「1000万人が受験した検定共有コミュニティ」学びing斉藤社長


 今回のEビジネスマイスターは、日本最大級のオリジナル検定共有コミュニティ「けんてーごっこ」を開発し、先日、総受検者数が1000万人を超えたという、学びingの斉藤社長にお話をお伺いしました。


Eビジネスマイスター:斉藤 常治
学びing株式会社 代表取締役社長


1961年岩手県生まれ。1991年から14年間、大手予備校の教育ソフト開発会社に勤務。2004年、取締役副社長兼ヘッドマスターとして、eラーニング事業の戦略/戦術の総責任者を兼務しながら、「日本初のナレッジワーカー対象のマクロメディア専門スクール」を立ち上げる。2005年8月大手ネット広告会社子会社に入社。事業開発本部 本部長として、大規模コミュニティブログやSNSの営業と、ネット口コミマーケティング、ネットプロモーション等マーケティングを担当。
2006年10月 学びing株式会社を設立。


―斉藤さんは、学生時代何かビジネスをされていたんですか。

斉藤氏
 起業していたというわけではないですけど、アルバイトは一生懸命やっていましたね。家庭教師とかコンビニでのアルバイトもやりましたけど、一番真剣にやったのは旅行会社のツアーコンダクターですね。


―もともと旅行はお好きだったんですか。

斉藤氏
 そうですね。国内のみですが、このバイトは基本的にタダでいろんなところに行けるということが一番の魅力でしたね。確かに、行かなかったところはないというくらい日本中ありとあらゆるところに行きましたけど、仕事は大変で見ると聞くでは大違いでしたね。


―ツアーコンダクターのアルバイトは具体的にどんなお仕事をするんですか。

斉藤氏
 バスガイドさんと運転手さんと一緒にお客さんへのすべてのおもてなし対応をします。例えば、お昼ごはんや宿の部屋割りの手配の確認や宴会の準備といったありとあらゆることですね。旅行当日までのことは旅行会社がすべて手配しているので、当日のアテンド役ですね。


―斉藤さんがツアーコンダクターのアルバイトをされていたのって、もう20年以上前ですよね。今と昔で旅行業界の違いを感じることってありますか。

斉藤氏
 当時はネット予約はありませんでした。だから、100パーセント店頭や電話で切符を発券したり予約したりでしたから、情報が多いようで少なかった時代でした。旅行会社の人から聞く話か、プロの人が書いた情報を信じるしかなかった。でも、今は旅行会社のサイトもたくさんあるし、宿一つでも、食べ物一つでも、観光地一つでも口コミ情報がある。生の姿がわかるようになりましたよね。


―そうですね、今はいろんな旅行に関する情報があふれていますよね。

斉藤氏
 そのせいかユーザー側が本当に欲しい情報を探すことが大変になったような気がしますね。例えば、ポータルサイトに宿の評価がいろいろと書かれていますけど、一方個人のブログにも評価が書いてありますよね。

 ただ、ポータルサイトに評価を書くとインセンティブでポイントがもらえたりするので、イイことしか書いていないかもしれないから、何のインセンティブもなく自分のブログで評価を書いている人の情報の方が真実味が高いかもしれない。情報があふれすぎちゃっていて、真偽があやふやになっていますよね。


―大学卒業した後は、就職されたんですか。

斉藤氏
 いえ。実は事情があって大学を3年で中退しました。中退後、いわゆるコミッションセールスといわれるような厳しい営業をやっていましたね。お金がなかったので、とにかくお金が稼げる仕事に就こうと思ったので。最初は本当に大変でしたけど、徐々に営業成績も全国でも上位クラスになりました。


―そのあと転職されたんですよね。きっかけは何だったんですか。

斉藤氏
 勤めていた会社の事務をやっていた今の妻と結婚したことですかね。結婚後、小中学生向けの補習塾で4年くらい講師をやりました。その塾が、パソコンを入れることになり、そこで初めてパソコンというものに触れました。「これは面白いな」と思いましたね。

 当時のパソコンは8色が出る程度。今考えると本当に貧相な画面で、味気ないんだけど、子供たちが食い入るようにそのパソコンを使って勉強するんです。「将来パソコンを使って勉強する時代が来るんだな」ということを思い始めましたね。


―なるほど。それで、大手予備校に転職されたんですよね。

斉藤氏
 「こういった教材をぜひ作りたい」と思って転職を決めました。いくつかの大手予備校がパソコンを使った教育に取り組もうとしている時代ということもあり、その中から駿台グループのSATT(Sundai Advanced Teaching Technology)に転職することにしました。しかし、入社してすぐに、それまでのインハウス的な試験研究の会社から、外部からも売上を目指す会社に状況が変わりました。当時は営業ができる人間がほとんどいなかったので、私がその担当に指名されました。駿台といえばやはり教育ノウハウが売りになると考え、必死に戦略や戦術を考え、実行しました。それらが、eラーニング事業に発展し、外販主体の会社になるまで14年間この会社で働きました。


―でも、せっかく副社長にまでなったのに、どうして転職しようと?

