クチコミだけで会員数20万-“ステキ”な仮想空間つきコミュニティ「ニコッとタウン」、スマイルラボ伊藤社長


 「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。今回は、株式会社スマイルラボ代表取締役社長の伊藤隆博氏に話を伺いました。


Eビジネスマイスター:伊藤 隆博
株式会社スマイルラボ 代表取締役社長


1971年生まれ。東京造形大学卒業後、1995年 初の男性デザイナーとして株式会社卑弥呼に入社。ブロードバンドの先駆けとなるベンチャー企業を経て、1999年 USEN(当時:大阪有線放送社)入社。インターネット事業の立ち上げ・運営に従事。2005年 NHNJapan(ハンゲーム)に転職。ハンゲーム事業本部長として独自コミュニティを展開。2007年リアルネットワークス株式会社入社、取締役事業本部長としてリアルプレーヤーおよび連動コミュニティ・クリップログをリリース。
2008年2月 株式会社スマイルラボ設立。代表取締役に就任し同年9月に2D仮想空間つきコミュニティ「ニコッとタウン」サービスを開始、現在に至る。


多彩なキャリア-常に経営トップと仕事を進めて

―美大のご出身ですが、何か目指していたのですか?

伊藤氏
 高校は進学校でしたが、普通の大学に行く自分が想像できませんでした。もともと周囲から変わっていると思われていましたので、美大に進学することを担任に相談したら「まあいいか」と認められました。ちなみに入試では1次試験に受かったものの、食中毒で2次試験を受験できず、結局1年浪人するはめになりましたけど(笑)。


―就職はデザイナーとして、アパレル会社の卑弥呼に入社されていますよね。

伊藤氏
 大学時代はCG・ゲームの世界で、企業と組んで今の学生団体のようなことをしていました。ただ、CG制作で入選しても演出技術にすぎないため、デザインや本来のモノつくりの仕事がしたかったんです。

 知り合いに「ちょっと会社に遊びに来ない?」と言われていったら、そのまま試験を受けることになり入社が決まってしまいました。


―卑弥呼ではどのようなお仕事をされていたんですか?

伊藤氏
 創業者のもとで、婦人靴のデザインと商品企画を一緒に行っていました。お店で販売も行っていました。創業して30年以上の会社ですので社長のこだわりがブランドやクオリティに反映されており、「卑弥呼の靴は足に良い」と指名買いされるお客さまが多かったですね。

 そういった「お客さまの満足」こそがリピーターになり得るということを学びました。「創業者は変わっている人だな」と思っていましたが、商品企画とデザイナーの双方にかかわることができ、商売のイロハを身につけることができました。


―その後転職して、USEN初のネット事業を立ち上げたんですよね。

伊藤氏
 その前に日本初のブロードバンド会社で、衛星で動画配信を行う日本IBM、アトラス、FM東京が共同出資した会社にいました。USENへの入社は知人の紹介でしたが、当時は宇野康秀社長が就任して会社が変わろうとしている矢先で、ブロードバンドやネット事業のわかる人材を探していたところでした。

 ただ私は社長直属の仕事しかしたことがなかったので、宇野社長の直属で部署を作ることを条件に入社を認めていただきました。入社したらネット担当の自分と金融担当のもう1名しかいなく、社内はまだ何もありませんでしたので、「本当にやるの?」という感じでした(笑)。


―新規事業を立ち上げるにあたって、いろいろと武勇伝をお持ちだと伺っていますが…。

伊藤氏
 USENでグルメ情報ガイドの「グルメGyaO(当時:ぐるめピタ)」の立ち上げが印象深いですね。新規事業を立ち上げるにあたって、400名の新入社員から威勢のいい社員を12名選びましたが、そういうメンバーと会議をすると社内から「うるさい!」と怒られました。なので、社外のいろいろなところで怒られながらも会議を重ね、最終的には近くの地下にあるカラオケルームを借りてミーティングをしたこともありました。事業を立ち上げてないのに始末書ばかり増えた時期もありましたね…。

 極めつけはまだサイトも立ち上がってないにも関わらず、Yahoo!と提携したことです。最終的にYahoo!の井上社長と宇野社長のトップ会談になり、なんとかなってしまいましたけど(笑)。


―その後、ハンゲームに転職されてからはどのようなお仕事をされていたのですか?

伊藤氏
 ハンゲームのすべてのサービスを統括する責任者でした。特に、売上を数倍に伸ばす責任者として、毎月新しいゲームを出す体制を作ったり、ゲームと日記が連動するコミュニティ化を推進しました。その結果、「ゲーム日記」によって、ページビューが数倍になり、友達登録が増え、売上を数倍にすることができました。


―リアルネットワークスでは、面白いものを作ったそうですね。

伊藤氏
 リアルネットワークスに転職した際に、「変わったことをしていい」と言われていましたので、日本語版のRealPlayer 11のみ、動画を見た感想を「ブログに書く」機能が表示され、そのまま投稿できる機能をつけました。


日本人のテイストに合わせた仮想空間つきコミュニティ「ニコッとタウン」

―「ニコッとタウン」の構想は、スマイルラボ設立のときにできたんですか?

