佐々木COOが語る、Twitter日本語版が上陸するまで



Eビジネスマイスター:佐々木 智也
株式会社デジタルガレージ 上級執行役員 グループCEO室/マーケティング担当
株式会社CGMマーケティング 取締役COO


1995年、広告代理店。2001年、北海道新聞社デジタルメディア戦略室にて次世代ビジネス検討とネットビジネス開拓を推進。2005年、デジタルガレージ入社。デジタルガレージグループの戦略事業に携わる。DGメディアマーケティング取締役。2006年、デジタルガレージ・電通・CCI・ADK 4社の合弁会社CGMマーケティングの設立に伴い、取締役COOに就任(現任)。デジタルガレージ上級執行役員グループCEO室/マーケティング担当を兼任。JIAA新領域ワーキンググループメンバー・WOMJapan理事。


―芸能人や著名人が使ったり、流行語も生み出して、Twitterは飛ぶ鳥落とす勢いですね。

佐々木氏
 おかげさまで。日本ではまだまだこれからですが、アメリカで一般社会に定着したなと思ったのは、2009年6月15日にTIME誌の表紙に登場させてもらったときですね。


―すでにいろんな風に定義されてますが、佐々木さんにとって、Twitterをひとことでいうと?

佐々木氏
 ソーシャルメディアといわれますが、一般的に分かりやすいのは「ミニブログ」ですかね。ユーザーがいろいろ使い方をあみ出していて、なかなか枠にはまりづらいので、僕自身は広く「コミュニケーションツール」ととらえています。


―なるほど。では、Twitterの起こりについて、可能な範囲でお聞きしたいと思います。

佐々木氏
 はい。Twitterは、もともとBloggerというブログサービスを開発したエヴァン・ウイリアムスが、BloggerをGoogleに売却して独立したことで始まったプロジェクトです。売却資金でObviousというベンチャーキャピタルを立ち上げ、そこでの第一弾がTwitterだったというわけです。2006年3月にプロジェクトをスタートして、8月にサービス公開、2007年5月にTwitter社が設立されました。


―そのときの創業メンバーは?

佐々木氏
 エヴァン・ウイリアムスにビズ・ストーンとジャック・ドーシーの3人です。


―たしか、そのジャック・ドーシーさんが社長でしたよね?

佐々木氏
 今はエヴァンがCEOです。今はね。社長は、その3人の間でよく変わるんですよね(笑)。


―そして、Twitter日本上陸が2008年のこと。

佐々木氏
 2008年1月にTwitter社とデジタルガレージ(CGMマーケティングの親会社)が資本業務提携し、2008年4月にTwitter日本語版サービスがスタートしました。


―日本に紹介されたきっかけは?

佐々木氏
 デジタルガレージでスポンサードしていた「Blog TV」というTV番組があったのですが、そこで伊藤穰一(Joi Ito)が世界を回ってきて面白いWebサービスを紹介していました。そこでTwitterを紹介しました。2007年5月のことですね。

※Blog TV:東京MXTVにて2006年6月~2007年8月放送。公式ブログはデジタルガレージグループのTechnorati Japanが運営。現在もアーカイブされています。http://www.technorati.jp/blogtv/blog/2007/05/

Blog TV公式サイトhttp://www.technorati.jp/blogtv/


―早いですね! Twitter社ができたばっかりのころじゃないですか。

佐々木氏
 そこはもう、Joiさんの人脈で。Joiさんはベンチャーキャピタリストとして、シリコンバレーに新たなWebサービスの相談に来る人のネットワークを持っています。実はセカンドライフを日本で初めて紹介したのも、Joiだったんですよ。


―ほう。面白いサイトがどんどん送られてくると。だいたい年に何本くらいでしょう?