斉藤氏
 タイミングですね。2005年にお世話になったマクロメディアがアドビに買収されるタイミングと、長年私が仕えていた社長が退任するタイミングが重なったんです。それに、eラーニングというのは「eってついている割には、ほかのeビジネスと比べると全然スケーラブルじゃないな」と思ったんですね。eビジネスとかネット広告はすごいのに、同じeなのに「なんでeラーニングは、大きくもうからなくて苦労するんだろう」って思いましたね。たぶんやり方と業界が悪いんだろうと思って、転職しようと。それが43歳のころでしたね。


―その後、ホットリンクとの出会いがあったわけですね。ホットリンクに転職しようと決めた理由は?

斉藤氏
 ベンチャーで働くことで今までの働き方とは180度変わるだろうなとなんとなく感じていました。それまで働いた会社はベンチャーではなかったので、今でいうIPOやストックオプションといった株に関するものを知らなかったので、新鮮でしたね。


―ホットリンクではマーケティング担当をされていたということですが、主にどういうお仕事をされていたんですか。

斉藤氏
 ブランド力をアップさせるために、商品やサービスの売り上げに貢献するマーケティング活動です。主にはセミナーやPRですね。


―入社されてから、今までの会社とのギャップなどを感じたことはありましたか。

斉藤氏
 一番衝撃を受けたのは、やはりeラーニング業界とネット広告業界って、こんなに違うのかというギャップですね。入社前はまったく知識がなかったんですけど、ホットリンクやオプトで学んだネット広告の手法や口コミに関する技術や広告手法だけでなく、そこで出会った天才的な人々との出会いなど、驚きの連続でしたね。ちょうどホリエモンが有名になったころということもあって、業界全体のドラスチックさがあまりにもすごすぎて「今までサラリーマンとして、働いていたことが何だったんだろう」って思うくらいでした。


―そこから起業に至る経緯を教えていただけますでしょうか。

斉藤氏
 何となく自分は、会社に貢献できていないなと思っているときに、eラーニングとネット広告の仕組みを合体させた今のビジネスモデルの構想が、漠然と浮かんではいました。当時、オフィスの移転が決まり、これもタイミングと思い辞めることにしました。


―起業するビジネスモデルが確立してから、辞めたんですよね?

斉藤氏
 いえ。ビジネスモデルが確立する前にやめましたね。それ以上に、素直に起業したいと思ったんですよ。


―起業するまでは時間がかかったんですか?

斉藤氏
 会社を辞めてから3カ月後くらいに起業しました。知りあいのプログラマーに自分のビジネスモデルを話したりしながら、ビジネスモデルを固めていきました。そのメンバーに役員に入ってもらって、3人で会社を立ち上げました。


―その時考えたビジネスプランは、現在のものとほぼ同じようなものだったんですか。

斉藤氏
 そうですね。「けんてーごっこ」は起業するにあたって最初に考えたビジネスモデルです。eラーニングは学習履歴を膨大にサーバーに蓄積しています。それに前職で学んだネット広告の技術を活用して、学習履歴に広告を配信するというモデルです。学習履歴は、学習している人間にとっては学習する上でのモチベーションにつながるので、そういうところに広告が打てたら効果的だと思いました。また、「人にものごとを伝え、理解しもらう」という目的において、「広告」と「教育」は非常に高い類似性を持つと考え始めたころでした。


―「けんてーごっこ」の仕組みを解説していただいてもよろしいでしょうか。

斉藤氏
 けんてーごっこには2種類のパターンがあります。無料版と有料版(タイアップ版)ですね。検定(ミニクイズ)を作るには、フォームに入力してOKボタンを押すと、Flashのブログパーツに変換され、検定が完成して、公開することができます。無料版には広告エリアがあって、その検定のタグにあわせて広告が表示できるようになっています。


―けんてーごっこのユーザー層は?

斉藤氏
 ユーザー層は、女性が6割、男性が4割ですね。総受検者数は1000万人を突破しました。


―今、掲載されている検定は、どのくらいあるんですか。

斉藤氏
 検定数が2万弱です。例えば、映画のレッドクリフがはやれば、三国志検定がはやるといったように、そのときの旬のものが出てきますね。テレビ局さんからも話をいただくこともあるんですよ。


―検定って作ってもお金がもらえるわけじゃないんですよね? いったいどんな人が検定を作っているんですか。

斉藤氏
 実はテレビの人気クイズ番組の放送作家さんが作っていたりするんですよ。別にこちらからオファーしてお願いしているわけではないんですけど、「なんでノーギャラでけんてーごっこをやるんですか」と聞くと、「けんてーごっこって、日々、カウントアップやコメント、評価がもらえるのが面白いから」って言うんですよ。作ること自体が楽しくなってくるそうなんです。


