「ポータルサイトなどインターネットに特化した旅行サイト事業」旅キャピタル吉村社長
「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。今回は、株式会社旅キャピタル代表取締役社長の吉村英毅氏に話を伺いました。
Eビジネスマイスター:吉村 英毅 株式会社旅キャピタル 代表取締役社長 1982年生まれ。東京大学経済学部経営学科卒業。経営管理と金融工学を専攻。大学在学中に(有)Valcomを設立。2007年 持株会社旅キャピタルを設立し、代表取締役社長に就任。 |
■350以上のポータルサイトに展開している旅行サイト事業
―簡単に事業内容の紹介をしてください。
吉村氏
航空券やツアー商品など旅行商品の販売はインターネットと親和性が高く、広く普及しています。旅キャピタルは独自に構築したノウハウを生かし、旅行サイト事業を展開しています。
海外旅行に関しては「旅WEB」ブランドで、国内旅行は「エアーズゲート」「e航空券.com」ブランドなど直営媒体で展開していますが、ポータルサイトや会員向けサイトに向けて、付加価値を高めてもらうための旅行コンテンツのOEM提供を行っており、旅行商品全般の企画・販売を行っています。
―特徴として何があるんですか?
吉村氏
Webを使った航空券やホテルの予約などの個別サービスは前からありましたが、特徴としては、国内はもちろんのこと海外の旅行を含めて総合的に展開していることです。
また、一般的に旅行代理店は航空会社やホテルの間に入って商品を組み合わせて旅行パッケージを作っていきますが、こうした個人や企業に向けたサービス以外にも、旅行商品やコンテンツをポータルサイトや会員制サービスなどのWeb媒体向けに展開することで差別化を図っています。
旅行コンテンツのOEM提供は約250社あり、有名なところでは、例えば「トラベルコちゃん」なども当社のシステムをご利用いただいています。
―350社!すごいですね、いつの間に(笑)。
吉村氏
ありがとうございます。OEM提供は半分くらいが旅行代理店ですが、アスクルさまをはじめ旅行業界以外の会員向けサービスにもご提供しています。
大手旅行代理店でも、得意・不得意分野がありますので、不得意な分野は当社からご提供しています。
―ビジネスモデルはどんな仕組みになってるの?
吉村氏
旅行コンテンツは当社から無償で提供していますが、航空券などの売上があった場合、その利益から、OEM提供先にマージンをお返しする流れになっています。
―マージンは何%くらい?
吉村氏
粗利は国内旅行で約8%、海外旅行で約12%です。そのうち国内旅行は2%、海外旅行は4~5%くらいを各OEM提供先にお返ししています。
―旅行代理業は、粗利じゃ大きなビジネスはできないですね。
吉村氏
はい。オンラインでの旅行代理業に特化していますので、店舗や人件費などがコンパクトな分、利益を確保できます。取扱高のボリュームが必要ですから、低コスト体制とサービス向上の両立が欠かせませんが。
旅行業界全体では10兆円産業といわれていますが、店舗からオンラインへ転換が、いま急速に進んでいます。旅行サイト事業は、国内のホテル分野こそ成熟していますが、それ以外の分野はまだまだシェア争いをしている状態なので、旅行サイトのガリバーはまだ現れていません。
―旅行業界が10兆円産業ということだけど、確か1位のJTBの売上が1兆円だったと思ったけど、旅キャピタルさんの位置はいまどんなところ?
吉村氏
はい。旅行代理店が全国で約1万社存在していますが、オンライン専門の旅行会社の中では、上位に位置しています。小規模な店舗形式の旅行代理店は、再編が進んでいる状況です。
■創業のきっかけ-缶コーヒー制作から旅行サイト事業へ
―ところで最初にプロフィールを拝見しましたが、なにやらアイドルのようで(笑)。
吉村氏
恐縮です。すいません(笑)。
―すごいカッコいいですよ。
吉村氏
あれは昨年の秋くらいです。そこから太ったといわれます(笑)。
―それでは沿革というか今までの経緯を聞かせてください。
吉村氏
中学くらいから会社をやりたいと思っていました。実家は家業を営んでおり、曾祖父が120年前にせっけん工場を創業したんですが、その後、油を使うマーガリンやホットケーキなどの製造販売メーカーに転換していきました。
―会社はどこにあるの?