佐々木氏
 最低、月に1、2本はあるんじゃないかな。合計すると年20~30本ってとこでしょうか。シリコンバレーで「こんなサービスどうだろう」って持ち込みがあって、それを見てJoiさんが流して、デジタルガレージ社員みんなで使いだす、と。Twitterに限らず何でもです。使ってみていいかどうか、みんなで判断しようということでね。


―いい文化じゃないですか。で、数あるサービスの中でTwitterが一番だった?

佐々木氏
 いやあ、最初はこれ何に使うんだろう、って。ユーザーの反応も分からなかったんです。そしたらどんどんリリースが流れてきて、サウス・バイ・サウスウェストで賞も取ったというし、ノリがスゴイぞ、ということになって。

※サウス・バイ・サウスウェストで受賞:2007年3月に米国で開催された映像と音楽の祭典South by Southwest(SXSW)で、TwitterはSXSW2007 Blog部門のAwardを受賞した。


―それで、提携までのいきさつは?

佐々木氏
 まず、検討フェーズで投資チームが調査に行って、戻ってきて役員会があって。じゃあやりましょう、って話で。


―Twitter社はどこにあるんでしたっけ?

佐々木氏
 サンフランシスコです。


―佐々木さんは、資本提携の前から向こうに?

佐々木氏
 ええ、Technoratiのサービスや、ほかの案件もあったんで。Twitter社に対しては、投資チームの中の一担当者としてかかわりました。


―で、Twitter社の創業メンバーと会った印象は?

佐々木氏
 エンジニアというより、音楽プロデューサーという感じです。ミュージシャンみたい、と思いましたね(笑)。

 そもそもTwitterはクリエイティブ集団なので人気が出てきたという側面もあるんです。例えばサーバーが落ちてしまったとき、以前は猫がかわいい格好で「ゴメンね」と謝る画像が出てたんです。その画像をお見せすると…、(猫がスパナを持って修理をしている写真や、猫がパソコンに向かって更新作業をしている写真が現れる)。


―うわあ、実写じゃないですか!

佐々木氏
 まあ、サービス停止しても、この猫が出たら許しちゃう。そんなユーザーがファンになって、応援してくれたんです。


―今の画面もかわいいですよね? この鳥のイラストには、何か意味があるんですか?


佐々木氏
 “twit”って、「鳥のさえずり」っていう意味なんですよ。そこからの造語で、さえずる人たち、さえずりたちというか…、Twitterはそういう名称なんで、鳥の絵になってます。


―そうだったんですね。で、提携の話に戻りまして、佐々木さんが日本側の責任者になったのはどういう経緯?

佐々木氏
 Twitterに広告枠が入っているのって、実は日本語版だけなんです。海外版は、あとから広告枠を追加するとユーザビリティを損なうので変えられない。でも、このタイミングで日本語版を立ち上げるのであれば、広告枠を入れたほうがいいでしょう、日本語版をトライアルとして展開しましょう、とTwitter社に提案したんですよね。それで、広告業務はCGMマーケティングで一手にやりましょう、ということでマネタイズの検討は僕が主導することになりました。

 僕は、これまでのネット広告とは一線を画して、ソーシャルメディアツールといわれるもの――Technoratiもしかり株式会社WEB2.0を立ち上げたのもそうですし、「カカクコム」での広告展開など、企業と生活者をつなぐツールとして活用できるのではないかと――いろんなツール・ブログ・SNS、そういったものを全部つなげられる、ブリッジするのがTwitterだと思ってるんです。クライアント企業にも、「企業と生活者をCGMを通してつなぐんですよ」と3年前くらいから啓発してきました。アメリカではCGMへの広告費は、すでに20%くらいの割合を占めていると言われています。それが日本にもやっと浸透してきたのでは、と。

※CGM:Consumer Generated Mediaの略。消費者(コンシューマー)が自ら情報を発信するメディアの総称で、「消費者発信型メディア」と訳されることもある。インターネット上に存在するCGMとしては、口コミ掲示板やブログ、SNS、動画投稿サイトなどが代表例である。


―ああ、そういう風につながりがあったんですね。では次に、これまでの仕事を、かいつまんで教えてもらえますか?