―なるほど。「けんてーごっこ」はほかに特徴的なところはありますか。

斉藤氏
 けんてーごっこは、人を集めてバナー広告だけで利益を得ようということではなくて、実はさまざまなビジネスモデルをちりばめているんです。現在1日あたり平均20~30の検定が増えています。例えば、ドラゴンボールに関する検定だけでもたくさんあるんですよね。そのドラゴンボールというキーワードやタグを持っているものすべてのブログパーツに広告が打てる仕組みになっています。

 今でいうターゲティング広告に近いですけど、個人情報をとらずに検定を通じてユーザーの趣味趣向を知ることができるんです。つまり、検定はその人の好みを図るために用意しているコンテンツなんです。


―ただ、こういった媒体の場合、広告主を探すのは大変じゃなかったですか。

斉藤氏
 多少は苦労しましたけど、リリースしてすぐ大口の広告主と巡り合いました。第一号の広告出稿者は日経新聞だったんです。現在は、ほとんど広告代理店経由での注文です。


―ユーザーはどういう経路をたどって検定を受けにくるんですか。

斉藤氏
 GoogleやYahoo!などの検索エンジンでは、激戦の「検定」というキーワードでは、だいたいベスト3に入っています。検定ブームもあって、自然検索から流入しているユーザーも多いですけど、ブログパーツからの流入も少なくありません。ブログ貼り付け用のタグが用意されているので、それを自分のブログに貼ってもらえば、そこから誘導が図れるんです。ブログパーツはサーバと連携していますから、検定を受験した人の中で自分が何位だったのか検定結果も表示されます。80点以上取るとブログパーツで認定書も表示されます。

 ブログはテキスト部分を読まないとその人の好みがわからないですけど、アニメの認定書がブログにたくさん貼られていれば、パッと見で「アニメファンなんだ」ということがわかりますよね。そして、そのブログパーツを見て面白いと思った人が、自分のブログにブログパーツを貼る。そうなると倍々にブログパーツが増えていきますよね。そうやって流入口を増やしていくんです。


―広告としてはどういった点がウリになっているんですか。

斉藤氏
 広告バナーなどのネット広告が、踊り場に入り伸びが鈍化している中、「けんてーごっこ」は、伝えにくかった新商品の情報や魅力についてオリジナル検定を作成し手伝えていくという手法です。教育、エンターテインメント、広告の要素をミックスした「エデュテイメント・アド」手法というものです。

 ブログパーツも広告メニューの一つみたいなものですね。普通のバナー広告のクリック率は0.1~0.2パーセントなんですけど、けんてーごっこのブログパーツは、時には10パーセントくらいになることもあります。


―この「けんてーごっこ」にクラウドコンピューティングの技術が使われているそうですね。

斉藤氏
 そうなんです。もともとはコスト削減を目的に導入したんです。1年半ほど前に、当時、ブームだった「Second Life」のインフラで使われていたクラウドコンピューティングサービス「Amazon EC2/S3」を研究して、使い始めました。けんてーごっこは、クラウドを活用して動いている事例サイトなんです。このノウハウもビジネス展開しています。

 例えば、1~2カ月の期間限定サイトを立ち上げる場合でも、物理サーバーの初期費用と月額費用を払わないとならない。でもレンタルサーバってたいてい6カ月~1年契約ですから、サーバーを使ってない期間も払わないといけない。それにせっかく入れたサーバーも、サイトが急に人気になったら一気にパンクです。

 こういった場合、クラウドサーバーであれば、従量制ですから1カ月単位でも1日単位でも使えます。1台のサーバーを100台にすぐ増強するスケールアウトもできる。ピークが過ぎれば、それを減らすこともできる。クラウドを使えば今までみたいにITリソースをピークに合わせて作り上げる必要がないんです。クラウドが発展しているアメリカではこういった成功例がたくさんあります。つまりコスト削減というのは、最初はスモールスタートで、アクセス数や人気に合わせてスケールアウトしましょうという意味ですね。


―今後はどういった展開を目指しているんですか。

斉藤氏
 弊社が目指しているのはテクノロジーにも強い「インタラクティブエージェンシー」です。今弊社は、広告もページ制作も広告配信も媒体運営も全部できるので、そこを最大限に生かしていこうと思っています。メディアでもあり広告代理店として登録もしているので、他媒体とけんてーごっこを組み合わせたハイブリッドの出稿が可能ですし、紙媒体やサイネージ、モバイルのクロスメディアもやりながら、ITインフラの提供も行っていきたいと思います。


―なるほど、さいたまの期待を背負って、世界に羽ばたいてください。本日は、どうもありがとうございました。




今回のキーワード:エディテイメント・アド
教育(Education)+楽しさ(Entertainment)+広告(Advertisement)を組み合わせた造語。
楽しみ(エンターテインメント)を提供するインターフェイス(クイズ)を通じて企業の伝えたい情報を正しく伝え(啓蒙)、理解させる(教育)ことで企業のプロモーション(広告)効果を最大化させることが可能。また、クロスメディア展開により、多角的な「ユーザーとの“きずな”深める」コミュニケーションコンテンツ化が可能。




聞き手:木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』として ITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサル ティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES- Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタ ルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2009/9/17/ 09:00