「洋服の所有を“見える化”し、新しいライフスタイルを提案」ドレスファイル西社長
今回のお客さまは、洋服の洗濯・保管をオンラインで行うオンラインクローゼット事業のドレスファイル西社長です。米国の類似サービスにヒントを得て起業したという西さんですが、独自のアイデアと理想を込めて、オリジナルサービスとしての成長を計画しています。
西 宏司 株式会社ドレスファイル 代表取締役社長 1996年3月 早稲田大学教育学部卒業 1996年4月 パイオニア株式会社入社 カーナビ・カーオーディオの営業部門、マーケティング部門を経て、2006年6月付けで退職 2006年8月 株式会社オルガメタ(現・株式会社ドレスファイル)を設立、代表取締役に就任し現在に至る |
■クリーニング工場を営む実父のひと言がきっかけで起業
小川氏
ドレスファイルの事業をひと言でいうと?
西氏
洋服のオンライン保管サービス、ですね。われわれはオンラインクローゼットと呼んでいます。
通常クリーニング店に洋服を預けっぱなしにしているのとは違って、24時間空調管理された倉庫に保管します。それだけではトランクルームサービスと同じように思われますが、預けた洋服をいつでもどこでもパソコンの画面で管理状況や、何を預けているかを確認することができます。類似サービスとして洋服の預かりサービスはありますけど、それは一時避難的なサービスで、ドレスファイルは常用していただくためのサービスです。
小川氏
洋服はクリーニングしてから収納してくれるんですよね。
西氏
はい。保管料とは別にクリーニング代はいただきます。必要なときに洋服を取り出してご指定場所に送るサービスもありますが、その送料も別です。管理費は一点あたり月額290円からです。
小川氏
290円から、というと、例外もあるんですか?
西氏
一部の例外はあります。毛皮などの特殊な素材などは、少しプレミアム料金をいただくことがあります。
小川氏
なるほど。
ところで西さんは元メーカー出身だとか?
西氏
そうです。1996年に早稲田大学教育学部を卒業してパイオニアに入りました。カーナビの法人営業とマーケティングをしていました。
小川氏
それがどうして今の事業モデルに結びついたのでしょう?
西氏
実は実家がクリーニング工場を営んでいるんですよ。あるとき家族で食事をする機会がありまして、そこで父からガードローブオンライン(http://www.garderobeonline.com/)という富裕層向けのオンラインクローゼットサービスの存在を教えてもらったんです。そのとき、これは面白いと思ったのが起業のきっかけです。
■オンラインクローゼットの普及サービス
小川氏
いつ起業したんでしたっけ?
西氏
2006年8月に会社を立ち上げました。サービスインは2007年の4月です。
小川氏
ガードローブオンラインとドレスファイルの違いは?
西氏
まず共通しているのは、自分のワードローブを画面で管理できるという点です。データベース管理をしていて、お客さまが持っている洋服自体もデータも業者側に置いてあるというのがユニークポイントです。
違いは、ガードローブはセレブ向けの高級サービスであるのに対して、ドレスファイルは低価格による普及サービスだということです。ビジネスモデル自体は現時点ではほぼ同じです。ただ、将来の計画としては徐々に大きく方針が違うことを明らかにできると思っています。
小川氏
低価格路線だと、例えば既存のクリーニング店が参入してきたりしませんか?
西氏
クリーニング店にも単なる保管サービスはありますが、いまのところ競合はないですね。
クリーニング店は4月から6月がもっとも忙しいんですけど、ちょうど衣替えの時期でもあるので、お客さまはまとめて冬服を預けにきます。そこで、お客さまからお預かりした洋服を保管して差し上げるわけなんですけど、預かった時点で洗うのではなく、ちょっと暇になってからまとめて洗う場合が多いんです。だから実際には納期延長サービスというべきなんですね。うちのようにすぐ洗濯して空調の効いた倉庫で管理するわけではないんです。
小川氏
なるほど。
西氏
繁忙期に洗わず、暇なときにまとめて洗う。だから汚れたまま放置している時間も長かったりします。おまけに出し入れも自由ではなくて、引き取りのときはまとめて返されてしまうので、やはり保管サービスとはいえないですね。
小川氏
でも御社ができるのであれば他社もできますよね?
西氏
どうですかね。業界的にITにあまり知識がないことが多いですからね。だから競合がでるとすれば、クリーニング業界からではなく、遊休スペースのある倉庫や新規事業として商社などが参入する可能性はありますね。
ただ、逆説的にそういう企業だとクリーニング店のノウハウがないですしね。
それに、オンラインクローゼットというサービスは、私が考えている事業モデルの全体構図のほんの一部なんです。保管ありきではなく、実際にお客さまが持っている洋服のDBを持つことが優位性につながると思っています。
■将来はコミュニティやソーシャルマーケットを展開
小川氏
具体的には?
