開発体制を強化、SaaS型や中堅企業向けERPなど
中長期戦略に取り組むPCA
ピー・シー・エー株式会社(以下PCA)の新製品投入が相次いでいる。
通称「R7(アールセブン)」と呼ばれWindows 7に対応した中堅・中小企業向け基幹業務ソフト「PCA会計9V.2 R7」を1月5日から発売。あわせて、中小規模建設業向け財務会計ソフトのPCA建設業会計V.7や、PCA医療法人会計を投入。また、今年9月には、ERPである「PCA Dream21」においても、Standard、Enterpriseのほか、年商5億円~50億円の企業を対象にしたSuiteを投入し、中小規模ユーザーの開拓に余念がない。
さらに、他社に先駆けて展開しているSaaSについても、年明けには関西地区にデータセンターを置き、今後の需要拡大に意欲を見せる。PCAの水谷学社長に、同社の事業戦略についてお聞きした。
■Windows 7対応「PCA会計9V.2 R7」の手応え
ピー・シー・エー株式会社 代表取締役社長 水谷 学氏。公認会計士。1958年生まれ。CTOとしてPCAの中核製品を開発。2007年に社長就任した |
――PCA会計シリーズの新製品である「PCA会計9V.2 R7」を発表しました。来年1月の発売前の手応えはどうですか。
水谷氏:
この製品は、正式名称からもわかるように、PCA会計9V.2のマイナーバージョンアップ版です。Windows 7対応ということを明確に示すために、R7としました。
Windows 7は、市場活性化の起爆剤として大変期待しています。会計ソフト市場は、2000年問題にあわせて導入されたシステムが、本来ならば置き換えられるタイミングを迎えているにもかかわらず、それが進んでいないという状況にあります。適切な形での置き換えが進んでいないわけですから、需要のピークがぼやけた格好になっている。
新たなOSの登場によって、置き換え需要を顕在化することができるのではないかと思っています。ただ、会計ソフトがWindows 7対応をしたからといって、頻繁にタッチ機能を活用するというわけではありませんから(笑)、どんな変化があるんだという見方があるのも確かです。
しかし、会計ソフトも時代の流れに乗るという意味では、Windows 7対応は重要な要素です。たとえば、これだけネットブックが普及しているが、会計ソフトはとても重くてネットブックでは使えないというのがこれまでの常識です。ところが、Windows 7 Starterを搭載したネットブックであれば、当社の「じまんシリーズ」が軽快に動作する。さらに、最近増えてきている超低電圧版(ULV)Core 2/Celeronプロセッサーを搭載したコンパクトなノートパソコン、いわゆる「CULVノート」であれば十分なスペックだといえます。
先日も、全国各地で開催している当社販売パートナー向けイベントのPCA戦略フォーラムにおいて、ネットブックを使った参考展示を行ったところ、多くの来場者が驚いていた。しかも、「じまんシリーズ」との組み合わせであれば、10万円払えばハード込みでお釣りがくる。こんな会計システムは考えられなかった。Windows 7時代、ネットブック時代に対応した製品が求められているわけですから、Windows 7対応は大きな意味があるのです。
今後は、一部の製品において、ネットブック、あるいはCULVでの利用を想定して、USBメモリやダウンロードによるソフトの提供形態も考えていきたいですね。
■2009年上期は我慢の時期だった
――経済環境の悪化によって会計ソフト市場は大きな影響を受けていますね。
水谷氏:
2009年度上期は我慢の時期でした。新製品の投入を見送り、薄日が差し始める下期に集中する戦略としました。だが、実際には想像以上に厳しかった。残念ながら、通期売上高見通しを前年割れに下方修正しました。もうしばらく厳しい時期が続くでしょうね。
とはいえ、会計ソフト市場においては、法令や税制改正による需要が発生する。今後の消費税制度の影響もありますから、中期的には需要回復が期待できる部分もある。それにあわせて、次期製品となるXシリーズの開発も着々と進行しています。PCA会計シリーズでは10番目の製品となることから「X」という呼称で呼んでいますが、SaaS対応などを含めて大きな進化を図る製品となります。
いまは、Xシリーズで実現する「手品の種」を仕込んでいる状況ですよ(笑)。私はずっとPCA会計の開発に携わってきましたから、本当はXシリーズの開発に参加したくて仕方がない。まぁ、立場が立場ですから、ぐっと我慢しています(笑)。
■人気の医療情報システム、市場圧倒の「PCA公益法人会計」
平成20年施行の公益法人会計基準に準拠した「PCA公益法人会計V.10」。希望小売価格は55万6500円から |
――先を見越すと、いくつかの明るい材料が見えてきているということですね。
水谷氏:
PCA戦略フォーラムで一番注目を集めていたのが、クリニック版医療情報システム(医事会計、電子カルテ)です。これまでパッケージ版としてはどこも出していなかった領域ですし、この製品の登場を待っていた販売パートナーも多かった。
