「ユーザー間の情報インフラとしてのソーシャルメディアの提供を」アルカーナ原田社長


 今回のゲストはアルカーナの原田さんです。アルカーナ(arcarna)という社名は「箱舟の物語」という意味だそうです。ラテン語で「箱舟」を意味するアルカ(arca)と英語の接尾語で「逸話」を意味するanaを組み合わせた造語であり、「新時代への旅立つ箱舟のような企業でありたい」という思いを込めて命名したそうです。2009年6月には3期目を迎えるベンチャーですが、“失敗したらそれまで”という起業家らしいスピリットを持つ原田さんが目指すソーシャルメディアとはなんでしょう。詳しくお伺いしました。





原田 和英

アルカーナ株式会社 代表取締役社長

1999年:カリフォルニア州メリーマウント大学に留学
2001年:慶應義塾大学法学部政治学科入学
2003年:休学しブランド国家論研究のために海外80カ国を周遊
2004年:合資会社brand.gs創業。パーソナルブランディングを手がける
2005年:中国の上海に留学
2006年:慶應義塾大学法学部卒業、および、慶應義塾大学付属メディアコミュニケーション研究所修了
アクセンチュア株式会社にて戦略コンサルティング業務に従事
株式会社点灯夫にて新規Web事業立上げ
2007年:アルカーナ株式会社創業


起業すべくして起業した2007年

小川氏
 今日はよろしくお願いいたします。簡単に経歴を紹介いただけますか?

原田氏
 はい。私は高校を卒業してからアメリカに留学して、帰ってから慶應に入りました。父親が起業家だったこともあり、自分も事業を起こしたいという気持ちが常にありましたので、学生時代にはパーソナルブランディングの会社を立ち上げたりもしていました。その後、アクセンチュアで戦略コンサルティング業務に従事したのちに、あるベンチャーに入ってブログマーケティング事業などを担当しました。

小川氏
 その後アルカーナを創業したわけですね。

原田氏
 はい。アルカーナは、コミュニティサイトあるいはソーシャルメディアと呼ばれるサービスを開発し、提供する会社として 2007年6月15日に設立しました。2008年4月に6020万円の資金調達を行い、今に至っています。この2年間は、メディアや大企業のクライアントのコミュニティ運営に関するコンサルティングをメインにしていましたが、6月でちょうど二期目が終わるので、これからはベンチャーチックに失敗したらそれまで、という気分でやるべき仕事に集中しようと思っています。

小川氏
 そうですよね、ベンチャーはそうでなければ。僕は昔から“Aut Caesar, Aut Nihil”(皇帝か死か)という、「君主論」の中で理想の君主としてたたえられているチェーザレ・ボルジアのモットーが好きで、自分でもそう思ってやってます。ところでその原田さんが集中するべき仕事とはなんでしょう?

原田氏
 クラウドソーシング事業とソーシャルメディア事業です。

 クラウドソーシングとは、クラウドソーシングとはクラウド(群集)+アウトソーシング(外注)を組み合わせた新しい造語であり、新しい雇用形態の一つとして海外では非常に注目を浴びている概念です。このクラウドソーシングサービスとして、弊社ではアポロンというクラウドソーシングサイトを立ち上げました。もう一つは、そもそもの主力事業であるソーシャルメディア事業で、この5月に新サイトを立ち上げる予定をしています。


クラウドソーシングサイト 「アポロン」と新SNSの立ち上げを事業の柱へ

小川氏
 ビジネスモデルは?

原田氏
 アポロンは仕事を欲している人と依頼したい人のマッチングサービスです。仕事の依頼が成立した時点で手数料をいただくことができればいいと思っていますが、課金はまだまだこれからです。ソーシャルメディア事業としては独自のSNSを立ち上げていくわけですが、広告ではなく、TODO管理ツールであるとかグループウェアのようなビジネスツールにソーシャルな要素を加えることで利用料金をいただけるような事業をしていきたいと思います。詳細はまだ決まっていませんが。

小川氏
 アポロンの事業化についてはどのような見通しを持っていますか?