佐々木氏
 まずは広告枠の立ち上げのために、Twitterの利用シーンや、今後こうなるというビジョンをいろんな所に出て説明することですね。Eビジネス研究所さんのセミナーもそうですけど、さまざまなセミナーやイベントで説明会をさせてもらっています。

 日本語版立ち上げの前段階で、Twitterにはすでに日本からのアクセスが600万ページビューくらいあったんですよね。そこにアクセスする人の中で、日本のIPアドレスだと判別できる場合は、日本語版が自動表示されるように設定をしました。

 最初のクライアントは、GAZOO(トヨタ)さんとか、エンジャパンさんとか。アメリカ版Twitterを使っていたユーザーからは、当然「誰々の広告ウザイ」「何だ、このクリエイティブは」といった書き込みがあったりするんですが、そんな反響も含めて、結果分析をクライアントやTwitter社に返すのが日々の仕事でした。


―佐々木さん自身も広告営業を?

佐々木氏
 営業は主に弊社スタッフですね。僕もやりますけど。まだ代理店さんに営業していただくというよりは、自分たちで啓発活動をやる段階です。まだまだ反応がない企業もありますし、ずいぶんノウハウはたまりました。


―世の中のトレンドは味方なのでは?

佐々木氏
 そうですね。アメリカ大統領選に利用されたことで一気に知名度が上がりました。また、ハドソン川沖に航空機が不時着した事故では、乗っていた乗客や救助に向かった隊員がTwitterでその現場をレポートしたことで注目されました。アメリカではCNNの公式アカウントがありますし、ニュースキャスターのアカウントもあります。フォーチュン誌が選んだ「アメリカの優良企業ベスト100社」の半数以上が企業アカウントを持っているといわれています。このように生活メディアのひとつとなったTwitterは、今では全世界で4450万接触者がいると推定されています。(2009年6月現在)

 こういうトレンドの中で、地道にTwitterアカウントを使ったプロモーションで成功している企業もあります。デルはTwitter経由で3億円を突破するといわれる勢いです。日本でも朝日、毎日、Yahoo!ショッピングなどがTwitterを使ったプロモーションを進めています。


―具体的にはどんな風に? 実際に使ってもらっていいですか?

佐々木氏
 (Twitterにログインして)「いまなにしてる?」と表示されるので、例えば「Eビジネス研究所の取材です」と入力します。そうすると、僕をフォローしている人たちに送られて、タイムラインに入っていきます。興味がなければ、そのまま流れていきますし、気がついたら@マークを付けて返事を返します。

 デルの場合は、アウトレット商品の情報を流すことで、ユーザーとコミュニケーションを取ってるんですね。アウトレット商品は決まった在庫がなく、入荷したタイミング次第で早い者勝ちです。今度、こういったアウトレットが出せそうです。今晩、何々というアウトレット商品3台、ご用意できました。Twitterを見た人だけが取れるクーポンコードを用意して、特別価格で販売しますという風に。情報の出し方には、つぶやきしている担当者が蓄積したノウハウがある。われわれは日本企業にそれらを紹介しながら、支援して一緒にやっているというわけです。


―だいたい何社くらい?

佐々木氏
 今、運用も含めてだと10社くらいですね。法人向けサービスとしては、広告枠のバナー販売のほかに、管理ツールの開発も行っています。1つの企業アカウントを複数の担当者で利用できるようにしたり、祝日の朝につぶやくなどの予約機能、一括で返答できる機能、夏休み中はRSSに切り替えるなどの機能を持っています。それからTwitter活用コンサルティングですね。

 Twitter公式サイトに加えて、twinaviというナビゲーションサイトも展開しています。Twitterって、最初フォローしている人や、フォロアーがいないとシャドーボクシングみたいな、一人でつぶやき続けて何の反応もない状態で、誰に何を返したらいいか分からないんですよね。そこでTwitterを楽しむためのポータルサイトを開設して、注目の話題や使い方ガイド、参加著名人や公式企業の情報をユーザーに紹介しています。クライアント企業に対しては、公式アカウントの運用とtwinaviでのプロモーションの組み合わせで支援を行っているんです。


―日本での事例を2、3挙げていただくと?

