プーペガール森永社長が目指す「ファッション誌読むよりプーペガール」の世界


 今回のEビジネスマイスターは、これまでで初となる女性社長の登場です。しかも、入社4年目という若さで、しかも“美人すぎる社長”としてちまたでも話題のプーペガール森永社長。どんな方かとおもい、話し始めて数分で、実に順応性の高い人だと気がつきました。業界の雄であるサイバーエージェントにおいて、女性向けのファッションに特化したSNS「プーペガール」にどのようなきっかけでかかわり、好調を維持しているのかお伺いしました。


Eビジネスマイスター:森永 佳未
株式会社プーペガール 代表取締役社長 兼 主宰


2006年、京都大学卒業。同年4月、株式会社サイバーエージェント入社。人事本部、社長室を経て、プーペガールサービス立ち上げに携わる。2008年3月、子会社化に伴い、入社2年目にして社員1,800名ほどの中から代表取締役社長に抜てき。現在、エンジニア、デザイナーら男女15人のスタッフを率いる。


―大学時代は京都にいらっしゃったということですが、何かビジネスのご経験はおありだったんですか。

森永氏
 全然ないんです。大学行って、アルバイトして、という普通の女子大生でしたね。


―アルバイトは何をされていたんですか?

森永氏
 一番長く働いたのはアイスクリーム屋さんですね。あとは、居酒屋とかホテルのレストランなどで働いていました。女子大生の定番アルバイトです(笑)。


―なるほど、そこまでは見た目どおりの普通の女子大生といった感じだったんですね。

 そこからサイバーエージェントとは、どうやって出会ったんですか。

森永氏
 もともと大手のメーカーなどを志望していたんですけど、なかなかしっくりこなくて。サイバーエージェントは大学の就職合同セミナーで知ったんです。それまで名前も聞いたことがありませんでしたけど、説明を聞くうちに若いうちから裁量権を持って働いている社員が多いことにひかれ、サイバーエージェントにくぎづけになってしまいました(笑)。


―京都といえば、はてなやゆめみ、ドリコムなどなど、京大出身の社長や活躍しているネット系の企業も多いですが、そういったところには興味はなかったんですか?

森永氏
 すごく東京に出たかったので、就職先は東京と決めていました。私自身は広島出身なんですが、大学も京都に住みたいという理由で京都の大学を受験しましたから。


―なるほど。そうすると「野心をもって東京に出て一旗揚げてやろう」という感じだったんですね

森永氏
 そうかもしれないですね(笑)。実際、関西の人は関西で就職したいと思っている人が多かったですね。


―森永さんは、環境に合わせて柔軟に自分を変化させることができるんですね。

 2006年にサイバーエージェントに入社されて、はじめは人事本部ではどんなお仕事をされていたんですか。

森永氏
 新卒採用を担当していました。2008年の新卒採用を担当したんですが、ちょうど2008年から新卒でエンジニアを採用しようという試みが始まったのです。会社としても初めての試みだったので自分でエンジニア採用をやりたいと立候補しました。入社してから秋までは総合職採用やインターンシップの採用などを担当していたんですけど、秋からは2008年度のエンジニア採用に専念して、「どんなセミナーをするか」「どんな採用方法をとるか」などを考えさせてもらいました。これはすごくいい経験になりましたね。

 結果的に、当時採用することができた人材はみな活躍しているのでよかったです。


―人事本部で活動をしたのち、社長室に異動されたんですよね。

森永氏
 はい。もともと事業に携わりたいと常々思っていて、その前段階として営業をやりたいと考えていたんです。人事本部では、自分で考えて動くということを経験させてもらったんですけど、やはり事業に携わりたいという思いが強くなって、上司に相談していたんです。その上司が秋に社長室に異動になっていて「じゃあ社長室に来る?」という話になり、新卒採用が一段落ついた2007年6月に異動になりました。


―社長室ではどんなお仕事をされていたんですか。

森永氏
 私が異動したころは、ちょうど「Ameba」を藤田(サイバーエージェント代表取締役社長CEO)が直接見ていたころだったんです。なので、社長室の人間は藤田のもとで「Ameba」をどうやって盛り上げていくか企画を出しあっていました。

 「プーペガール」は2007年2月にできたばかりで、もともと「Ameba」事業部のひとつのサービスにすぎませんでしたが、藤田より、「プーペガール」の活性化を考えるよういわれてプーペガール担当の方々の定例ミーティングなどに参加させていただくようになりました。そのうちサービスを一緒にやっていきたいと思うようになりました。