原田氏
 いまのところ、アポロンは案件に特化していて就職はあっせんしていません。ワンショットの仕事、例えばベビーシッターとかこわれたものをなおしてほしいとかといった仕事の依頼ばかりです。ヤフオクの人材版あるいはクレイグリスト(三行広告サイト)みたいなものですね。

 日本ではサービスのやりとりを支援する場としてのサービスの事業化はなかなか難しいんですが、長い目でみて、それに注力していきたいと思っています。

 ユーザー数は3月の時点で2300人強、今後とりあえず2万人を目標にしています。最終的にはC2C的なサービスにしたいですね。

小川氏
 どのくらいの投稿数がありますか?

原田氏
 投稿されるのはばらつきがありますが、月に1ケタから2ケタですね、いまは。多いときは20~30件、だいたい平均3~5件の応募がありますね。

小川氏
 アポロンは分かりましたが、ソーシャルメディアのほうは、新SNSといっても、なかなか特長を出しづらいのでは?

原田氏
 ソーシャルメディアはやっぱり使ってみてなんぼのところがあります。mixiのまねをしてもいいSNSになるとは限りません。弊社の強みは、弊社自身がソーシャルメディアをいくつも作り、また使い込んできていることです。また、弊社の運営サイトにソーシャルメディア.jpという、海外のトレンドを蓄積しているサイトがあるのですが、これまでに3500以上のソーシャルメディアを紹介してきています。こうしたデータベースを持っていることが強みだと思います。また、ソーシャルメディアとはなんですか、という定義として、われわれはユーザー間の情報インフラとしています。ユーザー参加型のコミュニティというだけでなく、社会型というか、ソーシャルレンディングやソーシャルファイナンスなどの、金融版のネットオークション、あるいはSNSのようなメディアも登場しています。日本で主流のエンターテインメント系のソーシャルメディアだけではなく、リアル社会へのレバレッジを効かせるようなサービスを作っていくことに、アルカーナの意義があるかと思います。

小川氏
 なるほど。


多彩なSNSモデルが存在する米国に倣う

原田氏
 しかし日本ではなぜmixiの一人勝ちなんでしょうね。世界でみるとFacebook対MySpace的な構図でとらえることも多いですけど、米国では100万人単位のSNSが複数ありますから。

小川氏
 そうですね。

原田氏
 オープンソーシャルな動きというか、シンメトリーな動きというか、ソーシャルアドやOpenID、データポータビリティなど、クロスSNS(複数のSNSを行き来する)の流れがあると同時に、ニッチ化も進んでいます。みんなと交流するSNSは一つでいいけど、後は個別の小さなSNSに入りたいという人も増えています。同じ病気に悩む人のSNSや、車やバイク、音楽では歌手別のSNSなども増えています。Ningなどを使えば好きなSNSをどんどん作れますから。

小川氏
 そうですね、特定のグループ向けのソーシャルウェブを提供するサービスには見込みがありますね。

 モディファイでも、SMARTというマイクロメッセージングサービスを作っていますが、個人向けだけではなく、グループ単位でクローズドな環境でやりとりを行うための、グループ専用Twitterのようなツールとして、SMART4Bというサービスもローンチしました。アメリカではYammerやPresent.lyが順調に会員を伸ばしていますし。

原田氏
 そうですね。ソーシャルメディア事業にはいろいろなアプローチがあると信じています。

小川氏
 mixiもオープン化には動いていますが、そのあたりはどうとらえていますか?

原田氏
 全体的なトレンドとして本当にオープン化に動くのかどうかは興味深いですね。とはいえ、1000万人が使っているサービスに自社のサービスをのせられることはロマンがありますから、今後mixiのプラットフォームに対して、どう取り組むか楽しみです。

小川氏
 最後に来期の目標をお願いします。

原田氏
 アポロンとSNSという二つを事業の柱にすること。

 具体的にはSNSは収益モデルの確立、アポロンは利用ユーザーを増やしていくことをまず狙います。そのうえで2009年中には黒字を目指したい。

 新規採用も3名入りますし、春からアクセル吹かしていきますよ。

小川氏
 分かりました。お互いに頑張りましょう。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコ ラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス 「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用 して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス) などがある。

2009/4/21/ 09:00