佐々木氏
 タレントのIKKOさんは、公式サイト「IKKOSTYLE」でグッズの通販を展開なさっていますが、そのサイトへの集客にソーシャルツールを前面に活用しているんです。Twitterのアカウントをフォローしている人が現在約2500人、mixiのアカウントから約30万人、アメーバブログは50位台という具合です。


 ReTweetという再投稿機能を利用した現象も生まれています。これは、ほかの人の投稿で興味深いものがあれば、「RT」と書いて自分のアカウントから転送できるというものです。「クレヨンしんちゃん」作者が死去、といったニュースは、RTによって瞬間的に広まりました。

 これが宣伝効果を持つようになりまして。典型的なものが、グリコ乳業のデザート飲料「ドロリッチ」ですね。「ドロリッチなう」という響きが面白いので、RTによって広まったんですけど、「あなたのドロリッチなうは何人目です」と自動応答を行うボットを開発した人まで現れまして。残業時間に「ドロリッチなう」を投稿すると「夜遅くまでお疲れさまです」なんて自動応答されてきたり、しゃれっ気があるんですよね。グリコ乳業さんとは関係なく始まったことですが、今では開発者に新製品も贈られて、口コミの促進にひと役かっているんですよ。


―「ドロリッチなう」のケースではTwitterの利益がないのでは?

佐々木氏
 ええ、ユーザーが作ったプログラムからは、Twitterは一銭ももうかりません。でも、Twitterが好きだから作っている人と交流しながら成長していけるのがTwitterらしいところなんです。

 われわれデジタルガレージも、Twitter社も関係していないツールが現在も今後もたくさん流通して行くと思います。例えば、movatwitterは日本の携帯電話でTwitterを楽しめるサービスです。Twitterサイトに訪問せずデスクトップ上で利用できるクライアントソフトもあります。デジタルガレージが関与しているものとしてはCGMマーケティングで提供するTweet Managerという企業向けに投稿の管理を行うASPサービス、これがなかなか便利なんですが。それから、PC・携帯写真を問わずにアップできるTwitvideoといったツールもあります。

 また、iPhone用アプリケーションは次から次へと新しいアプリが登場します。Twitterはもともと、モバイルのショートメッセージでも使えるようにと、140文字までの文字制限を持っています。日本のユーザー調査の結果でも、PCだけでTwitterを使っているユーザーは5%しかいないんですよ。そんな風に考えていくと、Twitter公式サイトのページビューの3倍くらい、実際のユーザーがいるのではないかと見ています。


―そうすると、公式サイトの広告モデルがTwitterの本質ではないと?

佐々木氏
 ええ、ユーザーが増えれば広告じゃないモデルでビジネスを展開することもできると思っています。また、今の基本機能は無償で提供するけれども、プラスオンで課金する機能も今後検討していきます。

 Twitterは140文字のブロードキャスティングだといわれています。140文字をきちんと配信する。ハブになって流通させるところをTwitter社とわれわれがやっていき、上に載せるサービスは皆さんが作ってください、という世界観で今後も発展させていきたいと思いますね。


今回のキーワード:コミュニケーションツール
電話・電子メール・チャット・SNS・ブログなど。電子メールとブログの中間的なポジションにTwitterが位置づけられる。ミニブログサービスといわれるTwitterは140文字と限定された中で、不特定多数に頻度の高い情報発信が図れるコミュニケーションツールである。電子メールほど堅苦しくなく、ブログのように長文にする必要のないところがその特徴で、ゆるい関係が生まれるといわれる。電子メールが普及したようにネット上のあたらしいコミュニケーションスタイルが徐々に普及している。




聞き手:木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』として ITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサル ティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES- Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタ ルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2009/10/22/ 09:00