デル・メリット社長、「バーチャル時代にリーダーシップを発揮するのはデル」


 「今後迎えるバーチャル時代において、リーダーシップを発揮するのはデル」―デル日本法人社長であり、ラージエンタープライズ事業の日本アジア太平洋地域プレジデントであるジム・メリット氏は、このように切り出した。

 メインフレーム時代、ミニコン(オフコン)時代、PC/クライアントサーバー時代、インターネット時代という変遷を経てきたコンピュータ産業は、2010年から新たな「バーチャル時代」に突入すると位置づけ、その時代に向け、ハード、ソフト、サービスを、バーチャル技術を用いながら、統合したソリューションとして提供するのがデルの役割だとする。Efficient Enterprise Ecosystem(E3)と呼ぶ、新たな時代に向けたエコシステムを構築し、日本でもそれに向けた体制強化を加速する。

 2010年2月から始まった2011年度にあわせて、ロゴマークを一新し、その点でもデルが新たな時代にあわせた変化に挑んでいることが伺える。ジム・メリット社長に、日本におけるデルの新たな取り組みについて聞いた。


ソリューションプロバイダーに転換したデル

―2010年1月に終了したデルの2010年度の取り組みは、日本においてはどんな成果がありましたか。

代表取締役社長のジム・メリット氏

メリット氏
 日本経済は大変厳しい状況にあり、ITベンダー各社も厳しい結果となっています。そのなかでデル日本法人の業績は満足できるものとなっています。収益性では過去最高の水準ですし、ソリューションの売り上げ構成比は、36%にまで高めることができました。また、コンサルティングビジネスも前年比7%増となっている。マネージドサービスも前年比30%増と大幅な伸長を遂げており、ここでは、移設、変更、調達、ヘルプデスクといったPCライフサイル全般をサポートしてほしいという要望が増えています。さらに、EqualLogicも、前年比60%以上の伸長となり、ストレージテクニカルスペシャリストも増員した。サービス、ソリューションといった将来に向けた投資を、積極的に行ったという点でも効果があった1年であり、将来に向けた布石を打ち、体力を強化した1年だったといえます。デルは、グローバルの方針として、ハード主体の会社から、ソリューション指向の会社に生まれ変わることを目指している。日本はその転換が大きく進んだ1年となりました。


―昨年来、メリット社長自身、ソリューションプロバイダーに転換することを宣言していました。今の段階で、デルは、すでにソリューションプロバイダーに転換できたといい切れますか?

メリット氏
 答えはイエスです。まだ一部には、デルはハード主体のビジネスをしていると考えている人もいますが、市場全体を見渡しますと、デルは、ハード主体からソリューション主体の企業になってきたという認識が強まっているのではないでしょうか。それは、デルのソリューションを活用する顧客が増加し、その成果に高い評価が集まっていることからも証明されます。

 4月1日に、「バーチャル時代」に対応したオープンなソリューション群として、サーバー製品のPower Edgeシリーズのほか、インテリジェント・データ・マネジメント、クラウド・インフラストラクチャ・ソリューションを発表しました。これは、パートナーのエコシステムを活用し、エンド・トゥ・エンドでデルがソリューションを提供するものであり、デルが大きく変わりつつあることを表したものだといえます。変革を遂げてきたデルが、その集大成ともいえる変化を、体現できたといえるでしょう。


Dell PowerEdge CシリーズDell PowerEdge Cシリーズの位置づけ


―しかしその一方で、米Dellの通期の業績はマイナス成長ですし、シェアも下がっています。デルは健康な状態であるといえるのでしょうか。

メリット氏
 確かにアナリストのなかには、いくつかの指標をとらえて、デルに対して厳しい評価を下している例もあるようですが、第4四半期(2009年11月から2010年1月)の業績は大変いい成果が出ていることや、デルには100億ドルを超える潤沢なキャッシュがあり、収益性も高い水準を維持していること、キャッシュフローも世界屈指のレベルにあることからも、オペレーション、財務面でも、健全な状態にあるといい切れます。

 デルは、収益性にフォーカスを当て、その改善に取り組んできた。売り上げ構成比も、ハード寄りから、ソフト、サービス寄りに転換し、さらにクライアントPCビジネスから、エンタープライズビジネス寄りに移行している。その成果は着実に出ているといえます。昨年、Perot Systemsを買収したことで、サービス事業において、40億円以上の売り上げが加わるとともに、エンタープライズにおけるデータセンター管理や、アウトソーシング、アプリケーション開発といった、従来のデルにはなかったアセットや能力を手に入れることができた。デルは変革を遂げながら、健全な体質を維持し続けているといえます。


バーチャル時代のエコシステム「Efficient Enterprise Ecosystem」

―今回、Efficient Enterprise Ecosystem(E3)と呼ぶ、新たな時代に向けたエコシステムを発表しました。デルはここ数年、パートナー戦略を強化し、エコシステムの構築に取り組んできました。これまでの取り組みとは、どこが違うのですか。

