OBC 和田社長
「顧客満足度・パートナー満足度を最高レベルで維持し続けたい」


 業務パッケージソフト市場において最大シェアを誇るのが、株式会社オービックビジネスコンサルタント(以下OBC)の「奉行シリーズ」である。これまでの導入実績は55万社以上。

 2009年9月には、年商50億までの中堅・中小企業を対象にした新たな主力製品「奉行iシリーズ」を投入し、従来の奉行21シリーズから2000以上の機能改善を加えるなど大きな進化を遂げた。2007年に投入した「奉行V ERPシリーズ」も、いち早く国際会計基準への本格適応を図るなど、年商300億までの企業に高い評価を受けている。

 長年にわたる実績と信頼性、いち早い新技術への対応が、トップシェアの地位を揺るぎないものとしているといえよう。2010年には創業30周年を迎えるOBCの和田成史社長に、同社の取り組みについて聞いた。


安心して使っていただけるのが奉行シリーズの強み

株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)代表取締役社長 和田成史(わだ・しげふみ)氏。1952年生まれ。大学卒業後、公認会計士の資格を取得し、1980年に株式会社オービックビジネスコンサルタントを設立

――奉行シリーズの最大の特徴はなんでしょうか。

和田氏:
 OBCが過去30年間にわたってフォーカスし続けてきたのは、中堅・中小企業向け業務パッケージソフトを提供し、業務ソフトの専門メーカーとしてのポジションを一切変えなかったという点です。現在、「会計」、「給与」、「販売」、「仕入」、「人事」などの奉行シリーズで13製品、それにオプションとして10製品をラインアップに連ねています。

 また、三菱東京UFJ銀行などにOEMしているエレクトリック・ファームバンキングシステムや、「OFFICE BANK21」といったEB製品もあり、これも奉行シリーズと連動して中堅・中小企業の業務を支援しています。これらOEMを含めたユーザー数は55万社以上。さらに、全国に3000社のOBCビジネスパートナーがおり、ユーザーを強力に支援する体制が整っています。

 そのなかで、最大の強みをあげるとすれば、お客様から最も高い評価を受けている業務ソフトが奉行シリーズであるという点です。日経コンピュータ誌が毎年調査している顧客満足度調査において、OBCの奉行シリーズはERPパッケージ部門において5年連続で第1位となっています。

 また、パートナー満足度でも2年連続でトップとなっています。過去30年間にわたって、ソフトの問題でデータが破損してしまい、業務に支障をきたし、資金の回収ができないといったようなトラブルはゼロです。また、万が一、操作上の問題から、システムが停止してしまった場合にも、操作ログを解析し、どこに問題があったのかがわかるようになっていますし、データの復旧も行える仕組みになっている。

 このように安心して使っていただけるのが奉行シリーズの強みだといえます。OBCは全国の主要都市に10の事業所を設置していますし、さらに3000社のパートナーの拠点が全国各地にある。OBCやパートナーが近くにおり、すぐに支援を受けられるため、OBCとの距離感がないという意識を、多くのユーザーに持っていただいているのではないでしょうか。

 この地域密着性も安心感のひとつです。ノークリサーチの調べによると、財務管理、販売管理、給与管理、人事管理のすべてのジャンルにおいて、シェアはトップですし、次に利用する予定のパッケージにおいても首位となっています。

1980年の創業以来、一貫して中堅中小企業の基幹業務に焦点を当てて、業務パッケージシステムを開発。累計55万社に導入された実績を持つ日経コンピュータの顧客満足度調査で5年連続1位、日経ソリューションビジネスのパートナー満足度調査で2年連続1位を獲得した

――OBC製品を利用している顧客の満足度が高いのは、「安心」という観点によるものだと。

和田氏:
 信頼性は奉行シリーズにとって重要な柱ですが、評価されているのはそれだけではありません。先ほどの調査結果では、フォーラム開催による情報提供や、法改正にあわせたネット経由の自動更新機能といったタイムリーなサポート体制が、高い評価の理由とされています。

 また、別の調査では、使いやすさ、操作性といった観点からも、高い評価を受けています。ここでは、操作性などの13項目中12項目でトップ、そして残り1項目でも2位です。30年間にわたって、基本的な操作は変えていませんし、ナビゲーション機能によってマニュアルを読まなくても使える操作環境を実現しているのも特徴のひとつです。

