出」を最初に報じたのは、3月26日付のMediaPost Newsだった。Appleの事情に詳しい情報筋からの話としており、AppleのCEOのSteve Jobs氏は「Next Big Thing」「革新的」と述べ、iAdの市場性や成功に自信を持っていると伝えている。

 iAdの中身は、Appleが今年1月に買収したモバイル広告企業Quattro Wirelessの技術とみられている。この買収は、先にGoogleが発表したモバイル広告企業AdMobの買収が、当局の承認待ちとなっている中でもあり、かなり注目を集めた。それぞれの買収額はAdMobが7億5000万ドル、Quattroは2億7500万ドルである。GoogleがAdMob買収計画を発表したのは2009年11月だったが、実はGizmodoやSilicon Alley Insiderなどによると、それより前にAppleがAdMobに買収を打診していたという。

 例によって、Appleはこの件について沈黙を守っている。その後、証拠となるような話はなかなか出てこないのだが、Appleのモバイル広告進出は、(1)Quattro買収の事実(2)iPadの2点で、非常に現実味がある。

 このうちQuattroについては、買収直後にSilicon Alley Insiderが興味深い情報を伝えている。QuattroのCEO、Andy Miller氏がJobs氏の直属になっているというものだ。このことからSilicon Alley Insiderは、AppleがiPhoneとiPad向け広告ツールを開発していると予想。AppleでMiller氏が率いる作業はGoogleと競合するものであり、営業部隊も組織しているのでは、としていた。

 またiPadへの出版・メディア企業の期待は非常に大きい。Jobs氏はiPad披露時にNew York Times紙のWebサイトを表示して見せたが、このようにコンテンツをWeb経由もしくはiPadアプリケーションの形で公開することにメディア企業は高い関心を持っている。一般ユーザーの電子書籍への関心もAmazonの「Kindle」によって高まっており、タイミングは悪くない。

 ではiAdのシナリオはどんなものだろう? MediaPostは、地理情報ベースのターゲット広告を挙げていた。経済誌のFast Companyはこれに加え、iPhoneのコードに広告関連の分析機能を組み込んで開発者がアクセスできるようにするのではないかと予想している。

 モバイル広告の潜在的な可能性は以前から指摘されてきたことだ。そしていま、スマートフォンはブームになっており、モバイル端末のパーソナル性や位置情報機能は、全く新しいターゲット広告を実現できる段階まで到達している。

 広告コングロマリットInterpublicのMagna事業部の調査によると、モバイル広告市場は2010年で3億3100万ドルだが、2011年には約23%増の4億900万ドルになると見込まれるという。

 また、iPadは携帯電話・スマートフォンよりも画面が広いこともあって、広告主は高い関心を寄せているようだ。New York Timesによると、iPad発売の数週間前から、FedExはReuters、Wall Street Journal、Newsweekの広告枠を購入。Time紙の広告は、Unilever、トヨタ、Fidelity、Korean Airなどに売れているという。

 そして多くのメディア企業が、iPadでは有料でアプリケーションを提供すると予想されている。無料に悩まされたPCインターネットとは異なり、購読と広告の両方のビジネスモデルを確立できるチャンスとみているのだ。iPadが一過性のブームに終わらず、広告の需要と供給のバランスがとれれば、iPadはメディア企業から大きな後押しを得られるだろう。

 一方、モバイル広告そのものの課題として、Interpublicは、さまざまな広告モデルが乱立して、現状で広告代理店と広告主を結び付ける仕組みがないことを挙げている。だが、なればこそ、AppleがiPad発売直後にiAdを発表して、広告サービスを開始することは大きな意味を持つといえる。音楽、モバイルアプリケーションと同じように、Appleがモバイル向け広告のメカニズム構築の主導権を持ちうることになるからだ。実際、広告業界もiAd報道を強い期待を持って見ているという。

 いまや最大のライバルとなったGoogleとの競争という意味では、いくらGoogleが“ネット広告の王者”であっても、モバイル広告となると未開に等しい分野だ。AppleとしてはGoogleがAdMobの買収にもたついている間に先手を打てる。MediaPostやArs Technicaなど複数のメディアは、Googleが位置情報ベースの検索技術に関連した特許を持ち、Appleも同じ分野で特許を持っている点を指摘。両社の対立が激化すると予想している。

 そんななか、Gizmodoは3月26日、Jobs氏とGoogle会長兼CEOのEric Schmidt氏がStarbucksでコーヒーを飲みながら話し合っている写真をスクープした。もっぱらJobs氏がしゃべって、Schmidt氏が聞き役だったということ以上は分からないが、このタイミングのこと。広告の話もあったとみる者もいる。――残念ながら、実際のところは全く不明なのだが。


(岡田 陽子=Infostand)

2010/4/5/ 09:30