「気象情報を用いてあらゆる産業をアシストする」ウェザーニューズ坂田氏
今回のゲストはウェザーニューズの坂田さんです。ウェザーニューズは、世界最大の気象情報会社であり、世界32都市15カ国/地域に展開し、24時間365日世界中の気象を毎日観測・解析・分析・予測をしています。天気予報は、非常に広範囲な業界における経営判断を支える重要な情報です。
坂田 真一(さかた まさかず) 株式会社ウェザーニューズ トランスメディアコンテンツ事業部 マーケティングマネジャー 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2006年4月 株式会社ウェザーニューズ入社。主にモバイル、インターネット、デジタルサイネージ向けビジネスを担当。 |
■会長から直接電話で誘われて入社
小川氏
ウェザーニューズに入社する前はどちらかにいらしたんですか?
坂田氏
いえ、学生でした。SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の大学院にいました。
2006年4月にウェザーニュースに入社したんですが、きっかけになったのはウェザーニューズの石橋会長と電話で話したことで。
小川氏
電話で?
坂田氏
2005年の12月にたまたま鹿児島にいたんです。そのとき88年ぶりの大雪で、天気予報ではそんなこと言ってなかったので、なんでそんなことが起きるのかと思い、ウェザーニューズに電話したんです(笑)。そうしたらそのあと石橋会長から電話があって、一時間くらい話し込みました。それがきっかけで入社することになりました。
小川氏
なかなか破天荒な感じですね(笑)。今のご担当は?
坂田氏
今の仕事は、コンシューマ向けのモバイルやデジタルサイネージ系のマーケティング、それから一部営業ですね。トランスメディアコンテンツ事業部は、テレビも新聞も、すべてのメディアへのコンテンツを担当するので。
■さまざまな産業にかかわる天気予報
小川氏
ウェザーニューズという会社を最近のベンチャーと思っている人も多いように思いますが、かなり歴史の長い会社ですよね。
坂田氏
ええ。ウェザーニューズは1986年創業ですから、もう20年以上になります。もともと創業者は船乗りで、商社とか木材などを輸入する貿易会社のための船のチャーターをやっていたそうです。その経験から、海難事故を少しでも減らしたいというおもいで、海外の天気予報の米国企業オーシャンルーツに入社して、日本支社長を勤めたあとでウェザーニューズを設立しました。
天気予報は事故防止もそうですけど、ありとあらゆる交通機関、船や飛行機、鉄道からトラックまで、どう運行させたら効率的か、荷物をぬらさずにすむかなどを考えるための大事な情報なんです。
小川氏
なるほど。
坂田氏
コンビニにしたって、天気によって売上が変わる。お弁当の受発注はPOSとの連動になっていますから、天気予報をみて確認しないと受発注できない仕組みになってます。
小川氏
面白いですね。
坂田氏
そもそも、昔から後楽園球場の弁当屋さんから毎日天気の問い合わせがあったらしいんです。そこからインスピレーションを得たと聞いています。
あと、面白いエピソードで、これはほんとかどうかわからないですけど、社内での伝説では長嶋監督から試合中に電話があって、これから天気はどうなるのかと確認があったこともあるらしいです。後続ピッチャーの肩ならしをすべきかどうかで迷ったということなんですけどね。
小川氏
なんかありそうです(笑)。
坂田氏
スポーツの事例でいうと、野球の日本シリーズを濃霧で中止にするかどうかの最終判断をウェザーニューズの予報で行ったり、サッカーでは2002年の日韓ワールドカップのときの雷雨対策に一役買ったりしていますね。
ほかにも農業気象といって、収穫の時期を考えるのに天候の予測は重要です。成長モデルは多彩なんですよ。
■気象庁に依存しない唯一の国内天気予報サービス
小川氏
ビジネスモデルはそうした情報の提供?
坂田氏
基本は天気予報をベースとした企業へのコンサルティングと、放送局向けの支援やケータイキャリアなどの課金などですね。
意外かもしれませんが、いま広告事業は原則していません。
小川氏
コンサルというのは?
