「JINSをアイウェア業界のユニクロに育てる」、ジェイアイエヌ田中社長


 今回のゲストは低価格・高品質という一見矛盾する命題に挑む、眼鏡業界の風雲児、JINSのブランド名で知られるジェイアイエヌの田中社長です。テレビ広告や交通広告等の従来型の広告手法に加えて、斬新なデザインのWebサイトとTwitter、ブログパーツなどの双方向性のあるメディアを活用して、劇的な売上アップを実現しているJINS。眼鏡にかける思いを伺いました。


田中 仁(たなか ひとし)
株式会社ジェイアイエヌ 代表取締役社長

群馬県出身。
1981年、前橋信用金庫(現・しののめ信用金庫)入庫。
1986年に転職し、1988年服飾雑貨メーカーのジェイアイエヌを設立。
2006年8月、大証ヘラクレスに上場。


企画から製造、小売りまで

小川氏
 今日はよろしくお願いします。


田中氏
 TwitterなどでのPRでは大変お世話になってます。各所でJINSは面白い試みをしてますよねとお褒めいただきますよ。


小川氏
 ありがとうございます。

 ジェイアイエヌでは眼鏡以外の製品も取り扱っているんですよね。


田中氏
 別ブランドで洋服以外の小物、日常の自分を演出するピアス、帽子、バッグ、ベルトなどの小物全般を扱っていますね。

 ただ、今では眼鏡が売上の80%くらいになっています。

 眼鏡もトータルコーディネートの一環として始めたわけですけど、眼鏡はなんだかんだいって視力補正用具じゃないですか。しっかり安心信頼を得ないとならないという考えのもとに、今では雑貨と切り離して、本格的に取り組んでいます。


小川氏
 社名がジェイアイエヌ、眼鏡のブランドがJINS。これはファーストリテイリングに対するユニクロと同じポジショニングですね。


田中氏
 われわれはユニクロさんと同じ、SPAなんですよ。Speciality store retailer of Private label Apparelの略で、もともとは製造から小売りまで一貫して行うアパレル業のことをさしていますが、われわれは眼鏡業界のSPAを自認しています。


小川氏
 具体的にいうと?


田中氏
 ユニクロさん同様、われわれは企画から製造販売まで一手に行っています。従来の眼鏡小売りは、ライセンスブランドがついたポロだとかD&Gなどのブランドの眼鏡を仕入れて売っていることが多かったんですね。いろいろな商品やブランドを集めて、小さなお子さまからお年寄りまで眼鏡の百貨店を志向していたのが今までの眼鏡屋さんとすれば、われわれは一定のセグメントに絞り込んだ事業を行います。MD(マーチャンダイジング)つまり、商品開発においても、マーケットの声を生かして品ぞろえに反映しなくてはなりません。


品質のよい眼鏡を4990円で提供

小川氏
 なるほど。でも、最近はそういう業者が増えている気がします。同業他社との差別化はどうしているんでしょう。


田中氏
 眼鏡は高い、というイメージをさまざまな新興企業が打開してきて、例えばフレームとレンズ込みで1万8900円などのワンプライスで販売するような手法が出てきたのはご存じだと思いますが、ラグジュアリーブランドの型遅れのフレームを安く仕入れたり、自社製の安いフレームを混ぜたりしたうえで、安いレンズと組み合わせて売るという手法も多かったんですよ。つまり、安く見えるけど実は高い。ユニクロさんがしっかりとした品質の商品を安く販売することで成功したように、われわれも品質のよいモノだけを安く売りたい。4990円、という価格設定もその思いからです。安かろう、悪かろうという業界のイメージを払拭したいわけです。


小川氏
 ユニクロからだいぶヒントを得られているようですね。


田中氏
 そうですね。柳井社長からはじかにお話も伺いましたしね。


小川氏
 5000円以下に価格を抑える仕組みは?


田中氏
 そうですね、企画を自分でするのは当然として、安くするにはやはり大量に買い付けしないとならないですね。市場での販売予測をして、大量発注して量をさばく。それが秘訣(ひけつ)です。品質は下げません。


小川氏
 眼鏡マーケット自体は成長が鈍化していると思いますが、そのあたりは?