 さらに、100種類以上の専門的な業務・業種に特化したソフトウェアとの連動、ファームバンキングとの連動、複合機などの入出力機器との親和性なども特徴だといえます。

 当社のサポートセンターは、開発者がローテーションで担当しているんです。自分で作った製品だから、自信を持ってサポートできる。また、どんな要望があるのかも直接の声として知ることができる。これもユーザーの要求に合致して製品を開発できる背景のひとつです。

新宿のサポートセンター。開発担当者はじめ、社員がローテーションでサポートを担当する。自社製品の知識をより深め、また顧客の要望も直接聞くことで製品にフィードバックできる新宿のサポートセンターでは、対応待ちの件数と待ち時間が製品ごとに電光掲示板に表示される。現状を明確に把握することで、より高いサポート品質を目指す


OBCにとって歴史的な変革を遂げた「奉行iシリーズ」

――2009年9月からは、「奉行iシリーズ」を発売しました。これはどんな進化を遂げていますか。

和田氏:
 これまでOBCにはいくつかの大きな変革がありました。今回の奉行iシリーズの発売は、次世代テクノロジーに準拠した製品の開発という意味で、OBCにとって歴史的な変化のひとつであるといっていいでしょう。

 マイクロソフトのWindows 7、Windows Server 2008 R2の同時発売に象徴されるように、次世代OSによる64ビット化、仮想化といった動きが急速な勢いで進展することになりますし、次世代ネットワーク(NGN)の浸透により、IT環境も大きく変化する。そして、SaaSやPaaSといった動きにも柔軟に対応できることが求められます。

 こうした将来の変化に向けて十分に対応できるキャパシティを持った製品が奉行iシリーズということになります。奉行iシリーズは、基幹業務アプリケーションとして国内初のWindows 7ロゴ取得製品ですし、勘定奉行V ERPにおいても、国内初のWindows Server 2008 R2ロゴ認定取得製品となっていますが、これも次世代のOSにいち早く対応することを狙ったためです。

 また、開発言語を変え、完全に作り替えたという点でも、奉行iシリーズは大きな変革だったといえます。300人以上の開発者が、3~4年の歳月をかけて開発し、さらに2年前からは30社にテスト導入を行い、検証を行ってきた。5年以上をかけて完成したのが奉行iシリーズということになります。私自身、思い通りのものを完成できたと自負しています。なかでも次世代という点で象徴的な機能が「奉行iメニュー」ですね。

――奉行iメニューは、どんな役割を果たすものですか。

奉行iメニュー。画面左にはクライアントのアプリケーションのメニューが、右側にはネットを通じて提供される情報が表示される。両者がシームレスに表示されることで、作業の手を止めることなく最新情報の確認ができる

和田氏:
 奉行iシリーズの開発コンセプトのひとつに、インタラクティブ(双方向性)があります。ユーザーとシステムとの対話を、よりインタラクティブに行うための機能が奉行iメニューとなります。

 ここでは、ユーザー専用マイページを自動表示することができ、保守契約状況やサポートセンターへの問い合わせ履歴などをリアルタイムで自動抽出し、確認できます。また、税制や法改正に伴うプログラムダウンロードも可能で、新制度適用時も業務継続性を保ちます。システムを運用する上で必須となる情報やプログラムを常に把握、取得できます。

 画面表示を見ていただくとわかるのですが、左側にはクライアントのアプリケーションのメニューが表示されている一方、同じ画面の右側に表示されているのはネットを通じて提供される情報です。

 このようにクライアントとネットの情報が、シームレスに画面表示されることで、よりインタラクティブな環境を実現し、業務を止めることなく、様々な情報が入手できるようになります。サポート情報、セミナー情報、アップグレード情報といったサポート時事情報や、ソフトの改正時の対応方法やプログラム対応などの情報もここに表示されます。

 法令変更への対応や銀行の支店統合などに伴う情報の提供、追加機能の提供、出力様式の刷新など、ユーザー企業の業務運営に必要な情報を提供される。まさに次世代型のアプリケーションといえるでしょう。

新宿の開発オフィス。開発者約300名がひとつのフロアで開発作業に携わる。ミーティングスペースも設けられ、開発者同士のコミュニケーションがしやすい見通しのよいオフィスになっている

