全SMILEシリーズをワンアーキテクチャ化、クラウドにも意欲を見せるOSK
株式会社OSKは、基幹系ソフトウェア「SMILEシリーズ」、情報系ソフトウェア「eValueシリーズ」を柱に、各種ビジネスソフトウェアの開発、販売を手がける。なかでもSMILEシリーズは、1979年の発売から今年で30年目を迎え、ロングセラーソフトとして高い評価を得ている。
オフコン時代に始まったSMILEシリーズは、顧客の声を聞き、それを製品に反映するという長年にわたる蓄積が、ユーザーからの高い評価につながっているのだ。
また、OSKは大塚商会の100%子会社であるが、2007年にSMILEシリーズの製品ライセンスを大塚商会から移管した。これにより、大塚商会以外のシステムインテグレータがSMILEシリーズを取り扱う例が増加するなど、独立性の高い展開が可能となったことも、ユーザー企業の拡大につながっている。
SMILEシリーズの展開を中心にOSKの取り組みを、宇佐美 愼治社長に聞いた。
■今年10月で30周年。節目の年を迎えたSMILEシリーズ
株式会社OSK 代表取締役社長 宇佐美 愼治氏。1952年生まれ。1976年大塚商会に入社し、「SMILEシリーズ」の開発などを担当、2000年から大塚商会取締役。2006年にOSK社長に就任した |
――2009年は、SMILEシリーズの発売から30周年という節目の年を迎えましたね。
宇佐美氏:
今年10月に、SMILEシリーズが発売から30年を迎えました。当初はオフコン向けのパッケージとしてスタートし、PC版に移行してからも多くの進化を遂げてきました。それでも知名度や、導入実績という点では競合他社と並んで、胸を張れるというわけにはいかない部分があります。
しかし、長年にわたってユーザーの声を聞き、真面目に製品づくりに取り組んできたという点では強い自信がある。顧客がどんなことを求めているのか、どんな技術を使いたいのかといったことは常に製品に反映してきた。先頃、ノークリサーチが発表した調査結果によると、主要ERPパッケージのなかで、期待を上回る機能性や品質の高さを実現できたとした回答者は34.1%に達し、SMILEシリーズは競合他社を引き離して1位となった。
つまり、「そんなに期待はしていなかったけど、導入してみたらすごかった」というユーザーが多いんですよ(笑)。
――この評価は、やはりユーザーの声を聞き続けてきた成果だと。
宇佐美氏:
そうですね。OSKの強みは、エンドユーザーと近いということなんです。30年間にわたり、大塚商会のSEがエンドユーザーの元に直接出向いて声を聞き、それを製品開発に反映するということを繰り返してきた。
私自身も、ずっとSMILEの開発を担当してきましたから、顧客がどんなことを要求しているのかが理解しやすい。なかには少数派ではあるけれども貴重な意見もありますし、多くの人が要望し、声が大きく聞こえるものの、本質的に必要なのかと思われる機能もあります。また、開発チームがこれをやりたいといっても、ユーザーの現場が望んでいないものもある。
そのあたりをしっかりを見極めて、新たな製品に反映していくことが大切です。この見極めは、長年の経験と勘によって判断するという要素も大きい。ここに30年の蓄積がある。SMILEシリーズを長年にわたって利用していただいているユーザー、そして長年にわたって開発しているメンバーが揃っているからこそ、30年間という歴史の積み重ねが成果となっている。「導入してみたらすごかった」という声が多いことがそれを裏付けていると考えています。
SMILEシリーズの歩み。1979年に初期版をリリース後、1993年にPC版のSMILEα、1995年にWindows版、1998年にSQL Server対応版を発売。2007年からは3年がかりで上から下までワンアーキテクチャで開発できる「SMILEis」「SMILE BS」「SMILEes」の製品ラインアップを整備した |
■2007年にSMILEシリーズのライセンスを大塚商会から移管
――2007年にSMILEシリーズの製品ライセンスを、大塚商会からOSKに移管しました。また、それとほぼ同じタイミングで新たな製品体系へと再編しました。それらはどんな成果となって、いまにつながっていますか。
宇佐美:
大塚商会の100%子会社であることには変わりはありませんが、SMILEシリーズの製品ライセンスを大塚商会からOSKに移管したことによって、OSKの独立性が強まったのは事実です。例えば、それまでは大塚商会を通じた販売であったものが、大塚商会の競合であったシステムインテグレータがSMILEシリーズを取り扱うことになった。
大塚商会ではカバーできなかった市場にも広がりを見せています。現在、SMILEシリーズを取り扱うパートナーは約30社。これらのパートナーに加えて、大塚商会のディストリビューションチャネルのSI系パートナーに対する新規展開も視野に入れています。
――OSKの独立性が高まる一方で、逆に大塚商会では、他社が開発したERPパッケージや業務ソフト、グループウェアソフトを扱うというシーンが出てきています。大塚商会の大塚裕司社長も「SMILEよりも、ユーザーが求めているパッケージがあれば、それを取り扱うことは厭わない」と語っています。
宇佐美氏:
一方で大塚社長からは「他流試合して勝て」という激励もいただいています。実際に、大塚商会が他社のパッケージを提案し、競合するシステムインテグレータが当社のパッケージを提案するという例が現場で出ています。
私どもとしては、いくら大塚商会の子会社だからといっても、この時は、大塚商会に負けないようにもう1社のシステムイングレーターを徹底的に支援します(笑)。
リコー販売やJBCC(日本ビジネスコンピューター)など、大塚商会と競合関係にあるシステムインテグレータとのパートナーシップも、この数年間でより強固なものになっています。
――社員にとっては、立ち位置が難しい局面もありますね。
宇佐美:
今年4月に、大塚商会から出向していた社員の7割にあたる役職者を、OSKに転籍しました。一部上場企業の社員から、その子会社に移るわけですから、社員に対してしっかりと説明をしなくてはならない。
OSKの将来に向けたビジョンを説明するとともに、OSKの昇格基準を採用して、より活躍できる場を与えられること、ニュートラルな立場で事業を行えるようになること、そして、大塚商会の福利厚生は引き続き活用できることなどを理解してもらった。ニュートラルな立場で事業を拡大することに理解を示してもらえたと思っています。
■SMILE全シリーズを3年かけてワンアーキテクチャへ
SMILE30周年のマーク |
――一方で、製品体系の再編はどうですか。
宇佐美氏:
2007年に投入した中小企業向け基幹業務システムの「SMILEis」を皮切りに、2008年に投入した中堅企業向けの「SMILE BS」、2009年に投入した大企業向け「SMILEes」など、上から下まで「ワンアーキテクチャ」による製品開発体制へと移行しました。
従来の製品構成では、クライアント/サーバー向け、Web向けというように製品アーキテクチャが分かれており、それぞれの要求に対して改善を加えていました。例えば、500項目の要求があると、それぞれに500項目ずつの改良を加え、テストをしなくてはならなかった。
この開発工数、テスト工数は莫大なものになり、期間内に優先的な100項目しか改良ができなかったり、開発コストが膨れ上がるといった課題につながっていました。
現在ではこれが、ひとつの改良を行うことで、すべての製品の改善につながる開発体制になっていますから、開発期間の短縮、開発コストの削減に大きく寄与している。開発コストは4割程度は削減できたと考えています。これは、ユーザーに対しても高いコストパフォーマンスの製品を提供できることにつながります。
さらに、マルチデータベース対応も、SMILEの大きな強みだといます。SMILE BSでは、マイクロソフトのSQL ServerとOracleに加えて、IBMのデータベースであるDB2にも対応したことで、パートナーが広がり、ユーザーも選択肢が広がった。競合他社とは異なる市場にも参入し、そこで成果をあげている。
SMILE各製品のマーケットレンジ。3年かけて、上から下までワンアーキテクチャによる開発体制を整えた | 全SMILEシリーズのラインアップ |
■カスタマイズを強力に支援する「SMILE CAB」
そして、今年10月には、カスタマイズを強力に支援するためのツールとして、「SMILE Custom AP Builder(SMILE CAB)」を投入しました。