クリニック版医療情報システムは2008年にマックスシステムを買収し、カスタマイズ用として展開していた医療情報システムの製品技術をベースに、開発言語を.NETに移行。PCAのパッケージ化のノウハウを活用して製品化したものです。これには大きな手応えを感じています。
また、公益法人向けパッケージ「PCA公益法人会計」では、圧倒的ともいえるシェアを獲得し、この1年間で約500ユーザーが増加しています。全国に2万6000の公益法人があるなかで、約8000団体に「PCA公益法人会計」をお使いいただいています。公益法人制度が変更されるなかで、当社の優位性がますます発揮できる分野だといえます。
一方で、11月9日から発売している「PCA建設業会計V.7」も、中小規模の建設事業者向け会計ソフトとして注目を集めている。この最大の特徴は、SaaS対応を図ったことです。建設業界のなかでも、とくに中小規模の建設事業者は厳しい経営環境のなかにあります。より低コストで稼働させたいという動きが強く、なかにはリースが通らず、業務改善に踏み出せないという企業もあるんです。
そうした企業にとって、SaaSは極めて有効な手段となります。2010年2月からのサービス開始となりますが、初期費用が0円となる「イニシャルコスト“0”プラン」の活用提案も強力に打ち出し、建設業への浸透を図ります。
■SaaS製品の手応え
「PCA for SaaS」の製品情報ページ。2009年2月2日より、初期費用なし、月額利用料金のみで利用できるイニシャル“0”プランの提供を開始した |
――いま、PCA建設業会計V.7に関して話題に出たPCA for SaaSですが、SaaS分野にはPCAがいち早く参入しました。約1年半を経過していますが、こちらの手応えはどうですか。
水谷氏:
唯一といってもいいぐらい(笑)、右肩上がりで成長しているのがPCA for SaaSです。前年比で2倍以上の成長を遂げ、現在300以上が利用しています。
また、新規ユーザーの比率も4~5割に達しているのも大きな特徴です。既存ユーザーのリプレースがほとんどというのが会計ソフトの現状ですから、これだけ新規ユーザーの比率が高いというのは、まさに異例です。そして、今年5月に単月黒字化し継続しています。
ただ、もともとの目標が高いですから、個人的にはさらに努力が必要だと思っています。1年やってきても依然として認知度が低く、7割の人がPCA for SaaSを知らないという状況です。認知度をさらに高める活動に取り組みたい。
私の個人的な目標として、5年後に8万社の獲得を目指しています。これは、当社ユーザーの8割がSaaSに関心があると答えていますから、決して夢の数字ではない。新たなサービスとして広く認知度を高めていくこと、会社の外にデータを置くことに対する経営者の不安意識の変化や、リース期間終了後の切り替え時期などを考えると、5年ぐらいの期間で捉えるのがいいでしょう。
また、利用者が増えれば、口コミで広がっていくケースが相対的に増えるわけですから、なにかをきっかけに利用が加速する可能性もある。まずは年度内には1000社ぐらいにまで利用社数を増やしたいと考えています。
――SaaS事業を拡大するポイントはどこにありますか。
水谷氏:
繰り返しになりますが、やはり認知度を高めることでしょうね。PCA for SaaSを使っていただいたユーザーの解約率は、これまでのところ実質的にはゼロです。
一部のユーザーでは、ブロードバンド環境が整備されておらず、性能が発揮できないという例もありますが、これは1カ月間のお試し期間を設けて、利用環境を検証していただいていますから、実際に本サービスをスタートさせてから解約に至ったという例はありません。
他社のサービスのなかには、月額10万円前後だったり、遠隔地を結ぶだけで月額30万円という例もあるようですが、PCA for SaaSでは月額3万円を切るところで利用できますし、複数の拠点に導入するといった場合にも初期導入コストが0円で開始できるので、コスト削減効果もある。
しかも、安定したサービスを実現しているという点にも評価が集まりはじめています。これまで1年半のサービス実績のなかで停止したのはわずか1分弱です。これは停止が少ないというのではなく、なにか問題があって停止しても、すぐに復旧できるという点に意味があります。
当社以前に使っていたサービスについては、「月1回は止まる。悪いときは週に1回止まる」という不満が少なからずあったと聞いていますし、当社サービスと比べて、以前は「遅い」、「バグが多い」、「機能が少ない」といった不満もあったと聞いています。
基幹系システムは、5分止まったら使いものになりません。トラックが待っているのに、納品書が発行できずにモノが出せず、大きな損害を招くといった状況にも陥りかねない。
当社が活用しているデータセンターの機器は、大手金融機関が使っているのと同じ水準のものを活用している。他のASPが使用している機器とはレベルがまったく違うのです。とにかく安心して使っていただける環境づくりを優先しました。
