応研 原田社長
「2010年はパートナーとの連携をより強化する1年に」


 応研株式会社は、会計ソフト大蔵大臣NXシリーズをはじめとする「大臣シリーズ」を展開している。建設、福祉、公益などの業種別ソリューション展開に強いのが特徴で、「製品」、「拡張オプション」、「SIパートナーとの連携」といった3段階の取り組みによって、さらにきめ細かな業種対応を行っている。

 一方で、販売、給与、顧客といったアプリケーションに加えて、人事、申告、手形などの新たな製品群の追加にも乗り出しており、既存ユーザーの利便性向上とともに、新規顧客獲得にも本腰を入れている。

 2008年12月に「NEXT(次の世代)」という意味を持たせたNXシリーズの第1号製品を投入してから1年が経った。ラインアップを強化しながら、新たな領域へと踏み出している応研の原田 明治社長に、同社の事業戦略について話を聞いた。

幅広い業種に、最適な製品を届ける製品ラインアップ

応研株式会社 代表取締役社長 原田 明治氏

――応研の業務ソフトの強みをひとことでいうと、どんな点になりますか。

原田氏:
 最大の特徴は、幅広い業種に対して、最適な製品を届けることができる製品ラインアップを持っているという点です。なかでも、福祉分野向けの「福祉大臣」、建設業向けの「建設大臣」は、それぞれの分野でナンバーワンのシェアを獲得していると自負しています。「福祉大臣」が対象としている社会福祉法人市場においては、5割以上のシェアを持っているのではないでしょうか。

 また、建設業では年度をまたぐプロジェクト型の処理にも対応できるなど、建設業ならではの事業環境にあわせた機能が高い評価を得ています。

 昨今では、固有システムの運用、保守に多大なコストがかかることから、パッケージを活用したシステムへの移行を検討する例が増えており、当社の建設大臣NXがその検討対象となっている。建設業界は厳しい環境にありますが、だからこそコストダウンをしたいというニーズに「建設大臣」という製品がマッチするんですね。

「製品」「拡張オプション」「SI」の3階層で業種対応を行う

――幅広い業種に対応するためには、どんな体制をとっていますか。

原田氏:
 ひとつは、製品そのものでの業種対応です。当社には、建設業向け会計ソフトの「建設大臣」、社会福祉法人向け会計ソフトの「福祉大臣」、公益法人向け会計ソフトの「公益大臣」、医療法人向け会計ソフトの「医療大臣」といった製品があります。

 また、販売管理ソフトでは「販売大臣NX Super」で機能内の項目設定、計算式機能により作成した業種別テンプレートを40種類用意していましたが、今年、発売を開始したDBアドバンスユニットという拡張オプション製品によりマスターや分類項目を拡大してさらに多くの業種への展開を可能としました。

 業種ごとに、その業界における慣行や、特有の計算式というものがあります。たとえば、精肉業では牛100kgが入荷しても、商品として部位ごとに切り分けて出荷すると、出荷の合計が100kgにはならない。また、それぞれの商品ごとに名称が変わって出荷されることになる。

 こうした業種ごとに求められる特有な要件にも適応できるテンプレートが必要なのです。ここは、大臣シリーズの特徴だといっていいでしょう。そして、さらに現場に最適化した業種対応が行えるように、システムインテグレータとの連携も重要な要素となっています。

 DOP(大臣・ODDS・パートナー)と呼ばれるパートナーが全国に約400社あり、このうち常に取り引きがあるパートナーは各県に3~4社ずつ、合計で150社ほどあります。これらのパートナーとの連携によって、中小企業や零細企業などの細かな、業種ならではの要求にも対応できる体制が整っています。

 「販売管理は高価である」という認識が多くの企業にありますが、パッケージの「販売大臣」を活用し、さらに足りないところは、地元のシステムインテグレータとの連携によってカバーすることで、コンサルティングから導入、運用に至るまで、フルカスタマイズのシステムに比べて低コストで導入できるようになります。

 このように、「製品」、「拡張オプション(テンプレート)」、そして、「システムインテグレータ」という3階層で業種対応を行えるのが当社の強みだといえます。

大臣シリーズ12製品のラインアップ。「建設大臣」、「福祉大臣」、「公益大臣」、「医療大臣」などの特定業種向けパッケージを用意する。これらの製品そのものと、拡張オプション(テンプレート)による対応、システムインテグレータとの連携の3階層で特定業種へのきめ細かな対応を実現する

初心者もすぐになじめるインターフェイスが大臣シリーズの特徴

原田氏:
 一方で、操作環境についても徹底した追求を行っている点も当社のこだわりです。

――それは具体的にはどんな点ですか。

原田氏:
 実際に業務ソフトを利用する経理担当者の多くは、ITに詳しいというわけではありませんし、最初は操作に慣れているわけではない。なかには、マウスの操作が難しいという方もいます。

 ですから、より簡単な操作環境を実現することが、業務ソフトには不可欠な要素です。操作メニューに絵をつけることで直感的に利用できるようにしたり、マウスに加えて、キーボードだけでも入力できるような環境を提供したりといった操作環境の工夫には力を注いでいます。

 このように、初心者の方にもすぐになじんでいただけるインターフェイスが、大臣シリーズの特徴だといえます。さらに、私は自動車が好きなんですが、それと同じようにスピードでは負けないようにしろと(笑)。極限まで入力作業を簡略化することで素早く入力でき、それを計算するロジックでも他社には負けません。

