「Webからリアルビジネスを加速させるマーケティング支援を」ネットイヤーグループ石黒社長
今回のゲストはネットイヤーグループ社長兼CEOの石黒さんです。Webインテグレーション事業を中心に成長してきたネットイヤーグループが、急激に構造変化し始めている現在のWeb事情をどうとらえているのかをお伺いしました。
石黒 不二代 ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。 シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転等に従事。 2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためウェブを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。 日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。 経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。 |
■SIPS事業一本で成長を続けてきた
小川氏
ネットイヤーグループと聞くとイコールSIPS(Strategic Internet Professional Services)、という感じがしますが、現在の事業モデルを教えていただけますか。
石黒氏
変わってないですよ(笑)、いまでもうちはSIPS事業部一つしかないですから。
基本的にはネットを中心とした総合マーケティング支援の会社と称しています。日本には本当のところマーケティングという言葉がなじんでないかもしれないですね。だから、マーケティング支援といってもなにをしているか分からないのかもしれません。
今のマーケティング事情は、マスメディア中心の宣伝広告中心の戦略作りから、Webのサービスや、ネットの行動ターゲティングなどの技術を使って、商品企画から宣伝営業、カスタマーサポートまでを支援するべき状況だと考えているんですね、うちでは。だから基本的には確かに目に見える成果物としてのWebサイトが多くて、サイト作りの会社と思われがちですけれど、やっぱりネットイヤーグループはマーケティング戦略の全般を提供する会社だと思ってやっています。
小川氏
なるほど。
石黒氏
ユーザーの形式や、ネットというメディア、そのうえのユーザー行動が変わって、Googleの検索を使うことが一般的になって、欲しい情報をメディアの中からではなくWeb全体から取ってくるという時代に変わりましたよね。そこで、Webサイトだけではなく、SEO/SEMあるいはLPOなどの考え方や、リアルなデータベースとの連携、さらにはリアルの店舗への誘導、PDCA(Plan-Do-Check-Action)をまわせるようなソリューションが大事なんです。まだまだ技術的には確立されてないかもしれないけれど。
小川氏
業態的にはアクセンチュアとかが近いですかね?
石黒氏
アクセンチュアさんはコンペティターではなく、パートナーとしてみることが多いですね。彼らはどちらかというとシステム開発というかバックエンドの業務に強いです。うちはサーバーサイドというよりはクライアントサイドに強みがあると思っています。ユーザーに与える“体験”を提供することに力を入れてますので。
小川氏
となると、どこが近いんでしょうか?
石黒氏
Webの開発という狭い意味でのSIPS業界で見ると、IMJさんとかメンバーズさんと比較されることが多かったですね。SIPSをWebのインテグレーションという側面だけでみると、うちを入れた3社でもシェアはわずか数パーセントしかないので、本当は伸びしろがある市場ではあるんですけど、それが究極的に私たちが目指すエリアかというとそうではないんです。
■クライアントサイドに立つ広告代理店
小川氏
ではどこを目指してるんでしょう。
石黒氏
目指すところは日本でいうところの広告代理店ですね。電通や博報堂などの総合広告代理店は、クライアント側とメディア側の両面を持つ、世界的にみると特殊な育ちをしてきた業態です。海外ではメディアの枠を取り扱う代理店と、クライアントのクリエイティブ面を取り扱う代理店に分かれているのが普通です。われわれはクライアントサイドに立つ代理店として成長したいと思っています。だから総合広告代理店とのコンペティションも起きていますし、Web専業の広告代理店とのコンペティションもあります。
小川氏
Webの広告代理店業はやっていないですよね?