E3が構成する4つの基本フレームワーク

メリット氏
 これまでにもデルは、エコシステムの構築に取り組んできましたが、今回のE3では、「インテリジェントインフラストラクチャ」、「シンプルなインフラ管理」、「円滑なワークロード管理」、「インテリジェント・データ管理」という4つのビルディングブロックに切り分け、基本フレームワークを定義しました。これにより、マネジメントを組み込んだハードウェア製品、エンド・トゥ・エンドのインフラストラクチャ管理、クライアントとサーバーのワークロード管理、インテリジェントデータ管理ソリューションといった、ハード、ソフト、サービスを一括で提供する体制が整ったという点がこれまでとは異なります。

 これにより、運用コストを削減し、データ管理を行いやすくし、お客のインフラを最適化することができる。このソリューションを戦略的パートナーやクラウド推進パートナーといったエコシステムのなかで提供していくことになる。例えば、4つの項目のうち、「インテリジェントインフラストラクチャ」、「シンプルなインフラ管理」、「円滑なワークロード管理」は、顧客のデータセンターの運用効率を高めることを目的としたソリューションであり、ユーザーのプライベートクラウド構築を支援するものになります。

 一方で、「インテリジェント・データ管理」は、ストレージ管理のソリューションであり、データ管理を最適化し、データ管理コストを下げるというもの。デルならではの重複排除機能により、データをより効率的に管理することを目標としています。いずれも、パートナーを巻き込んだ形で、デスクトップ、データセンター、クラウドの3つの領域で取り組むためのフォーメーションだといえます。


―デルは、これからの時代を「バーチャル時代」と位置づけました。果たして、バーチャル時代とはなにか、そこで発揮されるデルの強みとはなんですか。

メリット氏
 コンピュータの歴史をみると、1950年代はメインフレーム時代、60年代はミニコンピュータの時代、80年代はPC/クライアント時代、そして90年代はインターネット時代という変遷がある。そして、それぞれの時代において主要なプレーヤーが異なっています。2010年代は、仮想化、クラウド、ユビキタスといった活用が広がることで、バーチャルで統合されたソリューションが求められるようになる。デルは、「Open(標準技術)」、「Capable(十分な能力)」、「Affordable(購入しやすい)」というコンセプトのもとで製品、サービスを提供してきた。これは、バーチャル時代に最も求められる要件であり、デルだからこそなしえることができる。今後、訪れるバーチャル時代において、リーダーシップを発揮するのはデルであるといえます。そして、それは当然、クラウドにおいても、デルの強みを発揮できることにつながります。


―なぜ、クラウドビジネスにおいて、デルが強みを発揮できると。

メリット氏
 デルは、4年前からデータセンターソリューション事業を展開し、Google、Amazon、Microsoft、Facebookといったハイパースケールのデータセンターソリューションを提供してきた実績があります。この経験を生かし、ハード、ソフト、サービスを組み合わせ、エンド・トゥ・エンドで、クラウドのインフラストラクチャを提供することができる。この経験は、クウラドをより多くの人に使ってもらうために、導入の敷居を引き下げることにもつながります。

 2つめには、オープンな標準的な技術に基づいた技術を提供しているという点です。しかも、高機能で、購入しやすい価格で提供している。競合他社は垂直統合型のプロプライエタリの技術やサービスに向かう傾向が強い。デルは、その方向は正しくないと考えています。より柔軟に、多くの選択肢を持ち、オープンであるという姿勢は、クラウドにおいてもデルが貫く信条だといえます。それが正しいことは、データセンターソリューション事業が、全世界で前年比250%という大きな成長を遂げていることからも明らかです。


―すでに、クウラド市場で戦うための駒をそろえることができたと判断していますか。

メリット氏
 ハード、ソフト、サービスのすべてがそろったと考えています。そして、ビジョンとしても明確なものを打ち出すことができた。効率性を実現するとともに、オープン、柔軟性、選択肢を提供することができる。また、サービスだけで全世界で4万1000人強もの社員を擁し、クラウドビジネスにおいては、多くのパートナーとの連携を実現しており、社内外のリソースをあわせて、コンサルティング、提案、導入、運用に至るまで、極めて強力な体制が整っている。

 今回発表した「Dell PowerEdge Cシリーズ」は、これまでの世界最大級のクラウド・サービス・プロバイダーへの導入実績をもとに、クラウド・コンピューティング向けに専用設計したハードウェアです。検証済みのクラウドソリューションとして、サービスを付加したターンキーソリューションとしても提供することができる。顧客の声を聞き、それを多くの方々に利用してもらえるようにした戦略的な製品となります。


―一方で、デル自らも、モジュラー型とするパブリッククラウドサービス事業の展開を計画していますね。日本での展開時期などはどうなりますか。

メリット氏
 これまでに発表していたように、日本向けにサービスを提供するという方針には変わりがありません。しかし、日本で提供する時期をまだ明確にお知らせすることはできません。というのも、日本語化への取り組みと、これを技術的にどうサポートするかといった点での解決をしなくてはならないからです。日本の顧客に対しては、すでに英語版での提供は可能であり、グローバル企業からも引き合いがあります。