 大臣シリーズのインターフェイスにはすぐ慣れますから、多くの利用者があっという間に素早い入力ができるようになります。当社の社員は約200人ですが、本社がある福岡の開発拠点は約100人体制となっています。この技術者たちは、大変優秀であると自負しています。

 福岡という立地にあることが国立大学卒業生をはじめとする優秀な技術者を確保する点でプラスに働いています。毎年約2000人の新卒者の応募があり、今年も約20人の優秀な学生を採用しました。また、中国にも近いですから、今年から中国人の技術者を3人採用しています。こうした優秀な技術者によって生まれているのが大臣シリーズということになります。

左が仕訳日記帳画面、右が受取手形明細書の画面。Fキーに機能が割り当てられ、基本的にマウスに触ることなくキー入力できるように設計されている。用語も経理の知識があればわかる用語のみで、コンピュータ的な用語は使われていない

既存ユーザーが、より効果を発揮できる製品を投入した1年

――2008年12月に「NEXT(次の世代)」という意味を持たせたNXシリーズを投入し、1年を経過しました。また、2009年は、いくつかの新製品を投入しました。その成果はどうですか。

原田氏:
 NXシリーズでは、マイクロソフトのSQL Server 2008にいち早く対応し、マイクロソフトとの協業強化によって、高い品質の製品が投入できたと考えています。ユーザーからの評価も高く、その点では成果があったと考えています。

 また、10月に発売されたWindows 7にもいち早く対応しました。ただ、こうした時期ですから、なかなか導入が活発に進むという状況ではありません。Windows 7による導入効果も、来年以降になると見ています。

 むしろ、2009年は、これまで大臣シリーズを導入していただいたユーザーの方が、より効果を発揮できるような製品を投入した1年であったともいえます。

 たとえば、約2万件の「給与大臣NX」のユーザーに対する新たな製品として「人事大臣NX」を8月に投入しました。給与大臣とのシームレスな連携を可能にしながら、社員マスターにきめ細かな項目設定ができるなど、業務の効率化を最大限に発揮できるようにした。

 一方で4月には、「大蔵大臣個別原価版NX」を投入し、「建設大臣」で培った工事進行基準の適用などのプロセス管理への対応をあらゆる業種で図れるようにしました。この製品は、システムインテグレータとのより緊密な連携が必要になる製品ともいえます。パートナーとの連携を加速するという点でも、大きな一歩を踏み出すことができた1年だったのではないでしょうか。

8月に投入した「人事大臣NX」は、約2万件の「給与大臣NX」ユーザーに向けた新製品。「給与大臣NX」とのシームレスな連携を可能にした

2010年はパートナーとの連携をより強化する1年に

――2010年は、応研にとってどんな1年になりますか。

原田氏:
 パートナーとの連携をより強化する1年にしていきたいと思っています。とくに、2010年6月をめどに、会計ソフトである「大蔵大臣NX」をバージョン2へとアップグレードしますから、ここでパートナーとの緊密な連携体制を生かしていきたい。

 新たな大蔵大臣では、データ構造をパートナーと手が組みやすいように大幅に改善しますから、販売大臣で成功したような、他のアプリケーションソフトとの連携による提案を新たな大蔵大臣でも展開し、その点でも一歩踏み込んだ仕掛けをしていきたい。

 また、新たな製品として、2010年2月~3月にかけては、税務申告ソフトの「申告大臣」を、4~5月にかけては手形管理ソフトとして「手形大臣」をそれぞれ投入する予定です。既存の大臣シリーズのユーザーの利便性を高める、いわば「畑を耕す」といった形のソフト群になります。

 2009年度に引き続き、積極的な製品投入を進め、パートナーと安定したビジネスを推進できる基盤をつくり、またユーザーにも利便性向上にもつなげていきたいと考えています。

 当社は、S&P(スタンダードアンドプアーズ)の中堅・中小企業を対象とする信用格付けであるSME(Small & Medium Sized Enterprise)において、7段階の最上位となるaaaを2006年から3年連続で獲得しています。こうした高い信用度も、当社の企業体質の裏付けとして訴求していきたいですね。

SaaS対応への技術的な準備は完了。大事なのはビジネスモデル

現在基礎開発チームではクラウドの開発研究に取り組んでいる。「SaaS対応も、技術的な準備はすでに完了している。課題はパートナーとのビジネスモデルの構築です。」

――ところで、SaaSへの対応についてはどう考えていますか。

原田氏:
 技術的な準備はすでに完了しています。社内には、最も優秀な5人の技術者で構成する基礎開発チームを設置していますが、このチームで、いま取り組んでいるのはクラウドに関する基礎技術の研究、開発です。

 ただ、課題となっているのは、技術よりもむしろ、クラウドの価値、そして価格設定をパートナーにどう理解していただけるかどうかです。

 パートナーのビジネスモデルをどう構築するか、その際に、ユーザーへの負担をいかに減らすか。いまこのあたりをパートナー各社と協議しているところです。

 実は、すでにクローズドな形で、SaaSによるサービスを開始しています。これは特殊会計の分野なので、そのまま一般的なサービスとして移行するわけにはいきませんが、ここで培ったノウハウを生かすとともに、当社が得意とする業種への対応という観点から、2010年3月までにはなにかしらの形で、SaaSへの取り組みを発表したいと考えています。



(大河原 克行)

2009/12/11/ 00:00