吉村氏
大阪が本社です。曾祖父が始めて、いまは父が社長です。
そういう環境で育ったことと、中学のときにビル・ゲイツがマイクロソフトを成功させたことに影響を受け、日を追うにつれて、社会に影響を与える人間になりたいと考えるようになりました。
中学のあたりから、起業したいという思いがますます強くなり、目標だった東京大学に合格すると、すぐに起業家の先輩の会社を手伝い、3年生のときに自分も起業をはたしました。
―やっぱりいまみたいな旅行事業の会社?
吉村氏
いえ、全然違います。20歳になったばかりの2003年5月に設立し、創業時は阪神タイガースのブランドを利用した商品の企画・制作・販売の仕事をしていました。キッカケは、その年に星野監督時代のタイガースが優勝して大フィーバーになったことから、ブランド利用の契約を阪神タイガースとし、ロゴを使った缶コーヒーを制作しました。直接、スーパーやコンビニには商品を卸すことができませんでしたので、景品としていろいろなところに置いてもらいましたが、合計で30万本くらい売れました。
―30万本!どのくらいの売上?
吉村氏
約1500万円です。ほかにも起業する前は「こんなビジネスモデルでやりたいな」というものがありましたが、なかなかそれを実現できなくて、取りあえずできることからはじめてみました。
旅行事業は2004年からです。
―それまでは旅行に関係なかったんですね。キッカケは阪神タイガースのファンだったとか?
吉村氏
阪神ファンではありますが、とにかく起業したかったですね。
―何でもいいから起業してみたいと?
吉村氏
はい。
―旅行は好きだったんですか?
吉村氏
旅行は、好きでしたが、旅行事業を手がけたのは、共同創業者の大石と知り合ったのがきっかけです。彼は私と知り合う以前から旅行代理店をやっていました。当時はガリバー企業がなく「今からでも何とかできる」と思いました。
缶コーヒーのときは、在庫を抱えて大変でしたので、在庫を抱えないということも旅行サイト事業を始めたキッカケです。
ただ、はじめから旅行事業に集中していた訳でもなく、ほかにも人材派遣業も手がけていましたが、次第に旅行事業にシフトしていきました。
会社は基本的に私が「エアーズゲート」を、大石が「e航空券.com」を展開していましたが、2007年5月に合併して旅キャピタルを持株会社として設立し、それまでの会社を子会社化しました。
―どこでどういう出会いがあったんですか?
吉村氏
年齢が離れていますので、ほかの先輩の紹介で出会いました。
―子会社がいろいろありますね?
吉村氏
「エアーズゲート」や「e航空券.com」は直営旅行サイトのブランド名ですが、2008年1月に海外旅行商品を扱う「旅ウェブ」の事業を買収しました。
今まで国内航空券を中心に販売していましたが、買収してから旅行商品全般の提供ができるようになりました。国内ホテル・バス・航空券・海外ホテル・海外に行ってから観光するオプショナルツアーなど、自社コンテンツとして取り扱っています。
目標はシンプルで、旅行コンテンツのOEM提供でポータルや会員制サイトなどの提携先を増やしていくことです。もうひとつの目標は、サイトに流し込む旅行商品を増やしていくことです。
―恥ずかしい話、いままで海外旅行のチケットを自分で取ったことがなくて、この前はじめて手配しました(笑)。いままで家族にお願いしていたんで、旅行チケットの取り方とか仕組みがよく分かってなかったんだけど、そもそも旅行代理業ってどうやってはじめるの?
吉村氏
航空券でしたら航空会社と取引します。航空会社との直接取引は難しく、ホールセールという旅行代理店に卸売をするところがありますが、最初はそこと代理店契約をして仕入れていました。その後、規模が大きくなってからは、直接仕入れることができるようになりましたが。
―旅行サイトをOEMで展開するモデルはいつごろから?
吉村氏
2006年のはじめごろからです。
―その当時は何名くらいでやってたの?
吉村氏
最初は社員が5名でアルバイトが7~8名くらいでした。
今は社員が35名でアルバイトが15名くらいです。女性も多く活躍しています。旅行業界全体でも女性のほうが割合が多いです。
―どうやって350社までOEMを拡大できたの?
