「モバイルコンテンツの専門検索で独自のポジショニング」エフルート尾下社長
今回のゲストは、エフルートの尾下社長です。尾下さんは穏やかな容ぼうと冷静な語り口とは裏腹に、非常に情熱的かつ冒険心に富む経営者です。モバイル検索という、非常にホットな事業領域の中で、大手検索サービスを迎え撃つ同社の戦略について伺いました。
尾下 順治 エフルート株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 1974年奈良県出身。神戸大学卒業後、第二電電(現KDDI)、ITベンチャーを経て、2005年にベンチャーキャピタルのアイシーピーへ入社。 投資先のビットレイティングス(現エフルート)へ出向し同取締役に就任。 検索事業に大きくかじを切るとともに2回にわたる4億円の増資を実施。 経営にコミットするため、転籍し、副社長に就任。 2008年8月、代表取締役社長に就任。 |
■大手キャリア、VCを経てエフルートに参画
小川氏
今日はよろしくお願いします。エフルートとはどんな会社か、簡単に説明いただけますか?
尾下氏
モバイルインターネットユーザーの情報ニーズを満たすための「検索事業」、ユーザーの求めるコンテンツの流通を行う「コンテンツ配信事業」、提携メディアを通じてメディア運営者、ユーザー双方にメリットのあるモバイルマーケティングを実現する「メディアシンジケーション事業」の3事業を中核にする、モバイルインターネットベンチャーです。
小川氏
ありがとうございます。尾下さんご自身の自己紹介をお願いできますか。
尾下氏
エフルートの社長をしています、尾下です。ご存じと思いますが僕は創業社長ではないんですよ。エフルートに出会うまでに、実はいろいろ紆余(うよ)曲折がありまして。
もともと大学在学中に通信業界が面白いなと思っていて、通信キャリアで働くことを考えていて第二電電(現KDDI)に入ったんですね。2年1カ月しかいませんでしたけど、NTT分割など、激動の通信業界の中にいられたのはラッキーでした。ただ僕自身がやっていた仕事は書類仕事で地味で(笑)、将来どうしようかなと思い始めたころに、大学時代の友人が起業するというのでジョインしたんです。当時はITバブルで、Webサイトの構築一つとっても今とは一けた違う受注額を簡単にもらえましたんですが、それは長くは続かずに徐々に単価が下がってきて、これからどうしようかなと思っていた矢先にYahoo!に買ってもらえて。
小川氏
紆余(うよ)曲折、ですね(笑)。それからどうされたんでしょう?
尾下氏
そのとき自分はまだ26~27歳で、部下には50代の人もいたんですけど、マネジメント自体が皆友人だったわけじゃないですか。だから経営の経験自体は浅かったわけです。だから、ベンチャーのエキサイティングな世界に引かれながらも、もう一度、一からベンチャーに戻っていく覚悟がとれず、それでアイシーピーというベンチャーキャピタルに入りました。
でも、金融のノウハウはないので、ベンチャーの支援を主に担当することになり、エフルートもその中の一つだったんですが、アイシーピーに入ってすぐ、エフルートに常駐させてもらったんですね。そのうち、エフルートの創業者である佐藤の人間的な魅力にも引かれて、よりエフルートでの仕事に集中するようになっていきました。もともとエフルートはauの検索サイトを中心とした事業をやっていたのですが、ドコモもモバイル検索をiメニューに加え始めるなど、大きな転機を迎えていたんです。
小川氏
そこでエフルートに移った、と。
尾下氏
そうです。オペレーションに深くかかわっていて、資金調達も手伝っているのに出向にすぎないのはどうなの、という気になりまして。どうせならフルコミットしようということになり、2005年の5月に出向したんですが、2006年10月に転籍しました。
■ページ検索ではなくコンテンツ検索サービスでGoogle対抗
小川氏
そして今、社長として会社を率いてらっしゃるわけですが、エフルートに入っての3年間、どのような動きがありましたか?
