「コメントではなく、最初の発言が重要なコミュニティ」関心空間・宮田社長
今回のゲストは、関心空間の社長 宮田正秀さんです。創業者である前田氏から経営を引き継ぎ、主にB2B的な事業モデルの成立に全力を注いでいるという宮田さんからは、大きく変革しつつあるソーシャルメディアへの知見と共に、新しい事業の方向性などを伺いました。
宮田 正秀 株式会社関心空間 代表取締役社長 CEO 1962年横浜市生まれ。上智大学理工学部卒業。 出版社で教育ソフトおよびTVゲーム等のディレクションを経てCD-ROMビジネスを開拓、その後、CD-ROMメーカーでQuickTime技術を積極的に用いた音楽ジャンルのCD-ROMをプロデュース。また、パソコン通信初期からオンラインサービス、コミュニティにも注目し、1996年にはCD-ROMとWebを組み合わせた音楽タイトルを制作、2000年からはミュージシャン佐野元春オフィシャルサイトのWebマスターを務め、ファンコミュニティ、オンラインファンクラブ、FM番組サイト等を構築・運営。 関心空間は2001年のスタート当初からサポート、数々のオンラインサービスへの導入・運営支援を担当。2004年から取締役となり、2008年10月より現職。 |
■メディア事業から法人向けアカウント提供にシフト
小川氏
前田さんから社長を引き継がれて、どのようなかじ取りをしているのでしょうか。
宮田氏
現在、関心空間ではメディアとして、kanshin.comを運営しています。創業以来、このメディアを横展開して大きな事業にしようと思って、VCにもお金を出してもらったんですけど、あまり見込み通りには成長してきませんでした。インターネット広告はmixiの台頭以降、価格崩壊してしまっていますし。mixiだけの問題じゃないんでしょうけれど、Web広告の取扱者がクライアントに勧めやすいのは結局PVと露出が大きい方ですから、同じソーシャルな媒体ならmixiがいいですよ、という結論に一巡してしまったような気がします。
しかも単価がどんどん下がってきてしまって。小さなメディアはそんな安い単価ではやってられないから下げられない、だからメディアリストに載っていても広告を出してもらえない状況になる。結果としてメガサイトにしか広告が入らないという悪循環です。Yahoo!以外のメガサイトとしてmixiが登場したのはいいことですが、われわれのような小さなメディアが広告媒体として成長しようとトライアルを続けているうちに、ちゃんと効果が見える前に終わってしまった、そんな感じがします。
小川氏
ひとごとじゃない話です…。
宮田氏
そこで、経営体制の見直しをしようということになり、僕が社長になりました。前社長であり創業者である前田はビジョンをどんどん持ってくる人です。彼にはもっと新しい領域を考えてもらって、社内分担として経営そのものをみる役割として僕が社長になったわけです。
そこで事業を見直していくことになり、考えたのがkanshin.comのアカウントを企業に売る仕組みです。関心空間を使って見込み顧客とのコミュニケーションをとっていただくコミュニティの提供ですが、既に40社くらいのお客さまに使い始めていただきました。
小川氏
広告事業、メディア事業から、法人向けのASPといったらいいんですかね、B2B的な事業にシフトしたと。
宮田氏
kanshin.comへの広告は引き続き入れてもらっていますけれど、メインの事業としてはそうです。メディア事業の一環として自分はみているんですが、クライアントからすると、マーケティング支援サービスとしてみていただいているようです。
サービス自体は、なかなか定着しなかったですけど、苦労してようやく、ここ1年くらいで、東急ハンズさま、カゴメさま、ルイ・ヴィトンさまなどのお客さまに使っていただけるようになりました。まだ商品価値を決めきれていないですが、SEO対策がいいということは評価していただいているし、新しいサイトをつくるより、既に動いている関心空間のうえにつくってもらうほうが効率的と考えていただいています。
■Twitter互換のリアルタイムの情報ストリームは有望
小川氏
Twitterが最近力を入れている事業に近いですね。MySpaceもそうですが、mixiも始めてますね。
宮田氏
そうですね。しかし、関心空間は一定の記事を書くことでTwitterは若干違うかなと考えます。ただTwitterや、モディファイのSMARTのように、リアルタイム的に情報のストリームをいっぱいだせるような仕組みもとりこんでいったほうがいいかもと考えています。
Twitter互換のような、情報の入力も出力も、自分たちのサービスとシームレスにつながるようなものがいいですね。
小川氏
ストリームという考え方には僕も非常に注目しています。
宮田氏
もう一つ、ブログとSNSと関心空間はいつも比較されてきました。どちらも有名人を使ってメディア化しようとしていますけど、そういう事業はいまは封印状態です。
小川氏
企業向けのアカウント提供のほかに取り組んでいる事業は?