吉村氏
OEMのメリットは、利用側では導入コストなど参入障壁が低いので展開させやすいのがポイントです。中小の旅行代理店は得意分野に特化することが多いため、商材を増やしてサービス拡大などのメリットを提案しています。
■競争戦略と今後の抱負
―競合はほかにあるの?
吉村氏
ポータルや会員制サービスなどへOEM提供をしているのはうちだけです。
海外ホテルや国内航空券のOEM提供など特定分野の競合はいますが、総合的に提供をしているところはほかにありません。
その理由は、展開そのものに手間がかかることと、大手は自社ブランドで展開していますから参入しないうえ、中小の旅行代理店は得意分野に集中していますので総合サービスを提供しているところがないことが挙げられます。
また、一度OEMを利用すると、ほかに乗り換えるのが大きな負担になりますので使い続けていただくことになります。
―OEMの利点として導入コストが低いことが挙げられるけど、初期導入の制作費はどのぐらい?
吉村氏
費用は一切かかりません。すべて当社負担で行います。
―それは大きな先行投資になってしまうね。
吉村氏
そうですね。
―無料だと、いろんな注文がくるんじゃないの?
吉村氏
媒体によってどこまでカスタマイズするかは、売上を予測して上限を設けています。うちからキャンペーンの企画を考えたりしています。
―先日上場したトラベル・ジェーピーのベンチャーリパブリックは、競合に入らないの?
吉村氏
旅キャピタルは旅行代理店でなく媒体を対象としているため少し異なります。逆に競合関係にあっても、当社から旅行商品をご提供している場合もあります。
―競合でありながら協業してるワケだ。
吉村氏
そうです。国内ホテルの分野は成熟しているのですが、まだ市場が伸びている段階ですし、基本的にはいろいろな会社が参入して営業活動しています。
今後の目標は、旅行サイト事業分野で上位5位に生き残ることで、独自の特徴を持ってM&Aを行っていきたいです。
―ずっと右肩上がり?
吉村氏
そうですね。はい。
―もう心配がまったくないみたいな(笑)。
吉村氏
いえ。まったくそんなことはないです。逆にやるべきことは明確化していますので、しっかりやっていくことが重要と考えています。
―ところでOEMの収益と、自社サイトで得られるものではどちらが多いの?
吉村氏
OEMのほうが多く、6割くらいになります。
―自社で展開している旅行サイトのマーケティングは?
吉村氏
SEOやリスティングなどの一般的なものはやっていますが、どこも同じような競争にさらされていますので、今後の成長性を考えると、OEM展開は大きな契約1つで取扱数が急増しますので、そこに注力していきたいと思います。
システム面では、ユーザーインターフェイスに改善の余地があります。例えばアメリカの有名な旅行サイトでは、1つのサイトで1兆円くらい販売している場合もあります。
―1つのサイトで1兆円!
吉村氏
はい。市場規模やシェアが違うこともありますが、そういう企業のインターフェイスはすばらしいです。積み上げといいますか、日本の旅行サイト事業全体の売上は小さいですので、拡大にはシステムとWebデザインを含め、インターフェイスを改善する余地が大きくあると考えています。
―普段は、どういった感じで社長業をしてるの? それから1日をどうやって過ごしてるの?
吉村氏
曜日によって違いますが、月曜は社内会議でほかは外を回っています。新規契約が週に5~6件あり、既存を含め常にその倍くらいは回っています。全体のオペレーションや、サービス改善などの業務も多いです。
―何か変わったことをやっていそうなイメージがあるんだけど(笑)。
吉村氏
仕事で(笑)?
―仕事しているかと思ったらトランプをしていたとか(笑)。
吉村氏
(笑)。いろいろやってもあまり意味がないことってあるじゃないですか。一番需要のあるところに集中してやっていくのがいいので、そこは気をつけるようにしています。
―まだ若いけど、将来はどんな方向で展開していくの?
吉村氏
まずは旅行サイト事業でナンバーワンの会社になることを目指していきたいです。まだまだ市場が残されていますので、旅行商品の差別化をしていきたいと考えています。
個人的には、イギリスのヴァージングループのようになりたいと思っています。あそこは外から見ても社員一人一人がすごく楽しそうに仕事をしている気がしますし、いろいろな分野でお客さまのメリットを追求しています。利益の中で財団を作って社会活動をしていますが、そこに企業の存在意義を感じますので、将来的にはそのように展開していきたいです。
2009/5/29/ 09:00