尾下氏
僕が転籍した2006年は会社にとって激動の年でしたね。モバイルのポータルは、単なるリンク集にすぎなかったのが、徐々に検索ニーズが増えてきて、これはより優れた検索サービスを提供できなければアウト、という危機感が募っていたときでした。Yahoo!もGoogleも本格参入し始めているのに、一ベンチャーが立ち向かえるの?というおびえもありましたが、とにかく新たな技術を開発して対抗していこうと決断しました。ところがその決断から半年も立たないうちにGoogleとauが提携してしまって、がくぜんとしましたね(笑)。でも、当時のGoogleのモバイル検索はひどかったので、われわれにも十分勝ち目があったわけです。
小川氏
最初は確かにヒドかったですよね。
尾下氏
2006年夏には利用ユーザーが400万人くらいになっていたこともありましたが、それでもGoogleやYahoo!にガチンコで勝てるわけはない。ましてページ検索の延長では難しいと考え、コンテンツ検索特に着うた着メロの専門検索にフォーカスしたんです。着うた着メロでは特定ミュージシャンの先行ダウンロードがCP(コンテンツプロバイダー)の勝負になるので、先行配信フラグなどの制御をした検索が必要だと気がつきました。Googleのインデクシングは時間かかるから勝ち目があると思ったわけです。
小川氏
なるほど。
尾下氏
この専門検索がうまくいったので、2007年ごろから盛り上がってきた電子書籍にも目を付けました。ところが、いまでは年間300億~400億くらいの市場に成長してきていますが、当時はコミック検索をやってみたけどうまくいかなかった。
小川氏
なぜでしょう?
尾下氏
ビッグタイトル以外は意外にみんな漫画を知らなかった。だから検索しない(笑)。そこで、本屋さんのイメージで検索結果をFlashで見せて、絵の感じや内容をつかめるようにしてみたら、アクセスがのび始めました。
■ ハードウェアはガラパゴス状態でもモバイル利用のノウハウは日本は世界一
小川氏
モバイルのコンテンツ市場はだいたいどんな大きさですか?
尾下氏
2008年度で、出典は『一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム』(http://www.mcf.to/press/images/MobileContent_market_scale2008.pdf)なんですけど、着メロ系市場が473億円、着うた系市場が1190億円、内訳をいうと着うた市場が483億円、着うたフル市場が707億円です。電子書籍市場が395億円ですね。
小川氏
なるほど。モバイル業界の売上の中心は、いまだに音楽や書籍などの公式コンテンツなんですね。
尾下氏
あとはアバター等の着せかえ(スキン)などのコンテンツ販売ですね。300~500円/ダウンロードが相場です。このコンテンツの検索ニーズは高いですよ。
小川氏
今後モバイル市場はどうなると思っていますか?
尾下氏
ガラパゴスという言葉にみんな悩まされている感じですよね。ユーザーが求めているのは便利なツールとコストメリットのはずなんです。だからオープン化はユーザーからするとコストメリットを実現する道ですよね。iPhoneはオープンじゃないがAndroidはオープンなプラットフォームなので、Androidの市場も結構大きくなるのではないでしょうか。
5年くらいの時間軸であれば、スマートフォンという言い方ではなく、オープン規格のケータイが増えていくだろうとは思いますし、キャリア主導の業界が変わる可能性はあるでしょうね。端末側からコンテンツの流通を制御するというビジネスモデルが増えていくだろうと思います。そのときにわれわれの提供するコンテンツ検索はいいポジショニングにあるだろうと信じています。
小川氏
大まかな見方としては同感です。
この流れの中で、日本のモバイル業界は世界に御していけますか?
尾下氏
はい、いけると思います。ハードは確かにガラパゴスといわれるような特殊な進化をしてしまったかもしれませんが、日本のユーザー自体はモバイルに関して世界で一番進んでいますから。そのノウハウは通用すると思います。
小川氏
分かりました。今日はありがとうございました。
2009/10/14/ 12:30