「よりユーザーに近いメディアとしてガジェットに注力」アップフロンティア花本社長


 「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所代表理事の木村誠氏がさまざまな話をうかがいます。今回は、アップフロンティア株式会社 代表取締役社長の花本浩氏に話を伺いました。


Eビジネスマイスター:花本 浩
アップフロンティア株式会社 代表取締役社長


卒業後、クリエイティブハウスのPOPCORN INC.(東京)、SPプランニング会社mik planning Inc.(東京)を経て1999年渡米。米国Promotions.comと契約後、日本で株式会社プロモーションズの設立にCOOとして携わる。
プロモーションズでは、「ちゃっかリーナしっかリーノ」はじめ、広告メディア事業や、フジシール社と共同事業「キャン・パス」をはじめとしたキャンペーンソリューション事業の立ち上げなどを行う。
2005年、アップフロンティア株式会社設立。デスクトップの常駐アプリケーション「ウィジェット」を軸にした新たな事業展開を行っている。


―花本さんのアップフロンティア設立までのご経歴を簡単に教えていただけますか?

花本氏
 大学卒業後、広告制作会社に入社し、その後SP系広告会社にて主にIT分野での広告、マーケティング領域のテーマに多数かかわりました。1999年に渡米しTK Associates International, Inc.(米国)にて、Promotions.comの日本国内での展開マーケティングプランを作成したことをきっかけに、帰国後PMとして同社と契約、同社日本法人の立ち上げ準備をしました。

 ただ、ちょうどそのころドットコムバブルがはじけたことから海外拠点が撤収されることになり、日本での事業を商社系IT会社にバイアウトする形で、株式会社プロモーションズを設立しました。プロモーションズでは、取締役としてメディア事業を軌道に乗せるとともに、ソリューション事業の立ち上げなどをするも、2005年にグループ会社の再編を機に退任し、新たに自分自身で事業を立ち上げる決心をしました。


―学生のころからこういったビジネスに興味があったのですか?

花本氏
 学生時代は文学部だったこともあり、まったく経済や経営に興味なく、好きな本ばかり読んでいましたね。大学卒業後は広告に興味をもっていたので、まず広告を作る側として制作会社に入ったんです。ただ、実際に入ってみると広告のクリエイティブの世界だけでは物足りなさを感じるようになりました。「もっとこうしたい」と思うようになってくると徐々にプランニングやプロデュースに興味を持ち、転職しました。


―アップフロンティア設立の経緯を教えてください。

花本氏
 もともとプロモーションズで仕事をしていたころから、すでに当時のデスクトップツール(今のウィジェット)を領域としたビジネスが何か展開できるのではと思い、これを使って新しいビジネスをやっていきたいという話はしていましたが、グループ会社全体の整理や事業再編のなか、新規の事業展開などができない状況にありました。「だったら自分でやりたいことをやるために自分で独立しよう」と思ったんですね。

 ただ、独立するにあたってはいろいろなことを考えなければならないので、資金面だけでなく、共に事業を成長させていく仲間がいなくては会社という組織は非常に脆弱(ぜいじゃく)なものでしかないという信念があり、現在の取締役の二人に声をかけ、何度も事業の可能性や将来について話をし、会社設立を決めました。その上で、資金面でも自分たちだけでなく携帯系IT会社からも資本を仰ぐ形で2005年12月に設立しました。


―なぜ「ウィジェット」に注目されたのですか。

花本氏
 プロモーションズのときにもメディア事業を展開していましたが、どうしてもサイトをメディアとして活用することの「限界」を感じていました。それなら新しい切り口を何か考えていこうと思ったときに、「よりユーザーに近いところで何か勝負できないか」と思うようになりました。だったらサイトでメディアを作るのではなく、サイトではないところでメディアを作れないかと思い「デスクトップツール」を活用することを考えたんです。その段階ではまだWeb 2.0といった考え方はなかったのですが、当時アメリカでYahoo!がデスクトップのアプリケーションのベースエンジンを開発している会社を買収したり、新しいOSとして開発されていたWindows Vistaにデスクトップツール(ガジェット)が標準で搭載されているという話もあって、今後の可能性が見込めました。


―会社設立後、どういうふうに事業を展開されたのですか。

花本氏
 デスクトップの可能性を検証するため、まずは企業からの受託でウィジェットを作っていました。ただ、ウィジェットがマーケティングで使えるということを当時あまり認知されていなかったこともあり、会社設立当初は営業がなかなか大変でしたね。作ったウィジェットを見せて、RSSやXMLなどを使ってユーザーに情報をプッシュするツールとして使うことで、どういった使い方やメリットがあるかという話をしながら営業をしていました。でも、当時はなかなかおもしろいといってくれる人は少なかったですね。

 ただ、複数のアプリケーションを立ち上げるということに対してパソコンのスペックにずいぶん余裕が出てきたことと、常時接続が確立されてきたことから、こういったツールが現実的に使いやすくなってきました。そうなると徐々に実績も増えてきて、世の中の関心度やニーズが出てきました。逆にウィジェットの実績がある会社がほとんどなかったことから、お問い合わせをいただくことが多くなりました。


―ウィジェットの活用法について、教えていただけますか。

花本氏
 ウィジェットの用途としては、企業が活用する場合は、大きく分けて「プロモーションとしての活用」とユーザーにリテンションをかけていくための「マーケティングツールしての活用」の2つがあります。

