Webの覇権交代? ソーシャルWebに本腰入れるFacebook


 SNS最大手のFacebookが新戦略を発表した。プラットフォーム戦略が大当たりして、一気にSNS界の覇者となったFacebookだが、新戦略からはWebの制覇も視野に入れていることがうかがわれる。そしてメディアの目は、検索サービスを中核としてインターネットの世界をリードするGoogleとの戦いに注がれている。

 Facebookは4月21日、カリフォルニア州で開いた年次開発者会議「f8」で新戦略を発表した。プラットフォーム「Facebook Platform」を一新し、外部サイト向けのプラグイン「Social Plugin」、プロトコル「Open Graph」、API「Graph API」の3つのコンポーネントを加えるというものだ。

 Facebookは3年前に「Social Graph」構想を発表して以来、一貫してプラットフォームとしてのソーシャルネットワーク戦略を進めてきた。Social Graphは人と人とのつながり(関係)であり、これを基盤に既存のSNSの枠を超えた、アプリケーション配信の仕組みを整えてきた。一昨年の開発者会議では、Facebook Platform以外のプラットフォームにあるアプリケーションがプロフィール情報などFacebookのデータにアクセスできる「Facebook Connect」を発表している。

 新戦略はこれを拡大し、Web全体につながりを構築していくものだ。「みんなでソーシャルWebを構築しよう」。共同創業者でCEOのMark Zuckerberg氏は同日付のブログで呼びかけている。

 追加された3つの新コンポーネントによって、他のサイトやサービスは容易にFacebookと連動できるようになる。その代表がSocial Pluginで提供される「Like Button」だ。ユーザーが外部サイトの記事やコンテンツに張り付けられたLikeボタンを押すと、Facebookにその情報が保存される。サイト側は、Facebookにあるユーザーの好みなどの情報を取得して、ユーザー向けにパーソナライズしたコンテンツやサービスを提供。ユーザーはFacebookをベースに、自分仕様のサービスを経験し、友人と共有できるようになる。

 これは、情報を探すことが最大の目的となっているWebの利用を根本から変える可能性をはらんでいる。それを表現するのが、Zuckerberg氏の「ソーシャルWeb」という言葉だ。

 サービス公開から4年に満たないFacebookだが、潜在性は大きい。同社によると、アクティブユーザーは4億人を超え、平均的なユーザーは130人の「フレンズ」を持ち、Facebook上で全ユーザーが費やす総時間は月間5000億時間にもなるという。米国では滞在時間が多い、最も“スティッキー”なサイトとなっている。SNSという特性も大きく、ユーザーは自分の居住地から、好きな映画、職業まで、さまざまな情報を公開している。

 これは、企業にとっては、従来にない新しいビジネス・広告プラットフォームになりうる。1人のユーザーにリーチできれば、130人に「伝わる/つながる」可能性があるのだ。

 現在、インターネット広告を牛耳っているのは検索広告で圧倒的な地位にあるGoogleだが、最近、検索の代替、あるいは検索を超える広告プラットフォームとして、ソーシャルサービスへの注目度が高まっている。Facebookは、サービスを無料で提供しており、いまだその膨大なユーザーベースをマネタイズしていない。

 新戦略は、Facebookがつながりを広告に活用してゆくことの表明でもある。このため、Facebookの戦略発表に対して、メディアはGoogleとの競合に最も注目している。

 Fortune Brainstorm Techは、Facebookのこれまでの戦略が創業時のGoogleの戦略に酷似していると指摘する。Googleはまず技術志向の強い検索ユーザーに支持され、他のWebサイトに検索ボックスを提供してユーザー数を増やした。その後、「Adwords」「AdSense」といった広告事業に拡大していった。

 GigaOMの創業者、Om Malik氏は「Webがソーシャルになるのであれば、Facebookに追い風となるだろう」とBBCにコメントしている。対するGoogleの方は、古くは「Orkut」、最近では「Buzz」などソーシャル分野では苦戦している。Facebookは、新戦略でさらに水をあけることになる。

 広告主にとってはどちらが魅力的だろう? Facebookが、ソーシャルネットワークを通じて個人の好みが集まるハブとなれば、ターゲット広告やバイラルマーケティングを打ちやすくなる。Advertising Ageは、Facebookは広告主によりよい成果をもたらし、「Facebookのインテリジェンスは将来、ソーシャルターゲット広告ネットワークとなり、GoogleのAdSenseと同じ(もしくは上回る)力を持つだろう」と予言する。CPM、CPC、CPなどの広告単価も上がり、Facebookは強固な収益体質を実現できるかもしれない。

 だが、同時にFacebookにはGoogleと同じく、プライバシーという問題が付きまとう。Facebookの潜在力が大きいほど、課題も難しくなる。新機能を紹介するFacebookのブログには多くのユーザーからコメントが寄せられており、その中には不信感をあらわにするものも少なくない。また、最新のパーソナライズ機能に反対するファンページもFacebook内に立ち上がっており、6000人以上のユーザーが賛同している。さらには、上院議員のCharles E. Schumer氏がFTC(連邦取引委員会)に介入を求めるという動きも出ている。

 また、真の意味で“オープン”なLikeボタン標準を目指そうという、新プロジェクト「OpenLike」も立ち上がっている。

 こうした反応に対し、Facebookは「新機能でもこれまでと同様、ユーザーは自分の情報をコントロールできる」(New York Times紙へのコメント)と述べている。

 Like Buttonの実装は着々と進んでいるようだ。Wall Street JournalやWashington Postなどの有力ニュースサイトが次々とLike Buttonをサイトに張り付けており、Facebookによると、サービス開始後24時間で10億回以上クリックされたという。

 実名ベースのFacebookは、個人がWeb上で自己を名乗り、自分のつながりを持つようになる。オピニオンサイトのHuffington PostはBBCに対し、「Webの匿名性が薄れつつある」と述べている。Webの中心はハイパーリンクからソーシャルに移りつつあるのだろうか? Facebookの狙いは、まさにここにあるのだが――。


(岡田 陽子=Infostand)

2010/5/10/ 10:00