社内では「完適率」という呼び方をしていますが、ソフトが実際の業務にどれだけパッケージで対応できるのかといった指標として、完全適応率があります。
会計、給与といった領域では完適率は100%近いといっていいのですが、販売管理では各社ごと、業種ごとの特殊性があるため、どうしても7割程度に留まり、残りの3割はカスタマイズが必要になる。
だが、SMILE CABを活用することで、完適率は8割5分から9割程度まで引き上げることができる。SMILE CABでは、ウィザード形式の画面から必要項目を設定するだけで、アプリケーションを構築できる。
また、SMILE CABを活用して、ソフト開発を行うベンダーを通じて、SMILE BSの業種別テンプレート開発してもらい、これをOSKが認定したパッケージとして、OSK販売パートナーを通じた販売も可能になる仕組みを提案しています。こうした取り組みによって、ユーザーが求める利用環境が実現できるようになります。
■2009年を振り返って
――2009年を振り返るとどんな1年でしたか。
宇佐美氏:
この3年間で、ワンアーテキチクャーの体制が整ったわけですから、しっかりと刈り取りにつなげたい1年と位置づけていましたが、残念ながら、昨年来の経済環境の悪化により、企業の投資抑制が進み、売り上げにはつながりにくい状況となった。
今年度は5%伸長を目指していますが、大塚商会が発表した第3四半期までの9カ月累計(2009年1~9月)におけるSMILEの売り上げ規模は、前年同期比7.6%減となっています。
こうした厳しい状況にありますから、この1年は、むしろ「内実」を高めることに注力しました。具体的には、昨年後半からの改革プロジェクトを実行し、原価率の低減やコスト削減、品質向上、営業体制の改革、サポート体制の改革など広範な改革に着手しました。
この改革プロジェクトは、いつまでという期間限定のものではなく、ローリングしながら改革を続けていくものです。顧客の声を吸い上げ、開発部門が効率的に開発できる環境を作り上げ、サポートについても安心して受けていただくことができる仕組みを導入することにも力を注いでいます。
ただ、直近2カ月については、前年同月比2桁の伸びを示しているのでV字回復傾向になってきました。
■クラウドは「ぜひやってみたい取り組み」
クラウドは、「アプリケーションベンダーとしては、ぜひやってみたい取り組み」。パートナー会社のクラウドを取り扱うメリットなども考慮しながら取り組む考えだ |
――2010年は、OSKにとってどんな1年になりますか。
宇佐美氏:
景気動向を捉えながら、開発投資は慎重にやっていきたいと考えています。SMILEに関しては、ワンアーキテクチャによる基本プラットフォームが完成しましたから、その上で、顧客が望む管理機能などをもっと広げていきたい。ようやく、そうしたことができる段階に入ってきた。この進化を楽しみにしてもらいたいですね。
一方で、情報系ソリューションであるeValueシリーズは、SMILEシリーズとの連携によって、もっと便利な活用が可能になります。基幹系と情報系の連動はひとつの鍵になると考えています。さらに、改正省エネ法に対応したASP型の使用エネルギー集計サービスである「エナジー・カルク」を提供していますが、これも進化させていきます。
――クラウド戦略については、どう考えていますか。
宇佐美氏:
アプリケーションベンダーとしては、ぜひやってみたい取り組みです。すでに、eValue NSについては、NTTとIBMが出資している日本情報通信に対し、OEM版を11月から提供しています。SMILEシリーズに関しても、私のイメージは、すでに「ゲートイン」している状況であり、いつからでもスタートできる。
ただ、データベースのライセンスをどうするのか、パートナー会社がクラウドを取り扱うメリットをどう享受できるのかといった点など、いくつかの課題を解決する必要がある。当然、SE、サポート部門との連携も必要になる。こうした点は慎重に解決していかなくてはなりません。ですから、まだいつからサービスができるのかといった点には、明確な回答ができないというのが現状です。
2009/12/4/ 09:00