十字砲火にさらされる和解案-Google Book Search訴訟


 「Google Book Search」をめぐる訴訟が大詰めを迎えている。提訴から3年たった昨年10月にまとまった和解案は、裁判所の承認を受けて発効する。しかし、この和解案に対しては、Googleライバルや当局からの批判と懸念の大合唱が巻き起こっている。大きく「著作権」「独占」「プライバシー」の3つの面から反対がある和解案について、独占からみてみよう。

 和解案への意見提出期限となった9月8日までに、多くの団体や企業が意見を表明した。このなかで最も手ごわいのは、8月末に立ち上げられた“反対大連合”「Open Book Alliance」(OBA)だろう。メンバーには、「Kindle」で電子書籍を展開するAmazon、ライバルで自前のデジタルライブラリの計画を持っているMicrosoftとYahoo!のほか、New York Library Associationなどの図書館や権利者団体が名を連ね、和解案が「Googleと一部の出版業界による電子書籍の独占」につながると強く反対している。

 OBAは裁判所に提出した摘要書で、「Googleと出版業界は29カ月にわたる密議で、価格拘束を図り、電子書籍配信の独占を強化しようとしている」「和解案は競争を阻害し、テクノロジー発展を遅らせ、独禁法や著作権法で保証された権利の放棄を迫るもの」と激しく非難。出来上がった書籍データベースを、司法省の監督下で競合他社にライセンスさせる命令を求めている。

 摘要書を起草したGary Reback氏はOBAの創設者の一人で、独禁法専門のベテラン弁護士だ。1990年代のMicrosoft独禁法訴訟では司法省側で、Microsoft分割論を展開した。今回はMicrosoftと同じ側でGoogle追及の先頭に立っている。

 Book Search訴訟は、Googleが進めていたGoogle Book Searchが著作権法違反にあたるとして、2005年10月に出版業界・著作権者団体が起こした。協議の末、同社と、原告のthe Association of American Publishers(AAP)およびAuthors Guildとの間で和解案がまとまり、2008年10月に発表した。主な内容は次の通りだ。

  • 商業的利用で得られる収入の63%を書籍権利者に支払う
  • 収入を著作権所有者に配当する「Book Rights Registry」(版権レジストリ)を創設する
  • 2009年5月5日以前に許可なくデジタル化した全書籍について1点あたり60ドルを支払う
  • 絶版本、著作権者不明本(orphan books)をデータベースに取り入れる

 Googleはあわせて、総額1億2500万ドルを支払い、権利者への支払いやBook Rights Registryの設立資金に充てる。和解案が認められれば、著作権者が自身の知的財産に対するオンラインアクセスを管理し、効率的に報酬を受け取る仕組みができると説明している。また、図書館の蔵書の70~75%を占めるといわれる絶版本と「orphan books」のデジタル化が可能となる。「世界中の情報を体系化し、どこからでもアクセス可能なものにする」というGoogleの目標には重要なステップだ。

 しかし、OBA側からみると、これは断じて認めることはできない。

 この訴訟は集団訴訟(class action)であり、同じ利害を持つ関係者全員が参加できる。AAPやAuthors Guild以外の著作権者が皆、和解案に参加すれば、Book Rights Registryを核とする巨大な著作権処理の仕組みが出来上がる。しかも、それはGoogleの強い影響力の下にある。

 Google側は、和解で著作権者から得る許諾は非独占的であり、他社の同様な試みを妨げることはないとしている。だが、ライバルたちはGoogleに圧倒されることを恐れている。実際、Google Book Searchは既に約1000万冊のデジタル化を終えているという。

 電子書籍市場は巨大で魅力的な市場だ。Amazonの電子書籍リーダー「Kindle」の登場をきっかけに活性化し、最近、ソニーがGoogleとの提携とともに新端末を投入した。また2003年に同市場から一度撤退した書店大手Barnes & Nobleも再参入を表明した。訴訟の行方に注目が集まるのには、こうした背景がある。

 Google側も防戦に躍起だ。9月10日に開かれた下院司法委員会の聴聞会では、最高法務責任者のDavid Drummond氏が「AmazonやBarnes & Nobleのような小売業者も、Googleがスキャンした書籍を販売できる」と説明、独占状態にはならないと強調した。だが、これを受けたOBAは「Drummond氏の新しい発表は“空騒ぎ”であり、Googleの“譲歩”の本質は煙幕を張ることである」との声明を出して一蹴(いっしゅう)した。

 和解案については、司法省反トラスト局も調査を進めている。また、独禁法以外の観点でも、同じ聴聞会で証言した著作権局のMarybeth Peters局長が「和解は著者や出版社、その後継者までを縛るルールとなり」「著作権法の状況を一変させる」と証言。同局として初めて和解案への懸念を表明した。和解案は、まさに十字砲火のなかにある。

 審理を担当するニューヨーク南部地区連邦地裁は、最終的な和解案の判断のための公聴会を10月7日に開く予定だ。



(行宮 翔太=Infostand)

2009/9/14/ 09:06