宮田氏
B2Bで関心空間エンジンをASPで提供する事業は前から取り組んでいます。サイボウズさんのように長く使っていただいているサイトもありますし、最近では全日空さんにも採用していただいて、旅行情報に特化したコミュニティを展開させていただいています。母体の関心空間にも匹敵する規模になってきたことはうれしい限りです。
■人と人とのつながりがSNS、関心と関心をつなぐ関心空間
小川氏
先ほどTwitterの話もでましたが、関心空間というコンセプトは、はやり廃りのテンポが速い最近のWebで、どう新鮮さを保っていくのでしょう?
宮田氏
もともとBBSのカウンターというコンセプトで、人の関心を結びつけることで情報を流通させ、共有していただくというものでした。しかしSNSがでてきて、それらとどう違うのと、比べられることでかえって売り方が難しくなってしまった感があります。SNSは顧客の定着が図れるのはいいですが、投稿情報がたまっても外に出しづらい。
関心空間は、DBメディアとして、顧客に対しても、ユーザーに対しても、投稿された情報がたまっていくうえでレコメンデーション用などの有用な使い方が生まれるようにすることが目標です。そのような情報を解析して、関連性を分析するためのデータを提供するエンジンとして、情報大航海の実証実験にも加われましたし。
小川氏
SNSとの明確な違いは?
宮田氏
人と人のつながりという機能はつけてないので、お友達、というステータスはないんです。オススメを書くことだけです。もちろんユーザーをブックマークするという機能はあるので、SNSとしていうこともできますが。うちでは、人のつながりが可視化されると、あとあと困るのではないか、という懸念がありました。ならばモノとか情報を間において、関心事で人をつなげるほうがいいと考えたわけです。
その意味で、Twitterのフォローとはある意味近いと思っています。たくさんの情報の中でゆるくつながっているわけですし、関心空間という独自な仕組みを孤立させようとは思ってはいないので、そうした世界的に広がっているソーシャルなサービスのよいところとは互換させていかないと。
小川氏
FacebookもどんどんTwitter化してますしね。サイトがストリームを取り込むように変化しているのは自然な流れですね。
宮田氏
ユーザーの気分は米国の方が進んでいるんでしょうね。ストリームの気分にすぐにサービスを合わせたことはすごいと思います。MySpaceは多分に広報メディア化していますが。
関心空間は8年間、唯我独尊で独自のたたずまいをたもってきましたけど、次の世代の仕組みを作ることが必要とは考えています。
■ロケーションを絡めたストリームをモバイルでやりたい
小川氏
はてなブックマークはどう思っていますか? ついにユーザー100万人といいますが。
宮田氏
はてブとは違いますね。うちは記事を書くのが前提で、ブックマークだけではだめだと思っています。ただ、次のストリーム的なサービスを作るときはまた考えます。関心ごとのストリームみたいなものを作るかもしてないですね。
その点SMARTはうまくブックマークとコメントシステムなどのストリームをミックスしましたね。
小川氏
ありがとうございます。
宮田氏
いまの関心空間ではレスは二の次、最初に情報を出すことが一義なんですね。それを規定しているので、ジレンマとは思ってないですが、結果として関心空間のユーザーはピラミッドのわりと上の方に来てしまうんです。だからマスをとれない…。でも純度の高い経験が見えることも必要だと思っています。記事にコメントして、発言したような気分になってもらうこともあるかもしれないですが、最初の情報が大事だとわれわれは考えています。
小川氏
そうですね。うちもSMARTの第一号サービスはiPhone専用というニッチで出しましたから(笑)。
宮田氏
モバイルが絡むと面白いのは、位置情報がくっついているストリームですね。これをやりたい。ロケーションベースのストリーム、商店、企業が参加するものですね。ロケーションストリームは、広告のカウンターになるかと思っています。
小川氏
関心空間でロケーションストリームを作る?
宮田氏
いえ、関心空間は時間がゆっくりで、書く量が多いし、別のサービスを作ることになるだろうと思います。
行動情報やマーケティング情報を企業から個人に直接提供してコンバージョンを生むのはよい事業モデルだと思います。今年の情報大航海でパブリックログが取りざたされていますが、地理情報と組み合わされたメタデータを事業化することは面白いです。
小川氏
そうですね。
今後ぜひ、面白い事業モデルを一緒に考えてみたいですね。ありがとうございました。
2009/5/12/ 09:00