 そしたら藤田から「異動する?」と言われて、その年の8月に異動させていただきました。きっと私が異動したそうな顔をしていたんだと思います(笑)。


―「プーペガール」は、もともとどなたが考えられたサービスだったんですか。

森永氏
 当時のプーぺガールの代表の渡辺健太郎(現:マイクロアド代表取締役社長)と、エンジニア・デザイナー数名で作りあげました。はじめは女性向けの小さなサービスを作ろうと、ある種のラボ的に「Ameba」事業の一部としてこっそりと展開していました。


―あ、あの渡辺健太郎さんが始められたんですね。そもそも、なぜ「プーペガール」というサービスを展開しようと考えられたんですか。

森永氏
 ちょうど女性向けのCGMが台頭してきたころだったということもあり、「ファッションの口コミサイトを作れないか」というところからスタートしています。コスメのCGMだと、テキストでみんなが口コミで書き込むだけで十分だと思うんですけど、ファッションの場合は着心地やデザインなども画像がないとわからないので、写真投稿がポイントになってくるだろうという話になっていました。

 ただ、日本人の女性にとっては写真を投稿することは結構ハードルが高いのではないかと思って。なんとか写真投稿のハードルを下げるきっかけはないかと思案したところ、思いついたのが「お人形の着せ替え」だったんです。


―プーペガールに異動してからは、どうやって活動をしていったんですか。

森永氏
 プーペガールは数名で担当していたんですけど、異動してから半年くらいたったころ、子会社化してもっとサービスを育てていこうという話になりました。そして、そのタイミングで代表をやってくれないかという話になって。子会社化したのは2008年3月ですね。


―すごい展開ですね。その半年間にいったい何があったんですか。

森永氏
 その半年は、プーペガールのテコ入れを地道にしていました。その半年の間で少しずつサービスが大きくなってきました。メンバー全員もっと「プーペガール」に責任をもって尽力するために、子会社化しました。その後、ありがたいことに、このように取材をお受けする機会が増えたりして、市場での認知度がどんどん高まってきてさらに大きくなってきました。


―プーペガールのサービス内容について教えていただけますか。

森永氏
 写真を投稿すると、お人形(アバター)の着せ替え用の服がもらえる、というのがプーペガールの基本的なサイクルです。


―写真を投稿するとお人形の服がもらえる、という流れがよく理解できないんですけど…。

森永氏
 自分の持っている服の写真を投稿すると、お人形(アバター)の服がもらえるんです。ただ、ワンピースの写真を投稿したからといって、写真と同じお人形用のワンピースがもらえるというわけではなく、こちらで用意している何千個のアイテムの中から何かしらがもらえるということになります。


―投稿した写真はどうなるんですか?

森永氏
 投稿したお洋服の写真は、自分のクローゼットとしてアルバムのように閲覧することができます。画面上で自分の洋服を見ることができるほか、ほかの人が最近どんな服を買ったのかを見に行くこともできますし、ほかの人が自分のクローゼットを訪れてコメントを残してくれるという流れになります。


―ミクシィなどのSNSとどう違うんですか?

森永氏
 ミクシィだとプロフィールや日記で「自分がどういう人間なのか」を表しています。一方、プーペガールの場合は、ファッションに特化したSNSなのでファッションに関係ない情報ははっきりいってしまうとどうでもいいんです。つまり、私がどんな服を持っていて、どんな着こなしが好きなのかということを表現するサイトになっています。

 例えば、プロフィールに、自分の好きな食べ物や本などを書く代わりに、自分の好きなブランドやファッションの情報を公開するんです。ユーザー同士も、自分とファッションの趣向が合うかという軸でつながっています。好みが合いそうだなと思ったら、メッセージを送ったり写真にコメントを残したりします。


―なるほど。ただ、ファッションという軸だけで実際につながることができるものなんですか?

