フリービット三沢氏に聞く、App Storeで2位の「ServersMan」の魅力
「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。今回は、フリービット株式会社 CEO室 戦略デザインセンタ マネージャーの三沢徳章氏に話を伺いました。
Eビジネスマイスター:三沢 徳章 フリービット株式会社 CEO室 戦略デザインセンタ マネージャー 1973年埼玉県出身。1997年株式会社ドリーム・トレイン・インターネットに入社。2000年にフリービット創業に参加。技術部に所属し、数々のサービスの立案から開発、運用までを行う。途中ヤフー株式会社に3年ほど職を移しYahoo!メールやYahoo!ジオシティーズなどに携わる。2007年より再度フリービットに戻り、CEO室に所属。現在はサービス企画としてServersManを立ち上げ、プロダクトマネージャーを担当。また、デザイン部隊を統括する。 |
―もともとはどういった会社に勤めていたんですか?
三沢氏
パソコンショップなどで売っているソフトを開発している会社に勤めていました。ソフトだけではなくサービスの企画立案もやっていましたね。
―フリービットの子会社であるDTI(株式会社ドリーム・トレイン・インターネット)にはどういった経緯で入社されたんですか?
三沢氏
僕はもともとアップル製品が大好きで、Macのソフトウェア開発に携われる会社に勤めたいと思っていました。ただ、当時はWindows全盛期でMacのエンジニアを募集している会社が少なかったんです。その中でたまたま募集していたのがDTIでした。
―三沢さんはフリービットの創業メンバーだそうですね。
三沢氏
はい。DTIでISPを展開していたのですが、なかなか自分たちのやりたいことが実現できませんでした。それだったら自分たちのブランドでサービスを立ち上げようと、DTIから数名が抜けてフリービットを設立しました。
―フリービットを設立してどんなサービスをやりたかったんですか?
三沢氏
無料プロバイダをやりたかったんです。当時無料プロバイダにはlivedoorなどが既にありましたが、広告で収益を上げるというビジネスモデルでした。技術を使って広告掲載のない無料プロバイダを作って、もっとユーザーが使いやすいプロバイダを作ろうと思っていました。
―それで今日に至ると?
三沢氏
いいえ。実は途中で一度抜けているんですよ(笑)。
―それはなぜですか?
三沢氏
フリービットはもともとBtoCのサービスを展開していたのですが、BtoBのサービスがメインの事業構造にシフトした時期がありました。IP電話などを企業に納める仕事が多くなったんですね。ただ、僕自身は直接ユーザーとかかわる仕事がしたかったし、もう少し大きな規模で自分たちがやろうとしているサービスを実際に提供して、ユーザーの声を聞いてみたいと思ったのでYahoo!に転職したんです。
―Yahoo!ですか! 転職されてみて、いかがでしたか?
三沢氏
Yahoo!はちょっとしたサービスでも1日に5000万人もの人が見ているので、サービスの良しあしよりも何よりとにかくインパクトが大きかったです。ただ、転職当時Yahoo!はすでに3000人くらいの社員を抱える大企業。Yahoo!メールやブログといったユーザーが自分でコンテンツを作り出すサービスを担当していたんですが、人が増えると業務フローが増え、サービスインまでに時間がかかることも多く、世の中が求めるサービスとずれてしまうと感じることがあったんですよね。
自分がいいと思っているサービスを実現できないフラストレーションがあり、結局約3年で退社しました。
―で、いつフリービットに戻られたんですか。
三沢氏
2006年の8月です。それからあらためてBtoCのサービスをやることになりました。再入社してからは社長直下の部署であるCEO室にずっと所属しています。
―それから「ServersMan」展開に向けて走り始めたと。
三沢氏
そうですね。ただ、DTIにいたころから構想はありました。インターネットはPCなどの機器をネットワークにつなげて利用するのですが、現在のインターネットは多くのクライアント機器がサーバーにアクセスする“ダム型”の構造で、クライアント機器同士で直接通信することは非常に困難になっています。しかし、例えば会社のPCから自宅のPCに直接アクセスできるような、クライアント機器同士で直接通信する方法があってもいいのではとずっと思っていました。当初はなかなか技術的に難しい部分が多く、実現することができませんでした。
ところが2004年にフリービットの「Emotion Link」という技術が開発され、インターネットの反対側から自分のPCに安全にアクセスすることができるようになったんです。
―「Emotion Link」ってどんなものですか。
三沢氏
いわゆる「ソフトウェアVPN」です。インターネットの中に安全かつ専用の道路を作って、あらゆる機器間で自由自在に通信を行えるという仕組みのソフトウェアです。
―なるほど、「ServersMan」はこれがベースになったということですね?
三沢氏
そうですね。Emotion Linkを使って自分のPCにアクセスできるようになったなら、それを「iPhone」や「Windows Mobile」などのいわゆる携帯デバイスに載せることができたらどうなるんだろう、と考えたのがきっかけになりました。
―私も、iPhoneを持っているのでダウンロードしてみましたが、使い方を簡単に教えていただけますか?