現在は関東地区のデータセンターでのみサービスを運用していますが、来年1~2月には、関西地区にもデータセンターを置きます。これによって、ユーザーの拡大にも十分対応できる体制が整う。そして当然のことながら、引き続き安定稼働できる環境を提供します。
――PCA for SaaSのサービスラインアップは増えていきますか。
水谷氏:
これまでは、会計、給与、商魂、商管、公益法人会計の5製品で展開してきましたが、先ほどお話ししたように、建設業会計を加え、さらに医療法人会計もラインアップします。
また、来年秋以降のサービス開始になりますが、人事管理、法人税も、PCA for SaaSのラインアップとして提供したいと考えています。ソフト+サービスの体制をいち早く構築したという自負があります。5年後に8万社という目標を降ろすことはしません。
――販売会社との協力体制も重要な鍵になりそうですね。
水谷氏:
主要な販売パートナーにもPCA for SaaSの取り扱いに名乗りをあげていただいていますが、正直なところ、これまでのビジネスモデルとはまったく違うものですから、なかなか本格的に扱っていただけないというのが実態です。
サーバーの売り切りを前提としたビジネスモデルが主力のため、年度計画のなかでSaaSビジネスが入りにくいという環境がある。さらに初期費用0円のイニシャルゼロはユーザーにとってはメリットがありますが、販売パートナーにとっての魅力が薄くなる。
そうした点も踏まえながら、販売パートナーとの協力関係を強化していく必要がありますね。一方で、会計事務所等を通じた販売強化策として、BPOプランを用意しました。会計事務所等を通じて、小規模の企業にPCA for SaaSを活用してもらうというもので、半額以下のコストで運用できるようにしています。ここではすでに大口の商談が始まっており、来年1月にはまとまった形で運用サービスが開始できそうです。
■今後の主力をになう、中堅企業向けERP「PCA Dream21」
水谷社長は1999年、Dream21構想を立ち上げ、完全統合データベース化した独自のERPパッケージを開発。今後の主力をになう製品と位置づけており、札幌に開発拠点を作り、「PCA Dream21」開発チームも倍増させた |
――一方で、中堅企業向けERP「PCA Dream21」は、今年9月に製品体系を大きく変更しましたが。
水谷氏:
企業規模に応じて年商5~50億円を「PCA Dream21 Suite」、同50~300億円を「PCA Dream21 Standard」、300億円以上を「PCA Dream21 Enterprise」としました。
とくに、「PCA Dream21 Suite」では基準となる標準価格を決め、ユーザーが導入コストを認識しやすくした。もともと企業の基本的な考え方は、「会計ソフトにはコストをかけたくない」というものです。しかも、こうした経済環境ですから、どうしてもコスト圧縮要求も強い。
「PCA Dream21」は、カスタマイズ案件が多いプロダクトですから、オープンプライスとしていたのですが、価格がわからないため、商談が止まってしまうことが目立つようになってきた。そこで、パートナーや営業現場の声を聞き、価格を設定したところ、この反応が極めていい。9月以降は、計画値を超える実績となっています。
標準価格を設定する前に、期間限定のキャンペーン価格を設定したのですが、この時の反応も良かった。標準価格の設定には、このときの経験も生きています。
――今後、「PCA Dream21」はどう発展していきますか。
水谷氏:
「PCA Dream21」は当社事業の主力を担う製品として開発したものですが、残念ながらいまだに脇役の位置にいます。中長期的には全社売上高で100億円を目指していますが(2009年度売り上げ見通しは58億円)、そのために「PCA Dream21」を重要な柱に育てなくてならない。
開発当初から17種類のモジュールを用意し、これで90%以上の業務をカバーするという構想を掲げてきましたが、その最終的なゴールから見ると、モジュールはまだ半分ぐらいしかできていない。ここ数年、開発チームの強化が遅れ、競争力を高めることができなかった反省があります。
そこで、札幌に開発拠点を作りました。30人強のエンジニアを採用し、「PCA Dream21」の開発チームを倍増させました。地元の優秀な人材を確保できましたから、これからモジュールの開発を加速することができる。中期的に成長させていかなくてはならない事業だと捉えていますから、開発投資にも力を入れていきます。
――ところで、2010年には、1980年の設立から30周年を迎えます。どんな1年になりますか。
水谷氏:
30年目という節目の1年ではありますが、厳しい年であることには変わらないでしょう。ただ、30周年を記念したイベントはなにかしらやっていきたい。
決定事項ではないですが、 私の個人的な想いとしては、これまでPCAの製品を利用していただいたユーザーに還元できることをなにか考えたいと思っています。PCAをここまで育てていただいた感謝を、30年目という節目でお返しできればと思っています。
2009/11/27/ 00:00