 プロモーションとしての活用事例としては、典型的なものは映画のプロモーションですね。例えば、弊社で手がけた「ゲゲゲの鬼太郎」や「ALWAYS続三丁目の夕日」といった映画では、話題性を引き出すためにブログパーツやウィジェットを展開しました。特に「ゲゲゲの鬼太郎」の場合は、デスクトップ上で小さな“目玉おやじ”が動き回る姿がかわいいということもあって、ブログなどで取り上げられて口コミなどで大きく広がりましたね。

 マーケティングツールとしての活用事例としては、ECサイトでの展開ですね。例えば「日比谷花壇」の場合、一度ECサイトを利用した方にウィジェットをダウンロードしていただいて、デスクトップ上で日替わりで花の写真が変わる仕掛けを展開しました。それであれば毎日デスクトップにおいてあってもユーザーとしても苦にならずむしろ楽しめますよね。そして、その時々でサイト側から情報を配信して、それをきっかけにサイトに再訪していただいたり、物を購入していただいたりといった仕組みです。いわばお客さんとの専用メーラーみたいなもので、お客さんと企業側のコミュニケーション手段として使うことができるのです。


―ほかに活用事例はありますか。

花本氏
 アンケートサイトやポイントサイトなどの場合は、ID・パスワードを持っている固定のエンドユーザーの利用率をあげるための施策として活用することもあります。最近の若い世代は、メーラーでメールを見ないでWebメールを使っているケースが多いため、リアルタイムでメールを確認しないんですね。個人的なメールは携帯を使いますし。昔はメールを送るとすぐ反応があったのですが、メール一辺倒ではなかなか成果が出ないということもあり、メールの効果を補うツールとしてウィジェットを活用します。例えば、自分を対象としたアンケートのお知らせがあったら、デスクトップ上にポップアップ表示されてメーラーを立ち上げなくてもお知らせを確認できるような仕掛けを作りました。そうやってウィジェットを活用することで、実際にユーザーの回答率が増えたという効果も出ています。


―御社独自の事業について教えていただけますか。

花本氏
 まずは「今日のナカツリ」ですね。出版社から提供される電車の中づり広告を発売日当日にブログやパソコンのデスクトップに自動で配信する無料のサービスです。雑誌の中づり広告をコンテンツとして、その間に一般企業の交通広告を入れています。当初はデスクトップツールとしての展開のみでしたが、ユーザーの一番身近なところでやらないと意味がないと思って「携帯Flashサイト」「iPhoneアプリ」など8つのツールにも対応しています。事業としてはまだまだですが、このサービスを見た方から新しいお仕事の相談をいただいたり、この仕組みを使って別のことができないかといったお問い合わせをいただいたりするようになりました。もともとさまざまなウィジェットプラットフォームや携帯などのデバイスに対応し、企画・開発のためのノウハウ蓄積としての意味も含んでスタートした事業ですが、そういった意味では「今日のナカツリ」が会社の看板として機能しているところもありますね。


―「天気予報APIサービス」もされているんですね。

花本氏
 天気予報APIサービス事業は財団法人日本気象協会との共同事業です。天気予報や天気に関するさまざまな指数情報などをウィジェットやブログパーツなどから利用するためのAPIを提供するサービスです。APIの形でアプリケーションをユーザーが自由に加工して使えるようにしています。3年後、5年後のビジネスを念頭に置いてスタートした事業なので、今後大きな展開を期待しています。また、6月からはアプリ開発コンテストなどを行って広く認知を高めていく予定です。


―御社が運営している「widgetown(ウィジェッタウン)」とはどういったサイトですか。

花本氏
 一言でいうと国内初の総合ウィジェット情報ポータルサイトです。Yahoo!はYahoo!ウィジェットのギャラリーがあったのですが、widgetown はVistaガジェットなど、現在は約20種類のウィジェットのプラットフォームを網羅したサイトになっています。また、ウィジェット利用ユーザーだけでなく、ウィジェットの開発者に向けて、ウィジェット公開・管理サービスや解析ツールを無償で提供したり、また、ウィジェットの提供企業も無償でプロモーションできる場として活用することができます。こういったサイトを作ることによって、ウィジェットのデベロッパーネットワークを作りたいという意図も含んでいます。


―今後の展開として考えていることを教えていただけますか。

花本氏
 デスクトップから始まって、携帯・iPhone、さらにTVやカーナビでのウィジェット展開といった話もあります。基本的にディスプレイがあるところにはウィジェットは使えるという考え方もあり、最近ではデジタルフォトフレームにも展開するような話も出ています。機能を提供側が一方的に与えるのではなく、ウィジェットを取捨選択する形で利用者が機能をセレクト・カスタマイズしていくという考え方が次第に広がりつつあります。また、ウィジェット自体がネットワークと連携することで、デバイスを気にせず、自分の機能やコンテンツを持ち運ぶスーツケースとしてどこでも利用できるものになっていくとも考えています。

 ただ、その過程の中では、できるだけ多くの案件やプロジェクトにかかわり、それぞれのプラットフォームやデバイスでの成功や失敗を積み重ねる中で経験を積むことで、自分たちが想像していなかった成長が見込めるのではと思っています。


今回のキーワード:ウィジェット
ウィジェットとは、アプリケーションソフトやPCのデスクトップなどで利用できる小規模なアプリケーションのことをいう。一般的にデスクトップツール、ミニアプリ、単にガジェットとも呼ばれる。プロモーションツールとしての活用のほか、メールソフトを介さずにユーザーにアプローチをかけることができることから、既存顧客のリテンションを上げるための施策の一環として活用されることもある。




聞き手:木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』として ITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサル ティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES- Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタ ルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2009/6/25/ 09:00