三沢氏
簡単にいうと、iPhoneの中にはカメラで撮った写真やアドレス帳、位置情報といったデータや情報がたくさん詰まっていますよね。ServersManは、先ほどのEmotion Linkを使って安全にiPhone上のそういったデータにアクセスできるアプリケーションなんです。
―なるほど。
三沢氏
ServersManを起動してログインすると、世界中からそのiPhoneに直接アクセスできる状態になります。iPhoneに対して付与されるURLにPCからアクセスすると、iPhone上のさまざまなデータにアクセスできるようになります。
―ServersManのキャッチコピーは「携帯がサーバーになる」ということですが…。
三沢氏
そうですね。ただ、「携帯がサーバーになるってどういうこと?」と思われる方が多いのも事実です。例えばですが、次のような用途を想定しています。
- iPhoneで撮った写真をどこにも一切アップロードすることなく、瞬時にパソコンのWebブラウザで見ることができる
- 工事現場で今の進ちょく状況を確認するときに、現場で撮った写真を本社の人間がすぐ確認することができる
- iPhoneに搭載されているボイスレコーダー機能を活用して、社内会議をiPhoneで録音して社内ですぐ共有する
- 位置情報を使って自分の現在地を伝えることができるので、お母さんが子供にiPhoneを持たせておいて防犯や迷子対策ができる
写真については、今まで携帯で写真を撮ってメール添付して送ったり、サーバーにアップロードして管理したりといった作業が必要でしたが、撮影した写真をすぐ見ることができれば、今の様子を瞬時に確認することができますよね。
―それこそメディアで活用できそうですよね。
三沢氏
そうですね。例えば何か事件があったときに、それを現地で撮影してそのままメディアに掲載するということもできます。ページの中で使用する画像のリンク先をiPhoneに付与したURLにしておけば瞬時に掲載可能です。
―開発の際に、一番苦労したことはどこですか?
三沢氏
サーバーには通常ユーザーインターフェイスは存在していないので、「サーバーのユーザーインターフェイスとは?」ということは悩みましたね。通常サーバーにはコマンドを入力してアクセスしますが、iPhoneはボタンが一つしかないこともあり、ページ上にボタンをたくさんつけることは難しいんです。そこでiPhoneの「振る」という機能を生かして、振ることで次に進めるようにしました。振ることでフォルダを作ったり、メモ帳に書いたり、データの削除をしたりといった機能を呼び出せるようにしました。
―マスコットキャラクターがかわいいですね。
三沢氏
ありがとうございます。iPhone用のアプリケーションはアップルのリンゴをモチーフにした赤いキャラクターに、Windows Mobile用のアプリケーションはビジネスマンが利用することを想定して緑色でメガネをかけたキャラクターにしました。ちなみに、ここに置いてあるぬいぐるみは女性社員の手づくりなんですよ(笑)。
―それはすごい(笑)。そもそも名称も「ServersMan」ってユニークですよね。
三沢氏
名称もこだわりました。もともとServersManは英語的にはおかしい言葉です。だけど、アメリカでは「名前がおかしい」というところをフックにサービス展開できるんですよ。それに、うちの会社の取締役に元ソニーの出井さんがいらっしゃるので、ウォークマンにあやかった部分もありますね(笑)。
―ServersManのビジネスモデルは、どういったものを考えていますか。
三沢氏
まだ検討段階で具体的には決まっていないのですが、例えば無制限オプションや独自ドメイン取得に課金するとかですね。ホスティングサーバーがiPhoneになるということですが、なかなか32GBのホスティングってないですよね(笑)。しかも費用はiPhone代(=携帯代)だけで済みますからお得です。
そして、ゆくゆくはこのServersManをプラットフォームとして開放して、その上で動くアプリケーションに対して課金できないかとも思っています。ただ、プラットフォームとしてServersManを活用するにはまだまだインストール数が少ないので、とにかく今は無料で配布してそこからどう展開していくかを考えていきたいですね。
―とてもいいサービスですけど、やはり今後「どうやって普及させていくか」ということですよね。
三沢氏
キラーアプリケーションが出てくるともっと普及するかなとは思っていますね。ただ、iPhoneをサーバーとして使える利点をうまく活用してほしいと思います。
よくよく考えてみると1998年当時のサーバーの性能をすでにiPhoneは超えていますから、論理的にはiPhoneの性能はサーバーとして活用するのに十分なんです。それに現状のサーバーは、電力問題、熱問題、スペース問題、IPv4アドレスの枯渇問題などがありますが、ServersManをインストールしたiPhoneをサーバーとして使えば、ファンは必要ないですし、スペースもとらないし持ち歩けます。IPv6にも対応済みなのでIPv4アドレスの枯渇問題も大丈夫です。そういった意味でも、ServersManは今までのデータセンターやサーバーのあり方に一石を投じていると思いますね。
―ラックはほんとに小さいですね(笑)。
三沢氏
ラックも社員の手作りなんですよ(笑)。
―もしかしたらソフトバンクはサーバー屋さんになっちゃうかもしれませんね。
三沢氏
そうですね。近いうちにソフトバンクショプにこれよりももっとかっこいい、アップルのマークが入ったラックがたくさん積まれるようになるかもしれませんね(笑)。
―まじめに、iPhoneの余った容量の活用法のひとつにもなるかもしれないですよね。
三沢氏
そうなんですよ。iPhoneを持っている人は結構「iPod touch」も持っている人が多い。ただ、iPhoneを持ってしまうとそればかり使うので、結局iPod touchが眠ってしまう形になるんですよね。その容量を有効活用するためにServersManをインストールしておけば、自宅のiPod touchにアクセスしてデータをやり取りすることができますよね。
―ところでGoogleの「Android」での展開の可能性はどう考えていますか?