森永氏
 確かに、写真だけではその人のファッション志向が伝わりづらいこともあるかもしれません。そこで「プーペガール」では、お人形の着せ替えを取り入れ、自分のファッション志向を表現できるようにしています。かといって、お人形はすごくおしゃれにしていても、実際はどんな服を着ているかわからないですよね。

 「プーペガール」の場合だと、お人形を見ておしゃれだなと思ったら、その人が実際に着ている服の写真も見ることができます。両方を見て自分とファッション志向が合うかどうかが判断できます。


―「プペとも」っていうのは、ミクシィみたいにリアルな知り合いとなるんですか。

森永氏
 リアルな友達に加え、先述したファッションの志向が合う人と「プペとも」になることもできます。リアルな友達でも最近買ったものを見せ合いたいというのであれば、一緒にやろうと誘うことができますし、「プーペガール」で自分が好きなブランドと同じブランドを好きな人と出会って友達になるというケースもありますし。

 「プペとも」になると、プペともが新しく更新した写真を見ることができるので、その人の情報をいち早く知ることができるというメリットがあります。そうすればいち早くコメントを残せるようになりますよね。褒められる時ってやっぱり自分と同じ趣味の人に褒められる方がうれしいと思うんですよ。よく女性がいう「男性に褒められるよりも辛口な女友達に褒められる方がうれしい」という感覚と似ていますね。

 男性でも、車好きの方は、車がよく分かっていない人に褒められるよりも、車マニアの中で褒められる方がうれしい、というのと同じ感覚だと思いますよ。


―ユーザーは「プーペガール」をどのように楽しんでいらっしゃるんですかね。

森永氏
 着せ替えが楽しくてバーチャル体験を楽しむ方と、自分や他人の持ち物を見せ合って楽しむという2つの楽しみ方があると思いますね。ミクシィの場合でも日記を見せ合って楽しんでいるように、何かを見せ合うということがモチベーションになるんです。「プーペガール」の場合は見せ合うものが「お互いのファッション志向」だということですね。


―あくまでも自分の服を管理するために使っているという方はいらっしゃらないんですね。

森永氏
 そういう使い方をされている方も中にはいらっしゃいますが、多くはないと思います。ただ管理するだけだったら家のタンスで管理することもできますし、写真を撮ったとしても自分のPC内だけで管理することはできますから。私自身もそこまでマメな方ではないので、人が見てくれたり褒めてくれたり、情報を得られるなど、何かしらのメリットがないと、ここまで多くのユーザーの方は集まってくれなかったと思います。「プーペガール」では、洋服の写真を投稿すると、ほかのユーザーの方からすぐにコメントがつきます。最初は、ただ、管理するだけに使っていたとしても、褒められるのがうれしくてつい投稿してしまう。


―第一号の広告出稿がルイ・ヴィトンだったと伺いましたが、ルイ・ヴィトンの出稿の目的は何だったんですか。

森永氏
 最初の広告として、ルイ・ヴィトンさまにご出稿いただき、新しい製品のプロモーションを展開しましたが、ユーザーの98%が女性で、ファッションに興味がある女性ばかりが集まっているという点で評価いただいたのだと思います。

 取り組みとしては、ルイ・ヴィトンさまのバッグと同じデザインのお人形用のバッグを作って、ユーザーに新商品をバーチャル体験させました。バナーで商品の写真を出すだけだとそれまでで終わってしまうのですが、実際に使ってみると「意外とデニムにもあうんだなぁ」等と新しい発見があったり、バーチャル試着室のような使い方ができるんです。


―実物のバッグでなくても、試着室と同じような体験ができるものなんですか。

森永氏
 お人形のバッグをかなり精巧に作りましたし、お人形に自分自身を投影されている方が多いですから、あくまでもバーチャルですけどそういった体験は可能だと思いますよ。さらにルイ・ヴィトンのバックを使ったコーディネートコンテストも開催して、何千通りもの着こなしがあるということをコンテンツとして見せる企画を実施しました。

 その後も、コーチ、ランコム、メイベリン、コーセーなどといった各ブランドからもご出稿いただきました。クライアントさまからは、「もともとファッションに興味がある女性しかいない場所でのプロモーションができる」という点で評価いただいています。ここにいるユーザーに新しい商品を知ってもらえれば、口コミが広がりやすいという狙いもあるんだと思います。



―なるほど。今現在のユーザー数やページビューはどのくらいあるんですか?