伊藤氏
 「日本独自のサービスを世界に!」と面白くて変わったことをしようと思い、この企画を立ち上げました。

 事業の立ち上げは、USENとハンゲーム時代の部下がスクウェア・エニックスにいたこともありこの企画の話になり、そのまま決まりました。

 スマイルラボはスクウェア・エニックスが100%出資している子会社ですが、ニフティからも出資したいという申し出を頂きましたので、集客とサーバーを展開するメディアパートナーとして参画されています。


―「ニコッとタウン」のユーザー層やユーザーの特徴を教えてください。

伊藤氏
 仮想空間が好きでブログを活用する30代がメインユーザーです。その次にチャットやカフェを使う10代が多く、会員の7割が女性になっています。

 30~40代のユーザーが株価についてブログを書くと、10代の読者から反応をもらうことがあります。親子のような年齢差があっても、「子供の気持ちがわかるようになった」「10代でもいろいろと難しいことがあるんだな」とお互いに理解しあえる関係になるようです。


―こちらのアバターは、とてもかわいいですね。アバターのデザインに力を入れたと・・・。

伊藤氏
 アバターのデザインのためだけに4カ月の開発期間を費やし、日本人好みの2Dの絵を手書きで作りこみました。欧米では3Dでリアリティな8頭身が多く、韓国はマンガの影響から2頭身が多いですが、「ニコッとタウン」のアバターは「日本人が考えた日本人のクオリティ」を求めています。

 目つきも人形を意識し、あえて目線を外して柔らかい印象にしています。1体のアバターは100レイヤーありますが、大手が参入しても負けないよう、またアバターの服やアイテムの販売を考え、かわいくするために力を入れました。アバターの服装も和服に多い、朱色・ふじ色などの色合いにするなどのこだわりもあります。


―仮想空間の街並みや家が独特ですね。

伊藤氏
 私が好きな安藤広重の浮世絵「東海道五十三次」を参考に、遠近感が感じられる街並みにしています。また、昭和60年ごろの懐かしい雰囲気を再現して出会いの場を広められる雰囲気を作っています。

 セカンドライフのように、何もない土地から家を建てるのは大変ですので、最初から家と庭を作っています。日本人は知り合った人をすぐに家に入れることはしないので、街角で知り合ったらまずカフェでおしゃべりをし、仲の良い人だけを家に呼ぶといった日本人らしさも演出しています。

 ユーザーの要望で、勝手にアバターが入らないよう家にカギをつけました。さらに、ドアホンを押してもタイムラグが3秒あるなど、リアルさも追求しています。


―それ以外に工夫している点はありますか?

伊藤氏
 ほかのユーザーをほめる「ステキボタン」というものがついています。そのボタンを押すと2コイン増え、仮想空間であいさつ代わりに押すカルチャーなのですが、思ったよりも“ステキ”が増えてしまいサーバーがパンクしてしまいました。

 また、「ニコッとタウン」は10時~24時までしか開いていません。というのも、やはり夜はユーザーさんにゆっくり休んでほしいと思っているからです。24時ころになると、「おやすみなさい」と街並みから帰っていき、ブログに書き込みをしているユーザーが多いようですね。


―ユーザーとはどのようにコミュニケーションをとってらっしゃるのですか?

伊藤氏
 10代のユーザーから「無料コインで買える服が足りないので、増やしてほしい」という要望がありました。その要望に対して「サーバーという機械が必要なことと、ベンチャー企業で人がいません。無料アイテムを増やすと会社がつぶれてしまいます」と返事をしたことがありました。

 スマイルラボでは、ユーザーを大切にしていきたいため、サポートの問い合わせでもテンプレートを用意せずに、直接対話するように心がけています。ユーザーから「Pポイントを寄付したい!」と言われると、とてもうれしいですね。


―ほかに競合は?

伊藤氏
 ほかの仮想空間などを見ますと、こちらが先にやっているサービスをすぐに取り入れたりしているようですね。

 「ニコッとタウン」は、派手な集客をしていませんし、携帯版のサービスもしていませんが、1カ月で2億PVもあります。

 安心して楽しみたいユーザーにとっては良い空間なのかもしれません。


―今後の抱負をお聞かせください。

伊藤氏
 現在のブランド(デザイン、安心、サポート)を維持しながら、じっくり拡大したいと思っています。

 また、基本機能の導入はだいたい終了したので、今後はペット、ガーデニングなどの「仮想生活サービス」の導入を急いでいきたいと思っています。

 さらに、ニコッとタウンに出店したいというスポンサー企業も増えて参りましたので、外の企業との提携も増やしていきたいのですが、スマイルラボは開発スタッフとデザインスタッフがメインであるため、もっとユーザーとの対話を深めていきたいので、サポートの要員を増やしたいと思っています。


―ときどきニコットさんというアバターで、ユーザーから質問に答えているそうですね。

伊藤氏
 当初3000名の限定ユーザーのときには、仮想空間で直接チャットをしていましたが、今はユーザー数が増えたため、原則的には行かないようにしていますが極力返事を書くようにしています。


今回のキーワード:Flash+ソケット通信サーバーテクノロジー
韓国のオンラインゲームに代表される「ダウンロード型ゲームアプリケーション」の場合、各パソコンにダウンロードされたアプリケーション側で、一定の画像計算、回線速度調整を行うため、大規模なMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)の運営が可能となる。しかし、ダウンロードコンテンツの場合、ライトなユーザーの参加率が落ちる問題が残る。
そこで、ニコッとタウンでは、ライトユーザーターゲットとして、非ダウンロード型のコンテンツでありながら、同期型のバーチャルワールドを作ろうと考え、アドビシステムズのFlashの採用、および、Flashのプログラミング言語であるActionScriptのバージョン3.0のテクノロジーを採用した。




聞き手:木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』として ITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサル ティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES- Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタ ルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2009/7/2/ 09:00