「ネットと常駐型アプリのハイブリッドモデルの実現なるか?」シンクー池田社長


 今回のゲストは、ECサイト横断検索ツールなどの開発で知られるベンチャー「シンクー」社長の池田順一さんです。シリアルアントレプレナーである池田さんは、クラウドコンピューティングとP2P的なネットワーキングの中間的なサービスを志向し、それをP2P Webプラットフォームと名付けてシンクーを起業しました。いわばハイブリッドなネットサービスをどのような形で実現しようと考えているのか、そして新しい環境作りが非常に困難な現在の日本のベンチャー経営者として、どう生き残りを果たしていくのか、その戦略を伺いました。


池田 順一(いけだ じゅんいち)
株式会社シンクー 代表取締役

1964年生 日本大学経済学部経済学科卒業
1994年5月、ガリレオゼスト(屋号)設立、96年に株式会社化。並行して有限会社クオン、ピー・アイ・エム株式会社(4社共同)、株式会社イー・シナプスを設立。日本初のネット有料中継、ゴルフトーナメントTV補完DB連動ネット放送、日本初のOL向けECサイト運営、DBマーケティング事業、オンライン・オーガナイザーのサービス提供、ネット広告の効果測定事業など、インターネット黎明(れいめい)期より多数の新事業を手がける。2004年、ガリレオゼストを株式会社セプテーニに売却。2005年6月、株式会社シンクー設立。


独自技術を生かしたさまざまなアプリケーションを配布

小川氏
 今の事業内容を教えてください。


池田氏
 シンクーでは、独自技術「NetPublisher」というミドルウェアをベースにいろいろなアプリケーションを開発しています。例えば、ECメーラーというサービスがあって、これはECサイトの店舗支援ツールなんですけど、楽天やYahoo!などで在庫の一元管理をするためのツールです。

 コンシューマー向けには、ShoppingFinderとAuctionFinderという横断検索で商品名や価格比較をできるツールを提供しています。あとはNetPublisherを使った受託開発もしていますね。


小川氏
 ECメーラーの特長は?


池田氏
 通常、ECの作業はモールに出店していて、お客さまがモールで買うと受注確認メールがくるわけじゃないですか。それを受注確認ソフトにコピペして商品を引き当てして、配送ツールにデータがいくという手順です。結果として、何人かの社員がそれぞれのメーラーで対応して、Excelやメモ用紙で情報共有をしているわけです。こういう煩雑な問題を解決するためのツールがECメーラーです。

 例えば、楽天やYahoo!ショッピングなどのショッピングモールからの受注確認メールを一括管理できるし、もちろん両方のモールに出店していても、受注確認メールは一括管理できます。また、ヤマト運輸や佐川急便の送付状作成のためにCSVデータを生成でき、集荷番号も返せるので便利です。


小川氏
 なるほど。

 採用されている数は?


池田氏
 400社弱ですね。ただし今のところそれは無料なので、どのようにマネタイズするかは今後の課題ですね。


P2P Webプラットフォームー初期のナップスター的なネット観?

小川氏
 ShoppingFinderとAuctionFinderについて教えてください。


池田氏
 要は横断検索サービスで、ShoppingFinderは楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazon.co.jp、価格.comなどを一括で検索できるサービスで、AuctionFinderはYahoo!オークション、楽天オークション、ビッダーズ、モバオクといったオークションサイトの商品や価格をやはり一括で検索できるサービスです。

 各モールさんやメディアと正式契約して、WebAPIを使わせてもらっています。


小川氏
 なるほど。ユーザーがプラグインして使う、デスクトップインストールツールなんですね。


池田氏
 そうです。うちはP2P Webプラットフォームと呼んでいたんですけど、インターネットサービスに必要なサービスをひとつのソフトウェアスイートに詰め込んだものがNetPublisherで、これをサーバーや、ユーザーの手元のPCにインストールしていただくことで、P2P的なネットワークをすぐに構築できるという新しいWebの姿を考えているんです。


小川氏
 初期のころのナップスターに近いんですかね、考え方は。中央にサーバーがあるけど個々のPCにも小さなアプリを入れるタイプのP2P。


池田氏
 近いと思います。あのころのナップスターはサーバーにためてしまったコンテンツが違法であったから問題になりましたが、コンセプトそのものは良いと思っています。


Cloud & Crowdのコンセプト

小川氏
 NetPublisherはどのくらいの大きさのアプリなんでしょう?


池田氏
 小さいですよ。200KBくらいじゃないかな。それをネットで配布して、ユーザー端末をサーバーにする世界観をずっとシンクーでは持っています。まだまだ開発途中ですけど。うちではいま、Cloud & Crowd、C&Cと呼んでいますが、クラウドコンピューティングとP2P的な世界がうまく融合した未来を想像しているんです。


小川氏
 C&Cだと、NECさんにクレームされるかも(笑)。


池田氏
 そうですね(笑)。内部ではぬれ縁とも呼んでいるんですけど。文字通り、外と内の縁(ふち)です。


小川氏
 うちはクラウドコンピューティングに100%寄った感覚で開発を進めていますけど、考え方・事業の構造は、モディファイもシンクーさんと似ていますよ。うちのNetPublisherに対応するプロダクトは、マッシュアップエンジンであるMODIPHI IIなんですけど、これ自体の商売もさることながら、MODIPHI IIベースで自社アプリも開発しているし、お客さまへのソリューション提供もしています。


池田氏
 そうですね。クラウドコンピューティング自体は今後も普及していくと思うんですけど、まだ完全に依存できる状態ではないと思うんですよ。

 例えば、あるクライアントさんで、動画とか画像をネット越しにユーザーに見せて、どっちがいいかなどのリサーチをしたいとおっしゃっているんですけど、アクセスが集中するとサーバー側に負担が大きくかかるんですね。それでNetPublisherを使ったモニターツールを作ってダウンロードしていただこうと。ユーザーのPC側に負荷を分散させていただこうというわけです。このようにインフラコストを少しでも軽減したいお客さまには、うちのP2P WebもしくはC&Cというコンセプトが最近評価されていますね。


今期の目標

小川氏
 いま5期目でしたっけ?


池田氏
 4月決算で今5期目です。


小川氏
 今後の目標は?

池田氏
 そうですね。まあ、正直いうと単年度黒字を実現することですね、こんな経済状況ですし(笑)。

 見通しはだいぶ明るいですけど。1期目から開発に集中して、ずっと受託はしてなかったんですけどね、最近は協業受託をとにかく受けるようにしています。


小川氏
 協業受託?


池田氏
 つまりシェアモデルです。NetPublisherを使った開発で、その後のレベニューシェアなどを考慮していただくわけです。ほかにはプロモーションマーケティングで、プランニングから立ち上げまでを受けるときもありますね。

 ただ、やはり、事業としてはNetPublisherそのものをケータイやPCなどのデバイス向けにもっと広く配布して、早くP2P Webプラットフォームを実現したいです。


小川氏
 受託開発をすると、どうしても本来やりたいことができなくなってしまいますが、少しでも自社技術の転用で効率よくこなしたいですね。

 お互いに頑張りましょう。


池田氏
 ええ。頑張りましょう!





小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコ ラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス 「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用 して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス) などがある。

2009/5/26/ 09:00