eコマースのビジネス展開でBIが効果-IASC成田執行役員
「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話をうかがいます。今回は、日本アイビーエム・アプリケーション・ソリューション株式会社(IASC) 執行役員の成田徹郎氏に話を伺いました。
Eビジネスマイスター:成田 徹郎 日本アイビーエム・アプリケーション・ソリューション株式会社 執行役員 1971年、武蔵工業大学電子通信工学科卒。日本アイ・ビー・エムに入社、1985年より意思決定支援システム拡販を担当し、コンサルティング・アウトソーシング・ビジネス企画を経て、1996年にビジネスインテリジェンス・ソリューション事業部を起こし、BIの拡販を推進してきた。 2003年、CRM&BIソリューション事業部を担当、2005年より同社に転籍し現在に至る。 金沢工業大学大学院工業研究科客員教授・日本ビジネスインテリジェンス協会常務理事・日本能率協会グループ・企業情報化協会・バランス・スコアカードコンソーシアム副代表幹事 |
―BIというと膨大な企業活動データを分析して意思決定を支援するためのツールだと思うのですが、Webへの活用について教えてください。
成田氏
BIの世界でもWebインテリジェンスがいわれています。顧客動向が店舗からWebサイトにシフトしていますので、ロングテール現象のように小さなニーズでも把握する動きが強まってきました。
Webサイトは顧客とのコンタクトで重要なステップですので、ネットマイニング技術によって分析手法を研究しながらサービス品質を高めてきました。お店に例えますと、洋品店でどのような商品を手にとっているのか、好みが把握できるようになってきています。
―どういうことですか?
成田氏
「どのページから入って出て行くか」などによってニーズを把握し、最初に閲覧するページを顧客によって変更する方法が有効ですし、Webサイトのデザインもどういうデザインが最適か、データを取って分析したほうが好ましいですね。
ユーザーの立場から見るとリンク先が細かいとわかりにくいため、シンプルなものが好まれる傾向が強くなっています。同時に、一度ネットで訪問した顧客がまた来てみたいというデザインにする必要があります。
―その答えをみんな知りたいと思うのですが・・・。
成田氏
それは企業によって違うのではないですか(笑)。
データそのものは取れますが、まだ蓄積して活用する企業は少ないです。どのサイトにどのコンテンツがあればよいかは、企業の戦略そのものでしょう。
まとめて申しますと、ニーズにあった顧客が来るようなデザインがよいのではないでしょうか。また総花的なものではなく、フォーカスした形で展開したほうがよいでしょう。デザインも統計を取って、優劣を比較していくとより効果的です。
―最近のBI事情と日本IBMがサービスを開始した経緯をおうかがいしたいのですが。
成田氏
もとは、パソコンのない時代にネットワークを利用したタイムシェアリングサービスから発展してきました。意思決定支援システムとしてサービス開始されましたが、次第に今のASPのような従量制にシフトしてきました。
バブル崩壊後、再興のためいくつかのビジネスユニットが作られましたが、その中のひとつでBIがGBIS(Global Business Intelligence Solutions)として組織化されました。IT分野は技術系が多いですが、経営管理に高度な分析手法を活用しようとする目的がありました。
IBMが定義しているBIのテクノロジーは、
1)データクエリと検索レポート
2)統計解析
3)多次元分析(OLAP)
4)データマイニング
5)最適化解析
の5段階に分けて表現しています。
―IBMのBIは、いつごろから始まったんですか?
成田氏
96年に、全世界で製品開発とテクノロジー開発を含めてスタートしました。日本IBMではビジネスインテリジェンス・ソリューション事業部を立ち上げ、普及のためのプロモーションと販売を開始しましたが、BIの一般的な定義はIBMのものが土台になっています。
―当時の社会状況と、なぜBIが必要とされてきたのでしょうか?
成田氏
インターネットが社会に普及し始めると、顧客情報などのデータが大量にあふれてきます。企業が持っているビジネスプロセスで最も重要なのは、顧客のニーズや購買動向を把握して、製品開発を行うことですが、大量のデータをどう扱っていくのか、単純に見て統計を取っていくだけでは動きが見えなくなってきました。
具体的には97年に、当時トヨタ自動車の奥田社長から「お客さまの顔が見えるシステムを作ってくれ!」といった要望がありました。製造業の場合、販売は販売会社に委ねています。ちょうどその時、トヨタは2大ディーラーで子会社の東京トヨペットと大阪トヨタに販売を委託していました。
顧客はどういう嗜好でどの車種を購入するのか、当時は販売会社に“おまかせ”でした。そのため何台出荷したから何台生産が必要か、といった需要予測もおおまかでした。当時トヨタの生産台数は約200万台で伸び悩んでいましたが、その原因はなぜなのか把握したい、といったニーズがありました。
メーカーから見ると、「お客さまの顔が見えないため、何が欲しいのか?どういう車種を作ったらよいのかわからないと、売れるわけがないじゃないか!」、というのが奥田社長の主張でした。
今はほとんどの自動車メーカーで、顧客が車を買い換える際に他社から自社のところに、または自社から他社にといった需要動向を調べることで、生産予測に活用しています。
そういうニーズがあるときに、「どうやって顔が見えるのか?」は、現場の営業マンが最も顔を見ていますし、手帳の中に買う時期やどういうきっかけで購入したかたくさん情報を持っています。今でこそインターネットサーベイがさかんになっていますが、当時はありませんので、顧客の動向が営業マンの手帳でなくデータベースにあるべきだ、ということから、大量にデータベースに格納されるようになり、どういった顧客が買われるのか、購買のきっかけがわかるようになってきました。
情報を把握することで、メーカー側も製品開発のスピードと発売時期の計画が立てやすくなりますし、売れる製品に力を入れやすくなりますので、生産・流通・マーケティングにも効果的です。
情報をデータとして蓄えて分析する方法が当時はなかったですので、日本IBMではコンセプトを編み出し、全体をBIとして企業の意思決定に応えています。
―インターネットとの関係ではどうなっているのですか?