田中氏
 そこは頭の痛いところです。一つは単価の下落もあるでしょうが、若い人のコンタクト利用が増えたのも要因でしょうね。

 おしゃれ眼鏡ブームは、一昨年くらいに終わってしまったし。若い女性で一部、そういうにおいはあるんですけど、圧倒的なブームは二、三年前までですね。


小川氏
 僕は眼鏡好きで、コンタクトレンズを着用したうえでさらに眼鏡することが多いです。だて眼鏡を増やすことが二本目、三本目の購入につながるのでいいと思うんですが。


田中氏
 そういう考え方はあるんでしょうけどね。ただ、やっぱりうちが目指しているのは本当にいい眼鏡を作りたいということなんですよ。どこよりもいい眼鏡を作りたい。どこよりもいい、というのがあって、次にファッションがくるんです。

 じゃあ何がいい眼鏡かというと、機能として、かけ心地やレンズの質を高めて、よく見えるようにすることにつきます。もちろん、かけたときに、人からカッコいいと思われる見た目も大事ですけどね。その二つが必要だと思う。


Webならではのタイアップ商品と最新のWebサービス活用で、世界一のオンラインの眼鏡販売企業へ

小川氏
 買い替え需要サイクルは?


田中氏
 今までは3~4年に一回。それを一年に二回買い替える商材にしたいと思います。ただ、うちのは質がいいから壊れないし、眼鏡の流行もありそうでないのが悩みです。

 いずれにしても、JINSが目指すのは史上最低価格というか品質に見合う最適価格の提供ですね。JINSの価値として、市場に新製品を出していくスピードと、圧倒的高品質、そして低価格を追求していきたいですね。だからオプションレンズのない価格体系を作ったわけです。通常なら5000円のオプション価格になる非球面レンズを標準でつけたのもその思いからです。その意味では、この品質では世界でも一番安いかもしれない。ネットでいくら安くても、たとえ1980円でも、非球面レンズをつけると他社ならプラス5000円以上になりますからね。


小川氏
 なるほど。

 ちょっと話を変えますが、今後はネットに力を入れたいと前におっしゃっていたと思います。実際、日本で初めてのマス広告とソーシャルメディアマーケティングの連動にも踏み切っていますが。


田中氏
 眼鏡をWebで売るのは意外に簡単なんですよ。身長体重のように眼科にいって処方箋(せん)をもらっていれば買えます。特にうちのAirframeは非常に柔らかい素材を使っていて、幅などの調整をしなくても、誰にでもフィットしますので、色と形さえ気に入っていただければネットで買うことは何の問題もありません。


小川氏
 確かに。先日僕もJINSを二本まとめ買いしました。一本はAirframeです。


田中氏
 ありがとうございます。

 オンラインで眼鏡を売るということには意味があって、お店で買った人も次はオンラインで買っていただけるようになりますし、地方で店がない人も買ってくださるわけですが、ほかのブランドとのコラボのような商品だとネットで売ることがよいプロモーションになります。結果として首都圏でオンラインで買う人が多いんです。

 眼鏡のEコマース世界一になりたいですね。


小川氏
 JINSはコラボ系の企画が多いですよね。


田中氏
 コラボ系はWebが向いてますしね、会社的に定期的にやっていきたいと思っています。ネットでは小川さんもおっしゃっていたように複数買いが多くて、二本三本、組み合わせて買う人が多いんです。ネットはマーケティングの手法としてだけでなく、実売につなげられる、幅広い活動ができる媒体だと思っています。

 JINSMANのキャンペーンではTwitterという新しいメディアも使わせていただいているわけですが、オンラインでの販売だけでなく、実際の店舗に来ていただいたお客さまからの感想や、来店前の相談などの問い合わせまでもTwitter上で寄せられているようです。その一つ一つにお答えするのは大変ですが、店舗の接客と同じようにJINSMANが対応することで、よりいっそうJINSファンが増えていくといいですね。


小川氏
 その方向性が正しいと思います。


田中氏
 関係ない話ですけど、JINSMANはオレンジ色ですよね。


小川氏
 そうですね?


田中氏
 最近は普通の会社に勤務されている人でも、わりと派手なカラーの眼鏡を好まれるらしいんですよ。数自体はそれほど出てませんが、オレンジ色もけっこう売れています。オレンジは幸運をひきつけるらしいですけどね。それと、某銀行の支店長さんと最近お会いしたら、うちで透明のクリアフレームを複数買ったとおっしゃってました。日本人の消費行動も変わってきたのかもしれないですね。


小川氏
 僕もおとなしめの黒セルと、ちょっと冒険したブロウタイプを買いました(笑)。まあ、そもそもスーツもめったに着ないので、僕はあまり基準にならないですが。

 これからも安くていい眼鏡を作ってください。今日はありがとうございました。


田中氏
 安くていい眼鏡というよりも、いい眼鏡を安く売れるようにしていきますよ(笑)。ありがとうございました。





小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコ ラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス 「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用 して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス) などがある。

2009/11/25/ 09:00