西氏
オンラインクローゼットを展開することで所有データベースを構築します。そして、お客さまが自分が所有している洋服の情報を管理したり、友人と共有したりすることができるマイコレクションサービスを展開します。そこから、ファッションライフログの公開や、カレンダー連動、服のコーディネート管理サービスなどへ発展させるつもりです。
やがてはファッションコミュニティによる好きな服のランキングや、とっておきのコーディネートの公開などをECにつなげる、ソーシャルマーケットを立ち上げてネット通販・レンタルの事業にも参入します。
小川氏
なるほど。
西氏
今の有料会員は250名くらいなんですけど、最初は取りあえず5000人の会員を目指したいと思っていました。
でも今は5000人に増えるのを待つことなく、まずはファッションライフログサービスを優先して展開して相乗効果を狙っていこうと思っています。
ファッションライフログサービスでは、実際に服を預けていただかなくても写真を登録していただくことで、ドレスファイルを使って自分のワードローブを管理したり、持っている服の情報を公開できるサービスをイメージしています。
小川氏
全体になると収益モデルをどう考えていますか?
西氏
オンラインクローゼットは顧客からの直接収益です。ソーシャルマーケットは物販で、ファッションライフログでは広告などによる間接収益を目指します。
小川氏
なんとなく低価格より富裕層にフォーカスした方がもうかるのではと思うんですが?
西氏
かもしれません。でも私はもうかるという言葉にピピッと過剰反応しちゃうんです。もうけるためだけに事業をやっているのではなく、もっと広範囲なプラットフォームを作ることを目標をサービスを作りたいと思っているんです。
小川氏
その気持ちは分かりますが…。それと、サービスを広げすぎると、競合が増えて戦線拡大しちゃいませんか?
西氏
将来的な構想が実現すると、例えばZOZOTOWNとか、プーペガールなどが競合になるかもしれません。
小川氏
ちなみに、預かった服の汚れや脂質などの服の状態まで持っているのですか?
西氏
今は持っていないです。ユーザー自身で記録することはできるのですが。
せっかくクリーニングするわけですし、そうした情報を持っていると、ソーシャルマーケットでユーザーが自分の服を売るときに、一種の品質保証につなげることができるかもしれませんね。実はオークション代行サービスと協力してサービスを始めようとは思っていますし。
■将来的には20代女性に気軽に使っていただけるサービスに
小川氏
僕はドレスファイルさんの強みは実際に服を洗濯して預かれる、という点にあると思います。将来の構想として考えてらっしゃるほかの部分は、それぞれ既に競合が存在するので、オンラインクローゼットにフォーカスし切った方が、いわゆるブルーオーシャン戦略になるんじゃないかなと思うんですが。
西氏
うーん。ただ、オンラインクローゼットは原則として年に2回しかみてくれないので(苦笑)。ライフログサービスがあれば毎日見てくれると思うんですよね。触れる機会が多ければ多いほどいいだろうし。
小川氏
それはそうかもしれませんね…。
オンラインクローゼット自体のサービスをもう少し伺ってもいいですか? 例えば服を返してほしいときはどうしたらいいんでしょう。
西氏
最短で翌日配達が可能です。自宅だけでなく指定した場所に送れるので、仮に出張先で冠婚葬祭の準備を急に迫られたときなどには非常に便利です。礼服も靴もすぐに送りますから。送料は一回700円です。
小川氏
それは便利ですね。でも、290円だと10着で月に2900円。年間で3万4800円ですね。やっぱり富裕層向けのサービスの気がするんですが。
西氏
将来的には1着100円くらいにできると思うんですよ。
小川氏
100円…。それはインパクトありますね。
西氏
現在は確かに富裕層のお客さまが多く、30代女性がコアカスタマーです。でも、将来は20代の女性に気軽に使っていただけるサービスにします。普及サービスとして成長させていくには良いサービスを低価格で提供しないと。
それと、やはりソーシャルマーケットを立ち上げて、預けた洋服を転売するようなサービスを作った方が、洋服をわれわれに預けるモチベーションにもつながると考えています。1万円までの金額で預けて、それまでに(1万円÷290円=約30カ月)売れなかったら戻すみたいなこともいいかと思います。
小川氏
それはいいかもですね。
西氏
とにかく、洋服はライフスタイルを示しますし、ほかの人もワードローブも自分のワードローブもデータベース上で見ることができて、その状態をTwitterのタイムラインのように公開していくのは面白いと思っています。自分の所有が拡張される世界、それを私は所有2.0などといってます。
小川氏
分かりました。本日はどうもありがとうございました。
2009/12/22/ 10:30