坂田氏
予報の情報を与えるだけではなくて、その情報から企業が意思決定するためのアドバイスを行うわけです。例えば航空会社なら今季の運航の計画をどうたてるかの判断のお手伝いをするし、個々の飛行機や船が、天候の悪化に伴って、進路変更や引き返したりするかどうかの決断をするための助言として、最適なフライトプランをご提供するのが仕事です。うちではリスクコミュニケーションといっていますが、パイロットとブリーフィングして一つ一つ作っていくものです。モデリングしたものをパッケージして売っているわけではないんですね。パイロットはすべてのデータをみられるので、進路や燃料の積載量を決めなくてはなりませんが、それは不安が大きいので、うちのスタッフと話し合いながら決めていくことで、少しでもリスクを減らしていただけるわけです。
小川氏
なるほど。そういうことなんですね。それはかなり責任の重い仕事ですね…。B2C的なサービス、モバイルのサービスは最近ですよね。
坂田氏
会社の方針として、100~300円のモバイル、ネットのサービスを増やしていくことにしています。100円はお試しみたいなもので、水などを買うのと同じ感覚で300円くらいのコストをかけてもらえるようにしたいと考えています。現在160万人の有料課金会員がいますが、過去一度も減ってないことは自慢ですね。
小川氏
国内でコンペティターっているんですか?
坂田氏
気象庁ですかね(笑)。実際、天気を単体で予報しているという会社はほとんどないですから。
日本においては2種類で、気象庁かウェザーニューズの予報しかないです。民間気象会社は50社くらいありますが、みんな気象庁からデータを買っていて、自社でデータを集めているのはわれわれだけです。気象庁が無くても予報できる唯一の会社ですね。
■ゲリラ雷雨の予測を実現していくためにネットの力も利用する
小川氏
世界のマーケットではいかがでしょうか。
坂田氏
世界でみても、船会社が運行している船の80%はウェザーニューズの顧客です。衛星電話や衛星経由メール、ビデオカンファレンスでコンタクトして航行上の判断の助言をします。鉄道はまだ日本のみですけど、航空会社はJALやANA、AIR DO(北海道国際航空)といった国内系だけでなく、カンタス、ヴァージンアメリカ、中国系3社などと契約しています。航空会社にとって、例えば飛んでみて目的地の空港に着陸できずにほかの空港を探したりするよりも、飛ぶ前にキャンセルするほうがずっとコストを節減できます。われわれのサービスを利用することで費用対効果は10倍くらいあるはずだと思います。
小川氏
なるほどね。
坂田氏
インターネットによるコンシューマー向けの事業はまず国内で力をつけて、それから海外に出ることを考えたいですね。韓国への進出は決まっているんですが。
小川氏
ネット系は何人くらいいるんでしょう?
坂田氏
コンサル以外は120人くらい。開発も運営も自社でやっています。
最初はネットでの天気予報が他社との差別化を生みづらかったんですが、メディアの特性をみながら独自のコンテンツを出せるようになりましたね。有名になったゲリラ雷雨などはいい例です。そうそう、なんでゲリラ雷雨が予測できないのか知ってます?
小川氏
いえ?
坂田氏
通常の雨雲レーダーは上空2km以上の雨雲の動きしかキャッチできないんですよ。ところが夏の雷雨は、もっと低い位置で雲が縦型になって成長して降る。だからキャッチできないんです。
小川氏
なるほど。
坂田氏
それで、CGM的にユーザーに参加していただいて、いまどこで雨が降っているよ、などと書いていただくことで徐々に情報を集めるという手段に出たわけです。
今後、こうしたインターネットをよりよく使っていくことで、限界に挑戦していきたいですね。
(注:7月23日にウェザーニューズは、小型気象レーダー「WITHレーダー」を用いてゲリラ雷雨を補足する取り組みを始めたことを発表している。http://weathernews.com/jp/c/press/2009/090723.html)
2009/8/18/ 09:00