三沢氏
実は今、ちょうどAndroid版ServersManを作っています。Androidのメリットは何といってもOSが無料なこと。なので、今後いろんなデバイスに載る可能性が高いですよね。また、Android版などの携帯端末だけではなく、さまざまな家電にもServersManを載せていこうと考えています。ビデオカメラとか、HDDとかに電源が常時入っていれば、ServersManを搭載することでそれらをサーバーとして使えます。外出先から自宅で録画した番組を見ることも可能になります。
―ついにホームサーバーの時代がおとずれますね。
三沢氏
そうですね。それにServersManの場合サーバーはどこにあってもいいわけですから。さすがに1TBのデータを送ってくれといっても無理ですけど、その機器のデータにアクセスするのは簡単ですからね。
―写真のやりとりでよく使用する無料ファイルサービスも容量制限がありますし、何よりも遅いですよね。
三沢氏
そういう問題は解消できますよね。さらにデータを取りに来るだけでなく、ServersManを使うことでデータを発信することもできるようになり、使い勝手が良くなると考えています。例えば、田舎にいるおばあちゃんの家にあるフォトフレームに、自分が今撮影したデジカメの写真を見せるといったこともできるようになりますよね。今までは1台ごとにUSBメモリを挿して表示する写真を更新する必要がありましたが、そういった手間が不要になりますしね。
―App Storeのランキングで1位になったそうですが。
三沢氏
まだ今年の1月にリリースしたばかりですが、7月現在iPhoneのみで約4万ダウンロードまで達しました。App Store全体で2位に、仕事効率化部門では1位になったこともありましたね。
最初は日本だけでサービス展開を始めたのですが、アメリカを始め世界中から「日本でこんな面白いサービスを始めた会社があるぞ」と注目していただき、ブログなどにもたくさん取り上げていただきました。「アメリカでは3月にリリースされるぞ」とかまだ何も発表していないのに勝手に話が進むことも(笑)。ただ、それがきっかけになってアメリカでも展開しようと決めました。
ServersManはWindows Mobileでも展開していますが、アメリカではWindows Mobileが搭載された端末もたくさん普及しています。Windows Mobileは特に中国では人気。中国でも展開していこうと思っています。
―ServersManの今後の展開について教えていただけますか。
三沢氏
デバイスについてはiPhone、Windows Mobile、Android以外にも、NASなどの開発を手がけています。今後常時接続できるようなデバイスが増えていけば、その都度増やしていくつもりです。さらに、「ServersMan mini」というものをビデオカメラやデジカメなどに搭載して、それらの機器にもServersManの機能をつけて普及させていく予定です。
―それ以外の展開として何か考えていらっしゃることはありますか。
三沢氏
世の中の流れはクラウド化していっていると思いますが、その逆の流れもあります。先日発表されて世間をにぎわせたOpera UniteでもWebブラウザを起動するとそのパソコン自体がサーバーになるという機能を搭載していました。データを“あちら側”のクラウドに預けるのではなく、自分のPCに必要に応じて直接取りにきてもらうという切り口はServersManと似ていますが、Opera Uniteはルーターに穴をあけて動作するので利用できない環境が多いのが欠点。その点弊社はVPNの技術を応用しているし、技術的に優位だと思っていますね。
あとは、デベロッパーに向けて「WEBサービスと組み合わせて活用してください」と説明しています。われわれはServersManをプラットフォームとして考えているので、アイデア豊富なデベロッパーさんに使っていただきたいと思っています。
ちなみにOpera Uniteのサービスが始まったときに、GMOインターネットの熊谷さんが「こんなすごいサービスが始まった」ということをtwitterで紹介されたんですね。そしたら、それに対して元ライブドアの堀江さんが「確かにすごいけど、フリービットがやっているServersManのほうがもっとすごい」というコメントを書いてくれたことがあったんです。そのようにServersManの可能性に気づいてくださっている方は多いと思います。
今回のキーワード:パーソナル・データセンター 昨今のインターネットはサーバーにあるデータにアクセスするだけの“ダム型”の構造。ServersManはiPhoneを始め、あらゆる機器をサーバーにする“パーソナル・データセンター・プロダクト”。ServersManによって個人の持つ携帯電話や家電が“データセンター”になり、あらゆる機器が自由自在に通信可能となる。 |
7月29日に開催される第100回「Eビジネス研究会」のEビジネスマイスターとしてフリービットの三沢氏が登場します。詳しくは、こちら。
2009/7/23/ 09:00