――奉行iシリーズの手応えはどうですか。

和田氏:
 非常に評価が高く、全国規模で展開しているパートナー会でも、東京会場では1000社近い来場がありました。これは例年よりも3割以上も多い規模です。それだけ、奉行iシリーズに対する期待が高いことがわかります。奉行iシリーズによって、OBCが目指す次世代アプリケーションの方向性を感じていただけたのではないでしょうか。

奉行V ERPシリーズで、IFRS対応へのロードマップを発表

――一方で、国際会計基準(IFRS)対応にも、いち早く踏み込んでいますね。

和田氏:
 奉行V ERPシリーズでは、2009年11月にIFRS対応に向けたロードマップを発表しました。将来のコンバージェンス(収れん)や強制適用に向けていち早く準備ができるようにし、大手監査法人の審査にも耐えうるだけの会計処理を可能にしました。

 2010年3月には、コンバージェンス対応版をリリースし、2011年には複数の会計基準対応のシミュレーションが可能な機能追加版を投入。さらに、その後はアドプション対応版をリリースし、IFRSの改定に対応していきます。

 社内に、専門チームとして、IFRS推進委員会を約20人規模で発足し、IFRSに関する情報やノウハウを集中させ、製品、サービスに反映していきます。この委員長には私自身が就任し、陣頭指揮を執っています。

IFRS/国際財務報告基準(国際会計基準)に対するOBCの対応ロードマップ



SaaSへの取り組み

――SaaSへの取り組みについてはどうなりますか。

和田氏:
 J-SaaS事業に関しては、OBCグループのビズソフトとともに、すでに参画していますが、将来的には、奉行シリーズの強みをより生かせる形での提案を行っていきたい。ただ、インフラの環境がまだ整っているとは言い難い段階ですから、そのタイミングを推し量っています。

 クラウド環境ではいくつかのスタイルが想定されます。ひとつは、シンクライアント型の利用形態。そして、2つめにはクライアントにソフトをダウンロードして、Webや携帯電話とも連動させるようなハイブリッド型。そして、PaaS形式によるSaaSという仕掛けもある。

 すでにCRMの領域に関しては、セールスフォース・ドットコムと連携し、取引先情報や売り上げ情報などの連動を図れるようにしています。

 社会が求めるSaaSの形とはどういったものかを捉えながら、それに合致した提案を行っていきたい。すでに技術的な準備は整いつつあります。奉行iシリーズにも、そのあたりの機能は盛り込んでいます。2011年にはなにかしらの回答を出したいとは思っていますが、機が熟すのを見ながら、2~3年をかけてじっくり取り組んでいきます。


2010年は、新たな技術を活用した提案を具体化させる1年に

――2010年はどんな1年になりますか。

「原点回帰の1年の成果をもとに、2010年は、新たな技術を活用した提案を具体化させる1年だと考えています。新たな製品、サービスなどを通じて、顧客満足度・パートナー満足度を最高レベルで維持し続けたい。それが2010年の目標です。」

和田氏:
 2009年を振り返りますと、リーマンショックの影響もあり、業界全体にとって厳しい1年でした。OBCにとっても厳しい1年でした。そのなかで、OBCは原点に戻ることに取り組んだ1年だったといえます。

 64ビット時代に向けて、またNGNをベースとしたネット社会の広がりに向けて、「再出発するための転換の年」になった。Windows 7で提供されるBranchCacheや、仮想化技術のHyper-V 2.0、さらにはインテルのvProといった技術にも積極的に対応し、業務で求められる便利さと快適さを徹底的に追求してきました。研究開発型の事業体制を改めて強化したつもりです。

 こうした原点回帰の1年の成果をもとに、2010年は、新たな技術を活用した提案を具体化させる1年だと考えています。例えば、仮想化の技術を奉行シリーズに活用すると、大幅なCO2削減が可能になる。サーバー、クライアントを削減でき、最大で70%もの削減効果がある。こうした点も訴えていきたいですね。

 また、2010年度の後半に向けて奉行V ERPシリーズのラインアップも拡充する予定です。奉行iシリーズについても、奉行iメニューのブラッシュアップなど、一層の利便性向上を図ります。製品だけでなく、スクールやセミナーもタイムリーな、本当に求められるものを開発していきます。

 OBCでは、「オープン」、「フェア」、「グローバル」を経営のコンセプトに掲げ、新たな製品、サービスなどを通じて、顧客満足度、パートナー満足度を最高レベルで維持し続けたい。それが2010年の目標です。



(大河原 克行)

2009/12/25/ 16:45