 モジュラー型のパブリッククラウドサービスは、デルにとっても大事なサービスであり、顧客に多くのメリットを享受できるものだと考えています。いまのところ、今年後半に日本でも提供するというスケジュールには変更がないと考えてください。ただ、一部には、パブリッククラウドがすべてと考えているベンダーもありますが、ユーザー企業のなかには、バプリッククラウドに対して、懸念している例も少なくない。データのセキュリティや相互運用性といったところで、二の足を踏んでいる企業も多い。

 今パブリッククラウドの活用を検討しているユーザー企業は、スケール、効率性、メリットが欲しいということが本質であり、パブリッククラウドが使いたいわけではない。コストが下がり、管理が簡単であるということならば、パブリッククラウドでも、プライベートクラウドでも関係はない。

 デルは、こうした要望に応えて、クラウドソリューションを発表している。自社のセンターのなかにプライベートクラウドをつくりたいという場合には、デルがこれまでに蓄積したノウハウをベースにした製品、サービスを活用すればいい。一方で、パブリッククラウドにメリットを感じる場合にはそれに向けたサービスを提供することになります。


バーチャル時代のリーダーを目指す

―2月からスタートしている2011年度は、どんな1年になりますか。

メリット氏
 日本においては、ソリューションの売り上げ構成比をさらに高めていきたいと考えています。ストレージ、サーバー、サービスの強化には、引き続き力を注いでいきます。4月に入ってから、社員に対して、今年の方向性を示しました。そこで、昨年1年間は投資の1年であり、伸ばしたいと思う分野に十分投資ができた1年であったこと、会社として体力をつけることができたことを示しました。その上で、今年1年はこの投資の成果を生かして、実を結ぶことができる1年にしたいと考えています。

 具体的には、ソリューションビジネスをもっと伸ばすこと、お客さまのより近くに居続けること、そして、顧客ニーズを十分くみ取っていくことです。また、従業員ひとりひとりがスキルを高め、ストーリー性をもって、顧客にソリューションを語ることができるようになってほしいと考えています。


―デルの日本法人にとって、今年のキーワードはなんですか。

メリット氏
 経済環境や、ITを取り巻く環境をみると、やはり「バーチャル」がキーワードになる。クライアントPCひとつをとっても、バーチャルデスクトップの取り組みは重要な要素になる。また、クラウド、データセンターを含めて、顧客にバーチャルを勧めることは大きなメリットを提供できると考えています。そして、デルは、バーチャル時代において、リーダーになることを目指します。


―一方で、経済環境の先行きやそれに伴う企業のIT投資の今後、さらには今後の事業成長において、懸念材料はありませんか?

メリット氏
 それはまったくないですね。むしろ、希望に満ちています。昨年は、すべてのIT企業が厳しい1年だった。だが、デルは、ソリューションプロバイダーへの転換に取り組み、いよいよその成果が提供できる1年へと入っていくことになる。デルにとっては、多くのチャンスがある年であり、すばらしい年になると考えています。

 その理由のひとつが、企業のIT投資意欲が戻りつつあるという実感を持っていることです。先行きがわからずに投資を控えていたり、リスクを避けたいというユーザー企業も多かったが、今では見通しがよくなり、IT投資を積極化する顧客が増えてきた。また、Windows 7に移行したいという声も数多く聞くようになってきた。デルが提供するソリューションは、オープン、柔軟性、高機能であり、選択肢が豊富にある。そして、価格の面でも購入しやすいものとなっている。これらのキーワードは、どれもが顧客が求めているものです。だからこそ、デルのストーリーに共感していただいている。インフラコストは下げたい、また、予算内におさめたい、だが効率性を高めたい。それに応えることができるのがデルだといえます。


―ところで、新年度から、デルのロゴが変わり、社内外へのプレゼンテーションで使用するテンプレートが変わりました。この意味はなんですか。

今後デルが統一して使用するロゴ
新たに使用される「Dell MUSEO for DELL」のフォント

メリット氏
 新年度から白地に青い丸のなかに、青い文字でDELLの文字が描かれたものに統一しました。以前から利用していたものに戻したといういい方もできます。今後は、製品やカタログ、名刺にも、このロゴを統一的に使用します。

 また、ロゴの変更にあわせて、「Dell MUSEO for DELL」という新たなフォントを用意し、今後はプレゼンテーション資料やカタログでも、このフォントを利用していきます。社内で調査を行ったところ、社内でロゴの使用が統一されておらず、実に、100以上の違うバージョンがあった。ロゴの見た目、雰囲気、メッセージも違っていたのです。そこで、デルが存続する目的はなにか、もっと強力なメッセージを発信するためにはどうすべきかといったことを考え、価値観をひとつのものにしていくことを狙いました。また、ロゴが変わるということは、従来のデルからの脱却につながるものととらえてもらっていい。デルはここ数年M&Aを進め、2008年にはEqualLogicを、2009年にはペローシステムズを買収した。これにより、包括的なソリューションを提供できるようになった。

 デルがソリューションベースの企業へと変革し、より顧客志向の会社に変革した。それを示すのが新たなロゴだといえます。バーチャル時代に向けた新しいデル、生まれ変わったデルを示すものだととらえてください。





(大河原 克行)

2010/4/16/ 00:00