石黒氏
ええ、うちはやっていませんが、逆に彼らがわれわれの市場に近づいてきているのが実情です。
小川氏
Webの広告枠の取り扱いだけではもう市場も成り立たなくなってきてますからね。
石黒氏
企業の投資対効果(マーケティングROI)を高め、お客さまとのエンゲージメントを中長期的に深めるようなこれから企業に求められる、第三世代のWebでは、難しいでしょうね。いまは、マーケティングコミュニケーションとは、宣伝、PRだけではなく、企業のビジネス活動全般(お客さま購買プロセスに基づいたマーケティング。1.ブランド認知、2.ブランド理解、3.顧客獲得、4.顧客関係維持)ですから。なので、うちでは、お客さまに組織の横ぐし化、連携のお手伝いをさせていただいます。
例えば、自社メディアという言い方がありますが、最近の大企業のコーポレートサイトや売れているEコマースサイトなどは、もう自分自身がメディアとして立てるくらいのトラフィックを持ってますよとお伝えしています。御社で持てる広告メディアがもうあるじゃないですか、と。だから他社のメディアの枠を買う必要はないですよと啓もうするんです。自社メディアがマスメディアであれば、広告枠を売りましょう、買いましょう、という考え方が変わってくるわけです。そもそもネットでブランディングをしようとする企業は昔はいませんでしたが、いまでは違いますね。
小川氏
そうですね。
石黒氏
ネットでCMを考えれば30秒の時間とか枠などの制限はもうないわけですしね。
■ネット全体を考えたWebセントリックマーケティングで、リアル事業のコンバージョンも向上させる
小川氏
その目標に対して、どんな具体的な取り組みをされているのでしょうか。
石黒氏
まず考え方なんですけど、米国ではYahoo!に代表されるポータルからGoogleに代表される検索による情報取得が主流になっています。つまり、ユーザーはポータルではなくネット全体を見るようになっているわけです。ロングテールで情報を一本釣りするユーザーへの仕掛けを作っていきたいと考えています。
サイト外の(実際の店舗への誘導などの)コンバージョンであるとか、オフラインを考える必要があるし、その分お客さまの要求も大きくなってきています。
うちのお客さまはほとんど大企業なんですが、そもそも資産と歴史があり、それをネットでどう使うかということには大きな価値がありますよ。小手先のことをやっても発展しないし成果はでないわけで、全般的に一貫して届ける、最終的に数字の責任を持つ、ということをやろうとしていますね。うちでは、Webセントリックマーケティングと呼んでいます。
小川氏
人材の確保が大変じゃないですか?
石黒氏
総合的なオーガニックな成長をするにはさまざまな人材が必要ですし、確かに大変ですね。昨年SEOの会社を買ったりもしていますし。
小川氏
100年に一度の不況(笑)といいますけど、人材の補給にはいい時代じゃないですか? 経済状況のあおりは受けていますか?
石黒氏
ネットといえども広告宣伝費ですから、昨年の冬から年明けくらいからですかね、ひと月ごとに悪くなってくる感じはありますよ。
予算も立てられない企業さんも多くて、担当者もどうすればいいか判断できない。いえ、判断しないままに上期が終わってしまうくらい悪いと思っていました。
でも、実際にはそこまでは悪い状況ではないですね。それに、ネットイヤーグループもまだまだ、たかだか30億の企業ですから伸びしろは多いと思っていますし。うちに関しては決算発表で下方修正をしてはいるものの、下期の見通しはそんなに悪いとは思っていません。組織を半年がかりで変えて、モチベーションもよくなっていますしね。
小川氏
IT業界だけでみれば、ITバブルのときのほうが、悪かった気もしますね。
石黒氏
あのころはシリコンバレーのドットコム企業にものすごい大きな金が集まって、システム開発やサーバーなどと、なにかと受注が周囲の企業に回っていたわけですよ。それがバブルがはじけてなくなって3分の1の市場が消えてしまったんです。それぞれの企業に個々の問題があったとは思いますけど、負の相乗効果みたいなものがありましたね。
小川氏
確かにね。まあ、あのころの苦い記憶があるから、今回の嵐にも堪えられるだけの気がするし。そういうベンチャーも多いかもしれないと思います。
今日はありがとうございました。
2009/5/19/ 09:00