森永氏
 7月末でユーザーは45万人ですね。月間では3億ページビューくらいありますね。一人あたり1日平均200ページくらい回遊しているみたいですね。


―プーペガールのビジネスモデルを教えていただけますか。

森永氏
 広告と課金になります。広告は、先ほどのルイ・ヴィトンさまとのタイアップやバナー広告といった純広告とトラフィック広告からの収益になります。課金はプーペガール内で使用する仮想通貨を買うことで課金します。この通貨を使って自由にお人形の服を購入したりします。


―なるほど。一番売れているグッズって何ですか。

森永氏
 いつも置いていない期間限定のグッズなどはよく売れますね。リボンモチーフのグッズも最近はやりだったので売れましたね。


―例えば釣りゲームの場合だとよく釣れる釣りざおが売れるって聞きますけど、そういった感じと似ていますか。

森永氏
 そうですね。ただ、「プーペガール」の場合はゲームサイトではないので何かを攻略したいということではなく、「お人形をかわいくしたい」というモチベーションで楽しんでいる方ばかりなので、かわいいものやクオリティが高いものが売れるという感じですね。


―そういえば、この通貨が新しくなったそうですね。

森永氏
 そうなんです。今までは「プーペガール」の通貨は「リボン」一種類のみでしたが、新たに「ジュエル」という通貨が加わりました。リボンはこれまで購入することもアクションで無料でためることもできる通貨だったのですが、今後は無料でもらえる通貨という扱いにし、新たに有料で購入できる「ジュエル」という通貨を加えて、無料と有料の区別をつけることにしました。10ジュエル=25リボンで交換することもできます。

 「リボン」はサービス活性化のために写真の投稿などのアクションを行った際のインセンティブとして与えているのですが、「リボン」を増やし過ぎると課金が減ってしまうことになってしまい、収益のバランスがとりづらくなってしまうので、無料と有料をわけてしまうことによって、サービスの活性化と課金のバランスをコントロールしやすくしました。


―有料通貨を加えることで、サイトの回遊性が低下することは懸念されないんですか。

森永氏
 そういうことも考慮して、無料で楽しめるものは残しておきます。なので、ジュエルを購入しなくてもリボンのみでも十分楽しめると思います。他社のオンラインゲームなどでも無料インセンティブポイントと有料ポイントを分けているケースは多いので、同じようなロジックになると思います。


―プーペガールの考える競合サイトっていうと、どんなところがあるんですか。

森永氏
 おこがましいかもしれませんが、ファッション誌に勝ちたいなと思っています(笑)。

 「雑誌を読むよりもプーペガールを見た方が有益だね」という人が増えてほしいと思っています。あらゆるファッション誌をカバーできるだけのターゲットがいますので、そこが今後強みになってくるかなと思いますね。


―仮想社会を構築しようとしているサイトはなかなかうまくいっていないのが現状のようですけど…。

森永氏
 プーペガールは仮想化というよりも、リアル生活に役立つサイトにしていきたいと思っています。もちろん、仮想社会での生活が、リアル生活の中での心の平安につながってくることもあるとは思いますが、プーペガールはあくまでもリアル生活に役立つファッション情報を提供できるサイトでありたいなと思いますね。


―そういう視点はイイですね。

森永氏
 私自身もリアルな生活を大事にしているので、そこに役立つ情報を提供していければと思っています。


―今後はどういった展開を考えていらっしゃるんですか。

森永氏
 先ほどもお話したとおり、リアル生活のファッションという部分で役に立てるサイトに育てたいですね。そして海外ユーザーも全ユーザーの35%程度いるので、日本発のサービスとして海外でも展開して成功させたいと思っていますね。世の中の女性が当たり前にプーペガールを使っているというレベルまで、認知度をあげていきたいですね。


―海外のユーザーはどうやってプーペガールのユーザーになったんですかね?

森永氏
 海外向けにはプロモーションをしていないので全部口コミで広がったんだと思います。アメリカの方が一番多くて、その次が中南米、50カ国以上のユーザーがいます。


―森永さんご自身の将来の夢や目標があればお聞かせください。

森永氏
 まずは「プーペガールをどんな女性でも使っている」というサイトに育てていきたいです。

 次のことは…、それを達成してからですね(笑)。


―なるほど、おしゃれな女性層には便利なサービスなんでしょうね。

 本日は、お忙しいところありがとうございました。


今回のキーワード:海外市場への展開
最近、海外市場を視野に入れてサービスを展開する企業が増えている。日テレ×電通×吉本興業が実施している「アースマラソン」なども視聴者の約10%が海外からという。また、サイトを構築する際にも、中国語、英語バージョンのページを標準用意するなどといった動きも盛んである。プーペガールでも全ユーザーの35%が海外ユーザー。写真をアップすると世界中の人からコメントがつくという。ファッションは言語の壁をこえる世界展開の可能性があるかもしれない。




聞き手:木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』として ITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサル ティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES- Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタ ルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2009/9/10/ 09:00