成田氏
インターネットが普及し、eコマースが増大しますと、リアルよりバーチャルの比率が高くなっています。顧客とは接客・電話・DM・Webサイトなどで接点がありますが、特にWebサイトは情報発信・収集の価値がありますので、Webサイトからのデータをいかに分析するかが重要になってきます。
アメリカでは、97年にインターネットでデータマイニング技術を使いながら顧客の経営課題を分析し、サービスの質が高められるよう、ネットマイニングサービスを開始しています。当時製品がありませんので、いろいろな技術を組み合わせてサービス展開を行いました。私も日本上陸のときに汗をかいていましたが。(笑)。
科学的技術をもって、どこにフォーカスしてeコマースのビジネス展開をすべきか、顧客の絞り込みと差別化によってライバルに優位に立てるよう、分析能力がカギとなります。
―BIは果たしてすでに根付いているのでしょうか? それともまだ成長段階にあるのでしょうか?
成田氏
重要と認識している企業ほど、BIの組織を作り、技術者を育てていました。ところが普及して操作性が改善され、経営者や一般社員が普通に活用できるようになると、「レポート機能だけで十分じゃないか!」という意見が多くなりがちで、それで満足してしまう、また簡単になりすぎて高度な分析が行いにくくなっているのが、新たな課題になっています。
また経営者も簡単なレポートだけで満足してしまう、我慢してしまうことも増えてきました。
―「我慢してしまう」とはどういうことですか?
成田氏
経営者はレポートを見ても、「なぜそうなったのかわからない」もしくは「情報を信用していない」ため、情報を分析せずにそのままになってしまうようです。経営がうまくいっているうちはよいのですが、いまだに「KKD(カン・経験・度胸)」といわれる経営を行っている場合が多く、もっと顧客のデータ分析を行うとよいのですが・・・。
ほかに顧客の好みなどもわかるようになってきましたが、データ量があまりに増えてきたため、十分に分析・活用されなくなってきました。
そのためデータをサマリーして足し込んでしまいますので、「何件クリックした」という話にしかならない。「どういう順番でクリックしたか」という情報が持ちきれなくなっています。
―サマリーしてしまうと、何が問題になるのでしょうか?
成田氏
生のデータを合計して足し込んでしまうと、サマリーしか分析できなくなります。「何がいくつある」といった在庫管理にはいいのですが、「顧客が何を購入したか」というデータは、足し込まれてしまうと「その日に何個売れた」しかわかりません。
分析できなくなるため、顧客の顔や動向が見えなくなってしまいます。
―BIは難しいですが、逆にデータ活用のポイントは?
成田氏
まず「何をしなくてはいけないか」が重要です。「ツールがあるから使おうか」ではありません。例えばサイトのアクセス数が減少した場合、「なぜ減ったのか?」「増やすためにどうしたらよいか?」が提起され、解くためのツールとしてBIツールを使いこなそうとしたほうがいいですね。
そのため、もっと深い分析が欲しくなりますので、クリックしていく流れを分析したい場合には、顧客属性を把握し、販売促進のアクションプランにつなげることが欠かせません。
―BIの普及にはコンサルタントが必要と思いますが。
成田氏
コンサルタントは外資系を中心に大企業向けが多く、中小企業にとって魅力的なコンサルタントを使う機会は難しいです。価格が高く、なかなか大変ですね。
―そこでBIツールの登場が(笑)。
成田氏
そういう話ですね。中小企業向けに、BIツールを活用してデータを分析できる人材活用が板ばさみになっていますので、私が引退してスピンアウトした場合には、それをやろうかと思います(笑)。
―すばらしい。
成田氏
BIツールは、BtoBとBtoCのはざまを埋める役割を持っています。SIerだけでソリューションを行うのも難しい面があり、CRMソフトを開発・販売している会社がコンサルティングしている場合が多いです。
具体的にはCRMのオプティマイゼーションということで、どういうキャンペーンによって顧客のリターンが最大化するのか分析しますが、BIツールの販売だけで終わってしまい、中小企業が有効利用していくのが難しい面もあります。
―そこにコンサルタントが入らないといけないですね。
成田氏
そういうことですね。政府の中小企業支援なども、マーケティングのデータ分析などで生かされるとよいですね。中小企業が元気になってこそ、日本経済も良くなりますからね。
日本経済は中小の製造業が担っています。私の叔父が合金の仕事をしていますが、そこは日本の産業の縮図でしてね(笑)。何が主要な産業かがわかります。かつては船舶でしたが、いまはあまり仕事が来ないですね。自動車部品が主体でしたが、最近は家電製品の部品の仕事が多くなりましたので、まさに縮図です。
一人何役も業務をこなす中小企業ではBIの普及が難しいですが、中小企業にふさわしいBIソリューションを提供して、データ活用のバックアップができればと思っています。
今回のキーワード:BI(ビジネス・インテリジェンス) Business Intelligenceの略。企業内の膨大なデータを蓄積・分析して、企業の意思決定に活用する概念・システム・仕組み・手法のこと。売上・利益・顧客動向などデータ分析は専門家ではなく、経営者や社員が自在に分析して情報活用することを前提にしている。 米調査会社ガートナー社のアナリストである、ハワード・ドレスナー(Howard Dresner)氏がコンセプトを提唱し、クエリ/レポーティングツール・統計解析・多次元解析(OLAP)・データマイニングのほか、データウェアハウス(DWH)・意思決定支援システム(DSS)もBIに位置づけられている。 |
2009/6/11/ 09:00